エステサロンを開業するとき、「1人で施術するサロン」と「スタッフを雇って複数台で施術するサロン」では、月商の規模も固定費の構造も異なります。大事なのは月商の大きさだけでなく、オーナーが実際に手元に残せる金額です。この記事では、規模別の月次収支を試算し、手取りの違いを比較します。
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1人サロンとスタッフ採用サロンの収益構造の違い
1人サロンとスタッフ採用サロンでは、収益の構造が根本から異なります。1人サロンは「施術できる台数・回転数の上限が低い」代わりに、固定費(人件費)がかからないため、売上の多くが利益として残ります。スタッフを採用すると月商の上限は広がりますが、人件費が固定費として乗る分、売上が計画を下回ったときのリスクも大きくなります。
収益構造の違いを整理すると次のとおりです。
- 1人サロン:人件費ゼロ・固定費が低い・施術できる件数に物理的な上限がある・オーナーの体力・時間が収益の天井になる
- スタッフ採用サロン:人件費が固定費に加わる・月商の上限が台数分だけ広がる・損益分岐点が上がる・オーナーが施術から離れる時間をつくれる
どちらが「正解」かはサロンの方針と目指す規模によります。ここでは、同じ「客単価12,000円・1日3回転・月25日」の前提で、規模別の月次収支と手取りを試算します。
1人サロン(ベッド1台・1日3回転)の月次収支
オーナー1人が1台のベッドで1日3回転(1日3件の施術)を行う場合の月次収支です。
月商 = 12,000円 × 1台 × 3回転 × 25日 = 900,000円
| 項目 | 金額 | 売上比 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 月商(施術売上) | 900,000円 | 100.0% | 12,000円×1台×3回転×25日 |
| 原価(材料・消耗品) | 153,000円 | 17.0% | 公庫エステ業平均・原価率17.0% |
| 粗利 | 747,000円 | 83.0% | |
| 家賃 | 80,000円 | 8.9% | |
| その他経費(光熱費・通信費・広告費等) | 150,000円 | 16.7% | |
| 人件費 | 0円 | 0% | 1人サロン(オーナー自身が施術) |
| 固定費合計 | 230,000円 | 25.6% | |
| 営業利益 | 517,000円 | 57.4% | |
| 借入返済(元金) | 43,860円 | 4.9% | 250万円・5年・据置3か月後 |
| 手取り相当(税引前・生活費前) | 473,140円 | 52.6% | 営業利益から返済元金を引いた額 |
原価率17.0%は公庫「小企業の経営指標調査」2025年度・エステティック業(105社)の平均値を使用。借入返済は250万円・年利2.5%・5年・据置3か月後の元金均等返済(月約43,860円)で試算。「手取り相当」は個人事業の場合、ここから所得税・住民税・国民健康保険料を支払います。
1人サロンで月商90万円を達成した場合、手取り相当(税引前・返済後)は約47.3万円です。営業利益率57.4%という数字は、全国平均のエステティック業(−6.9%)や黒字企業平均(4.5%)を大幅に上回ります。これは人件費がゼロであることの影響が非常に大きいためです。
オーナー+スタッフ2人(ベッド3台・1日3回転)の月次収支
オーナーとスタッフ2人の計3人体制で、ベッド3台・1日3回転・客単価12,000円・月25日で施術する場合の月次収支です。
月商 = 12,000円 × 3台 × 3回転 × 25日 = 2,700,000円
| 項目 | 金額 | 売上比 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 月商(施術売上) | 2,700,000円 | 100.0% | 12,000円×3台×3回転×25日 |
| 原価(材料・消耗品) | 459,000円 | 17.0% | 原価率17.0% |
| 粗利 | 2,241,000円 | 83.0% | |
| 家賃 | 100,000円 | 3.7% | 3台分のスペース確保で若干増 |
| その他経費(光熱費・通信費・広告費等) | 200,000円 | 7.4% | |
| 人件費(スタッフ2名・月給20万円×社保込み) | 460,000円 | 17.0% | 月給20万円+社保事業主負担約3万円×2名 |
| 固定費合計 | 760,000円 | 28.1% | |
| 営業利益 | 1,481,000円 | 54.9% | |
| 借入返済(元金) | 43,860円 | 1.6% | 250万円・5年・据置3か月後 |
| 手取り相当(税引前・生活費前) | 1,437,140円 | 53.2% |
スタッフの人件費は月給20万円+社会保険料の事業主負担(健康保険・厚生年金・雇用保険の合計で概ね14〜15%)=約23万円×2名=46万円として計算。その他の前提は1人サロンと同じ。
スタッフ2人を採用した3人体制では、月商が90万円から270万円に3倍になり、手取り相当も約47.3万円から約143.7万円に約3倍に増えます。絶対額の手取りは大きく増えますが、「月商に対する手取りの比率」は1人サロン(52.6%)と3人体制(53.2%)でほぼ変わらない点が特徴です。
手取りの比較:規模別3ケース
1人サロン・スタッフ1人体制(2人体制)・スタッフ2人体制(3人体制)の3ケースを並べて比較します。
| ケース | 月商 | 固定費合計 | 営業利益 | 手取り相当 | 手取り率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1人サロン(1台) | 900,000円 | 230,000円 | 517,000円 | 473,140円 | 52.6% |
| オーナー+スタッフ1人(2台) | 1,800,000円 | 490,000円 | 1,004,000円 | 960,140円 | 53.3% |
| オーナー+スタッフ2人(3台) | 2,700,000円 | 760,000円 | 1,481,000円 | 1,437,140円 | 53.2% |
オーナー+スタッフ1人(2台)の固定費:家賃8万円+その他18万円+人件費23万円=49万円。手取り相当は営業利益から借入返済元金(約43,860円)を引いた額。税・国民健康保険・生活費はこの中から支払います。
3ケースとも手取り率は約52〜53%でほぼ一定です。つまり「施術者を1人増やすことで台数が増え月商が90万円増えると、手取りも約47〜48万円増える」という関係が成り立っています。
ただし、この試算は「採用したスタッフが計画どおり施術をこなせる」前提です。スタッフの施術スキルが低い間は稼働率が下がり、月商が計画に届かないリスクがあります。スタッフを採用してから売上が増えるまでの「ラグ(タイムラグ)」が、資金繰りに影響します。
施術者1人あたりの売上高で規模感を確認する
日本政策金融公庫総合研究所「小企業の経営指標調査」(2025年度・エステティック業105社)によると、施術者1人あたりの売上高の平均は10,154千円/年(月約846,000円)です。
この数字を使って、各ケースの「施術者1人あたり月商」を比較します。
| ケース | 月商 | 施術者数 | 1人あたり月商 | 全国平均比 |
|---|---|---|---|---|
| 1人サロン | 900,000円 | 1人 | 900,000円 | 全国平均の約106% |
| オーナー+スタッフ1人 | 1,800,000円 | 2人 | 900,000円 | 全国平均の約106% |
| オーナー+スタッフ2人 | 2,700,000円 | 3人 | 900,000円 | 全国平均の約106% |
| 全国平均(公庫BENCH) | 846,000円 | 基準(100%) |
出典:日本政策金融公庫総合研究所「小企業の経営指標調査」サービス業(他に分類されないもの)業種別経営指標(2025年度調査)。1人あたり売上高10,154千円/年を12か月で割った値(月846千円)を使用。全国平均は法人企業のデータであり、役員報酬を人件費に含む前提です。
3ケースともに施術者1人あたりの月商は90万円で一定です。これは「客単価・回転数・営業日数が同じ」という前提の試算なので当然の結果ですが、全国平均(84.6万円)を上回っています。
1人サロンで1人あたり月商90万円(年1,080万円)を達成できれば、全国平均を上回る生産性です。スタッフを増やしても同じ生産性(1人あたり月商90万円)を維持できれば、手取りは台数分だけ積み上がります。
スタッフを採用するタイミングの目安
スタッフを採用するのは「今の稼働率が高く、売上が頭打ちになってきたとき」が一般的な目安です。1人サロンで1日3回転(1日3件)が毎日満員に近い状態が数か月続くようであれば、採用を検討するタイミングです。
採用タイミングの判断基準として、次の3点を確認します。
- 稼働率が80〜90%以上の状態が2〜3か月続いているか:稼働率が低い状態でスタッフを採用すると、売上は増えず人件費だけが増える状態になります。稼働率が高く「予約が取りにくい」状態が続いてからが採用のサインです。
- 手元資金に3か月分の固定費の余裕があるか:採用後すぐに新スタッフの売上が出るわけではありません。研修期間・予約が入り始めるまでのラグで、2〜3か月は人件費の持ち出しが発生することを想定します。手取り相当(月約47.3万円)が3か月分(約142万円)あれば、最低限の緩衝になります。
- スタッフが施術できるメニューに需要があるか:オーナーが対応できないメニュー(例:脱毛・痩身)を希望するお客様が来ていて断っている場合は、採用によって月商が増えやすいです。同じメニューを増やすだけの場合は、既存のお客様を分け合う形になります。
1人サロンの収益が高い理由と限界
1人サロンの営業利益率が高い(試算では57.4%)のは、固定費の中で最も大きい「人件費」がゼロだからです。公庫BENCHによると全国平均の人件費率は38.0%です。月商90万円に対して38.0%の人件費(約34.2万円)が発生しないため、その分がまるごと利益になっています。
一方、1人サロンには物理的な「収益の天井」があります。オーナー1人が施術できる件数には、営業時間と体力の上限があります。1日3回転(3件)・月25日で年間900件が上限の目安です。客単価12,000円なら年商1,080万円が天井になります。この数字は公庫BENCHの全国平均(1人あたり年商1,015万円)に近い水準です。
年商をそれ以上増やすには、スタッフを採用するか、客単価を上げるしかありません。1人サロンのまま客単価を15,000円に上げると年商1,350万円になりますが、価格設定には競合との比較と顧客の受容可能な水準を見極める必要があります。
規模を拡大するときに損益分岐点はどう動くか
スタッフを1人採用するたびに、固定費が約23万円(月給20万円+社保事業主負担約3万円)増えます。固定費が増えると損益分岐点の月商も上がります。
損益分岐点の月商 = 固定費 ÷ 粗利率(0.83)
規模別の損益分岐点の月商を計算します。
- 1人サロン(固定費23万円):23万円÷0.83=約27.7万円
- オーナー+スタッフ1人(固定費49万円):49万円÷0.83=約59万円
- オーナー+スタッフ2人(固定費76万円):76万円÷0.83=約91.6万円
オーナー+スタッフ2人(3台体制)の場合、損益分岐点の月商は約91.6万円です。1人サロンの計画月商(90万円)とほぼ同じ水準です。つまり「3人体制で損益を超えるには、1人サロンが目指す月商と同じくらいの売上が最低限必要」ということになります。
採用後に売上が計画(270万円)の50%(135万円)に落ちた場合でも損益分岐(91.6万円)は上回るため、1台あたりの稼働率が50%程度あれば赤字にならない計算です。ただし、この「50%稼働」が実現できるかは、集客の状況次第です。
月商が計画を下回った場合のリスクは規模によって変わる
採用後に予約が計画どおり入らない場合、手取りがどこまで落ちるかを確認します。月商が計画の75%(開業初期の想定)と50%に落ちた場合を比較します。
- 1人サロン(計画月商90万円)の75%:67.5万円
原価(17%)11.5万円+固定費23万円=34.5万円。営業利益33万円。借入返済4.4万円を引くと手取り約28.6万円。 - 3人体制(計画月商270万円)の75%:202.5万円
原価34.4万円+固定費76万円=110.4万円。営業利益92.1万円。借入返済4.4万円を引くと手取り約87.7万円。 - 3人体制の50%:135万円
原価22.9万円+固定費76万円=98.9万円。営業利益36.1万円。借入返済4.4万円を引くと手取り約31.7万円。
1人サロンで月商が75%(67.5万円)に落ちても手取りは約28.6万円残ります。3人体制で月商が75%(202.5万円)でも手取りは約87.7万円あります。しかし3人体制で月商が50%(135万円)になると、手取りは約31.7万円まで落ちます。スタッフ2人の月給(合計40万円)を支払い、さらにオーナーの生活費を捻出するには厳しい水準です。
規模が大きいほど「計画月商に対する依存度」が高くなります。3人体制では月商が50%以下になるとオーナーの手取りが急減するため、採用前に「稼働率が50%でも耐えられる手元資金」を確保しておくことが重要です。
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