エステサロンの費用構造は、「材料費(原価率)が低く、人件費とその他経費で売上のほとんどが消える」という特徴があります。日本政策金融公庫総合研究所の「小企業の経営指標調査」(2025年度調査)によると、エステティック業(105社)の全国平均は、原価率17.0%・人件費率38.0%・その他経費率44.5%で、営業利益率の平均は−6.9%です。
ここでは、この数字の意味と、黒字企業との費用構造の違いを整理します。
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費用構造の全体像(全国の小企業の平均)
公庫「小企業の経営指標調査」(2025年度調査)のエステティック業の費用構造を表にまとめます。
| 指標 | 平均値 | 中央値 | 黒字企業平均(47社) |
|---|---|---|---|
| 原価率(売上原価率) | 17.0% | 14.0% | 14.7% |
| 人件費率(人件費÷売上) | 38.0% | 36.9% | 31.3% |
| その他経費率(家賃・光熱費・広告費など) | 44.5% | 40.7% | 44.5% |
| 営業利益率 | −6.9% | 0.6% | 4.5% |
| 対象社数 | 105社 | 47社 |
出典:日本政策金融公庫総合研究所「小企業の経営指標調査」サービス業(他に分類されないもの)業種別経営指標(2025年度調査)。対象は公庫の融資先のうち従業者50人未満の法人企業。原価率は売上高総利益率(平均83.0%・中央値86.0%・黒字企業平均85.3%)を100%から引いた値。人件費には役員報酬・退職金・福利厚生費が含まれます。数値は平均値です。
営業利益率の平均が−6.9%の意味
営業利益率の平均が−6.9%というのは、「赤字の企業を含む105社全体の平均」です。これはエステサロンが全体として赤字業種だという意味ではなく、業績の良い企業と赤字の企業を一緒に平均した結果です。
中央値は0.6%(プラス)、黒字企業のみの平均は4.5%です。同じ調査の黒字企業に絞ると、エステサロンでも利益を上げている事業者が多いことが分かります。
平均がマイナスになるのは、赤字幅の大きい企業がいくつかあると、平均を大きく引き下げるためです。中央値(0.6%)が平均(−6.9%)より高いのはこの理由によります。
原価率17%に含まれるもの
エステサロンの原価率(売上原価率)に含まれるのは、主に次の費用です。
- 施術消耗品:化粧品・美容液・ジェル・パック・タオル・手袋など、施術ごとに使う消耗品の費用。
- 機器の消耗品・カートリッジ:光脱毛機器のカートリッジ・ハンドピースなど、施術ごとに消費・交換が必要な部材の費用。
- 店販商品の仕入:顧客に販売する化粧品・スキンケア用品の仕入原価。
施術の技術・時間・設備への投資分は原価には入りません。エステサロンの原価率が飲食業(30〜40%台)より低いのは、施術の主な価値が「技術と時間」にあり、消耗品の割合が相対的に小さいためです。
人件費率38%に含まれるもの
公庫「小企業の経営指標調査」の人件費には、次のものが含まれます。
- 役員報酬(法人の場合)
- 従業員給与・賃金
- 退職金
- 福利厚生費(法定福利費を含む)
注意点:個人事業では事業主分の人件費を計上しない
日本政策金融公庫の創業計画書の様式では、個人営業(個人事業主)の場合、事業主の生活費を人件費に含めません(生活費は利益から別途引く扱いです)。そのため、個人事業のエステサロンが自分の計画と全国平均(法人企業の役員報酬込み)を比べると、人件費率が見た目より低く出ることがあります。
スタッフを雇っている場合は、給与に加えて社会保険の事業主負担分(健康保険・厚生年金・雇用保険の合計で概ね14〜15%程度)も人件費に含まれます。月給20万円のスタッフ1人の実際の人件費負担は、給与20万円+法定福利費約3万円=約23万円になります。
その他経費率44.5%に含まれるもの
その他経費率に含まれるのは、主に次の費用です。
- 家賃:月の賃料。立地・広さによって大きく変わる。
- 光熱費:電気(施術機器・冷暖房)・水道など。
- 広告費:SNS広告・MEO・チラシ・ポータルサイト掲載費など。
- リース料:機器をリースで導入している場合のリース料。
- 保険料:損害保険・賠償責任保険など。
- 通信費:電話・インターネット・予約システムの費用。
- 消耗品費(施術以外の消耗品):清掃用品・事務用品など。
- 税理士報酬:記帳・決算・確定申告の委託費用。
その他経費の中でも、家賃は毎月固定で発生する費用として特に重要です。売上が低い月でも家賃は変わらないため、損益分岐点に直接影響します。
黒字企業と全体平均の費用構造の違い
黒字企業(47社)と全体平均(105社)の費用構造を比べると、最も差が大きいのは人件費率です。
| 指標 | 全体平均(105社) | 黒字企業平均(47社) | 差 |
|---|---|---|---|
| 原価率 | 17.0% | 14.7% | △2.3pt |
| 人件費率 | 38.0% | 31.3% | △6.7pt |
| その他経費率 | 44.5% | 44.5% | 0pt |
| 営業利益率 | −6.9% | 4.5% | +11.4pt |
黒字企業はその他経費率(44.5%)は全体平均と同じですが、人件費率が6.7pt低くなっています。原価率の差(2.3pt)より人件費率の差(6.7pt)のほうが大きく、人件費のコントロールが黒字化の主要な要因になっていることが分かります。
1人あたり売上高10,154千円の意味
同調査では、エステティック業の1人あたり売上高の平均は10,154千円(約1,015万円)です。これは「従業者1人がいる事業所の年間売上高の平均」です(経営者本人を含む)。
月換算では、10,154,000円 ÷ 12か月 ≒ 846,000円(約84.6万円)が従業者1人あたりの月商の目安です。施術ベッド3台で月商270万円の計画なら、施術者が3人いる規模感に対応します。
費用構造の改善につながる選択肢
費用構造の改善で最もインパクトが大きいのは人件費率です。人件費率を下げる主な方法は次のとおりです。
- 業務委託の活用:スタッフを雇用ではなく業務委託で契約する場合、社会保険の事業主負担が発生せず、報酬も成果連動にできる。ただし偽装請負にならないよう契約内容・実態の管理が必要。(詳細:業務委託と雇用の収支の違い)
- 回転数を上げる:同じ人数のスタッフで施術件数を増やすと、人件費率(人件費÷売上)が下がる。ただし回転数には物理的な上限がある。
- 客単価を上げる:人件費の金額が変わらなくても、売上が増えれば人件費率は下がる。
その他経費率(44.5%)は黒字企業でも同水準のため、家賃などの固定費は削減よりも、売上に対して適切な水準に保つことが重要です。開業時の物件選びで家賃を抑えることが、長期的な費用構造の安定につながります。(詳細:立地と家賃の関係)
個人事業主の費用構造(法人の全国平均との比較)
公庫「小企業の経営指標調査」の対象は「公庫の融資先のうち従業者50人未満の法人企業」です。個人事業主のエステサロンは対象外です。そのため、全国平均の費用構造(特に人件費率38%)をそのまま個人事業主の計画と比べるときは、注意が必要です。
法人の人件費には「役員報酬」が含まれます。これは代表者本人に支払う報酬で、個人事業主でいえば「事業から得た利益のうち自分の生活費にあてる部分」に相当します。個人事業主の場合、公庫の創業計画書の様式では事業主本人の人件費(生活費)を費用として計上しません。
| 区分 | オーナー本人の報酬の扱い | スタッフ給与の扱い |
|---|---|---|
| 法人(役員設置) | 役員報酬として人件費に計上 | 給与として人件費に計上 |
| 個人事業主 | 費用に計上しない(利益から生活費として別途支出) | 給与として人件費に計上 |
個人事業主が1人で運営するエステサロンでは、スタッフ給与の人件費がゼロです。この場合、全国平均の人件費率38%と自分の計画を比べると「自分のほうが人件費率が低い」という数字になりますが、これはオーナー本人の取り分(生活費・事業の報酬)が費用に入っていないためです。
計画の実態と全国平均を正しく比べるには、「自分の生活費として月に必要な金額」を費用に加えた上で、全国平均と比較する方法が参考になります。例えば月20万円の生活費が必要な場合、これを「みなし役員報酬」として人件費に加えると、費用構造の比較精度が上がります。
月商の規模別に見た費用の絶対額(全国平均の費用比率から試算)
全国平均の費用比率(原価率17.0%・人件費率38.0%・その他経費率44.5%)をもとに、月商の水準別の費用の絶対額を試算します。
| 月商 | 売上原価(17%) | 人件費(38%) | その他経費(44.5%) | 費用合計(99.5%) | 営業利益(0.5%相当) |
|---|---|---|---|---|---|
| 100万円 | 170,000円 | 380,000円 | 445,000円 | 995,000円 | 5,000円 |
| 200万円 | 340,000円 | 760,000円 | 890,000円 | 1,990,000円 | 10,000円 |
| 270万円(既定値) | 459,000円 | 1,026,000円 | 1,201,500円 | 2,686,500円 | 13,500円 |
| 300万円 | 510,000円 | 1,140,000円 | 1,335,000円 | 2,985,000円 | 15,000円 |
注:全国平均の費用比率(合計99.5%)を適用した試算です。実際の費用比率は個々のサロンによって大きく異なります。また、全国平均の営業利益率は−6.9%(赤字企業を含む平均)であり、この表は「全国平均の費用比率をそのまま当てはめた場合」の参考値です。
月商200万円の規模では、人件費(役員報酬・スタッフ給与を含む)が76万円、その他経費(家賃・光熱費・広告費等)が89万円になる計算です。その他経費89万円は、家賃10万円・光熱費3万円・広告費5万円・その他経費を合計するとおおよそ到達できる水準です。
一方、月商100万円の規模では、人件費38万円・その他経費44.5万円の合計が約82.5万円です。法人で役員報酬20万円・スタッフ1人給与18万円の計38万円を人件費に充て、家賃8万円・その他36.5万円をその他経費でまかなうには、費用の管理が必要です。
この表の数字は「全国平均の費用比率が成立している状態」の試算です。開業時は売上が少なく費用比率が高くなるため、特に立ち上がり期の費用計画は余裕を持った数字で確認することが重要です。
費用の内訳を入れて試算する:
▶ エステサロンの開業 収支シミュレーター
黒字企業と全体平均の費用率の差を月商300万円で数値化する
全体平均(105社)と黒字企業のみ(47社)の費用率を比べると、最も差が大きいのは人件費率です。月商300万円のサロンで、黒字企業の費用率を目標にした場合と全体平均の費用率の場合を比較します。
| 費用項目 | 全体平均の費用率 | 月商300万円での金額 | 黒字企業の費用率 | 月商300万円での金額 | 差額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 原価(材料費・仕入) | 17.0% | 510,000円 | 14.7% | 441,000円 | −69,000円 |
| 人件費 | 38.0% | 1,140,000円 | 31.3% | 939,000円 | −201,000円 |
| その他経費 | 44.5% | 1,335,000円 | 44.5% | 1,335,000円 | 0円 |
| 費用合計 | 99.5% | 2,985,000円 | 90.5% | 2,715,000円 | −270,000円 |
| 営業利益 | −6.9%(約0.5%) | 約15,000円 | 4.5% | 135,000円 | +120,000円 |
全体平均の営業利益率は−6.9%ですが、費用率の合計(99.5%)から逆算すると0.5%の利益が出る計算になります。実際の全体平均はマイナスです。この表では費用率の単純合計からの試算値(0.5%)で計算しています。出典:公庫「小企業の経営指標調査」2025年度・エステティック業。
黒字企業と全体平均の最大の差は人件費率です。月商300万円で比べると、人件費が201,000円の差になります。その他経費率(44.5%)は黒字企業も全体平均も同じです。つまり、費用構造の改善においては「人件費をどう管理するか」が最も影響が大きい要素です。
ただし、人件費率が低い黒字企業は「スタッフが少ない」という意味ではなく、「売上に対して人件費の比率が最適化されている」という意味です。スタッフを増やすことで売上が増え、人件費率が下がる場合もあります。
費用構造の改善と1人あたり売上高の関係
公庫BENCHの1人あたり売上高(10,154千円/年=月約846,000円)は、「全従業員数(役員・正社員・パートを含む)で年商を割った値」です。月商300万円のサロンを1人で運営する場合、1人あたり月商は300万円で、全国平均の約3.5倍の生産性になります。
施術者の人数が増えると1人あたり売上高が近づいてきます。月商300万円を施術者3人で達成する場合、1人あたり月商は100万円(年1,200万円)で、全国平均(年1,015万円)より少し高い水準です。
人件費率の改善と1人あたり売上高は連動しています。施術者1人の生産性(1人あたり売上高)が高いほど、人件費率が下がる傾向があります。施術者1人が担当できる1日の客数を増やすことが、人件費率の改善につながります。
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この記事は、fufumumu_design(当方)が公表資料をもとに整理した情報です。記載の内容は情報提供を目的としており、税務・法務・融資の相談・代行は行っていません。税理士・中小企業診断士・社会保険労務士などの専門家に確認されることをお勧めします。最終確認:2026年10月。


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