障害者グループホーム(共同生活援助、以下GH)のハラスメント防止に関する義務は、2種類に分かれています。一つ目は、職員間で起こるセクシュアルハラスメント(以下セクハラ)とパワーハラスメント(以下パワハラ)。二つ目は、利用者・家族から職員に向けられるカスタマーハラスメントです。研修でこの2種類を分けて扱わないと、「誰が誰に」「どう対応すべきか」の整理が難しくなります。
根拠は、共同生活援助ガイドライン(令和8年2月・厚生労働省)の指定基準解説部分と、「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(厚生労働省・令和7年3月25日告示第57号)の2つです。後者は通称「カスタマーハラスメント指針」と呼ばれ、2025年4月1日から施行されています。
この記事では、GHのハラスメント防止研修で伝えるべき内容を、2種類のハラスメントに分けて整理します。
職員間のハラスメント防止は、3つの措置が義務
共同生活援助ガイドラインは、GH事業者に対して、職員間のハラスメント防止のために次の措置を講じることを求めています。
| 措置の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 方針の明確化と周知・啓発 | ハラスメントを許容しない方針を明確にし、職員に周知する。研修・啓発活動を通じて、職員のハラスメントに関する理解を深める |
| 相談体制の整備 | ハラスメントに関する相談(苦情を含む)を受け付け、適切に対応するための体制を整える。相談窓口担当者の設置、対応手順の整備など |
| 事後の迅速かつ適切な対応 | ハラスメントが発生した場合に、事実確認・被害者への配慮・行為者への指導・再発防止策の実施を速やかに行う |
(出典:共同生活援助ガイドライン 第1版(令和8年2月・厚生労働省)指定基準解説部分、労働施策総合推進法第30条の2・第30条の3)
これらは努力義務ではなく、事業主として講じなければならない「雇用管理上の措置」です。職場規程や就業規則への明記、相談窓口担当者の氏名と連絡先の掲示、研修の実施記録の保存が、運営指導の際に確認されることがあります。
セクハラとパワハラ、研修で伝えるべき定義の区別
職員向け研修では、「どういう言動がセクハラ・パワハラにあたるか」を具体的に示すことが、理解を深める上で重要です。
セクシュアルハラスメントは、「職場において行われる性的な言動」であって、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」ものにより、「従業者の就業環境が害されること」と定義されています。身体的な接触だけでなく、性的な冗談・発言・じろじろ見ること・プライベートへの過度な質問も含まれます。
パワーハラスメントは、「優越的な関係を背景とした言動」であって、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」により、「従業者の就業環境が害されること」と定義されています。職位・経験年数・人数の多寡など、あらゆる「優越的な関係」が対象になり得ます。
| 種類 | 基本の定義 | GHで起こりやすい場面の例 |
|---|---|---|
| セクハラ | 性的な言動により就業環境が害される | 外見に関するコメント・容姿についての発言・「恋人はいるの」等のプライベートな質問・制服・動作への性的な言及 |
| パワハラ(優越的な関係+業務範囲超) | 優越的な立場を背景に、業務上不必要・不相当な言動により就業環境が害される | 支援記録の書き方を大声で叱責・夜間支援員に過剰な報告を課す・経験の少ない職員を「使えない」と繰り返し言う・特定の職員だけ休憩を取らせない |
研修では「業務上必要な指示・指導はパワハラではない」という点も明確にします。指導と暴言の区別があいまいだと、適切な指導が「ハラスメントを恐れた自己検閲」で失われることがあります。
GH特有の事情:夜間・少人数・長時間の密室性
GHのハラスメントが他のサービス種別と異なる点は、24時間・宿泊型の支援環境による「密室性」です。
夜間支援では、1〜2名の職員が複数の利用者の支援にあたります。この状況では、職員間のやりとりが管理職・サービス管理責任者の目に届きにくく、問題が長期化しやすいという特性があります。
また、少人数体制の職場では「この人に嫌われたら働けない」という心理的なプレッシャーが生じやすく、ハラスメントを受けた職員が相談しにくい環境になりやすいです。相談窓口を形式的に設けるだけでなく、「管理者以外にも相談できる窓口(外部のEAP・事業者団体の相談室等)がある」と研修で伝えることが重要です。
カスタマーハラスメント:利用者・家族からの言動に対する事業主の義務
2025年4月1日から施行された「カスタマーハラスメント指針」(厚生労働省告示第57号)により、事業主は利用者・家族から職員に向けられるカスタマーハラスメントに対しても、雇用管理上の配慮・措置を講じることが求められるようになりました。
カスタマーハラスメントは、「顧客等(施設・サービスの利用者及びその家族を含む)の言動であって、その業務の性質等に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されること」と定義されています。
(出典:事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和7年3月25日 厚生労働省告示第57号))
GHでは、利用者の家族から職員に向けられる以下のような言動が、カスタマーハラスメントに該当する可能性があります。
- 電話やSNSで繰り返し、業務の範囲を超えた対応を要求する
- 特定の職員を名指しして、「あの人は外せ」と繰り返し要求する
- 面会・電話で、職員に対して侮辱的な発言を繰り返す
- 虚偽の苦情を行政機関に申し立てると繰り返し告知して、職員に圧力をかける
ただし、「障害者が、障害を理由とする不当な差別的取扱いを受けないよう求めること」や「社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること」自体は、カスタマーハラスメントには当たりません。この区別は、研修の中で明確に伝えることが重要です。
カスタマーハラスメントへの事業主の対応体制
カスタマーハラスメント指針は、事業主に対して次の対応を求めています(配慮義務・措置義務の区分は指針に準じた整理です)。
| 義務の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 職員が相談できる体制の整備(配慮) | カスタマーハラスメントの相談を受け付け、職員が1人で抱え込まない体制をつくる |
| 被害を受けた職員への配慮(配慮) | 精神的な支援・担当の見直し・関係する家族への事業者としての説明など |
| 記録と事後対応(措置) | カスタマーハラスメントに関するやりとり・対応記録を残し、再発防止に活用する |
| 研修・啓発(措置) | 管理者・職員に対して、カスタマーハラスメントの定義・対応方針・相談先を周知する |
「利用者の家族への対応は、指導・注意してはいけない」と思い込んでいる職員も少なくありません。研修では「社会通念上許容される範囲を超えた言動には、事業者として毅然と対応することが職員の保護につながる」と明確に伝えます。
研修の進め方:2種類のハラスメントを1回で扱う場合の構成例
GHの研修はスタッフ数が少なく、複数のテーマを1回にまとめることが多い環境です。「職員間のハラスメント」と「カスタマーハラスメント」を1回の研修で扱う場合の構成例を示します。
研修時間:60〜90分
1. 導入(10分):なぜ今ハラスメント防止が義務なのか
職員間ハラスメント防止の義務(労働施策総合推進法)と、2025年4月施行のカスタマーハラスメント指針の2つを根拠として紹介します。「法的義務である」という認識が、形式的な研修になることを防ぎます。
2. 職員間のセクハラ・パワハラ(25分):定義と事例の確認
定義の確認(上記表を使用)→ GH内での具体的な場面を考える→「これはどちらですか」の事例演習(複数の場面を提示)→ 相談窓口の確認。
3. カスタマーハラスメント(25分):利用者・家族からの言動への対応
定義と「正当な要求との区別」→ GHで実際に起きやすい場面→ 1人で判断せず記録・報告する流れの確認→ 組織として毅然と対応する方針の確認。
4. まとめと確認テスト(10〜15分)
「○か×か」形式の確認問題(5問程度)で理解を確認します。問題はセクハラ・パワハラ・カスタマーハラスメントの事例を混在させます。
運営指導で確認される記録の形
ハラスメント防止に関して運営指導で確認されることがある記録は次のとおりです。
- 就業規則・職場規程に、ハラスメント禁止条項と相談窓口が明記されていること
- ハラスメント防止研修の実施記録(日時・テーマ・出席者・使用資料)
- 相談窓口担当者の氏名・連絡先の掲示
- ハラスメントに関する相談・苦情を受け付けた場合の記録(内容・対応の経過)
2025年4月からカスタマーハラスメントへの対応義務が加わったことで、研修内容に「利用者・家族からのハラスメントへの対応方針」が含まれているかも確認の対象になり得ます。
障害者グループホーム向け法定研修・訓練キット
障害者グループホームの法定研修(12テーマ)に対応した研修・訓練キットを公開しています。ハラスメント防止テーマの確認テスト・職員への周知記録・研修記録様式をブラウザで使えます。
出典:共同生活援助ガイドライン第1版(令和8年2月・厚生労働省)/事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和7年3月25日 厚生労働省告示第57号)/労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)第30条の2・第33条。


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