後見・保佐・補助の違いと使い分け——認知症の程度別に選ぶ法定後見の3類型

法定後見には「後見・保佐・補助」の3類型がある。認知症の進行度・判断能力の程度によってどの類型が適用されるかが決まる。各類型の違い・対象者・後見人等の権限の範囲を整理した。

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「後見・保佐・補助」3類型の違いの概要

法定後見の3類型の基本的な違いを整理した(民法第7条・第11条・第15条)。

  • 後見(民法第7条):判断能力が「常に欠ける」状態:認知症が進行して日常的な判断がほとんどできない状態。後見人が「包括的な代理権(すべての法律行為の代理)」と「取消権(本人が行った法律行為の取消し)」を持つ。本人の「同意権(自分の判断で契約等を有効に行う権利)」は認められない(民法第9条)
  • 保佐(民法第11条):判断能力が「著しく不十分」な状態:物事の大まかな理解はできるが、重要な判断(不動産の売買・多額の借入れ等)については支援が必要な状態。保佐人が「同意権(民法第13条に列挙された重要な行為に同意する権限)」と「取消権」を持つ。保佐人の同意なしに行った重要な行為は取り消せる
  • 補助(民法第15条):判断能力が「不十分」な状態:軽度の認知症で判断能力はあるが一部の行為について支援が必要な状態。補助人の権限は「同意権・代理権の一部」に限られ、申立ての際に具体的な権限を設定する必要がある(民法第17条・第876条の9)

「後見」の対象者と後見人の権限

後見の対象となる状態・後見人の権限の範囲を整理した。

  • 対象となる状態:「事理を弁識する能力を欠く常況(民法第7条)」。日常的な意思疎通が困難で、財産管理・身上監護に関する判断がほとんどできない状態。中等度〜重度の認知症が典型例
  • 後見人の「包括的代理権」:後見人は本人の財産管理・身上監護に関するすべての法律行為を代理できる(民法第859条)。銀行の手続き・不動産の売買・介護サービスの契約等をすべて後見人が代理して行える
  • 「日用品の購入等」は本人が単独でできる:「日用品の購入その他日常生活に関する行為(民法第9条ただし書)」は後見人の取消しの対象外。本人が自分でコンビニで買い物をする行為等は本人の意思が尊重される
  • 「居住用不動産の処分」は家庭裁判所の許可が必要:後見人が本人の居住用不動産を処分(売却・賃貸等)する場合は家庭裁判所の許可が必要(民法第859条の3)。本人の生活の本拠を守るための制度だ

「保佐」の対象者と保佐人の権限

保佐の対象となる状態・保佐人の権限の範囲を整理した(民法第11条・第13条)。

  • 対象となる状態:「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者(民法第11条)」。日常的な判断はある程度できるが、重要な決定(多額の金銭の借入れ・不動産の売買・遺産分割協議等)については支援が必要な状態。軽度〜中等度の認知症が典型例
  • 保佐人の「同意権」が必要な行為(民法第13条):元本を受け取る行為・借財・保証・不動産の売買・訴訟行為・贈与・遺産分割・相続の承認放棄等が該当する。これらの行為を本人が保佐人の同意なしに行った場合は取り消せる
  • 「代理権の付与」は申立てが必要:保佐人に「代理権(代わりに契約等を行う権限)」を付与するには別途の申立てと「本人の同意」が必要(民法第876条の4)。後見とは異なり自動的には代理権は付与されない

「補助」の対象者と補助人の権限

補助の対象となる状態・補助人の権限の範囲を整理した(民法第15条・第17条)。

  • 対象となる状態:「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者(民法第15条)」。軽度の認知症や判断力が低下しはじめた状態で、特定の行為についてのみ支援が必要な状態
  • 補助人の権限は「申立て時に指定した範囲」に限定される:補助人に付与する「同意権・代理権」の範囲は申立て時に具体的に設定する必要がある(民法第17条・第876条の9)。保佐・後見と異なり、権限の範囲が最も限定的
  • 「本人の申立てまたは同意が必要」という特徴:補助開始の審判申立ては「本人が申し立てる」か「本人が同意する」ことが必要(民法第15条第2項)。本人の意思を最大限尊重する類型だ

「3類型の選択」の実務上のポイント

後見・保佐・補助のどの類型を申し立てるかの実務上のポイントを整理した。

  • 診断書の記載と類型の関係:申立て時に医師の診断書(法定様式)を提出する。診断書には「判断能力の程度(後見・保佐・補助相当のいずれか)」の欄があり、医師の判断が類型の選択に影響する
  • 「後見相当」でも保佐・補助の申立てができる場合:診断書上は「後見相当」でも、本人の状態や必要な支援の範囲に応じて「保佐」「補助」の申立てをすることは可能。家庭裁判所が実際の状態を確認して類型を決定する
  • 「後見への変更」は可能だが容易ではない:補助や保佐が開始された後に認知症が進行して判断能力がさらに低下した場合は「後見への変更申立て(家庭裁判所への新たな申立て)」が必要。自動的に類型が変更されるわけではない

「後見人等」の報酬と費用の目安

後見・保佐・補助を利用する際の費用の目安を整理した。

  • 申立て費用:収入印紙800円(申立て手数料)・戸籍謄本等の書類取得費用(数千円〜)・診断書作成費用(数千〜1万円程度)・鑑定費用(必要な場合は5〜10万円程度)が主な費用。弁護士・司法書士に申立てを依頼する場合はさらに依頼費用(10〜30万円程度)がかかる
  • 後見人報酬(家庭裁判所が決定):後見人報酬は家庭裁判所が「本人の財産の規模・後見人が行った業務の量」等を考慮して決定する。一般的な目安は「財産が1,000万円未満の場合は月2万円程度、1,000万〜5,000万円の場合は月3〜4万円程度」とされている(東京家庭裁判所の実務)
  • 親族後見人の場合は報酬ゼロも可能:後見人として親族(子・兄弟等)が選任された場合、報酬を「ゼロ(無報酬)」とすることも可能。ただし後見人の業務は継続的に発生するため、一定の報酬を設定することも認められている
  • 「後見制度支援信託・預貯金」の費用:家庭裁判所から「後見制度支援信託・預貯金」の利用を指示された場合は、信託銀行・ゆうちょ銀行の手数料(設定時に数十万円程度)が発生する

「法定後見」と「任意後見」の使い分け

法定後見(後見・保佐・補助)と任意後見の使い分けを整理した。

  • 「任意後見」は意思能力があるうちに設定できる:任意後見は「本人が自分で後見人を指定する」制度(任意後見契約に関する法律)。意思能力がある段階で公正証書で契約しておくことで、認知症が進んだ際に「自分が選んだ人が後見人になる」体制を作れる
  • 「法定後見(後見・保佐・補助)」は意思能力が低下した後に開始:認知症が進んで意思能力が低下してからでも、家庭裁判所への申立てによって後見等が開始できる。ただし後見人は「家庭裁判所が選任(専門職になるケースも多い)」するため、自分の希望通りの人が選ばれるとは限らない
  • 「任意後見→法定後見への移行」も可能:任意後見が開始されていても、後に「より手厚い法定後見(後見)が必要」と判断された場合は、家庭裁判所への申立てによって法定後見に移行することができる

「後見・保佐・補助」の開始後に変更できるか

後見・保佐・補助が開始された後に類型を変更できるかを整理した。

  • 「補助・保佐→後見」への変更は新たな申立てが必要:補助や保佐が開始された後に認知症が進行して判断能力がさらに低下した場合は、家庭裁判所への新たな「後見開始の審判申立て(民法第7条)」が必要。自動的に類型が変わるわけではない
  • 「後見→保佐・補助」への格下げは実務的に稀:一度後見が開始されると、「本人の判断能力が回復した」ことを理由に後見取消しの審判(民法第10条)を申立てることはできるが、認知症は進行性の病気であるため現実的には稀なケース
  • 各類型の終了事由:後見・保佐・補助はいずれも「本人の死亡」「本人の判断能力の回復による取消し審判の確定(民法第10条・第14条・第18条)」「後見人等の辞任・解任」等によって終了する

この記事のまとめ

  • 後見(民法第7条):判断能力が「常に欠ける」状態。後見人が包括的代理権・取消権を持つ。日用品の購入は本人が単独でできる(民法第9条ただし書)
  • 保佐(民法第11条):判断能力が「著しく不十分」な状態。保佐人が民法第13条列挙行為への同意権・取消権を持つ。代理権の付与には本人の同意が必要(民法第876条の4)
  • 補助(民法第15条):判断能力が「不十分」な状態。補助人の権限は申立て時に指定した範囲に限定される。本人の申立てまたは同意が必要(民法第15条第2項)
  • 類型の選択:医師の診断書(判断能力の程度)が重要。申立て後、家庭裁判所が実際の状態を確認して類型を決定する
  • 費用の目安:申立て費用(収入印紙800円+戸籍等)・鑑定費用(必要な場合5〜10万円)・後見人報酬(月2〜5万円・親族後見人は無報酬も可)・弁護士への委任費用(10〜30万円程度)
  • 類型の変更:補助→保佐→後見への格上げは新たな申立てが必要(民法第7条・第11条・第15条)。認知症は進行性のため早めの申立てを検討する
  • 相談先:弁護士・司法書士(申立て書類の準備・類型の選択)・家庭裁判所(申立て先)

出典:民法第7条(後見開始の審判)・第9条(後見人による取消しの範囲)・第11条(保佐開始の審判)・第13条(保佐人の同意を要する行為)・第15条(補助開始の審判)・第17条(補助人の同意を要する行為)・第859条(後見人の代理権)・第859条の3(居住用不動産の処分の制限)・第876条の4(保佐人への代理権の付与)・第876条の9(補助人への代理権の付与)

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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