親が認知症と診断されると、通帳・キャッシュカード・印鑑をどう管理するかという問題が早い段階で出てくる。「本人が自分で管理している」状態を無理に変えると本人が混乱することもあるが、管理が難しくなった段階で家族が関わることは必要だ。大切なのは、管理の仕組みを家族内で共有し、記録を残すことだ。記録がないまま家族が管理を始めると、後々「使い込み」の疑念を生むリスクが高まる。
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家族が通帳を管理する場合に「記録」が必要な理由
家族が親の通帳・印鑑を預かって管理を始めると、将来にわたってその管理の透明性が問われる場面が生じる。
問われるタイミングは主に2つだ。1つ目は、他の兄弟や親族から「何に使ったのか」と聞かれたとき。2つ目は、相続時に「財産の使い込みがあった」と主張されたときだ。
法的には、家族が「事務管理」(民法第697条)または「代理」として親の財産を管理している場合、その管理に関する説明責任が生じる。記録がなければ、正当に管理していても証明できない。
家族が通帳管理を始めるときは最低限、以下の3点を記録する仕組みを作る。
- 月次の収支記録:入金(年金・その他)と出金(介護費・医療費・生活費)をシンプルな表で記録
- 領収書・明細の保管:介護サービス費・医療費の明細を日付順に保管
- 記録の共有:月に1回程度、他の兄弟(いれば)にメール等で共有する
家族が「通帳を預かる」ことの法律上の位置づけ
家族が親の通帳を預かって管理することは、法律上の「後見人」や「代理人」とは異なる。成年後見が開始していない段階での家族の財産管理は、あくまで家族内の取り決めによるものであり、法的な代理権はない。
したがって、銀行窓口での取引(大口出金・振込・定期預金解約等)は本人または法的に権限を持つ後見人・代理人が行う必要がある。家族が通帳を持っていても、窓口での取引代理には応じてもらえない銀行が多い。
生活費の入出金に使う口座については代理人カードの申請(前述の記事参照)、大規模な資産管理については任意後見または家族信託の設計が、それぞれ法的な根拠のある対応になる。
通帳・印鑑・キャッシュカードの安全な保管方法
通帳・印鑑・キャッシュカードを保管する際は、以下の点に注意する。
分散保管を基本とする。通帳・印鑑・キャッシュカードを同じ場所に保管すると、紛失・盗難のリスクが高まる。通帳と印鑑は別の場所に保管するのが基本だ。
本人が確認できる状態を保つ。認知症があっても、本人が「自分の通帳はどこにあるか」を知っている状態を維持することが、本人の安心感につながる。完全に隠してしまうと本人が混乱したり、疑念を持ったりすることがある。
家族全員が場所を知る。管理している人が急病などで対応できなくなった場合に備え、少なくとも家族全員が保管場所を共有しておく。
金庫の活用。自宅に小型の家庭用金庫(数万円程度)を設置して保管する方法もある。重要書類(保険証書・権利書等)も一緒に保管できる。
詐欺・不正引き出しへの警戒
認知症のある高齢者は詐欺の標的になりやすい。国民生活センターの統計では、65歳以上の高齢者が被害者全体の約6割を占める(令和4年度相談件数)。
家族が通帳を管理するのと並行して、以下の対策も取っておく。
- 電話の着信履歴を定期確認する:知らない番号からの着信が続いていないか確認する
- 郵便物を定期的に確認する:宅配便の不在票や、心当たりのない請求書がないか確認する
- ATMの利用制限を設定する:一部の銀行では、ATMの1日あたりの引き出し上限を低く設定できる
- 振込詐欺対策サービスへの加入:銀行によっては、一定金額以上の振込に電話確認が入るサービスがある
家族間のルールを最初に文書で決める
通帳管理を始めるとき、口頭だけで進めると後で「そんなこと聞いていない」というトラブルになりやすい。
最初の段階で、管理担当者・記録の方法・報告の頻度を家族全員が合意した文書(メールでも可)で残しておくことが、後々のトラブル防止に効果的だ。
成年後見が開始した後は、後見人が財産管理の説明責任を持つため、家族による管理は後見人が主導する形に切り替わる。その段階では家族の記録が後見人への引き継ぎ資料になる。
この記事のまとめ
- 家族が通帳を管理する場合は月次の収支記録・領収書の保管・家族への共有が必須
- 法的な代理権がない状態での管理は銀行窓口での取引代理には使えない
- 通帳・印鑑・キャッシュカードは分散保管し、家族全員が場所を把握する
- 詐欺対策(着信履歴・郵便・ATM上限設定)も並行して行う
- 管理ルールは最初に文書(メール可)で合意を取る
出典:民法第697条(事務管理)・第643条(委任)、国民生活センター「高齢者の消費者被害」(令和4年度)、金融庁「高齢社会における金融サービスのあり方」(2018年)
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