児童発達支援(定員10人以下・センター以外)の損益分岐点は、事業所の規模・人件費水準・加算の取り方によって変わりますが、全国平均(令和7年経営概況調査・定員10人以下)の収支差率は約14%で、開業初年度は稼働率60〜70%付近で損益が均衡することが多いとされています。稼働率とは「定員に対して実際に利用した1日あたりの人数の割合」です。定員10名・稼働率65%・1単位10円(その他の地域)・3〜5時間未満の区分で計算すると、月収入は約153万円が目安になります。
この記事では、児童発達支援の損益分岐点の計算方法と、収益性に影響する主な変数を整理します。
損益分岐点とは、収入と費用が均衡する稼働率のこと
損益分岐点(Break-Even Point)とは、その事業所の収入と費用が等しくなる点のことです。児童発達支援の場合、「稼働率」という形で表すのが一般的です。
たとえば、定員10名・月の固定費(人件費・家賃等)が合計130万円の事業所があるとします。稼働率50%なら1日5名が利用し、稼働率80%なら1日8名が利用します。稼働率が上がるほど収入が増え、どこかで費用を上回ります。その「収入=費用」となる稼働率が損益分岐点です。
損益分岐点の稼働率を計算する基本的な式は次の通りです。
- 月収入 = 基本報酬単位数 × 1日平均利用者数 × 月の開所日数 × 1単位の単価 × (1+処遇改善加算率)
- 損益分岐の稼働率 = 月固定費 ÷ (定員1人あたりの月収入 × 定員)
基本報酬の単位数は時間区分・定員区分で変わる
児童発達支援センター以外・障害児(重症心身障害児を除く)・主に未就学児の一般の区分では、定員と提供時間によって基本報酬が異なります。
出典:厚生労働省・こども家庭庁「障害福祉サービス費等の報酬算定構造(令和6年度)」に基づく基本報酬(定員10人以下の区分)は以下の通りです(告示第122号・令和6年4月施行)。
| 時間区分 | 単位数 | 提供時間 |
|---|---|---|
| 区分1 | 901単位/日 | 2時間以上3時間未満 |
| 区分2 | 928単位/日 | 3時間以上5時間未満 |
| 区分3 | 980単位/日 | 5時間以上 |
定員11〜20名では652/671/707単位、21名以上では536/551/580単位になります(定員が大きいほど1人あたりの単価が低くなる報酬体系です)。この記事では定員10人以下の事業所を前提に説明します。
1単位の単価は地域区分によって変わる
介護給付費・障害福祉サービス等の報酬は、「単位数」に「1単位の単価」を掛けて金額を計算します。1単位の単価は地域区分(告示第128号)によって異なり、1級地(東京23区等)11.20円〜その他の地域10.00円まで8区分あります。
自分の事業所が所在する市区町村の地域区分は、都道府県の障害福祉担当窓口や国保連合会の案内で確認できます。
処遇改善加算が収入に加わる
処遇改善加算は、基本報酬と各種加算を合算した単位数に、一定の率を掛けて算定します(告示第122号の注規定)。令和6年4月改定後の加算率は以下の通りです。
| 区分 | 加算率 |
|---|---|
| (Ⅰ)イ(旧:福祉・介護職員処遇改善加算Ⅰ相当) | 15.2% |
| (Ⅰ)ロ | 15.8% |
| (Ⅱ)イ | 14.9% |
| (Ⅱ)ロ | 15.5% |
| (Ⅲ) | 13.9% |
| (Ⅳ) | 11.7% |
出典:厚労省・こども家庭庁「令和8年度報酬改定における改定事項について(報告)」5ページ
損益分岐点の計算例(定員10名・稼働率65%・その他の地域)
次のような前提で計算します。
- 定員:10名
- 月の開所日数:22日
- 稼働率:65%(1日平均利用者数 = 10名 × 65% = 6.5名)
- 時間区分:区分2(3時間以上5時間未満・928単位)
- 1単位の単価:10.00円(その他の地域)
- 処遇改善加算率:13.9%(Ⅲを取得)
- その他の加算:なし(送迎加算・加配加算は別途加わります)
月の基本報酬収入(処遇改善込み)の概算は次の通りです。
- 基本報酬の月の合計単位数 = 928単位 × 6.5名 × 22日 = 132,704単位
- 処遇改善加算単位数 = 132,704単位 × 13.9% ≒ 18,446単位
- 合計単位数 = 151,150単位
- 月収入 = 151,150単位 × 10.00円 = 約151.2万円
これに送迎加算・加配加算などが加わると収入はさらに増えます。
一方、費用の主な内訳は次のようになります(あくまで目安です)。
- 人件費(児童指導員・保育士・児発管・管理者):月90〜110万円程度
- 家賃:15〜25万円程度
- その他固定費(水道光熱費・通信費・保険等):5〜10万円程度
- 合計:110〜145万円程度
月収入が151.2万円・月費用が130万円の場合、損益分岐の稼働率は概算で次のように計算できます。
- 損益分岐の稼働率 = 130万円 ÷ (151.2万円 ÷ 65%) ≒ 55.9%
つまり、稼働率55〜60%程度で収支が均衡し、それを超えれば黒字になる計算です。ただし、人件費の水準・家賃・加算の取り方によって損益分岐点は大きく変わるため、上記はあくまで一例です。
全国平均との比較(令和7年経営概況調査)
厚生労働省・こども家庭庁「障害福祉サービス等経営実態調査結果(令和7年)」によると、児童発達支援事業所(定員10人以下)の全国平均の数字は次の通りです。
| 項目 | 金額(千円/年) |
|---|---|
| 収入 | 18,195 |
| 支出 | 15,570 |
| 給与費 | 11,559(収入の63.5%) |
| 収支差 | 2,625(収支差率約14%) |
月換算すると、収入約1,516千円(約151.6万円)・支出約1,298千円(約129.8万円)です。この全国平均に近い試算ができる稼働率が65%前後とされています。
ただし、この数字にはセンターも含まれているため、センター以外の一般事業所の実態は異なる可能性があります。また、この調査は任意回答のため、経営状況が良好な事業所が多く回答している可能性も否定できません。
稼働率を下げる要因と、定着対策の考え方
開業後しばらくは利用者が少ないため、稼働率は低くなります。利用者が増えない・定着しない主な要因と対策は次の通りです。
利用者が増えない要因
- 相談支援事業所との連携不足:サービス等利用計画は相談支援専門員が作成するため、近隣の計画相談支援事業所との関係構築が重要です。
- 地域の認知度不足:保育所や認定こども園、特別支援学校との連携・チラシ配布などで認知度を高めることが有効です。
- 送迎エリアの制約:送迎の実施エリアが狭いと利用対象が限られます。送迎加算(片道54単位)を活用して、積極的に送迎を提供することが稼働率向上につながります。
利用者が定着しない要因
- 就学による退所:児童発達支援の対象は主に未就学児(小学校就学前)のため、小学校に入学すると放課後等デイサービスに移行します。引き続き同法人の放デイを利用してもらえるよう、早期から関係を構築することが重要です。
- 個別支援計画の見直し不足:利用者の発達状況に合わせた支援内容の見直しができていないと、保護者が他の事業所に移る原因になります。
加算が損益分岐点に与える影響
児童発達支援では複数の加算が用意されており、取得することで収入が増加し、損益分岐点の稼働率を下げることができます。主な加算を整理します。
送迎加算(片道54単位)
利用者の送迎を行った場合、片道54単位が加算されます(告示第122号)。1日1往復・定員10名・稼働率65%・月22日で計算すると、月の追加収入は次の通りです。
- 追加単位数 = 54単位 × 2回(往復) × 6.5名 × 22日 = 15,444単位
- 追加収入 = 15,444単位 × 10円 = 約15.4万円/月
車両費・ドライバーの人件費が必要ですが、収入への貢献は大きいです。
加配加算(187/152/123/107/90単位/日)
専門職(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士等)を1名以上配置している場合に算定できます(告示第122号)。加配加算は利用児童1人・1日ごとに加算されます。定員10人以下の場合の単位数は187/152/123/107/90単位(配置人数に応じた5段階)です。
専門的支援体制加算(123単位/日)
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・心理担当職員・視覚障害担当職員・聴覚障害担当職員のいずれかを1名以上配置している場合に算定できます(告示第122号)。加配加算と同様、利用児童1人・1日ごとの加算です。
令和8年6月以降の新規指定の引き下げに注意
令和8年6月1日以降に新たに指定を受けた児童発達支援事業所は、基本報酬が1000分の988(約1.2%減)となります(厚労省・こども家庭庁「令和8年度報酬改定における改定事項について(報告)」24ページ)。
現在開業を検討しているかたは、令和8年6月より前に指定を受けるスケジュールで進めるか、引き下げ後の報酬を前提に収支計画を立てることが必要です。
収支シミュレーターで詳細を試算する
損益分岐点の稼働率は、定員・人件費・加算の取り方・地域区分によって大きく変わります。具体的な数字で試算したい場合は、当サイトの収支シミュレーターをご活用ください。
- 定員・稼働率・区分の構成・加算の有無を入力して月次収支を計算できます
- 損益分岐の稼働率・必要な資金・資金残高の推移を確認できます
→ 児童発達支援 開業向け収支シミュレーター(無料版あり・Pro版9,800円)
よくある質問
Q. 開業初年度は稼働率が低くて当然ですか?
開業直後は利用者がゼロから始まるため、初年度の稼働率は低くなることが多いです。利用者が増えるまでの「赤字期間」をカバーする運転資金(一般的に6〜12か月分の固定費)を確保することが重要です。
Q. 3〜5歳の利用者は利用者負担がかかりますか?
3歳になって初めての4月1日から3年間(小学校就学前まで)は、利用者負担が無償化されます(厚労省「就学前障害児の発達支援の無償化について」令和元年8月29日)。無償化の対象となることで、保護者が通いやすくなり、稼働率の安定に寄与します。ただし、請求上の扱いの詳細は指定権者・国保連合会にご確認ください。
Q. 定員を増やすと損益分岐点の稼働率は下がりますか?
定員を増やすと、1人あたりの基本報酬単位数が減少します(定員11〜20名では652/671/707単位、21名以上では536/551/580単位)。そのため、単純に定員を増やすと報酬が下がり、損益分岐点の稼働率が高くなる可能性があります。スタッフ数や施設の広さとのバランスを考慮して定員を設定することが重要です。
まとめ
- 児童発達支援(定員10人以下)の損益分岐点は、全国平均では稼働率60〜70%付近
- 基本報酬は時間区分(区分1〜3:901/928/980単位)・地域区分(10.00〜11.20円/単位)で異なる
- 処遇改善加算(Ⅲで13.9%)が収入に加わり、加算の取り方によって損益分岐点の稼働率が変わる
- 送迎加算・加配加算の取得が収入を上積みし、損益分岐点を下げる効果がある
- 令和8年6月以降の新規指定は基本報酬が約1.2%引き下げられる予定

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