採用ページにスタッフの写真や声を載せませんか、とお伝えすると、多くの施設長さんが少し困った顔をされます。「うちのスタッフに、そこまでお願いするのは申し訳ない」「本音を書いてもらって、後で困ることにならないか」。そう感じるのは、決しておかしなことではありません。今日は、その不安の正体と、それでもスタッフの声を出した方がいい理由を、採用する側として長年見てきた立場から書いていきます。
面接で、実は毎回やっていたこと
私は営業組織の管理職として、新卒や中途の採用面接に数多く関わってきました。その中で、特に新卒や中途入社の面接で、いつも意識してやっていたことがあります。役職が高すぎない、応募者と年齢の近いスタッフを、面接の中で必ず話させるようにしていました。
選ぶ相手にもコツがあります。管理職や役職の高い人ではなく、一般社員で、応募者と同じ目線で話せそうな人。できれば価値観が近そうな人を選びます。役職が高い人が出てくると、応募者はどうしても構えてしまいますし、聞きたいことも聞けなくなります。同じくらいの立場の人だからこそ、本音で話ができるのです。
実際にそのスタッフの声を聞いてもらうと、応募者の反応が変わります。「働きたいけれど、不安だ」という気持ちの中身が、少しずつ具体的になっていくのです。
その不安の正体は、ほとんどが人間関係です
応募者が何に一番不安を感じているか、突き詰めていくと、仕事内容そのものよりも「人間関係」であることがほとんどです。どんな人たちと働くのか、職場の雰囲気はどうか。ここが見えない限り、給与や条件がどれだけ良くても、応募者の不安は消えません。
この感覚は、私自身の実感だけではありません。公益財団法人介護労働安定センターの令和5年度介護労働実態調査によると、直前の介護の仕事を辞めた理由として最も多かったのは「職場の人間関係に問題があったため」で、34.3%を占めています。一方で、離職率が低下している事業所にその理由を尋ねると、「職場の人間関係がよくなったため」が63.6%で最多という結果も出ています。
つまり、人間関係は介護の仕事を辞める最大の理由であると同時に、改善すれば定着率を最も大きく押し上げる要素でもあるということです。だからこそ、採用の入り口の段階で、この不安を少しでも解消できるかどうかは、非常に大きな意味を持ちます。
【採用担当者さんへ】応募が来ない、来てもすぐ辞めてしまう。そう感じている施設ほど、求人票や採用ページに「どんな人たちと働くのか」という情報が抜け落ちていることが多いです。条件面より先に、まずここを見直してみてください。
スタッフの声を出すことに、抵抗を感じる理由
ここまで読んで、「それでも、うちのスタッフに顔や本音を出してもらうのは気が引ける」と感じる方もいると思います。この抵抗感には、いくつかの理由があると思います。
一つは、スタッフへの気遣いです。忙しい業務の合間に、写真撮影やインタビューの時間を取らせることへの申し訳なさ。もう一つは、大変な部分を正直に書いてもらうことで、施設のイメージが悪くなるのではないかという不安。そしてもう一つは、そのスタッフが将来退職した時に、ページに残った顔写真や声をどうすればいいのか、という現実的な心配です。
どれも、実際に施設を運営している立場からすれば当然の感覚だと思います。ただ、これらの不安は、やり方次第でかなり小さくできます。
顔を出さなくても、声は伝えられます
スタッフの声を採用ページに載せるといっても、必ずしも本人の顔写真を大きく載せる必要はありません。実際に検討できる方法はいくつかあります。
顔写真の代わりにイラストやシルエットを使い、名前もイニシャルや役職名だけにする方法。声だけを短い音声で紹介し、顔は出さない方法。あるいは、複数のスタッフの声を集めて、誰の発言か特定できない形で「よくある声」としてまとめる方法もあります。
大事なのは、顔や実名を出すことそのものではなく、「実際にそこで働いている生身の人の言葉」が読み手に伝わることです。極端な話、匿名であっても、具体的で生きた言葉であれば、応募者の不安は和らぎます。逆に、顔写真があっても当たり障りのないコメントしか書かれていなければ、あまり意味がありません。
「大変なこと」を書くのが怖い、という感覚について
もう一つ、多くの施設長さんが引っかかるのが、大変な部分を正直に書くことへの抵抗です。良いことばかり並べた方が、応募が増えるように感じるかもしれません。
ですが、実際はその逆です。良いことだけを並べた求人は、入職後のギャップを生み、早期離職につながります。先ほどのデータの通り、辞める理由の最多は人間関係ですが、その背景には「思っていたのと違った」というギャップが少なからず含まれています。大変な部分を先に伝えておくことは、応募のハードルを一段上げる代わりに、入職後に「聞いていた通りだった」と感じてもらえる、ミスマッチの少ない採用につながります。
応募数を増やすことと、定着率を上げること。この二つは、時に相反します。どちらを優先するかは施設ごとの事情によりますが、人手不足が慢性化している施設ほど、実は後者を優先した方が、長い目で見て採用コストは下がっていきます。
誰に話してもらうかが、一番大事です
スタッフの声を集めると決めた時、次に悩むのが「誰に話してもらうか」です。ここは、施設長自身や、ベテランの管理職が出てくるケースをよく見かけますが、正直、あまりおすすめしません。
理由は最初に書いた通りです。応募者が知りたいのは、自分と同じ立場で働くことになる人たちの本音です。役職が高い人の話は、どうしても「会社としての建前」に聞こえてしまいます。応募者と年齢が近く、経験年数もそこまで長くない、一般職のスタッフに話してもらう方が、はるかに説得力があります。
もし複数の年代・経験年数の応募を想定しているなら、一人だけでなく、入職1年目の人と3年目の人など、複数のスタッフの声を用意できると理想的です。読み手は自分に近い立場の声を、無意識に探しています。
スタッフに依頼する時の、伝え方
実際にスタッフへ協力をお願いする段階でも、気をつけたいことがあります。「採用のために協力してほしい」という頼み方だけでは、負担に感じられてしまうことがあります。
そうではなく、「あなたが感じている、この仕事の良いところも大変なところも、これから入ってくる人に正直に伝えてほしい」という伝え方をすると、スタッフ自身も自分の仕事を振り返る良い機会になります。実際に、こうしたインタビューを受けたスタッフから「自分がここで働く理由を、あらためて考えられた」という感想が出ることも少なくありません。強制ではなく、本人が納得した上でお願いすることが、結果的に良い言葉を引き出すことにもつながります。
本音を引き出す、聞き方のコツ
いざスタッフにインタビューをしても、「特にありません」「普通に楽しく働いています」といった、当たり障りのない答えで終わってしまうことがあります。これでは、応募者の不安を解消する材料にはなりません。
ここで役立つのが、聞き方を少し変えることです。「この仕事の魅力は何ですか」という抽象的な質問より、「入職して最初の1ヶ月で、一番びっくりしたことは何ですか」「一番大変だったのは、いつ、どんな場面でしたか」というように、具体的な場面を思い出させる聞き方をすると、本音が出やすくなります。
もう一つ有効なのは、「もし今、あなたと同じ立場で入職を迷っている人がいたら、何と声をかけますか」という聞き方です。この質問は、応募者の顔を思い浮かべながら答えることになるため、自然と本音に近い言葉が出てきます。実際にこの聞き方で出てきた言葉は、施設側が用意した想定問答よりも、はるかに説得力を持つことが多いです。
退職した後のことは、事前に決めておく
掲載する前に、もう一つだけ欠かせないことがあります。写真や発言内容を採用ページに使うことについて、スタッフ本人から明確な同意を得ておくことです。口頭だけでなく、簡単な書面やメールのやり取りとして残しておくと、後々の行き違いを防げます。
採用ページに載せたスタッフが、将来退職することは十分にあり得ます。ここへの不安を減らすには、掲載する前に「退職した場合はページから削除する」という前提を、本人と施設側の双方で確認しておくことです。この一言があるだけで、依頼するハードルはぐっと下がります。
また、複数人の声を分散して掲載しておけば、一人が退職してもページ全体の印象が大きく崩れることはありません。特定の一人に依存しない構成にしておくことも、運用上の安心材料になります。
【採用担当者さんへ】スタッフの声をどう集め、どう見せるかは、施設ごとに正解が違います。ヒアリングの段階で、御施設に合った形を一緒に考えることもできますので、まずはご相談ください。
まとめ
採用ページにスタッフの声を出すことへの抵抗感は、多くの施設長さんが感じる、ごく自然な感覚です。ただ、応募者が一番知りたいのは条件面ではなく、どんな人たちと働くことになるのかという、人間関係の実感です。厚生労働省のデータが示す通り、人間関係は介護の仕事を辞める最大の理由であると同時に、改善すれば定着率を最も押し上げる要素でもあります。
顔を出す・出さない、大変なことをどこまで書くか、誰に話してもらうか。細かい調整はいくらでもできます。まずは、応募者が本当に知りたいのは何かという視点に立ち戻ることから、始めてみてください。


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