認知症と相続税の7年加算|2024年改正で生前贈与の扱いはどう変わったか

2024年1月から「相続税の生前贈与加算期間」が3年から7年に延長された(相続税法第19条改正)。認知症の親への生前対策として生前贈与を検討している場合、この改正によって従来より長い期間分の贈与が相続税の課税対象に戻ってくる可能性がある。認知症診断後の生前贈与と相続税の関係を、2024年改正を踏まえて整理した。

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2024年改正:生前贈与加算が3年から7年に延長

相続税法第19条では「相続開始前の一定期間内に行った贈与は、相続税の計算上、相続財産に加算する」と定めている。この「加算期間」が2024年1月1日以降の贈与から段階的に延長された。

改正の内容(相続税法第19条・租税特別措置法の改正):

  • 従来(〜2023年12月31日の贈与):相続開始前3年以内の贈与が加算対象
  • 改正後(2024年1月1日以降の贈与):相続開始前7年以内の贈与が加算対象に段階的に延長

「段階的」という点が重要だ。2024年1月1日から2027年12月31日の間に相続が開始した場合は、加算期間が「3年超の部分は100万円を控除」という経過措置がある。2031年1月1日以降に相続が開始した場合に、完全な7年加算が適用される。

7年加算の対象となる贈与の範囲

生前贈与加算の対象になるのは「相続人等(相続または遺贈で財産を取得した人)への贈与」だ(相続税法第19条)。贈与を受けた相続人が相続財産を取得した場合に、その相続人が贈与を受けた分が加算される。

重要な点として「相続放棄した相続人への贈与は7年加算の対象にならない」という従来からのルールがある。相続放棄した人は「相続または遺贈で財産を取得した人」に当たらないからだ。ただし遺贈(遺言書による受け取り)があった場合は加算対象になる。

また「相続人以外(孫・養子以外の兄弟など)への贈与」は、その人が相続や遺贈で財産を取得していなければ加算対象にならない。

7年加算の例外:非課税となる贈与の種類

生前贈与のうち、7年加算の対象とならない(非課税)主な贈与の種類を整理した。

  • 暦年贈与の基礎控除(年110万円):2024年改正後も年間110万円までの贈与は贈与税がかからない。ただし7年加算の「加算される贈与の合計から100万円を控除」という経過措置とは別の話だ
  • 教育資金の一括贈与(非課税措置):30歳未満の受贈者への教育資金として信託銀行等を通じて贈与した場合、一定額まで非課税(租税特別措置法第70条の2の2)。受贈者が30歳になる日(または死亡日)が一定の要件を満たす場合は相続税の加算対象外
  • 結婚・子育て資金の一括贈与(非課税措置):18歳以上50歳未満の受贈者への結婚・子育て資金の贈与(租税特別措置法第70条の2の3)
  • 住宅取得等資金の贈与(非課税特例):直系尊属から住宅取得のための資金贈与(租税特別措置法第70条の2)

これらの特例を活用した贈与は、条件を満たせば7年加算の対象から外れる。ただし各特例には適用要件・期限・金額上限があるため、事前に税理士に確認が必要だ。

「相続時精算課税制度」と7年加算の関係

2024年の税制改正では、相続時精算課税制度にも変更が加えられた。

相続時精算課税制度は「2,500万円まで贈与税を課税なし、相続時に精算する」制度(相続税法第21条の9)だ。従来は暦年贈与の基礎控除(年110万円)が使えない制度だったが、2024年1月1日以降の贈与から「年間110万円の基礎控除」が相続時精算課税制度にも設けられた。

改正後の相続時精算課税制度の概要:

  • 60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与に適用できる
  • 年間110万円までの贈与は贈与税も相続税も非課税(7年加算も不適用)
  • 年間110万円を超えた部分は2,500万円まで非課税(相続時に精算)
  • 一度選択すると撤回できない(以後その贈与者からの贈与はすべて相続時精算課税の対象)

認知症が進む前の段階で、相続時精算課税の「年間110万円非課税枠」を活用した贈与計画は、7年加算の影響を受けない有効な生前対策になり得る。ただし相続時精算課税制度を選択すると以後の変更ができないため、選択は慎重に行う必要がある。

認知症診断後の生前贈与と意思能力の問題

認知症が進んで意思能力が低下した状態での生前贈与は「無効」になる可能性がある(民法第3条の2)。意思能力がない状態での贈与は法律上の行為として成立しない。

この観点からも「認知症の診断を受けた後、まだ意思能力が残っている段階」が生前贈与の最後のタイミングだ。生前贈与を相続対策に活用したい場合は、認知症の診断後に速やかに税理士に相談して贈与計画を立て、意思能力がある段階に実行する必要がある。

7年加算の段階的な適用スケジュール

7年加算への移行は段階的に進む。相続が開始する時期によって加算期間が異なるため、現時点での状況を確認しておく必要がある。

  • 2024年1月1日〜2026年12月31日に相続開始:加算期間は従来通り3年(経過措置)
  • 2027年1月1日〜2030年12月31日に相続開始:加算期間が4〜7年に順次拡大(4年目以降の加算分は合計100万円を控除)
  • 2031年1月1日以降に相続開始:完全な7年加算が適用(4〜7年目分の贈与は合計100万円控除)

「100万円控除」は、加算期間のうち「3年超4〜7年の部分」の贈与の合計額から100万円を差し引くというものだ。贈与のたびに100万円が控除されるわけではない。

認知症と相続税対策:今すぐ検討すべきこと

認知症の親の相続税対策として今すぐ検討すべき事項を整理した。

  • 現状の把握:親の財産(預金・不動産・株式・保険等)の全体像を把握する。相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるかどうかを確認する
  • 生前贈与の計画:意思能力が残っている段階に、暦年贈与・相続時精算課税の活用を税理士と検討する
  • 生命保険の活用:「500万円×法定相続人の数」まで非課税になる死亡保険金を活用して相続税を圧縮する方法を検討する(ただし認知症が進むと保険の新規契約・変更ができなくなる可能性がある)
  • 家族信託の設定:意思能力がある段階に家族信託を設定し、財産管理を承継させると同時に不動産の管理・活用を継続できる体制を作る

まとめ:認知症親への生前贈与で注意すべき3点

  • 7年加算(相続税法第19条):2024年1月以降の贈与は相続開始前7年以内のものが相続税の課税対象に加算される。ただし経過措置により2031年1月まで段階的に適用拡大
  • 意思能力(民法第3条の2):認知症が進んで意思能力がなくなった後の贈与は無効。意思能力がある段階に実行する
  • 特例の活用:相続時精算課税制度の年間110万円非課税枠(2024年改正後)・各非課税特例制度は7年加算の対象外になる場合がある。税理士に相談して活用を検討する

出典:相続税法第19条(相続前贈与の加算)・第21条の9(相続時精算課税)、租税特別措置法第70条の2(住宅取得等資金)・第70条の2の2(教育資金一括贈与)・第70条の2の3(結婚・子育て資金一括贈与)、民法第3条の2(意思能力)、令和5年度税制改正大綱(相続税・贈与税の一体化)

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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