認知症の親を訪問販売から守る——クーリングオフと契約取り消しの手順

認知症の親の家に業者が来て、高額な商品を売りつけていく——気づいたときには何度も購入していた、というケースは実際に多い。認知症高齢者は判断能力が低下しているため、訪問販売・電話勧誘の標的になりやすい。業者からの勧誘を断る方法・すでに結んでしまった契約を取り消す方法・クーリングオフの手順を整理した。

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訪問販売を断る・断らせる方法

認知症の親が業者の訪問を断れない・勧誘に応じてしまうという問題に対して、家族ができる事前の対応策を整理した。

  • 「訪問お断り」シールを貼る:玄関扉に「訪問販売・勧誘お断り」のシールを貼る方法。シールがあっても訪問してくる悪質業者もいるが、一定の抑止効果がある。市区町村の消費生活センターで無料配布していることがある
  • 電話番号を非通知に設定する:知らない番号からの電話に出ないよう、電話機の設定で「非通知着信拒否」「特定番号着信拒否」を設定する。最近の固定電話には詐欺対策の機能が付いているものも多い
  • チェーンロック・インターホンの活用:チェーンロックをかけたままインターホン越しに対応する習慣をつける。業者を家の中に入れないことが最善の予防策だ
  • 近隣・介護サービス事業者との連携:近隣の人・ヘルパー・ケアマネジャーに「不審な業者が来ている場合は連絡してほしい」と伝えておく

すでに契約してしまった場合のクーリングオフ

訪問販売で契約してしまった場合のクーリングオフ(無条件解約)の手順を整理した(特定商取引法第9条)。

クーリングオフの適用条件:

  • 訪問販売(業者が自宅に来て販売した場合)であること
  • 商品・サービスの種類が特定商取引法の適用対象であること(一部除外される商品がある)
  • クーリングオフ期間内(書面受領から8日間)であること

クーリングオフの手順:

  1. 書面の確認:業者から受け取った契約書・申込書を確認する。クーリングオフが可能な旨の記載があるか、書面の日付を確認する
  2. クーリングオフの書面を作成する:「クーリングオフを行使する旨(契約を解除する)」「契約の日付・商品名・金額・業者名」を記載した書面を作成する。ハガキに書いてもよい
  3. 特定記録郵便または簡易書留で送る:書面を業者に送付する。発送した証拠が残る方法(特定記録郵便・簡易書留)を使う。ハガキなら両面のコピーを取ってから送る
  4. クレジット会社への連絡(クレジット払いの場合):クレジット払いの場合は業者とクレジット会社の両方にクーリングオフの書面を送付する(特定商取引法第35条の3の10)

「8日間が過ぎた」場合の対応

クーリングオフの8日間が過ぎてしまっていても、次の手段が使える可能性がある。

  • 書面の不備・不交付:業者から受け取った書面(契約書)の記載内容が特定商取引法の要件を満たしていない場合、クーリングオフの8日間のカウントが始まっていないとみなされる。必要事項(会社名・住所・商品の説明・クーリングオフの案内等)が欠けていたり、文字が小さすぎたりする場合は不備に当たる可能性がある
  • 消費者契約法による取り消し:「不実告知(虚偽の説明)」「断定的判断の提供」「不利益事実の不告知」「不退去・退去妨害」等の不当な勧誘があった場合は、クーリングオフ期間に関係なく取り消せる可能性がある(消費者契約法第4条)。取り消し権の行使期限は追認できる時から1年・契約から5年(消費者契約法第7条)
  • 意思能力がなかったことによる無効:契約当時に意思能力がなかった場合(認知症が進んで判断能力がなかった場合)は「無効」として返還請求できる(民法第3条の2)

電話勧誘販売への対応

電話勧誘販売(業者が電話で勧誘して契約させるケース)も訪問販売と同様にクーリングオフが適用される(特定商取引法第24条・9条準用)。電話での勧誘で契約してしまった場合の対応を整理した。

  • 電話を切る権利がある:電話勧誘販売では「消費者が勧誘を断る意思を示した場合は、業者は勧誘を続けてはいけない」と定められている(特定商取引法第17条)。「いりません」と言って電話を切ることは消費者の権利だ
  • クーリングオフは書面受領から8日間:電話勧誘販売でも契約書面の受領から8日間はクーリングオフができる(特定商取引法第24条)
  • 電話番号の通知記録:かかってきた電話番号を記録しておく。消費生活センターや警察への相談の際に役立つ

被害後に業者との接触を防ぐ方法

一度被害が起きた後、業者が再び連絡してくることがある。接触を防ぐための対応を整理した。

  • 電話番号の変更:悪質業者が知っている電話番号を変更することで、電話連絡を遮断できる
  • 後見人の設定:後見人が選任されると「後見人の同意なしに本人が大額の契約をすることは法律上困難」になる。業者が「後見人が設定されている」と知ると接触を諦めることが多い
  • 業者への内容証明郵便:「今後一切連絡・訪問しないこと」を内容証明郵便で通知する。これを無視して接触してきた場合は「不正競争」「不法行為」として法的対応がとれる可能性がある
  • 警察への相談:悪質な繰り返し接触がある場合は「つきまとい行為」として迷惑防止条例違反・ストーカー規制法の対象になる可能性がある。警察に相談することが有効だ

「特殊詐欺」として警察に被害届を出す

振り込め詐欺・架空請求詐欺・フィッシング詐欺・還付金詐欺等の「特殊詐欺」に当たる場合は、被害届を警察に提出することができる。

被害届は最寄りの警察署(生活安全課・刑事課)に提出する。被害額・被害日時・業者の特徴(電話番号・氏名・住所等)をできる限り記録してから相談に行く。

振り込んでしまったお金の返還は「犯人が逮捕されて財産が残っている場合」に限られるため、すべての被害が回収できるわけではない。しかし被害届を出すことは「犯人逮捕への捜査開始」「他の被害者を防ぐ」という意味がある。

「お試し商品」の罠:定期購入への自動更新

「初回無料・お試し」という広告で注文したら、実は定期購入(自動更新)の契約だったというケースが高齢者にも増えている。認知症の場合は「定期購入になっている」という認識自体がない場合がある。

対応方法を整理した。

  • 特定商取引法改正(2022年6月施行):通信販売の定期購入に関する表示規制が強化され、「定期購入であること」「総支払額」「解約方法」等の明確な表示が義務付けられた。表示義務を守っていない場合は「不実の告知」として消費者契約法による取り消しの対象になる可能性がある
  • クレジット会社への連絡:クレジット払いの場合はクレジット会社に「不審な定期課金がある」として調査・停止を依頼できる
  • 消費者ホットライン(188)への相談:解約方法がわからない・業者と連絡がとれない場合は消費生活センターに相談する

家族が業者への交渉を代わりに行うには

後見人がいない段階でも、家族が業者への交渉を「代わりに」行うことは可能だ(ただし法律上の代理権はないため、業者側が家族との交渉を拒否することはある)。

家族が業者との交渉に使える方法を整理した。

  • 消費生活センターを通じた交渉:消費生活センターが業者に連絡して解決を促すことがある(斡旋)。家族が消費生活センターに相談して、センターを通じて業者に対応を求めることができる
  • 国民生活センターのADR(裁判外紛争解決手続き):消費者と事業者の間のトラブルで解決できない場合は、国民生活センターの「ADR(裁判外紛争解決手続き)」を利用できる場合がある
  • 法テラスを通じた弁護士への依頼:弁護士が代理人として業者と交渉することが最も確実だ。費用が心配な場合は法テラスの「審査付き法律扶助」を利用できる場合がある

「訪問購入(貴金属・着物の買い取り)」の詐欺的な手口

「不用品の買い取りに来ました」と自宅を訪問して、高齢者の貴金属・着物・骨董品等を不当に安い価格で買い取る「訪問購入」の詐欺的な手口も増えている。

訪問購入のクーリングオフは書面受領から8日間で、業者は訪問購入の際に書面を交付する義務がある(特定商取引法第58条の8)。訪問購入の際に「今日中に判断しないといけない」「書面はあとで送る」と言われた場合は詐欺のリスクが高い。

認知症高齢者の場合、「捨てる価値しかない」等と言われて実際は高価な着物・骨董品を安値で手放してしまうケースがある。クーリングオフ期間内であれば取り戻せる可能性があるが、期間を過ぎると意思能力の問題として対応することになる。

「特定商取引法」の対象外になる取引に注意

特定商取引法のクーリングオフが適用されない取引があるため注意が必要だ。

  • 3,000円未満の現金取引:少額の訪問販売はクーリングオフ不可(特定商取引法第26条)
  • 消費者が自ら店に出向いて締結した契約:自分で店に行って契約した場合(催告した本人が訪問した場合を除く)は訪問販売に当たらない
  • 業者から消費者が呼んだ場合の一部:消費者が自分から業者を呼んで、当初の申し込み内容の通りに契約した場合は除外されることがある

これらの適用除外の場合でも、消費者契約法による取り消し(第4条)や民法上の意思能力の問題として対応できる場合がある。クーリングオフができないと思っても、まず消費生活センター(188)に相談することをすすめる。

この記事のまとめ

  • 訪問販売へのクーリングオフは書面受領から8日間(特定商取引法第9条)。ハガキに書いて特定記録郵便で送付する
  • 8日間が過ぎていても「書面の不備」「消費者契約法による取り消し(追認できる時から1年・契約から5年)(消費者契約法第7条)」「意思能力がなかったことによる無効(民法第3条の2)」が使える可能性がある
  • 事前予防:「訪問お断り」シール・非通知着信拒否・インターホン対応・周囲への協力依頼
  • 被害後:業者との接触遮断・後見申立て・内容証明郵便による通知
  • 相談先:消費者ホットライン188・警察・法テラス・消費生活センター

出典:特定商取引法第9条(訪問販売のクーリングオフ)・第17条(電話勧誘での勧誘継続禁止)・第24条(電話勧誘販売のクーリングオフ)・第35条の3の10(クレジット会社への通知)、消費者契約法第4条・第7条、民法第3条の2

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

ご質問はメールで。電話・面談はしていません。

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