家族信託の受託者が死亡したら:後継受託者の選任・信託口口座の凍結対策

家族信託で受託者(財産を管理している子)が先に亡くなってしまった場合、信託はどうなるのか——「長男に任せていたが急死した」というケースは実際に起きる。受託者の死亡後の信託の行方・後継受託者の選任手続き・信託が終了してしまう場合の対応を整理した。

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受託者が死亡したら信託はどうなるか

受託者(財産を管理・運用している人)が死亡した場合の信託の行方を整理した(信託法第56条)。

  • 受託者の地位は相続されない:信託法第56条第1項第1号では、受託者が死亡した場合は「受託者の任務が終了する」と規定している。受託者の地位は受託者自身に属するため、受託者の相続人が自動的に受託者を引き継ぐわけではない
  • 信託財産は受託者の相続財産には含まれない:信託財産は受託者の固有財産(個人財産)とは分別管理されており、受託者が死亡しても信託財産は受託者の相続財産に含まれない(信託法第23条)。受託者の相続人が信託財産を取得することはない
  • 後継受託者が選任されるまでの間、信託財産は「前受託者の相続人」が保管する:受託者が死亡して後継受託者が選任されるまでの間、信託財産は「前受託者の相続人(または清算受託者)」が保管する義務を負う(信託法第60条)。ただし保管のみで積極的な管理行為はできない

後継受託者が信託契約書に定められている場合

あらかじめ信託契約書に「後継受託者」を定めていた場合の流れを整理した。

  • 後継受託者が自動的に受託者に就任する:信託契約書に「受託者が死亡した場合は〇〇(次男等)が受託者に就任する」と定めてある場合は、後継受託者が就任意思を示すことで受託者に就任できる(信託法第56条第2項)
  • 不動産が信託財産に含まれる場合は登記変更が必要:受託者が変わった場合は不動産の「信託目録(受託者欄)」の変更登記が必要。登記費用は不動産1件につき1,000円(登録免許税)+司法書士報酬(2〜5万円程度)
  • 信託口口座の名義変更が必要:信託専用の銀行口座(信託口口座)の受託者名義の変更手続きが必要。金融機関によって手続き方法が異なるため、早めに問い合わせることをすすめる
  • 後継受託者の就任を受益者に通知する:後継受託者は就任後、受益者に対して後継受託者として就任したことを通知する(信託法第56条第4項)

後継受託者が定められていない場合

信託契約書に後継受託者を定めていなかった場合の対応を整理した。

  • 利害関係人が家庭裁判所に「新受託者の選任」を申し立てる:信託法第62条第4項により、受益者・委託者等の利害関係人が家庭裁判所に「新受託者の選任」を申し立てることができる。家庭裁判所が信頼できる人を受託者に選任する
  • 申立て先の裁判所:受益者の住所地または信託事務処理地を管轄する家庭裁判所に申し立てる
  • 選任まで時間がかかる場合がある:家庭裁判所への申立てから選任まで数か月かかる場合がある。その間、信託財産は前受託者の相続人が保管のみする状態が続く。急ぎの場合は弁護士・司法書士に相談して対応を急ぐ必要がある
  • 委託者(受益者)が認知症の場合は申立てが難しくなる:委託者・受益者自身が認知症で意思能力がない場合は、申立てを行える人が限られる。そのような事態に備えて信託監督人(受益者の代わりに権利行使できる人)をあらかじめ定めておくことが重要だ

後継受託者も選任できない場合——信託の終了

後継受託者が選任されず、一定期間が経過した場合の取り扱いを整理した。

  • 1年以上受託者が不在の場合は信託が終了する可能性がある:信託法第163条第7号により、受託者が欠缺(不在)の状態で1年以上経過した場合は、利害関係人の申立てによって信託を終了させることができる
  • 信託が終了した場合は清算手続きが必要:信託が終了した場合は、信託法第177条に基づいて残余財産を帰属権利者に移転する清算手続きが必要。不動産の場合は登記変更・所有権移転登記が必要だ
  • 委託者(受益者)が認知症の場合の清算は困難:委託者・受益者が認知症で意思能力がない場合は、清算手続きを進めるために法定後見人の選任が必要になる場合がある。家族信託終了後に法定後見に移行するケースがある

受託者の死亡後、信託財産の「預金凍結」はどうなるか

受託者が死亡した際に信託口口座(信託専用の銀行口座)がどうなるかは、実務上の重要な問題だ。

  • 信託口口座は受託者の死亡で凍結されない(原則):一般的な個人の銀行口座は名義人が死亡すると凍結されるが、適切に設定された信託口口座は「受託者個人の口座」ではなく「信託財産専用の口座」として管理されているため、受託者が死亡しても自動的に凍結されない(金融機関の判断による場合もある)
  • 金融機関によって取り扱いが異なる:信託口口座の取り扱いは金融機関によって異なる。信託口口座の対応に慣れた金融機関では「受託者の交代」として後継受託者への名義変更手続きができるが、そうでない金融機関では受託者死亡後の手続きが複雑になる場合がある
  • 信託口口座ではなく「普通口座」で管理している場合のリスク:受託者個人名義の普通口座に信託財産を入れている場合(本来はNGだが実態として存在する)は、受託者が死亡すると口座が凍結され、後継受託者・受益者が資金を引き出せない状態になるリスクがある。信託口口座の適切な設定が重要だ

「受託者の辞任」と死亡の違い

受託者が「辞任したい」場合の手続きも整理した(死亡と類似した手続きが必要だが、事前の合意が可能な点で異なる)。

  • 受託者は原則として自由に辞任できない:信託法第57条では、受託者が信託を辞任するには「受益者の承認」または「やむを得ない事由があるときの裁判所の許可」が必要と定めている
  • 委託者・受益者の合意があれば辞任できる:委託者と受益者の双方が合意していれば受託者は辞任できる。認知症が進んで受益者の意思確認が難しい場合は合意が困難になるため、早期に手続きを検討することをすすめる
  • 辞任前に後継受託者を決めてから辞任する流れが実務上安全:先に後継受託者を選任してから現受託者が辞任するステップで進めることで、受託者不在の空白期間をなくすことができる

受託者の死亡に備えた「信託監督人」の設置

受託者の死亡・辞任等のリスクに備えるために「信託監督人」を設置しておくことが実務上推奨される。

  • 信託監督人の役割:受益者の代わりに受託者を監督する人。受益者が認知症で自ら監督できない状態でも、信託監督人が受託者の行動を確認・是正できる(信託法第131条)
  • 信託監督人が受託者の欠缺時に対応できる:信託監督人を設定しておくことで、受託者が死亡・辞任した場合の後継受託者の選任手続きを信託監督人が進められる。受益者自身が動けない状態でも対応が可能だ
  • 弁護士・司法書士等の専門家を信託監督人に選任する方法がある:家族内に適任者がいない場合は、弁護士・司法書士等の専門家を信託監督人に選任する方法がある。費用は月1〜3万円程度(専門家によって異なる)

実務でよくある「受託者の死亡への備え方」

家族信託の設計段階で受託者の死亡リスクに備えるための実務上の対応策を整理した。

  • 後継受託者を2人以上定めておく:「第一後継受託者=次男・第二後継受託者=三男」のように複数人を定めることで、第一候補が先に亡くなった場合でも信託を継続できる
  • 法人を受託者にする方法もある:受託者を「個人」ではなく「法人(家族信託専門の会社・一般社団法人等)」にすることで、死亡リスクがなくなる。ただし法人設立コスト・維持費が発生する
  • 信託監督人・受益者代理人を設置する:受益者が認知症で動けない状態で受託者が不在になるリスクに備えて、信託監督人と受益者代理人の両方を設定しておくことが最も安全な設計だ

受託者の死亡で「信託口口座以外の口座」が凍結された場合

信託財産を受託者個人の銀行口座(普通口座)で管理していた場合に受託者が死亡すると、口座が凍結される問題が起きやすい。

  • 受託者の個人口座が凍結されると信託財産も引き出せなくなる:受託者が「信託口口座ではなく個人名義の普通口座」に信託財産の資金を入れていた場合、受託者が死亡すると口座が凍結され、後継受託者・受益者が資金を引き出せなくなる
  • 凍結解除には遺産分割協議が必要になる可能性:口座が受託者の個人名義の場合は、受託者の相続人全員の遺産分割協議が終わるまで口座が凍結されたままになることがある。信託財産であることを証明できれば解決できる可能性があるが、金融機関・弁護士との交渉が必要で時間がかかる
  • 設定時から「信託口口座」を使うことが最大の対策:信託財産は必ず「信託口口座(〇〇受託者として△△(受益者名)信託口等の名義の口座)」で管理することが重要だ。信託口口座に対応している金融機関(都市銀行・一部の地銀・ネット銀行等)をあらかじめ確認しておく

この記事のまとめ

  • 受託者が死亡しても受託者の地位は相続されない(信託法第56条)。信託財産も受託者の相続財産に含まれない(同第23条)
  • 後継受託者を信託契約書に定めている場合:後継受託者が就任意思を示して就任→不動産登記変更・信託口口座名義変更→受益者への通知
  • 後継受託者が定められていない場合:利害関係人が家庭裁判所に「新受託者の選任」を申し立てる(信託法第62条第4項)
  • 1年以上受託者が不在の場合は信託終了の可能性(信託法第163条第7号)。その後は清算手続き(同第177条)
  • 受託者の辞任:原則として受益者の承認が必要(信託法第57条)。先に後継受託者を選任してから辞任するのが安全
  • 備え方:後継受託者を2人以上定める・信託監督人(信託法第131条)を設置する・法人受託者の活用
  • 相談先:司法書士・弁護士(後継受託者の選任・登記手続き)・家庭裁判所(新受託者の選任申立て)

出典:信託法第23条(信託財産の分別管理)・第56条(受託者の任務終了)・第57条(受託者の辞任)・第60条(前受託者の義務)・第62条(新受託者の選任)・第131条(信託監督人)・第163条(信託終了事由)・第177条(清算手続き)

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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