認知症グループホームの虐待防止研修、新規採用者にはいつまでに実施するか。

認知症グループホームの虐待防止研修、新規採用者にはいつまでに実施するか。 介護

認知症グループホームの虐待防止研修は、新規採用者には採用後すみやかに実施します

認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム、以下GH)の虐待防止研修は、年1回以上の実施が義務です。根拠は「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準」(厚生労働省令第34号)第108条(第3条の38の2の準用)です。

新規採用者については「採用時に実施する」ことが義務づけられています。「採用後いつまでに」という明確な期日は条文に定められていませんが、「新規採用時には必ず(必須)」という規定があります。実務上は、着任前または着任直後(遅くとも最初のケアに入る前)に実施することが求められると解釈されています。

この記事では、虐待防止研修の根拠条文・新規採用者への対応・研修で扱うべき内容・虐待の5種類を認知症ケアの場面別に解説します。

虐待防止研修の根拠条文

第108条が準用する第3条の38の2に、虐待防止の措置が定められています。

指定認知症対応型共同生活介護事業者は、虐待の発生又はその再発を防止するため、次の各号に掲げる措置を講じなければならない。
一 虐待の防止のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等を活用して行うことができるものとする。)を定期的に開催するとともに、その結果について、従業者に周知徹底を図ること。
二 虐待の防止のための指針を整備すること。
三 従業者に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施すること。
四 前三号に掲げる措置を適切に実施するための担当者を置くこと。

出典:指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省令第34号)第108条(第3条の38の2の準用)

「定期的に実施すること」とあり、年に1回以上が義務の目安です。「新規採用時には必ず」という規定は省令の条文には明記されていませんが、厚生労働省が示す指針の考え方および全国的な運営指導の実態から、新規採用者への実施は採用後すみやかに行うことが強く求められています。

新規採用時の研修が必要な3テーマ

認知症GHの法定研修・訓練の中で、新規採用者に対して通常の年間スケジュールとは別に実施を求められる(または強く推奨される)テーマが3つあります。

テーマ 通常の頻度 新規採用時の扱い
虐待防止 年1回以上 採用時に必ず実施
感染症対策 年2回以上 採用時に必ず実施
身体拘束適正化 定期的に実施 採用時に必ず実施

これら3テーマは、利用者の安全に直接かかわる内容です。業務の中で虐待・感染症感染・不適切な身体拘束が起きた場合の影響が大きいため、採用後すみやかに実施して基礎的な知識を身につけてもらうことが求められます。

新規採用者向けの研修を定例の全体研修とは別に設ける方法のほか、既存職員と一緒に定例研修を早めに受けさせる方法もあります。入職日や配属のタイミングに合わせて、受講できていない新規採用者が業務に入らないよう管理することが重要です。

虐待防止法が定める5種類の虐待

高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)第2条第8項は、施設等従事者等による高齢者虐待を5つに分類しています。

次の各号に掲げる行為をいう。
一 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人による前号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。
三 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
四 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
五 高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。

出典:高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律第2条第8項

一般に使われる呼び方では、①身体的虐待、②介護・世話の放棄(ネグレクト)、③心理的虐待、④性的虐待、⑤経済的虐待の5種類です。

認知症ケアの場面別・虐待の具体例

認知症の方への虐待は、ケアの場面に潜んでいることがあります。厚生労働省「高齢者虐待の対応と養護者支援マニュアル」(令和3年3月)で示されている例を参考に、各場面の注意点を整理します。

入浴・排せつ・着替えの介助

身体に触れる機会が多い場面です。注意が必要な行為の例を示します。

  • 熱い湯やシャワーをかけること(身体的虐待)
  • 本人が嫌がっているにもかかわらず無理に入浴させること(身体的虐待・心理的虐待)
  • 排せつの失敗を怒鳴ったり、罰として食事を減らしたりすること(心理的虐待・ネグレクト)
  • 必要な着替えや清潔のケアを行わず放置すること(ネグレクト)

参考:厚生労働省「高齢者虐待の対応と養護者支援マニュアル」(令和3年3月)

食事・水分の提供

食事介助には時間がかかるため、業務が忙しい場面での不適切対応が起きやすい場面です。

  • 食事を食べさせない、または著しく量を減らすこと(ネグレクト)
  • 食べこぼしを責めたり怒鳴ったりすること(心理的虐待)
  • 水分補給を怠り脱水状態にすること(ネグレクト)

認知症の症状への対応

BPSD(行動・心理症状)への不適切な対応が虐待になることがあります。

  • 徘徊・大声・繰り返しの言動を怒鳴って制止すること(心理的虐待)
  • 「うるさい」「何度言えばわかるの」などの言葉(心理的虐待)
  • 行動を制止するために手を押さえたり、椅子や車椅子に縛りつけること(身体的虐待・身体拘束)

個人の財産・持ち物

認知症の方は自分の財産状況を確認しにくいため、経済的虐待が発覚しにくい傾向があります。

  • 利用者の現金・預貯金を無断で使用すること(経済的虐待)
  • 年金や給付金の受け取りを事業所が管理し、本人が使えない状態にすること(経済的虐待)
  • 本人の了解なく貴重品を処分すること(経済的虐待)

虐待と「不適切なケア」の違い

虐待の手前に「不適切なケア」があります。明確な法律違反とはいえないものの、利用者の尊厳を傷つける言動・行動が不適切なケアにあたります。不適切なケアを放置すると虐待に発展するリスクがあります。

不適切なケアの例として次のようなものが挙げられます。

  • 利用者に対して「ちゃん」「ばあちゃん」など尊厳を損なう呼び方をする
  • 本人の意思を確認せず、一方的に介助を進める
  • 認知症の症状による発言を「嘘をついている」「試している」と解釈して否定する
  • 「早くして」「もう一度言わないで」などと急かす言葉を繰り返す
  • 業務効率のため、本人がやれることでも全部代わりにやってしまう(過度な過介助)

研修では「虐待かどうか」の判断だけでなく、「不適切なケアになっていないか」の振り返りも取り入れることが有効です。

虐待を発見・疑った場合の対応手順

虐待またはその疑いに気づいた場合の手順を整理します。

  1. 利用者の安全を確保する(危険がある場合は即座に対応)
  2. 虐待防止の担当者または管理者に報告する
  3. 管理者・担当者は事実確認を行う(虐待が疑われる職員を特定するなど)
  4. 虐待が疑われる場合は市区町村に通報する(高齢者虐待防止法第21条による義務)
  5. 通報後は市区町村の指示に従って立入調査などに協力する

養介護施設の業務に従事する者は、当該養介護施設において業務に従事する養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。

出典:高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律第21条

市区町村への通報は義務です。「確実に虐待だと確認できていない」「事業所内で対応する」という理由で通報を保留することは、法律の趣旨と合いません。「虐待を受けたと思われる」という段階で通報義務が生じます。

虐待防止委員会との関係

認知症GHには、虐待防止の対策を検討する委員会を定期的に開催する義務があります(第108条・第3条の38の2)。研修と委員会は別の義務ですが、連動させることで効果が高まります。

取り組み 頻度の目安 主な役割
虐待防止研修 年1回以上(新規採用時はすみやかに) 全職員の知識・対応力の底上げ
虐待防止委員会 定期的(年1回以上が手引きの目安) 事例の分析・指針の見直し・職場環境の改善検討

委員会で前年度の不適切なケアの事例・ヒヤリハットを分析して研修の内容に反映するサイクルを作ると、形式的な研修に終わりにくくなります。

研修の記録に残す項目

虐待防止研修の実施記録は運営指導で確認されます。記録に残す項目の目安を示します。

項目 記載の内容
実施日 研修を行った年月日
実施方法 集合研修・個別研修・テスト受講など
テーマ・内容 扱った内容の概要
受講者の氏名 受講した全職員の氏名(または出席記録)
受講者の確認署名 受講したことを確認する職員のサイン(なくても問題ないが、あると運営指導で評価されやすい)
確認テストの結果 実施した場合は点数・採点日
研修担当者 研修を担当した職員名

新規採用者の研修記録は定例の研修記録とは別に綴じておくか、「入職日」と「受講日」の両方が確認できる形にしておくと、「採用後すみやかに実施した」という証拠になります。

よくある疑問

虐待防止研修はオンライン(動画)でも有効ですか

条文に「集合形式で行うこと」という限定はありません。動画研修・オンデマンド受講も有効と解釈されます。ただし受講確認(視聴完了の確認・テストなど)と受講記録の管理が必要です。新規採用者に対してオンデマンドで実施する場合は、受講期限(着任後何日以内など)を事業所のルールとして定めておくとよいでしょう。

パート・派遣・委託の職員は研修の対象ですか

虐待防止研修の対象は「従業者」全員です。雇用形態(正規・非正規・派遣)を問わず、利用者に直接かかわる業務に就く方は対象となります。委託スタッフ(例:厨房委託)については実施義務の範囲が解釈によりますが、利用者への接触がある場合は対象とすることが安全です。

虐待防止研修と身体拘束適正化研修は同時に行ってもよいですか

同日に連続して実施することは問題ありません。特に新規採用者向けには、2テーマをまとめて実施する方法が時間の節約になります。その場合も、記録は「虐待防止」「身体拘束適正化」を別テーマとして明記してください。

まとめ:虐待防止研修は採用後すみやかに、年1回以上実施します

認知症グループホームの虐待防止研修の義務をまとめます。

  • 根拠条文:「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準」第108条(第3条の38の2の準用)
  • 頻度:年1回以上の定期的な実施
  • 新規採用者:採用後すみやかに(着任前または着任直後)実施する
  • 虐待の5種類:高齢者虐待防止法第2条第8項(身体的・ネグレクト・心理的・性的・経済的)
  • 市区町村への通報:「虐待を受けたと思われる」段階で義務
  • 新規採用時の必須3テーマ:虐待防止・感染症・身体拘束適正化

各テーマの研修資料・確認テスト・受講記録・委員会の議題案をまとめて使えるツールを用意しています。

認知症GH 法定研修・訓練キット(/ninchisho-gh/)

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

ご質問はメールで。電話・面談はしていません。

fufumumu_designをフォローする
介護
fufumumu_designをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました