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有料老人ホームが入居一時金(前払い金)を受け取る場合、老人福祉法の規定により、その全額を保全(保護)しなければなりません。入居一時金の保全措置とは、万が一施設が倒産や廃業になったとき、入居者が支払った前払い金を取り戻せるようにするための仕組みです。老人福祉法第29条第7項は、事業者が前払い金を受領する場合は、銀行や信託会社等による保全措置を講じなければならないと定めています。
入居一時金(前払い金)は受け取らない選択肢もある
有料老人ホームの料金体系として、入居時に「入居一時金(前払い金)」を受け取る施設と、受け取らずに月額費用だけで運営する施設があります。
入居一時金を受け取る場合は、保全措置の義務が発生します。一方、入居一時金を一切受け取らない「月払い型」にすれば、保全措置の手続きは不要です。
開業時に入居一時金を設定するかどうかは、施設の資金計画と大きく関わります。入居一時金を受け取れれば開業直後の資金繰りが楽になりますが、保全措置の費用・手間と保証会社との契約が必要になります。開業の計画段階で、どちらの料金体系にするかを検討することをおすすめします。
保全措置には3つの方法がある
老人福祉法第29条第7項に基づき、入居一時金の保全措置は以下の3つの方法のいずれかで行うとされています(老人福祉法施行規則第20条の4)。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 銀行等との連帯保証契約 | 銀行や信用金庫等が、前払い金の返還義務を連帯保証する契約を結ぶ |
| 信託会社等への信託 | 前払い金の全額を信託会社等に信託し、返還が必要なときに信託財産から支払われるようにする |
| 前払い金保全保険 | 保険会社が提供する前払い金の保全に対応した保険に加入する |
どの方法が利用できるかは金融機関・保険会社の審査によります。実際には、信託会社を使った信託方式か、保険会社の保全保険を利用するケースが多いとされています。開業の準備段階で、利用する保全措置の方法と契約先を早めに確認しておくことが必要です。
保全措置の対象は「前払い金の全額」
保全措置の対象となる金額は、入居者から受け取った前払い金の全額です。償却が進んでいる場合でも、残余返還額に相当する分だけでなく、原則として受領した全額が保全の対象になります(老人福祉法施行規則の規定を確認してください)。
前払い金を受け取った後、毎月一定額を「家賃等に充当する」(償却する)方式をとる施設が多いです。償却の条件(償却期間・月額の充当額・未償却部分の取り扱い)は、入居契約書と重要事項説明書に明記することが義務付けられています。
短期解約の特例(90日ルール)は法律で決まっている
老人福祉法第29条第9項は、入居者が入居から90日以内に契約を解除した場合(いわゆる「クーリングオフ期間」)、事業者は前払い金の全額から、入居した日数分の日割り計算による実費を差し引いた金額を返還しなければならないと定めています。
90日以内の解除の場合、事業者が恣意的に「初期費用として○○円を差し引く」ことはできません。差し引けるのは、実際に提供したサービスに相当する費用(入居日数×日額のサービス費等)のみです。これは契約書にどう書かれていても変えることができない強行規定です。
90日を超えた解約の場合の返還ルールは、老人福祉法が定める計算式(未償却残高)に基づいて算出されます。前払い金の全体に占める「家賃等に充当される部分」の割合、償却期間、残りの入居見込み期間などから計算されます。
返還ルールの計算式を重要事項説明書に明記する義務がある
有料老人ホームは入居者に対して重要事項説明書を交付する義務があります(老人福祉法第29条第6項)。重要事項説明書には、前払い金を受け取る場合の以下の事項を記載することが求められます。
- 前払い金の金額
- 前払い金が充当されるサービスの種類と内容
- 前払い金の算定根拠(日割り単価や償却方法の説明)
- 90日以内に契約解除した場合の返還額の計算方法
- 90日を超えた場合の返還額の計算方法
- 返還する場合の期限(老人福祉法は契約解除から30日以内と規定)
- 保全措置の内容(どの方法で、どこが保証しているか)
記載に不備があると、都道府県への届出審査で指導が入ります。また、実際のトラブル(入居者・家族からの返還請求)にも対応できるよう、法令の要件を満たした重要事項説明書を整備することが重要です。
前払い金の収支への影響を把握しておく
前払い金は受け取った時点では「預かり金」的な性格を持ち、毎月の償却(家賃等への充当)が進むにつれて施設の収入に計上されます。会計上の扱いは、前払い金の金額・償却期間・償却方式によって変わるため、税理士や会計士に確認することをおすすめします。
経営計画の観点では、前払い金を受け取ることで開業直後の手元資金が増えるメリットがありますが、解約や退去が発生した際の返還義務が生じるリスクも生まれます。入居者が短期間で退去するケースが重なると、返還額が大きくなります。保全措置との兼ね合いも含めて、収支計画に組み込んでおくことが必要です。
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