短期入所(ショートステイ)のBCP(業務継続計画)策定は、令和6年4月から義務となっています(令和3年度改正・令和6年3月まで経過措置期間)。感染症への対応を定めた「感染症BCP」と、自然災害への対応を定めた「自然災害BCP」の2種類を策定することが求められます。
根拠は、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)の令和3年度・令和6年度改正分です。策定したBCPは、職員への周知・定期的な訓練の実施も義務付けられています。
この記事では、短期入所事業者がBCPに記載すべき内容と、策定・訓練の流れを整理します。
BCPとは何か。なぜ短期入所に義務化されたのか
BCP(Business Continuity Plan:業務継続計画)とは、事業所が感染症や自然災害などの緊急事態に陥ったときでも、利用者へのサービスを継続するための計画です。
短期入所は在宅で暮らす障害者・障害児の「一時的な宿泊場所」として機能しており、介護者の急病・緊急入院などに対応する緊急利用のニーズも高い事業です。事業所が機能しなくなると、利用者の生活に直接影響が及ぶことから、BCPの策定が義務化されました。
令和3年度の省令改正により、令和3年4月1日から義務化されましたが、令和6年3月31日まで経過措置が設けられており、令和6年4月1日からは経過措置がなくなり、全事業所での策定が必須となっています。
感染症BCPと自然災害BCP、2種類の策定が必要
BCPには「感染症BCP」と「自然災害BCP」の2種類があり、それぞれ別に策定します。
感染症BCP
感染症の発生・まん延時における事業継続のための計画です。新型コロナウイルス感染症のような感染症が職員や利用者に発生した場合を想定します。主な記載事項は次の通りです。
- 感染症発生時の初動対応(利用者・職員への周知、医療機関との連携)
- 感染拡大防止策(ゾーニング、防護具の備蓄・使用方法)
- 職員が大量に欠勤した場合の人員確保の方針
- サービス縮小・休止の判断基準
- 行政・医療機関・他事業者への報告・連絡体制
- 利用者・家族への連絡方法
自然災害BCP
地震・洪水・台風などの自然災害時における事業継続のための計画です。主な記載事項は次の通りです。
- 避難場所・避難経路の確認と周知
- 利用者の安全確保・避難誘導の手順
- 事業所の建物・設備の被災状況の確認方法
- ライフライン(電気・水道・ガス・通信)停止時の対応
- 職員の安否確認・招集方法
- 物資(食料・医薬品・防護具)の備蓄と管理
- 他の事業者・行政との連携方法
BCPの策定に活用できる国の手引き・テンプレート
厚生労働省は、障害福祉サービス事業所向けのBCP策定の手引き(ひな形)を公表しています。この手引きを活用することで、記載すべき項目を漏らさず整理することができます。
厚生労働省が公表しているひな形は「障害福祉サービス事業所等における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修テキスト」として入手できます。感染症・自然災害それぞれのひな形と、記入要領が含まれています。
また、都道府県や指定都市が独自のひな形や確認チェックリストを提供しているケースもあります。指定申請窓口や都道府県の障害福祉担当課に問い合わせると、地域ごとの様式を入手できます。
BCPの策定後は、職員への周知と訓練が義務
省令では、BCPを策定するだけでなく、次の対応が義務付けられています。
職員への周知(研修)
策定したBCPの内容を、全職員が理解できるよう研修を実施することが必要です。年1回以上の実施が推奨されています(厚労省の手引き等を参照。実施頻度の詳細は都道府県の解釈通知を確認してください)。
訓練の実施
感染症BCPと自然災害BCPについて、それぞれ年1回以上の訓練(シミュレーション)を実施することが求められます。訓練の方法は机上訓練(図上演習)でも構いません。訓練の実施記録を作成・保存することが必要です。
短期入所特有のBCPの注意点
短期入所は24時間対応の宿泊型サービスであるため、他の通所系サービスとは異なる注意点があります。
夜間・深夜の対応体制
短期入所では、夜間・深夜にも利用者が宿泊しています。感染症や災害が夜間に発生した場合の対応体制(夜勤職員の人数・連絡先・代替要員の確保方法)を具体的に定めておく必要があります。
利用者が在宅に帰れない場合の対応
災害時に利用者が帰宅できなくなった場合の対応(延長受け入れの可否・家族への連絡方法・行政への報告方法)をBCPに明記しておくことが重要です。
単独型事業所の人員確保
短期入所の人員基準(省令第171号第115条第3項)では、その日の利用者6人以下で1名・6人を超えて6人ごとに1名の生活支援員が必要です。感染症や災害で職員が複数欠勤した場合でも最低限の配置を維持するため、近隣の他事業所や法人内事業所との応援協定を事前に締結しておくことが有効です。
BCPの策定・実施状況は運営指導で確認される
都道府県・指定都市・中核市が実施する運営指導(旧:実地指導)では、BCPの策定・研修・訓練の実施状況が確認項目になっています。未策定・未実施の場合は、改善勧告の対象となる可能性があります。
運営指導で確認されやすいポイントは次の通りです。
- BCP(感染症・自然災害の2種類)が文書として存在するか
- BCP策定の日付・最終更新日が記録されているか
- 職員への研修の実施記録があるか
- 訓練(シミュレーション)の実施記録があるか
BCP策定の手順(まとめ)
実際にBCPを策定する際の手順を整理します。
- ひな形の入手:厚労省や都道府県のひな形を入手します
- リスクの洗い出し:事業所が所在する地域の自然災害リスク(ハザードマップ等)を確認します
- 役割分担の決定:管理者・各職員の役割(連絡担当・避難誘導担当等)を決めます
- 連絡体制の整備:緊急時の連絡先リスト(行政・医療機関・他事業所・家族)を作成します
- 物資の備蓄計画:必要な物資(食料・医薬品・衛生用品等)の備蓄目安を決めます
- 文書化と周知:BCPを文書にまとめ、全職員に内容を周知します
- 訓練の実施と記録:年1回以上の訓練を実施し、記録します
- 定期的な見直し:事業所の状況変化(人員変更・施設改修等)に合わせてBCPを更新します
よくある質問
Q. 感染症BCPと自然災害BCPは1冊にまとめていいですか?
厚労省のひな形では感染症と自然災害が別々に作成されますが、1冊にまとめて管理することは問題ありません。運営指導では、両方の内容が含まれているかが確認されます。
Q. BCP策定に補助金・支援はありますか?
都道府県によっては、BCP策定支援のための研修・専門家派遣・補助金制度を設けているケースがあります。都道府県の障害福祉担当課に問い合わせてください。
Q. 開業前からBCPを作っておく必要がありますか?
指定申請時にBCPの策定を求める都道府県もあります。開業準備段階でひな形に沿って基本的な内容を作成しておき、開業後に職員が実際の動きを加えて更新する形が実務的です。
まとめ
- 短期入所のBCP策定は令和6年4月から全事業所に義務(経過措置終了)
- 感染症BCP・自然災害BCPの2種類を策定する
- 策定後は職員への研修(年1回以上推奨)・訓練(年1回以上)の実施と記録が必要
- 24時間対応の宿泊型サービスのため、夜間・深夜の対応体制と人員確保が特に重要
- 運営指導でBCPの策定・研修・訓練の実施状況が確認される
短期入所の収支計画や開業シミュレーションには、こちらのツールもご活用ください。
→ 短期入所 開業向け収支シミュレーター(無料版あり・Pro版9,800円)

コメント