日本政策金融公庫「創業計画書記入例(2025年4月版・洋風居酒屋)」の月商322万円は、昼58.5万円(18.2%)と夜263.3万円(81.8%)で構成されています。同じ25席・26日営業でも、客単価が昼900円・夜4,500円と5倍異なるため、売上の構成は夜に偏ります。業態の選択によって昼夜の設定が変わると月商そのものが大きく変わり、固定費に対する損益の余裕も変わります。本記事では、公庫の数字をもとに昼メイン・夜メイン・昼夜両立の3パターンを試算し、どの業態設計が固定費を回収しやすいかを比較します。
公庫記入例の昼夜の売上比率の計算
記入例では月商322万円の内訳を次のように示しています。
| 時間帯 | 客単価 | 席数 | 回転数 | 営業日数 | 月売上 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 昼 | 900円 | 25席 | 1.0回転 | 26日 | 585,000円(58.5万円) | 18.2% |
| 夜 | 4,500円 | 25席 | 0.9回転 | 26日 | 2,632,500円(263.3万円) | 81.8% |
| 合計 | 3,217,500円(321.8万円≒322万円) | 100% |
昼の計算:900円×25席×1.0回転×26日=585,000円。夜の計算:4,500円×25席×0.9回転×26日=2,632,500円。合計3,217,500円を四捨五入して「月商322万円」と表記しています。
1席あたりの月売上に換算すると、昼が585,000÷25=23,400円、夜が2,632,500÷25=105,300円です。同じ席が昼と夜で稼ぐ金額は4.5倍の差があります。客単価は5倍ですが、夜の回転数が0.9回転と昼(1.0回転)より1割低いため、差がわずかに縮まっています。
この比率から読み取れるのは、夜の集客の感度が月商に与える影響が大きい点です。夜の回転数が0.9回転から0.8回転に1割下がると、夜売上は263,250円減(月商の8.2%減)します。昼の回転数が同じ1割下がっても58,500円減(月商の1.8%減)にとどまります。夜の稼働率が月商全体を左右する構造です。
昼と夜の客単価の差が5倍ある業態では、夜の回転数・客数の維持が月商管理の中心になります。逆に言えば、夜に高単価で安定した回転が見込める立地・業態かどうかが、収益構造を決める最大の要因です。
昼メイン・夜メイン・昼夜両立の月商比較(25席・26日)
同じ25席・26日営業でも、業態によって昼夜の客単価と回転数が変わり、月商は大きく異なります。以下は3パターンの試算です。
| パターン | 昼の設定 | 夜の設定 | 昼の月売上 | 夜の月売上 | 月商合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 昼メイン(定食・カフェ型) | 900円×1.0回転 | 1,500円×0.3回転 | 585,000円(58.5万円) | 292,500円(29.3万円) | 877,500円(87.8万円≒88万円) |
| 昼夜両立(公庫記入例・居酒屋型) | 900円×1.0回転 | 4,500円×0.9回転 | 585,000円(58.5万円) | 2,632,500円(263.3万円) | 3,217,500円(321.8万円≒322万円) |
| 夜メイン(バー・高単価型) | なし(0回転) | 6,000円×1.5回転 | 0円 | 5,850,000円(585万円) | 5,850,000円(585万円) |
昼メインの試算は定食業態を想定し、夜は閉店前に少数の飲み客が来る程度(軽食・ドリンク1,500円×0.3回転)としています。900円×25席×1.0回転×26日=585,000円、1,500円×25席×0.3回転×26日=292,500円、合計877,500円(88万円)です。
夜メインの試算はバー・ラウンジ等の高単価業態を想定し、昼は営業せず夜のみ(6,000円×1.5回転×25席×26日=5,850,000円)としています。1.5回転は2時間制で2回転を想定した水準です。
月商の幅は昼メイン88万円から夜メイン585万円まで6.7倍の差があります。固定費が同水準であれば、業態の選択が損益に直接影響します。昼と夜の客単価の設計がいかに月商を左右するかが、この比較から分かります。
固定費156.1万円を前提にした3パターンの損益比較
公庫記入例の固定費は156.1万円(人件費88.6万円+家賃20万円+その他47.5万円)です。この固定費を3パターンに当てはめた場合の損益を試算します。原価率は記入例と同じ35%(粗利率65%)で計算します。
| パターン | 月商 | 粗利(月商×65%) | 固定費(記入例と同じ) | 単月損益 | 損益均衡に必要な固定費上限 |
|---|---|---|---|---|---|
| 昼メイン | 88万円 | 57.2万円 | 156.1万円 | △98.9万円 | 57.2万円以下 |
| 昼夜両立(記入例) | 322万円 | 209.3万円 | 156.1万円 | +53.2万円 | 209.3万円以下 |
| 夜メイン | 585万円 | 380.3万円 | 156.1万円 | +224.2万円 | 380.3万円以下 |
昼メインパターン(月商88万円)の粗利は88×0.65=57.2万円です。固定費156.1万円を98.9万円下回るため、毎月98.9万円の赤字になります。損益均衡には固定費を57.2万円以下に抑える必要があります。人件費・家賃・水道光熱費をあわせて57万円以下に収めるのは、家賃5万円・人件費15〜20万円程度の極小店舗に限られます。
昼夜両立(記入例・月商322万円)の粗利は322×0.65=209.3万円で、固定費156.1万円を53.2万円上回ります。損益分岐点は156.1÷0.65=240.2万円であり、月商322万円は分岐点の1.34倍(34%の余裕)です。ここから借入金の返済(月5〜7万円程度)を引いても黒字を維持できる水準です。
夜メイン(月商585万円)は固定費156.1万円であれば月224.2万円の黒字になる計算ですが、深夜営業のため実際の人件費は記入例より高くなります。22時以降は深夜割増(25%増)が発生し、スタッフの確保も難しくなるため、実態の固定費は200〜250万円以上になるケースがあります。試算通りの利益率を前提にした資金計画は過楽観になりやすい点に注意が必要です。
この比較から分かるのは、昼メイン業態は同じ固定費水準では単独では成立しにくいという点です。固定費を抑えた小規模開業か、夜の売上を組み合わせた昼夜両立の設計が現実的な選択肢になります。
夜メイン居酒屋にランチ営業を追加したときの純増損益
夜で安定収益が出ている居酒屋がランチ営業を追加する場合、家賃・設備費は既存のままのため、追加コストは主に人件費です。ランチ売上の粗利(65%)から追加人件費を引いた額が、そのまま利益の積み上げになります。
| ランチ追加売上 | 追加粗利(65%) | 追加人件費(目安) | 純増損益 |
|---|---|---|---|
| 10万円 | 6.5万円 | 2.0万円 | +4.5万円 |
| 20万円 | 13.0万円 | 4.0万円 | +9.0万円 |
| 30万円 | 19.5万円 | 6.0万円 | +13.5万円 |
| 50万円 | 32.5万円 | 10.0万円 | +22.5万円 |
追加人件費の目安は「ランチ帯(11時〜14時)のアルバイト1〜2名・時給1,100円・3時間×26日」を基に計算しています。1名の場合、1,100円×3時間×26日=85,800円(約8.6万円/月)です。上記の試算ではランチ10万円のケースで追加人件費を2万円と設定していますが、これは調理スタッフが既存のまま対応できる場合(追加人員不要・仕込み時間の組み換えだけで済む場合)に近い水準です。
ランチ売上10万円は1日あたり3,846円(1日≒26日分の平均)です。25席の店舗で昼に5〜6人入れば達成できる水準であり、オフィス街・住宅街いずれでも現実的な数字です。
ランチ売上が増えるほど追加人件費の比率(人件費÷売上)は下がり、純増損益が大きくなります。ランチ10万円では人件費比率20%(2/10)ですが、ランチ50万円では人件費比率20%(10/50)と同水準を保ちつつ純増損益は22.5万円まで拡大します。
ただし、仕込みの時間確保・シフト管理・衛生管理の負担が増えるため、売上規模と人件費の実態を開業前または追加前に試算しておく必要があります。立地の昼需要が少ない場合は、追加売上が追加人件費を下回るリスクがあります。
昼夜の収益リスクの構造的な違い
業態ごとに異なるのは月商だけでなく、売上が落ちやすい状況(収益リスク)の構造も変わります。
昼メイン業態のリスクは平日需要への依存度が高い点です。ビジネスランチ需要のあるオフィス街立地では平日に集客できますが、土曜・日曜は客足が落ちやすく、週の稼働実績が5〜6日分になりがちです。また、強い雨や猛暑日は徒歩・自転車で来る客が減り、1日の売上が大きく下がるケースがあります。天候に対して夜の居酒屋より感度が高い業態です。
夜メイン業態は曜日・月の波が大きい点がリスクです。金曜・土曜に売上が集中し、月曜・火曜は閑散としやすい構造のため、週内の売上ばらつきが大きくなります。また、12月の忘年会シーズンに比べて1月・2月の宴会需要の落ち込みが年間で最も大きく、繁閑差のキャッシュフロー管理が重要です。月商の季節変動が昼メインより大きくなる傾向があります。
昼夜両立業態は売上の安定性が高い一方、オペレーション上の負荷が増します。昼と夜の仕込みを並行して行うため、調理担当者の拘束時間が長くなります。また、昼と夜でシフトを分けて組む必要があるため、スタッフの採用・管理コストが昼または夜だけの業態より高くなりやすい点は開業前に把握しておく必要があります。
業態選択が収益構造に与える影響のまとめ
同じ25席・26日営業でも、昼夜の客単価×回転数の組み合わせで月商は88万円から585万円まで変わります。固定費(家賃・設備費)は物件規模が近ければ業態をまたいでも同水準になるため、月商88万円の昼メイン業態が公庫記入例の固定費(156.1万円)を前提にすると毎月99万円近い赤字になります。
公庫記入例(昼夜両立・月商322万円)が損益分岐点240.2万円(固定費156.1万円÷粗利率65%)に対して34%の余裕(322÷240.2≒1.34)を持てているのは、夜の客単価4,500円が月商の81.8%を支えているためです。昼の客単価900円は同じ席数・回転数でも5分の1の売上にとどまります。
夜の客単価が高く回転数が安定している業態ほど、固定費に対する損益の余裕が大きくなります。一方で、深夜帯の人件費増や季節変動のリスクは試算に別途織り込む必要があります。開業前に「昼と夜の売上構成をどう設定するか」を明示的に試算しておくことで、固定費の許容上限と必要な客数・回転数の目安を把握できます。
昼・夜それぞれの席数・客単価・回転数・営業日数を入力して月商と損益分岐点を確認するには、飲食店の開業 収支シミュレーターをお使いください。
本記事の数字は日本政策金融公庫「創業計画書記入例(2025年4月版・洋風居酒屋)」をもとにした試算です。実際の数字は業態・物件・経営状況により異なります。本ツールは当方が作成した民間のシミュレーターであり、日本政策金融公庫が作成・提供するものではありません。むむ(fufumumu_design)作成・2026年10月確認。


コメント