認知症の親の確定申告を代わりにやらなければならない——そのような状況に直面した家族は少なくない。確定申告は本人が行うのが原則だが、認知症が進んで本人が対応できない場合は、後見人・税務代理人・家族が対応できる場合がある。認知症高齢者の確定申告の代理手続きと、申告が不要になる場合の判断基準を整理した。
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認知症高齢者の確定申告が必要なケース
認知症であっても、次の場合は確定申告が必要になる。
- 年金収入が400万円を超える場合:年金のみの収入でも、公的年金等の収入が400万円を超える場合は確定申告が必要(所得税法)
- 年金以外に収入がある場合(20万円超):不動産収入・株式配当・事業収入等が20万円を超える場合は申告が必要
- 医療費控除を受けたい場合:医療費・介護サービス費が一定額以上になった場合、医療費控除(所得税法第73条)の申告で還付が受けられる可能性がある。認知症高齢者の場合、介護施設費・訪問介護費等が医療費控除の対象になる場合が多い
- 不動産を売却した年:自宅や不動産を売却した場合は譲渡所得の申告が必要
- 生命保険・損害保険の満期保険金を受け取った年:一時所得として申告が必要な場合がある
家族が「代わりに」確定申告する方法
認知症の本人の代わりに家族が確定申告する場合の対応を整理した。
- 後見人による確定申告:後見人が設定されている場合は、後見人が本人の確定申告を代わりに行うことができる。後見人は本人の財産管理を担う権限があるため、確定申告も後見人の権限の範囲内だ
- 法定代理人(後見人)として申告書を提出:確定申告書の「代理人」欄に後見人の氏名・住所・後見人との関係を記載して提出する
- 後見人がいない場合の家族による申告:後見人がいない場合でも、事実上の家族による代理申告は税務署に受け付けてもらえることがある。ただし法律上の代理権がない状態での代理申告については、税務署によって扱いが異なる場合がある。事前に管轄の税務署に相談することをすすめる
- 税理士への委任:税理士に委任状を作成して確定申告を依頼する方法もある。認知症が進んでいる場合は本人の委任状取得が難しいため、後見人経由での委任が確実だ
医療費控除で認知症の介護費用を取り戻す
医療費控除(所得税法第73条)は、認知症高齢者の介護費用の一部を税金の還付として取り戻せる仕組みだ。
医療費控除の対象になる主な費用(認知症関連):
- 介護保険サービスの自己負担額:訪問介護・訪問看護・デイサービス(通所介護)・短期入所(ショートステイ)等の介護保険サービスの利用者負担は医療費控除の対象になる
- 診断書・診察費・薬代:認知症の診察費・薬代(薬局での購入)は医療費控除の対象
- 特別養護老人ホームの利用者負担の一部:特養の「介護サービス費(介護保険自己負担分)・食費・居住費」の2分の1が医療費控除の対象(居住費・食費の全額は対象外)
- 有料老人ホームの介護サービス費:有料老人ホームのうち、医療法人・社会福祉法人が運営するものでかつ「特定施設入居者生活介護」の指定を受けているものは、介護サービス費が医療費控除の対象になる
医療費控除の金額:1年間の医療費の合計額から「10万円または総所得金額等の5%のいずれか少ない方の金額」を差し引いた額(所得税法第73条)。税率が高い人ほど還付額が大きい。
「確定申告不要」になる条件
認知症高齢者の場合、次の条件を満たせば確定申告が不要になる。
- 年金収入のみで400万円以下:公的年金等の収入が400万円以下で、かつ他の所得が20万円以下の場合は確定申告が不要(確定申告不要制度)
- 特定口座(源泉徴収あり)のみで取引している場合:証券会社の特定口座(源泉徴収あり)のみで株式等の取引をしている場合、確定申告なしで税金が精算される
- 医療費が10万円未満(または総所得の5%未満):医療費控除を申請しても還付がない水準であれば、申告の実益がないケースがある
申告期限・延滞への対応
認知症の進行で確定申告の期限(原則として翌年3月15日)を過ぎてしまった場合の対応を整理した。
- 期限後申告:期限を過ぎた後でも確定申告できる(期限後申告)。ただし無申告加算税(15〜20%)が課せられる場合がある(国税通則法第66条)
- やむを得ない事由による延長:認知症による判断能力の喪失が「やむを得ない事由」として認められる場合、期限の延長・加算税の免除が認められる可能性がある。税務署への事前相談をすすめる
- 後見人が就任した年の申告:後見開始の審判があった後に後見人が確定申告をする場合、「後見人就任前の未申告期間」についても後見人が対応する義務が生じる可能性がある。就任後の早期に過去の申告漏れを確認することをすすめる
「認知症の介護費用」として医療費控除の対象になるもの・ならないもの
認知症高齢者の介護費用の中で、医療費控除の対象になるものとならないものを具体的に整理した。
対象になるもの:
- 認知症の診察費・薬代・入院費(医師による医療行為に関する費用)
- 訪問介護サービス(生活援助のみのサービスは除く)・訪問看護・通所リハビリテーション・訪問リハビリテーションの介護保険自己負担
- デイサービス(通所介護)の介護保険自己負担(医療系サービスに限らず通所介護も対象)
- ショートステイ(短期入所生活介護・短期入所療養介護)の介護保険自己負担
- 認知症グループホーム(認知症対応型共同生活介護)の介護保険自己負担
- 特別養護老人ホームの介護サービス費の自己負担額・食費・居住費の各2分の1
対象にならないもの(生活部分の費用):
- 施設の日常生活費(散髪・理美容代・嗜好品等の日用品費)
- 有料老人ホームの入居一時金(前払い金)
- 送迎費・交通費(一部例外あり)
- 単純な生活援助のみのヘルパー費用(身体介護が含まれない生活援助サービス)
実際にどの費用が対象になるかは「介護保険施設等の発行する「医療費控除の明細書」」で確認できる。毎年2〜3月に施設・介護事業所から発行されることが多い。もらっていない場合は事業所に発行を依頼する。
「後見人が確定申告を行う場合」の実務注意点
後見人が被後見人(認知症の本人)の確定申告を行う際の実務上の注意点を整理した。
- e-Taxでの申告は後見人名義で行う:後見人が電子申告(e-Tax)をする場合は、後見人自身の電子証明書・マイナンバーカードを使って「代理人として申告」する手続きが必要になる。税務署のe-Taxヘルプデスクへの確認が必要だ
- 後見人就任前の未申告は就任後に遡って対応が必要:後見人が就任した年に「前年分の確定申告が未提出」という状態になっている場合は、後見人が前年分を期限後申告する対応が必要だ。延滞税・加算税が発生する可能性があるため、就任後すぐに前年分の申告状況を確認する
- 家庭裁判所への収支報告との整合性:後見人は毎年家庭裁判所に「後見事務報告書(収支一覧)」を提出する義務がある。確定申告の内容と後見事務報告書の収支は整合している必要がある
「住宅ローン控除・ふるさと納税」は認知症後に注意
本人が以前から利用していた控除・節税制度についても、認知症後の対応が必要な場合がある。
- 住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除):本人が住宅ローンを借りて自宅に住んでいる場合に適用されている住宅ローン控除は、「本人がその自宅に住んでいる期間」が対象だ。施設に入所して自宅に住まなくなった場合は控除の対象外になる(租税特別措置法第41条)。施設入所した年の確定申告で控除が使えなくなることに注意が必要だ
- ふるさと納税(ワンストップ特例):本人が「ふるさと納税のワンストップ特例」を使っていた場合、年間5自治体超への寄付があると確定申告が必要になる場合がある。認知症が進んでいる場合、本人が寄付件数を管理できないため、家族がチェックする必要がある
この記事のまとめ
- 年金収入が400万円超・他の所得が20万円超の場合は確定申告が必要。医療費控除の申請も確定申告を通じて行う
- 後見人が設定されていれば、後見人が本人の確定申告の代理人として申告できる
- 医療費控除:介護保険サービスの自己負担・診察費・特養の介護サービス費の一部等が対象。1年間の合計医療費から10万円(または総所得の5%)を差し引いた額が控除される(所得税法第73条)
- 申告期限を過ぎた場合は期限後申告が可能だが、無申告加算税が課せられる可能性がある(国税通則法第66条)。やむを得ない事由として税務署に相談する
- 医療費控除の対象費用:訪問介護・訪問看護・デイサービス・特養の介護サービス費自己負担の一部等。毎年介護事業所から「医療費控除の明細書」を受け取ることを確認する
- 住宅ローン控除は施設入所後に「自宅に住まなくなった年」から控除対象外になる点に注意が必要(租税特別措置法第41条)。施設入所した年の確定申告で計算をやり直す必要がある
- 後見人就任後は「家庭裁判所への後見事務報告書(収支一覧)」の内容と確定申告の収支が整合している必要がある。就任後すぐに前年分の申告状況を確認し、未申告があれば期限後申告を速やかに行う
- ふるさと納税のワンストップ特例は年間5自治体超への寄付があると確定申告が必要になる。認知症が進んでいる場合、本人が件数を管理できないため家族がチェックすることが重要だ
- 相談先:管轄の税務署・税理士・後見人(後見人就任後は後見人に相談)・税理士会の「成年後見支援センター」(後見人向けの専門支援を提供している地域もある)
出典:所得税法第73条(医療費控除)、国税通則法第66条(無申告加算税)、介護保険法に基づく医療費控除の範囲(国税庁「医療費を支払ったとき(医療費控除)」)
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