飲食店の開業から1年目、資金の動きは3つの段階に分かれる。公庫の調査と試算で確認する。

飲食店の開業から1年目、資金の動きは3つの段階に分かれる。公庫の調査と試算で確認する。 飲食店の開業

飲食店の開業後1年目は、黒字でも手元の資金が減り続ける時期があります。公庫の「2025年度新規開業実態調査」では、開業後に「資金繰りに苦労した」と答えた事業者は56.9%で、全業種を通じて最も多い悩みの一つです。

資金が減る理由は、「売上が計画を下回ること」だけではありません。売上が計画通りでも、借入の元金返済と生活費を払い続けながら運転資金が回る水準に達するまでには時間がかかります。以下では、1年目に何が起きるかを、公庫の記入例をもとにした試算で整理します。

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開業後の売上は、最初から計画通りにはならない

飲食店を開業した直後、売上は計画の水準まで達しないケースがほとんどです。公庫の「2025年度新規開業実態調査」によると、開業後1年間に「売上が予想を下回った」と答えた事業者の割合は全業種で30〜40%台という水準です。飲食業は客数の積み上げに時間がかかるため、立ち上がりに時間がかかる傾向があります。

公庫の創業計画書の記入例(洋風居酒屋)でも、「創業当初」の月商は248万円で、「軌道に乗った後」の322万円の約77%を前提にしています。1年目の全期間が77%というわけではなく、実際には開業直後にさらに低い月があり、月を重ねるにつれて徐々に上がっていくイメージです。

飲食店の開業後の売上の推移のイメージ(計画を100%とした場合の月別水準)
時期 売上の目安(計画に対する割合) 状況
開業月(1か月目) 60〜70% 開店初期の集客・オペレーションの安定化
2〜3か月目 65〜75% リピート客の定着・口コミの広がり
4〜6か月目 75〜85% 安定期に入りつつある
7〜12か月目 85〜95% 計画に近づいてくる
1年目以降 95〜100%以上 軌道に乗った状態(公庫の「軌道後」)

上記はあくまでも目安で、立地・業態・事前の告知・競合状況によって大きく変わります。ただし「開業直後から計画通りの売上」は実態として少ないため、開業後しばらくは売上が計画を下回る前提でお金の動きを確認しておくことが大切です。

1年目に資金が減る3つの理由

1年目に資金が減る理由は3つあります。

①売上が計画を下回る:先述の通り、立ち上がり期の売上は計画より低い時期があります。売上が低ければ営業利益も低く、場合によっては赤字になることもあります。

②借入の元金返済が始まる:公庫などから開業資金を借りている場合、返済の「元金」は損益計算書に費用として現れません。利益が出ていても、元金を返すための現金が毎月出ていきます。公庫の記入例では、1,000万円を10年・据置期間6か月で借りた場合、据置期間中は利息のみで、7か月目から元金+利息の返済が始まります。元金だけで月約8.3万円が毎月出ていきます。

③事業主の生活費が出ていく:個人で開業した場合、事業主の生活費は「費用」として計上されず、利益から引き出す形になります。毎月20〜25万円の生活費が必要なら、それも現金として出ていきます。

売上が計画通りでも、元金返済と生活費が毎月30〜35万円以上出ていく計算になります。これが営業利益を上回る時期が、「資金が減る期間」です。

公庫の記入例で試算する:1年目の資金の動き

公庫の記入例(洋風居酒屋)をもとに、立ち上がり期(月商248万円・軌道後77%)が続いた場合の資金の動きを確認します。

公庫の記入例・立ち上がり期の月次の収支と資金(元金返済・生活費を含む)
月 月商 営業利益 元金返済(7か月目〜) 生活費 差引(手元の変化) 累計(開業前290万円から)
1〜6か月目(据置中) 248万円 約19万円 0円 25万円 −6万円/月 約254万円(6か月目)
7〜12か月目 248万円 約19万円 約8.3万円 25万円 −14.3万円/月 約168万円(12か月目)

試算は公庫「創業計画書 記入例(洋風居酒屋)」の費用構造をもとに当方が計算。利息(1,000万円・年1.8%・1年目の平均残高約950万円で月約14,250円)は諸経費に含まれる想定。元金返済は月83,333円(1,000万÷120か月)。生活費25万円は公庫の創業計画書「9 事業の見通し」の注記(個人の場合は税金・生活費・元金を利益から払う)に基づく。

上の試算では、1年目の終わりの手元資金は開業前の約290万円から約168万円に減っています。営業利益は毎月出ているのに、元金返済と生活費を合わせると月約14.3万円の現金が出ていくためです。

ここで気をつけることは、「営業利益が出ているのに資金が減る」という感覚の乖離です。損益計算書の利益と、手元の現金の動きは別物です。利益が出ていても、毎月の返済と生活費がそれを上回る期間は資金が減り続けます。

資金が「プラスに転じる」のはいつか

公庫の記入例の試算で、資金がプラスに転じる(毎月の収支が黒字になる)のは、売上が軌道後の水準(月商322万円)に到達した以降です。

軌道後の月商322万円のとき、営業利益は約54万円です。元金返済8.3万円と生活費25万円を引くと、毎月の手元の増加は約20万円になります。

立ち上がり期と軌道後の月次の手元変化の比較
時期 月商 営業利益 元金返済+生活費 月次の手元変化
立ち上がり期 248万円 約19万円 33.3万円(元金8.3+生活費25) −14.3万円
中間期(計画の90%) 290万円 約39万円 33.3万円 +5.7万円(小幅プラス)
軌道後 322万円 約54万円 33.3万円 +20.7万円

月商が計画の90%(290万円)になると、月次の収支はわずかにプラス(約5.7万円)になります。このラインを超えるかどうかが、資金の増減が切り替わるポイントです。

「資金繰りに苦労する」という状態は、「毎月の資金の増加が返済と生活費を下回る時期が続く」ことを意味します。この期間がどれくらい続くかは、①売上の立ち上がりの速さと②固定費の水準によって変わります。

開業前に確保しておく運転資金の目安

公庫の創業計画書の記入例では、運転資金として290万円が計上されています(仕入90万円・諸経費費200万円)。この200万円は「開業後に売上が安定するまでの諸経費の赤字補填」の役割を担います。

公庫の「2025年度新規開業実態調査」では、開業前に用意した運転資金の水準は、全業種平均で「3か月分の経費」が一つの目安として示されています。飲食店の場合、3か月分の固定費(人件費+家賃+諸経費)と個人の生活費2〜3か月分が必要と考える開業者が多いです。

公庫の記入例をもとにした、3か月分の固定費の試算
費目 月額 3か月分
人件費 88万円 264万円
家賃 20万円 60万円
諸経費 47万円 141万円
事業主の生活費 25万円 75万円
合計 180万円 540万円

3か月分の固定費だけで540万円になります。これに開業月の仕入費用と、売上が入金されるまでのタイムラグを加えると、600〜700万円以上の運転資金が必要になるケースもあります。

「資金が足りなくなる」リスクを減らすには、①開業前の運転資金を多めに確保する、②売上の立ち上がりが遅くなることを前提にした計画を立てる、③固定費を圧縮して損益分岐点を下げる、の3つが主な手段です。

1年目に「資金がなくなる」状況に近づく前に確認すべきこと

毎月の手元資金が減り続けている場合、早い段階で「いつ資金がゼロになるか」を試算することが大切です。

確認する項目は次のとおりです。

  • 現在の月商が損益分岐点を上回っているか(損益分岐点の計算)
  • 元金返済と生活費を払った後の月次の手元変化がプラスかマイナスか
  • 現在の手元資金をそのペースで割ると何か月持つか
  • 売上を増やすために今できることがあるか(客数増加・客単価の引き上げ・メニュー改善など)
  • 固定費を下げる余地があるか(アルバイトのシフト・諸経費の見直し)

当方の「飲食店の開業 収支シミュレーター」では、月商の想定・元金返済の条件・生活費を入力すると、36か月の資金の動きを月次で確認できます。立ち上がり期が何か月続いた場合に資金がどうなるかも試算できます。基本機能は無料です。

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出典

作成:fufumumu_design(ふふ)。確認日:2026年10月19日。試算は当方が行いました。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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