「短期入所を開業したい。でも、指定申請で何を用意すればいいかわからない。」
指定申請は、書類を揃えて提出するだけではありません。申請の前段階で、人員・設備・財務の各基準を満たしているかを確認し、事業計画の数字を整理しておく必要があります。
この記事では、障害福祉サービスの短期入所(福祉型・単独型)の指定申請に必要な要件と、事業計画書で押さえておくべき数字を整理します。
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指定申請の基本。申請先と指定の有効期間。
障害福祉サービスの短期入所の指定権者は、都道府県知事です。政令市(大阪市・横浜市・名古屋市など)および中核市(宇都宮市・長野市・高崎市など)については、それぞれの市長が指定権者になります。
申請先は、事業所の所在地を管轄する都道府県(または政令市・中核市)の担当部署です。一般的に、障害福祉担当の窓口が申請を受け付けています。窓口の名称・申請書類の様式・受付スケジュールは自治体によって異なるため、早い段階で確認しておくことが重要です。
指定の有効期間は6年間です。期間が満了した後も引き続き事業を運営するには、更新の手続きが必要です。更新の時期になると担当窓口から案内が届きますが、更新漏れがないよう指定日を管理しておくことが求められます。
指定申請の前に、法人格が必要です。
短期入所の指定を受けるためには、法人格を持っていることが条件です。個人事業主として申請することはできません。
法人の種類に制限はありません。株式会社・合同会社・NPO法人・一般社団法人・社会福祉法人など、いずれも申請できます。ただし、社会福祉法人の設立には認可に時間がかかるため、開業スケジュールに合わせて早めに動く必要があります。
法人格がまだない場合は、法人設立を先行して進めてください。法人設立の段階で、事業目的に「短期入所事業」または「障害福祉サービス事業」が含まれていることを確認してください。目的が入っていないと、定款変更が必要になります。
指定基準の3つの柱。人員・設備・財務。
短期入所の指定を受けるには、厚生労働省令第171号(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービス事業の設備及び運営に関する基準)が定める人員・設備の基準を満たし、適切に運営できる財務基盤があることを示す必要があります。
人員基準。管理者と生活支援員の配置。
単独型の短期入所(福祉型)に必要な職員は、管理者と生活支援員です(省令第115条第3項)。
管理者:1人(常勤・専従が原則。ただし管理業務に支障がない範囲で生活支援員との兼務が可能)
生活支援員:その日の利用者数に応じて必要な員数が変わります。省令では「利用者の数を6で除した数以上(端数は切り上げ)」と定められています。
| その日の利用者数 | 必要な生活支援員(最低人数) |
|---|---|
| 1〜6人 | 1人 |
| 7〜12人 | 2人 |
| 13〜18人 | 3人 |
この人員基準は、事業所として稼働している時間帯、つまり利用者がいる間は常に満たしていなければなりません。短期入所は宿泊を伴うサービスのため、夜間を含む24時間の配置計画を立てる必要があります。
詳しい計算については 短期入所の人員基準 の記事で解説しています。
設備基準。居室の面積と構造。
設備については省令第117条に定めがあります。主なものは以下のとおりです。
- 居室:1室の定員は4人以下。1人あたりの床面積は8平方メートル以上。
- 浴室:利用者の身体の状況に応じた設備を備えること。
- 洗面所:居室ごとまたは近隣に設けること。
- 便所:居室のある階ごとに設けること。
- 食堂:食事提供を行う場合は食堂を設けること。
居室の「1人あたり8平方メートル以上」は収納スペースを除く面積です。物件を選ぶ際は、実際に利用できる床面積で確認してください。なお、壁で区切られた1居室の定員(4人以下)と、事業所全体の定員は別の概念です。申請書類には両方を記載する欄があります。
設備基準の詳細は 短期入所の居室の基準 の記事で解説しています。
財務基準。開業資金の確保。
指定申請の審査では、事業を適切に運営する財務基盤があるかどうかも確認されます。具体的には、初期費用(物件の敷金・礼金・内装・福祉用具・備品など)に加え、売上が安定するまでの赤字期間を乗り切るための運転資金が必要です。
必要な開業資金の目安や考え方については 短期入所の開業資金 の記事で解説しています。
申請から開業までの流れ。
一般的な手順を整理します。自治体によって手続きの内容や順番が異なる場合があるため、必ず担当窓口に確認してください。
ステップ1:事前相談
多くの自治体では、指定申請の前に事前相談を受け付けています。相談は任意ですが、事業所の物件・定員・人員計画を具体的に固める前に相談しておくと、後から計画を変更するリスクを減らせます。
事前相談では、「申請できる法人かどうか」「物件の設備基準を満たせるか」「書類として何を用意するか」などを確認できます。担当者によっては、過去の事例をもとに具体的なアドバイスをもらえることもあります。
ステップ2:書類の準備
指定申請に必要な書類は、自治体によって異なります。一般的に求められるものを挙げると、以下のとおりです。
- 指定申請書(申請者の情報・事業所の情報・定員など)
- 事業所の平面図(縮尺入り。各居室の面積・設備の位置を記載)
- 従業者の一覧(職種・氏名・勤務形態・保有資格など)
- 勤務形態一覧表(シフト表。人員基準を満たしていることを示す)
- 管理者の経歴書
- 法人の登記事項証明書・定款
- 損害賠償保険の加入証明(任意だが実質的に必要)
- 運営規程(サービスの内容・利用料・運営の方針などを定めたもの)
- 重要事項説明書
運営規程と重要事項説明書は、申請書と合わせて独自に作成するものです。書式の参考例を提供している自治体もありますが、すべての自治体が準備しているわけではありません。
指定申請書類の作成代行は行政書士の業務範囲です。書類の準備に不安がある場合は、行政書士に相談することを検討してください。
ステップ3:申請書の提出
書類が整ったら、担当窓口に申請書を提出します。提出方法(窓口持参・郵送・電子申請)は自治体によって異なります。提出前に書類の過不足を確認する「事前確認」の機会を設けている自治体もあります。
ステップ4:審査
提出後、担当部署が書類を審査します。審査期間は自治体によって異なりますが、一般的に1〜3か月程度です。審査中に書類の補正や追加資料の提出を求められることもあります。
ステップ5:指定通知・開業
審査が完了すると、指定通知書が交付されます。指定日以降、サービスを提供できるようになります。指定日は申請者が希望した開業日が採用されることが多いですが、審査の進捗によって変わる場合もあります。
事業計画書で押さえる数字。申請書類とは別の話。
ここでいう「事業計画書」は、指定申請に提出する書類とは別のものです。日本政策金融公庫や金融機関への融資申請、あるいは補助金申請の際に求められる事業計画書のことです。
事業計画書には、収支の見通しを数字で示す必要があります。短期入所の場合、以下の数字を整理しておくことが重要です。
定員(居室面積から決まる)
居室は1人あたり8平方メートル以上・1室4人以下という基準があります。物件の居室面積から定員の上限が決まります。
たとえば、居室が20平方メートルある場合、床面積の上限計算では2人まで(20÷8=2.5 → 切り捨てで2人)です。ただし設備の配置や動線を考慮すると、計算上の上限より少なくなることもあります。
利用者の区分構成(報酬の前提)
短期入所の報酬は、利用者の障害支援区分によって異なります。区分6が最も高く、区分1(または区分なし)が最も低くなります。
事業計画書では、利用者の区分構成の想定(たとえば「区分6が30%・区分5が40%・区分4が30%」など)をもとに平均報酬単価を計算します。実際の区分構成は、どのような利用者を対象にするか(重度・中程度・軽度)によって変わります。
稼働率と損益分岐点
短期入所の収益は「定員×稼働率×利用日数×報酬単価」で決まります。固定費(人件費・家賃など)をまかなえる最低稼働率(損益分岐点)を把握しておくことが重要です。
一般に、短期入所の開業初期は稼働率が低い時期が続きます。稼働率が低い期間に赤字をどれだけ出すか、それをまかなう運転資金がいくら必要かを事前に計算しておくことで、開業後の資金繰りのリスクを減らせます。
処遇改善加算の区分((Ⅰ)ロ19.3%が最高)
処遇改善加算は、月の所定単位数の合計に加算率をかけた額を上乗せするものです。短期入所の加算区分は(Ⅰ)イ・(Ⅰ)ロ・(Ⅲ)・(Ⅳ)の4段階で、他の障害福祉サービスにある(Ⅱ)は短期入所には設定されていません。
最も高い区分は(Ⅰ)ロの19.3%です。処遇改善加算の要件と計算の仕組みについては 短期入所の処遇改善加算 の記事で解説しています。
必要な資金(初期費用+赤字累計の最大値)
開業に必要な資金は、「初期費用(物件取得・内装・設備・備品など)」と「開業後に赤字が最大になるまでの累計額」を合わせた金額です。
短期入所は、介護報酬(障害福祉サービス費)が入金されるまでにタイムラグがあります。サービス提供から入金まで1〜2か月かかることが多いため、その間の人件費・家賃などを支払える現金が手元に必要です。
指定申請と事業計画書は、どちらを先に進めるべきか。
実務的には、どちらを先に進めるかではなく、並行して進めていくことになります。
指定申請の準備(物件探し・人員確保・書類作成)と融資申請の準備(事業計画書の作成)は、進める順序が決まっているわけではありません。ただし、物件が決まらないと設備基準の確認ができず、人員が確保できないと勤務形態一覧表が作れないため、指定申請の書類は物件と人員が固まってから一気に整える流れになることが多いです。
一方、融資申請は物件が決まる前から動き始めることができます。金融機関との相談を早めに始めておくと、融資審査に時間がかかった場合でも開業スケジュールに影響が出にくくなります。
まとめ。指定申請の前に確認する5つのこと。
- 法人格があるか(定款の事業目的に障害福祉サービス事業が含まれているか)
- 物件が設備基準を満たせるか(居室8平方メートル以上・4人以下・浴室・便所など)
- 人員基準を満たせる人材が確保できるか(管理者・生活支援員の配置計画)
- 必要な資金が確保できるか(初期費用+赤字期間の運転資金)
- 担当窓口に事前相談したか(申請書類の様式・提出時期・記載方法の確認)
これら5点を確認したうえで、書類の準備を進めてください。指定申請書類の作成は行政書士に依頼する選択肢もあります。当サイトは収支の試算・整理のお手伝いをすることが目的ですので、申請手続き自体についてのご相談は、管轄の担当窓口または行政書士にご相談ください。
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開業前の試算に使えるツール
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この記事の出典
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービス事業の設備及び運営に関する基準(厚生労働省令第171号)第115条・第117条・第120条:e-Gov 法令検索
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービス等及び基準該当障害福祉サービスに要する費用の額の算定に関する基準(厚生労働省告示第523号)別表第7の1:厚生労働省(PDF)
- 障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)第36条(都道府県知事による指定):e-Gov 法令検索


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