法定後見の申立てで「鑑定が必要」と家庭裁判所から言われると、追加費用と時間がかかることに戸惑う家族は多い。鑑定は申立て件数のうち約10〜15%で実施される(最高裁判所「成年後見関係事件の概況」令和5年)。申立てにかかる期間が「予定より2〜3か月延びた」という原因の多くは鑑定命令だ。なぜ鑑定が必要になるのか、費用の目安、鑑定なしで進められる条件を整理した。
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「鑑定」とは何か
後見申立てにおける「鑑定」は、家庭裁判所が指定した精神科医等の専門家が、本人の判断能力(精神の状態)を医学的に評価する手続きだ(家事事件手続法第119条)。
鑑定が行われるのは「主治医の診断書だけでは判断能力の程度を確定できない」と家庭裁判所が判断した場合だ。診断書に「認知症で判断能力が著しく低下している」と明確に記載されていれば、鑑定なしで進められることが多い。
鑑定は「後見・保佐・補助」のどれが適切かを医学的に確認するために行われる。申立て種別と診断書の内容が整合していれば、裁判所が独立した医師の判断を求める必要がないと判断し、鑑定なしで進むことが多い。
鑑定が命令される割合(最高裁統計)
最高裁判所が公表している「成年後見関係事件の概況」(令和5年)によると、申立て件数全体のうち鑑定が実施されたのは約10〜15%だ。
残りの約85〜90%は鑑定なし(主治医の診断書のみ)で後見人が選任されている。鑑定が「必ずある」わけではなく、鑑定が入るケースはむしろ少数派だ。ただし、実際に命令される状況があることを事前に知っておかなければ、申立て後に慌てることになる。
鑑定が命令されやすいケース
鑑定が命じられやすいのは次のような状況だ。
- 診断書の「判断能力の程度」欄の記載が不明確:「認知症の疑いあり」「軽度の認知症」程度の表現では、後見(判断能力を欠く状態)の申立てに対し、裁判所が独立した鑑定を必要とする
- 申立て種別(後見・保佐・補助)と診断書の内容が整合していない:「軽度」の診断書で「後見」を申立てると不整合が生じ、鑑定命令につながる
- 本人が申立てに強く反対している:本人が「自分は正常だ」と主張していて、申立て内容と本人の主張に大きな差がある場合、裁判所が独立した医師の評価を求める
- 親族間で申立ての妥当性について対立がある:一部の相続人が申立てに異議を唱えている場合、申立て内容の信頼性を裏付けるため鑑定が行われる
- 保佐・補助の境界線上にある場合:判断能力が「著しく不十分(保佐)」か「不十分(補助)」かの区別が診断書だけでは判断しにくいケースで鑑定が行われる
鑑定の費用と期間の目安
鑑定費用の目安は3〜10万円程度だ。費用は家庭裁判所が指定した鑑定医が請求する金額で、申立て後に予納金として裁判所に支払う。
費用の範囲が広い理由は、担当する鑑定医によって請求金額が異なること、また検査の内容(MMSE・HDS-Rのみか、画像診断を含むかなど)によって変わるためだ。
鑑定に要する期間は通常1〜2か月だ。鑑定が入ると後見人選任まで合計で4〜6か月かかることが多い。申立てから後見人選任までの標準的な期間は約3〜4か月だが、鑑定命令が出ると1〜2か月追加される。
鑑定費用が払えない場合の補助制度
鑑定費用を工面できない場合は、市区町村の「成年後見制度利用支援事業」を活用できる。この事業では、申立て費用(収入印紙代・鑑定費用など)を市区町村が立替・助成する制度だ(介護保険法に基づく地域支援事業の一環)。
対象者は「費用の負担が困難な程度の収入・資産しかない人」等、市区町村によって条件が異なる。申立て前に地域包括支援センターまたは市区町村の福祉担当窓口に問い合わせると制度の詳細を確認できる。
鑑定の実際のプロセス
鑑定が命じられた場合のプロセスは次の通りだ。
- 家庭裁判所が鑑定医を指定する:本人の主治医ではなく、家庭裁判所が指定した精神科医等が担当する
- 予納金を納める:家庭裁判所から指定された金額(鑑定費用の概算)を予納する
- 鑑定医が本人と面談する:指定された鑑定医が本人と面談して判断能力の程度を評価する。MMSEやHDS-Rなどの認知機能検査が行われる
- 鑑定書が家庭裁判所に提出される:鑑定医が「後見・保佐・補助」のどれが適切かを記載した鑑定書を裁判所に提出する
- 審判が行われ後見人が選任される:鑑定書に基づいて裁判所が審判を行い後見人を選任する
鑑定なしで進める「診断書の質」を上げる方法
鑑定を回避(または鑑定なしで進める確率を上げる)ためには、主治医が作成する診断書の記載内容が最も重要だ。申立ての前に次の点を確認する。
- 診断書の「判断能力の程度」欄を申立て種別に合わせて記入してもらう:「後見相当(判断能力を欠く状態)」「保佐相当(判断能力が著しく不十分)」「補助相当(判断能力が不十分)」と、申立てる種別に対応した表現で明確に記入してもらう
- MMSEまたはHDS-Rのスコアを記入してもらう:数値で認知機能を示すと「主治医の診断書で足りる」と裁判所が判断しやすい。MMSEで20点以下・HDS-Rで20点以下が認知症の目安とされており、スコアが明記されていると判断能力の程度が客観的に示せる
- 申立て種類(後見・保佐・補助)と診断書の内容を一致させる:司法書士に「診断書の記載内容と申立て種類が整合しているか確認してもらう」ことで鑑定命令のリスクが下がる。司法書士に診断書を見せてから申立てする書類を整える流れが望ましい
- 主治医に「後見申立ての診断書である」ことを明確に伝える:通常の診断書とは異なり、家庭裁判所提出用の書式(家庭裁判所のホームページから書式を取得できる)があることを主治医に事前に説明する
申立て種別(後見・保佐・補助)と診断書の対応関係
申立て種別と必要な診断書の内容には対応関係がある。申立て前に種別を確認しておく必要がある。
- 後見(判断能力を欠く状態):日常的な契約・金銭管理ができない状態。重度の認知症で判断能力がほぼない場合が対象。診断書には「後見相当」「判断能力を欠く状態」と記載される必要がある
- 保佐(判断能力が著しく不十分):日常的な行為はできるが、重要な契約(不動産の売買・多額の借金)は一人でできない状態。中程度の認知症が対象。診断書には「保佐相当」と明記する
- 補助(判断能力が不十分):軽度の認知症で、特定の行為についてだけサポートが必要な状態。診断書には「補助相当」と明記する
この記事のまとめ
- 鑑定は申立て件数のうち約10〜15%で実施(最高裁統計・令和5年)。85〜90%は鑑定なしで進んでいる
- 鑑定費用は3〜10万円・期間は1〜2か月が目安。費用補助は市区町村の「成年後見制度利用支援事業」で確認する
- 診断書の「判断能力の程度」欄を申立て種別に合わせて明確に記入してもらうことで鑑定なしで進められる可能性が高まる
- MMSEまたはHDS-Rのスコアを診断書に記載してもらうと客観的な判断材料として有効
- 申立て前に司法書士に診断書を確認してもらい、申立て種別との整合を確かめる
出典:家事事件手続法第119条(鑑定の手続き)、最高裁判所「成年後見関係事件の概況」(令和5年)、介護保険法(成年後見制度利用支援事業)
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