認知症GHの人件費は、介護報酬収入の大部分を占めます。令和7年介護事業経営実態調査では認知症GH単体の人件費率(人件費÷収入)の詳細は公表されていませんが、同調査の収支差率3.0%は「収入の97%が費用」を意味します。介護事業では人件費が費用の大半を占める構造が他種別の調査でも示されており、認知症GHでも人件費率は70%前後になると推計できます。夜間に1名以上の常駐が義務付けられているため、定員が少ない事業所ほど夜間の固定人件費の負担が相対的に重くなります。
人件費を構成する費目
| 費目 | 内容 |
|---|---|
| 給与・賞与 | 介護従業者・管理者・計画作成担当者の月給・賞与 |
| 法定福利費 | 健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険の事業主負担分(給与の約15〜16%程度) |
| 処遇改善加算の賃金改善分 | 処遇改善加算として受け取った額は、全額を職員の賃金改善に充てる義務がある(事業者の手取り収入にはならない) |
| 退職共済掛金・退職金積立 | 介護労働安定センターの福祉医療機構退職共済等への掛金 |
処遇改善加算Ⅰ(18.6%)を取得した場合、1ユニット9人・稼働率80%・その他地域では月20万〜25万円程度の加算収入になります。この金額はすべて職員の賃金改善に充てる義務があり、事業者の利益にはなりません(令和6年厚生労働省告示第128号)。
夜間専従体制が人件費を押し上げる構造
認知症GHは夜間に全ユニットを通じて1名以上の介護従業者の常駐が義務付けられています(省令第103条)。定員9人のユニットであっても定員5人のユニットであっても、夜間の必要人員は同じ1名です。このため、定員が少ない事業所(1ユニット5〜6人)ほど1人あたりの夜間固定費が重くなります。
稼働率別の人件費率シミュレーション
人件費は固定費(夜間専従・管理者等)と変動費(介護従業者の増員分)の組み合わせです。稼働率が上がると収入が増え、固定費を収入で割った人件費率が下がります。
| 稼働率 | 月収入の目安(1ユニット9人・要介護3・その他地域) | 人件費(仮に固定140万円) | 人件費率の目安 |
|---|---|---|---|
| 60% | 約150万円 | 約140万円 | 約93% |
| 75% | 約188万円 | 約145万円(変動費含む) | 約77% |
| 90% | 約225万円 | 約155万円(変動費含む) | 約69% |
上記は概算の試算です。固定費の水準・処遇改善加算の取得状況・地域区分によって実際の数字は異なります。全国平均の収支差率3.0%(令和7年介護事業経営実態調査)は、稼働率が一定水準を超えて安定した事業所の平均像です。損益分岐の稼働率は損益分岐点の稼働率をあわせて確認してください。
人件費率の改善に向けた考え方
人件費の絶対額を削ることは、職員の定着率低下・サービスの質の低下につながるリスクがあります。人件費率の改善は、人件費を減らすよりも収入を増やす(稼働率向上・加算取得)方向で考えることが現実的です。
- 稼働率の向上:居宅介護支援事業所(ケアマネ)への営業・地域包括支援センターとの連携。空室が1人減るだけで月8,000〜9,000円程度の収入増になります
- 加算の取得:夜間支援体制加算(Ⅰ=50単位/日)・医療連携体制加算(Ⅰイ=57単位/日)を取得することで、人員を増やさずに収入を増やせます(医療連携体制加算の取り方と金額)
人件費率の試算例(1ユニット9人・稼働率85%)
1ユニット9人・要介護3(824単位)・単価10.00円・稼働率85%の事業所を例に試算します。
- 月収入(基本報酬):824単位×10.00円×9人×30.4日×0.85 ≒ 1,918,000円
- 処遇改善加算Ⅰ(18.6%):1,918,000円×0.186 ≒ 357,000円(全額人件費へ)
- 合計報酬収入:約2,275,000円
- 人件費(給与・社保含む・加算分除く):約1,342,000円(収入対比70%想定)
- 処遇改善加算分を含めた実質的な人件費:約1,342,000円+357,000円=約1,699,000円
常勤換算3人(要介護9人÷3)+夜間専従1名の計4〜5名体制とすると、1人あたりの月給換算は約270,000〜340,000円程度になります(社会保険料の事業主負担約15%を含む)。これはあくまで概算であり、実際の人員配置や給与水準によって大きく変わります。
法定福利費を含めた実質人件費
給与・賞与だけでなく、社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険)の事業主負担分(給与の約15〜16%)が法定福利費として加算されます。月給25万円の職員1人あたり、事業主負担の社会保険料は月3.7〜4万円程度です。採用費・退職金積立を含めると実質的な人件費はさらに高くなります。
処遇改善加算と人件費の関係
処遇改善加算Ⅰ(18.6%)を取得すると、その加算額は全額を職員の賃金改善に充てる義務があります。事業者の手取りにはなりませんが、加算を取得することで職員への給与原資が増え、採用競争力の向上につながります。加算取得の有無で職員の給与水準が月2〜4万円程度変わるため、取得できる加算は最大限取得することが重要です。
稼働率と人件費率の関係
人件費の多くは稼働率に関わらず発生する固定費です。稼働率が上がるほど収入が増える一方で人件費は大きくは変わらないため、人件費率(人件費÷収入)は低下します。稼働率60%では人件費率が90%を超えることもある一方、稼働率90%以上では70%前後に下がるケースがあります。稼働率の管理は人件費率の改善に直結します。
出典
- 令和7年介護事業経営実態調査(厚生労働省)
- 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第103条
- 指定地域密着型サービスに要する費用の額の算定に関する基準(令和6年厚生労働省告示第128号)
関連記事:処遇改善加算の取り方・金額/認知症GHは儲かるのか
処遇改善加算と人件費の関係
処遇改善加算Ⅰ(18.6%)の加算額は、受け取ったすべてを職員の賃金改善に充てる義務があります(令和6年告示第128号)。加算は収入として計上されますが、同額が人件費に上乗せされるため、処遇改善加算の取得によって事業者の「利益」は増えません。ただし、加算を取得することで職員の給与水準が上がり、採用・定着のしやすさにつながります。
加算Ⅰを取得している場合の月額加算収入の目安(1ユニット9人・稼働率80%・その他地域):
基本報酬等の月収入 約180万円 × 18.6% ≒ 約33万円/月が加算収入になります。これはすべて職員の賃金改善原資です。
人員体制の組み方と人件費の試算
認知症GHの夜間は全ユニットで1名以上の常駐が必要です(省令第103条)。夜勤専従や日勤者の夜勤ローテーションの組み方によって、必要な職員数と人件費が変わります。
- 1ユニット・9人定員・夜勤1名体制の場合、常勤換算3名以上の介護従業者+夜勤のローテーションで最低4〜6名程度の確保が必要になることが多い
- 常勤1名の月人件費(給与+社会保険料)は25万〜35万円程度が目安
- 管理者・計画作成担当者を含めると、開業時の人件費総額は月100万〜150万円規模になることが多い
開業前に人件費の積算を行い、損益分岐稼働率と照合することが重要です。詳細は損益分岐点の稼働率をご確認ください。
人件費率の確認と経営改善の進め方
人件費率が高い場合は、まず「人件費の内訳のどの費目が高いか」を確認します。法定福利費の未整理・夜勤手当の設定ミス・処遇改善加算の賃金改善計画の未整備などが原因になることがあります。
次に、収入側を確認します。稼働率が低い(空室が多い)場合は、同じ固定費を少ない収入で賄うことになり、人件費率が高くなります。居宅介護支援事業所への営業活動・ケアマネジャーとの関係構築が稼働率向上の基本です。
加算の取得状況も確認します。医療連携体制加算や夜間支援体制加算は人員を増やさずに収入を増やせる加算です(医療連携体制加算の詳細)。加算を取得していない場合は、まず体制を整えて届出を行うことが収益改善の近道です。

コメント