飲食店の開業で使える補助金の種類と注意点。資金計画の主軸には使えない理由。

飲食店の開業で使える補助金は存在しますが、資金計画の主軸にすることは危険です。補助金は採択審査があり、支払いは経費を先に払った後になるため、開業前の手元資金を補てんしません。計画の本筋は自己資金と公庫融資で組み立て、補助金は「通れば借入を減らせる上乗せ」として位置づけるのが現実的な方法です。

飲食店の開業で活用できる主な補助金の種類

国や自治体が実施する補助金・助成金のうち、飲食店の開業に関係する可能性があるものは複数あります。ただし、制度は毎年改定されることがあり、以下は当方が確認した範囲での内容です。最新の条件・上限額・申請期限は、各機関の公式サイトで確認してください。

飲食店の開業に関係する主な補助金・助成金(当方確認範囲・2026年10月時点)
制度名 運営機関 補助上限額(目安) 補助率(目安) 主な対象経費
小規模事業者持続化補助金(通常枠) 中小企業基盤整備機構 50万円 3分の2 広告費・販促ツール・設備
小規模事業者持続化補助金(特例枠) 中小企業基盤整備機構 最大200万円 3分の2 広告費・販促ツール・設備
IT導入補助金 中小企業庁 枠によって異なる 2分の1〜4分の3 POSレジ・予約管理システム
創業支援補助金(自治体) 各都道府県・市区町村 自治体により異なる 自治体により異なる 開業費用全般
雇用調整助成金・キャリアアップ助成金 厚生労働省 雇用状況による 条件による 雇用関連費用

※上記の数字は制度改定前後で変わります。申請前に必ず公式サイトで最新情報を確認してください。

飲食店の開業費用の全国平均は975万円・中央値600万円です(公庫「2025年度新規開業実態調査」・調査対象2,165件)。小規模持続化補助金の通常枠50万円は開業費用全体に対して5〜8%程度です。上限200万円の特例枠が使えたとしても、中央値600万円の33%にとどまります。補助金だけで開業費用を大幅に圧縮することは難しく、資金調達の主軸にはなりません。

小規模事業者持続化補助金の対象と補助率の考え方

飲食店が申請しやすい補助金の一つが小規模事業者持続化補助金です。飲食業では従業員5人以下(商業・サービス業の区分)が対象の目安になります。補助率は2/3で、対象経費の2/3を補助し、残り1/3は自己負担です。

たとえば販促費用として75万円かかる場合、補助金として50万円を受け取り、25万円が自己負担になります(通常枠・上限50万円の場合)。補助対象となる経費の例として、開業時の広告・チラシ・看板、ウェブサイト制作、店内の設備投資が挙げられます。ただし、すべての経費が対象になるわけではなく、認められない費用もあります。

注意すべき点は、補助金の支払いが「後払い」である点です。対象経費を自己資金または融資で先に支払い、事業完了後に申請・審査を経て補助金が振り込まれます。開業前の手元資金として使えません。開業後の特定の経費を後から回収できる仕組みと考えてください。

補助金を開業計画の前提にすることが危険な理由

補助金の採択審査は必ず通過するわけではありません。小規模事業者持続化補助金の採択率は公募回ごとに変動しますが、おおむね50〜70%程度とされています(当方が確認した範囲での概算。最新の採択率は中小企業基盤整備機構の公表資料で確認してください)。2〜3件に1件は採択されない計算です。

補助金を前提にした計画の問題点を整理します。

補助金を前提にした場合のリスク
リスクの種類 内容
採択されないリスク 審査で落ちた場合、計画した資金が入らない。開業費用の穴が生じる
後払いのリスク 補助金は経費を先払いした後に受け取る。開業前の資金不足には対応できない
対象外経費のリスク 想定していた経費が審査で対象外と判断される場合がある
時間のリスク 申請・審査・交付決定・事業実施・完了報告・支払いまで半年以上かかることがある
変更リスク 制度の内容・上限額・補助率は公募回ごとに改定される場合がある

公庫の新規開業実態調査(2025年度)では、開業時の資金調達の内訳は借入827万円・自己資金279万円・その他が主な構成です。資金調達の本筋は融資と自己資金で、補助金はその上乗せとして扱われています。飲食店の開業資金の内訳と計画の立て方については別の記事で整理しています。

補助金が採択された場合と通らなかった場合の2パターンで計画を立てる

現実的な資金計画の作り方は、補助金なしでも成立する計画を先に作り、補助金が通った場合を「借入額の削減」として加える2段階の方法です。

公庫の記入例(洋風居酒屋)の開業費用は設備資金970万円・運転資金290万円の合計1,260万円です。このうち小規模持続化補助金の特例枠で仮に200万円の採択を受けた場合、対象経費200万円のうち133万円(3分の2)が後で戻ってきます。

補助金採択の有無による資金計画の違い(試算)
ケース 開業費用(合計) 自己資金 借入 補助金(事後受取)
補助金なし 1,260万円 450万円 1,000万円(計画) なし
補助金133万円採択 1,260万円(先払い) 450万円 1,000万円(計画) 133万円(事後受取・借入返済に充当)

補助金が後で入ってきた場合、その資金を借入の繰り上げ返済に充てることで利息負担を減らせます。補助金を前払いのキャッシュとして開業費用に充てる計画は成立しません。

飲食店の開業 収支シミュレーターでは、自己資金・借入額・開業費用を入力すると月次36か月の資金繰りを試算できます。補助金なしのパターンと借入を減らしたパターンを比べることで、補助金の効果を数字で確認できます。

公庫の融資と補助金を組み合わせるときの手順

飲食店の開業資金として最も規模が大きいのは、公庫の創業融資です。補助金申請と融資申請は別々の手続きで、審査機関も異なります。公庫融資は創業計画書の内容と収支の整合性で審査されます。補助金の採択を融資審査の条件にすることはありません。

手順の整理です。

公庫融資と補助金の申請の流れ
ステップ 内容 時期の目安
1 事業計画書を作成し、自己資金・融資額を決める 開業6〜12か月前
2 公庫に融資申請(創業計画書を提出) 開業3〜6か月前
3 補助金の公募期間を確認し、申請書類を準備する 公募スケジュールに合わせる
4 融資決定後に物件契約・内装工事に着手(公庫の手引きより) 開業2〜4か月前
5 開業後に対象経費の支払い・領収書を保管し、補助金の完了報告を提出 開業後3〜6か月以内(制度による)
6 審査を経て補助金が振り込まれる 完了報告から数か月後

公庫の「創業の手引+」では、物件の契約は融資決定後に行うよう案内されています。補助金の申請スケジュールと融資決定のタイミングを事前に把握しておくと、経費の支払い順序の計画が立てやすくなります。公庫の融資審査で求められる数字の根拠と整合性については別の記事で詳しく整理しています。

自治体の創業支援補助金は開業地の窓口で確認する

都道府県・市区町村が独自に実施している創業支援補助金・助成金は、国の制度とは別に存在します。上限額・補助率・対象経費・申請時期は自治体ごとに異なり、年度によって内容が変わることもあります。

創業支援補助金の調べ方の手順です。

自治体の創業支援制度を調べる手順
手順 方法
1 開業予定地の市区町村の産業振興課・商工課に問い合わせる
2 都道府県の中小企業支援センター・産業支援機構のウェブサイトを確認する
3 日本政策金融公庫の窓口で地域の支援制度について案内を受ける
4 商工会・商工会議所の創業相談窓口を利用する

自治体の補助金は国の制度と重複して受けられるケース・受けられないケースがあります。申請前に各窓口で確認してください。

補助金・助成金に関するよくある誤解

補助金と助成金は性格が異なります。助成金は要件を満たせば原則として受け取れるものが多く(雇用関連が中心)、補助金は審査・採択のある競争的な資金です。飲食店の開業で想定される制度の多くは補助金(審査あり)です。

また、補助金の「上限額」は「必ず受け取れる額」ではありません。補助対象経費の2/3が上限ですが、実際に申請する経費の内容・金額・証明書類によって補助額が変わります。申請額が上限を超えた場合は上限額が適用されます。

資金計画で補助金を想定する場合は、補助金が通らなかった前提でも成立する計画を先に確認してください。開業後の資金繰りの月次推移を試算して、借入額と自己資金のバランスを確認することが出発点になります。

補助金申請に使う計画書と、公庫の創業計画書の関係

小規模事業者持続化補助金の申請には「経営計画書」と「補助事業計画書」の提出が求められます。ここで記載する売上目標・費用の見通しは、公庫の融資申請で使う創業計画書と整合させておく必要があります。数字が食い違うと、どちらかの審査で説明が難しくなります。

公庫の創業計画書には「事業の見通し」として売上高・売上原価・経費・利益を2列(創業当初・軌道後)で記載します。補助金申請の経営計画書でも類似の形式で売上目標を記載します。両方の書類を作る際は、同じ数字の前提(客単価・席数・回転数・営業日数・原価率)を使って整合させるのが基本です。

記入例(洋風居酒屋・軌道後)の数字を使うと、月商322万円・原価率35%・人件費88.6万円・家賃20万円の構成が基準になります。この水準が実現できるかどうかが、融資審査でも補助金審査でも問われる根本的な論点です。

補助金を活用する場合の実際の金額感

補助金で受け取れる金額を、開業費用全体と比べて整理します。公庫の記入例の開業費用1,260万円に対し、主な補助金の最大受取額は以下のとおりです。

補助金の最大受取額と開業費用に対する割合(試算)
補助金の種類 補助上限額(目安) 記入例の開業費用1,260万円に対する割合 中央値600万円に対する割合
小規模持続化(通常枠) 50万円 約4.0% 約8.3%
小規模持続化(特例枠) 200万円 約15.9% 約33.3%
IT導入補助金(参考) 枠により異なる POSレジ等の導入費限定 同左

中央値600万円の規模の開業でも、特例枠200万円が採択された場合に受け取れる133万円(補助率2/3)は開業費用の22%程度です。全国平均の自己資金279万円の約48%に相当します。補助金を借入の繰り上げ返済に充てれば利息負担を減らせますが、開業前の計画段階では「通らなくても成立する計画」が先に必要です。

(この記事の数字は、日本政策金融公庫「創業計画書の記入例(2025年4月版)」および「新規開業実態調査(2025年度)」を参照して作成しています。補助金制度は変更されることがあります。最新情報は各機関の公式サイトでご確認ください。当ツールは公庫が作成・提供するものではありません。作成日:2026年10月。)

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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