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令和8年6月の介護報酬改定から、訪問介護の処遇改善加算の区分と加算率が変わりました。改定後の最高区分はⅠイで27.0%です。令和8年度の特例要件を満たすⅠロでは28.7%まで加算されます。旧制度(令和8年5月まで)の最高区分Ⅰは24.5%でしたので、標準区分で2.5ポイント、特例区分を合わせると最大4.2ポイントの引き上げとなっています。区分の数も旧制度の4段階から6段階に再編されました。出典は厚生労働省「令和8年老発0313第6号」です。
この記事では、令和8年6月の改定で何が変わったのかを旧制度との比較で整理したうえで、加算の仕組み、各区分の要件、取得の手続き、開業時の注意点について説明します。
- 処遇改善加算は、介護職員の賃金改善を目的として設けられた制度です。
- 令和8年6月から、加算区分は4段階から6段階に再編されました。
- 区分が高いほど、賃金改善の対象範囲と職場環境要件の達成水準が高く設定されています。
- ⅠロとⅡロは令和8年度限りの特例区分で、ケアプランデータ連携への対応が要件です。
- 加算の取得には、毎年度の計画書提出と年度終了後の実績報告が必要です。
- 開業時は、事業指定後できるだけ早く計画書の手続きを確認してください。
- 処遇改善加算を取得しない事業所は、人材の採用と定着で不利な立場に立つことになります。
- まとめると、令和8年6月改定で処遇改善加算は全区分で引き上げられ、特例区分が新設されました。
処遇改善加算は、介護職員の賃金改善を目的として設けられた制度です。
処遇改善加算は、介護職員の賃金水準を底上げするために介護報酬の仕組みの中に組み込まれた加算です。事業所が加算として算定した額は、全額を介護職員の賃金改善に充てることが義務付けられています。
加算の算定額は、次の式で計算されます。
算定額 = (基本報酬 + 各種加算の合計)× 処遇改善加算率
この「基本報酬+各種加算の合計」を算定基礎と呼びます。例えば、月の算定基礎が100万円の事業所が処遇改善加算Ⅰイ(27.0%)を取得した場合、月27万円が加算として算定されます。この27万円は職員の賃金改善に充てる財源となります。事業所の手元に残る利益にはなりませんが、それだけの額を職員に還元できることになります。
訪問介護は給与費の比率が高い業種です。令和7年度介護事業経営概況調査(令和6年度決算)によると、給与費比率は67.8%、収支差率は9.6%です。処遇改善加算を取得している訪問介護事業所の常勤職員の平均給与額は月349,740円、非常勤の時給(基本給)は平均1,380円です(厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査」)。収入の7割近くが人件費に充てられる構造の中で、処遇改善加算は職員の賃金を支える重要な財源として機能しています。
処遇改善加算を取得していない事業所は、この財源を最初から受け取れていない状態になります。加算の取得は、介護職員の採用・定着という経営上の根本的な課題に直結しています。
令和8年6月から、加算区分は4段階から6段階に再編されました。
令和8年老発0313第6号に基づく改定の前後で、訪問介護の処遇改善加算率は次のように変わりました。
| 区分 | 令和6年6月〜令和8年5月(旧) | 令和8年6月以降(新) | 変化 |
|---|---|---|---|
| 第1区分(標準) | Ⅰ:24.5% | Ⅰイ:27.0% | +2.5ポイント |
| 第1区分(特例・令和8年度のみ) | (なし) | Ⅰロ:28.7% | 新設 |
| 第2区分(標準) | Ⅱ:22.4% | Ⅱイ:24.9% | +2.5ポイント |
| 第2区分(特例・令和8年度のみ) | (なし) | Ⅱロ:26.6% | 新設 |
| 第3区分 | Ⅲ:18.2% | Ⅲ:20.7% | +2.5ポイント |
| 第4区分 | Ⅳ:14.5% | Ⅳ:17.0% | +2.5ポイント |
Ⅰイ〜Ⅳのどの区分でも、旧制度から加算率が引き上げられています。第3区分と第4区分は旧制度の区分名を引き継ぎながら、それぞれ2.5ポイントずつ引き上げられました。特例のⅠロ・Ⅱロは令和8年度に限り設けられた区分で、Ⅰイ・Ⅱイよりさらに1.7ポイント高い加算率となっています。
旧制度でⅠを取得していた事業所は、改定後にⅠイを算定することで加算率が24.5%から27.0%に上がります。旧制度でⅣを取得していた事業所も、14.5%から17.0%への引き上げの対象となります。算定基礎の規模によって差はありますが、どの区分の事業所でも令和8年6月以降は加算収入が増える方向となっています。
区分が高いほど、賃金改善の対象範囲と職場環境要件の達成水準が高く設定されています。
処遇改善加算の各区分には、大きく分けて「賃金改善に関する要件」と「職場環境等要件」の2種類があります。区分が上がるほど、これらの要件の達成水準が高くなります。
賃金改善に関する要件
加算として算定した額を、どの職員にどのような形で配分するかについて計画書に記載し、実際にその通りに実施することが求められます。区分が上がるほど、より多くの職員が賃金改善の対象となるよう配分することが必要になります。
賃金改善の方法としては、基本給の引き上げ、手当の新設・増額、一時金の支給などがあります。上位区分では、基本給や毎月支払われる手当(固定的賃金)での改善が求められます。どの方法を採用するかは事業所の判断ですが、計画書に明記した方法で実施する必要があります。
職場環境等要件
職場環境等要件は、職員の採用・定着・育成に関する取り組みを実施することを求めるものです。厚生労働省が定める取り組みの項目の中から、算定する区分ごとに必要な数の取り組みを実施することが求められます。
取り組みの例としては、賃金体系の整備・研修制度の構築・管理者によるマネジメント向上・ハラスメント対策・ICTを活用した業務効率化などがあります。上位区分では、複数のカテゴリにわたる取り組みを実施することが求められます。職場環境等要件の具体的な内容は厚生労働省の通知で定められていますので、申請前に通知の最新版を確認してください。
加算の申請に際しては、取得しようとする区分の要件を一つひとつ確認し、既存の取り組みで対応できているものと新たに整備が必要なものを整理しておくことが重要です。要件の整備状況に見合った区分を選び、無理のない計画を立てることが、実績報告との整合を保つためにも必要です。
ⅠロとⅡロは令和8年度限りの特例区分で、ケアプランデータ連携への対応が要件です。
令和8年6月改定で新設されたⅠロ(28.7%)とⅡロ(26.6%)は、令和8年度に限り算定できる特例区分です(令和8年老発0313第6号)。ⅠロはⅠイ(27.0%)より1.7ポイント高く、ⅡロはⅡイ(24.9%)より1.7ポイント高い加算率です。
特例要件として、ケアプランデータ連携システムへの対応が求められます。ケアプランデータ連携システムは、居宅介護支援事業所と訪問介護事業所などの間で、ケアプランや提供票・実績票のやり取りを電子的に行うためのシステムです。従来は紙のやり取りや個別のFAX送受信で行われていた業務を電子化することで、双方の事務負担を軽減することを目的としています。厚生労働省が介護現場のICT化・業務効率化を推進する施策の一つとして位置付けており、令和8年度の特例措置はこの普及を後押しするために設けられました。
Ⅰロ・Ⅱロの特例は令和8年度(令和8年6月〜令和9年3月)に限ったものです。令和9年度以降の区分や要件については、引き続き厚生労働省から公表される通知を確認する必要があります。特例期間が終了する前に、次年度の算定区分の見通しを立てておくことをお勧めします。
加算の取得には、毎年度の計画書提出と年度終了後の実績報告が必要です。
処遇改善加算を算定するためには、毎年度次の2つの書類を提出します。
- 処遇改善計画書:新年度の加算算定を開始する前に提出します。算定する区分、職員への賃金改善の配分方法、職場環境等要件として実施する取り組みの内容を記載します。
- 処遇改善実績報告書:前年度に実際に行った賃金改善の内容を報告します。計画書の内容と照合され、計画通りに実施されていたかが確認されます。
提出先は、事業所の指定権者(都道府県または市区町村)の担当窓口です。訪問介護の指定は原則として都道府県が行いますので、提出先は都道府県になるケースが多いです。ただし、指定の状況によって市区町村が担当する場合もありますので、指定を受けた窓口に確認してください。
計画書の提出期限は年度の開始前(3月末から4月初旬ごろ)に設定されていることが多く、実績報告書の提出期限は前年度分として夏ごろに設定されているケースが一般的です。都道府県によって期限が異なりますので、必ず管轄の担当窓口で確認してください。提出期限を過ぎると、その年度の加算算定が認められないことがあります。
計画書と実績報告書の整合性が求められます。
計画書に記載した賃金改善の方法や職場環境等要件の取り組みは、年度終了後の実績報告書でその実施内容を報告します。計画書の内容を実際に実施していない場合、加算の返還を求められることがあります。
特に、賃金改善に充てた金額が算定した加算額を下回っていた場合(いわゆる賃金改善の不足)は、差額の返還対象となる可能性があります。計画書を作成する段階で、どのような形で職員に配分するかを具体的に設計しておくことで、実績報告との整合が取りやすくなります。
配分方法を変更する場合は、計画書の変更届を提出する手続きが必要になる場合があります。年度途中で配分方法を変えなければならなくなった際の手続きも、事前に担当窓口に確認しておくと安心です。
開業時は、事業指定後できるだけ早く計画書の手続きを確認してください。
訪問介護の事業を新たに開始する場合、事業指定を受けた後に処遇改善計画書を提出することで、加算の算定を開始できます。
年度途中で開業した場合の取り扱いは、都道府県によって異なります。年度の途中でも計画書の提出を受け付け、翌月から算定を開始できる場合と、次の通常の提出時期(翌年度の開始前)まで待つ必要がある場合があります。開業の準備段階から、指定申請の手続きと並行して処遇改善計画書の提出タイミングを都道府県の担当窓口に確認しておくことで、開業後の算定開始が遅れるリスクを減らせます。
開業初年度は、加算の手続きと並行して行う準備事項が多くあります。どの区分の要件を満たせるかの確認、計画書の記載内容の整理、職員への説明と合意形成など、準備に時間がかかります。特に、賃金改善の配分設計は、職員に対してどのような形で還元するかを事前に決めておかなければ、計画書の記載が曖昧になります。実現可能な範囲で上位区分を目指す計画を立てることが重要です。
加算取得の手続きや要件の解釈については、都道府県の担当窓口への確認が確実です。社会保険労務士や介護経営に詳しい専門家のサポートを受けることも一つの方法です。
処遇改善加算を取得しない事業所は、人材の採用と定着で不利な立場に立つことになります。
令和6年度介護従事者処遇状況等調査(厚生労働省)によると、訪問介護事業所の多くが何らかの区分の処遇改善加算を取得しています。加算を取得している事業所の職員の賃金は、取得していない事業所と比べて高い水準になります。介護人材の確保が難しい現状の中で、この賃金の差は採用の競争力に直結します。
非常勤の訪問介護員の時給(基本給)の全国平均は1,380円です(令和7年度介護事業経営概況調査・令和6年度決算)。処遇改善加算を算定して職員に配分することで、この基本水準に上乗せができます。求人票に処遇改善加算による賃金上乗せを明示できることは、応募者に対して待遇の良さを具体的に示す材料にもなります。
職場環境等要件として求められる取り組み(研修制度の整備・ハラスメント対策・ICT活用など)は、職員が長く働ける環境をつくる取り組みとも重なります。加算の要件を整えるプロセスが、事業所の職場づくりの質を高める機会にもなり得ます。
まとめると、令和8年6月改定で処遇改善加算は全区分で引き上げられ、特例区分が新設されました。
この記事の内容を最後に整理します。
- 令和8年6月以降、処遇改善加算の区分はⅠイ・Ⅰロ・Ⅱイ・Ⅱロ・Ⅲ・Ⅳの6段階になりました。
- 最高区分のⅠイは27.0%です(旧Ⅰの24.5%から+2.5ポイント)。
- 令和8年度特例のⅠロは28.7%、Ⅱロは26.6%です。いずれもケアプランデータ連携システムへの対応が要件で、令和8年度限りの特例区分です。
- Ⅲは18.2%から20.7%、Ⅳは14.5%から17.0%に引き上げられました。
- 加算を算定するには、毎年度の計画書提出と年度終了後の実績報告書の提出が必要です。
- 開業時は、事業指定後できるだけ早く都道府県の担当窓口に計画書の提出手続きを確認してください。
処遇改善加算は、取得した額を全額職員の賃金改善に充てるため、事業所の利益には直接なりません。ただし、給与水準の向上による採用力・定着率の改善は、訪問介護事業の継続・拡大を支える基盤となります。算定可能な区分の中で上位を取得できるよう、要件の整備と計画書の準備を進めることが重要です。
出典:厚生労働省「令和8年老発0313第6号」、厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査(令和6年度決算)」、厚生労働省「令和6年度介護従事者処遇状況等調査」
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