グループホームでは、感染症・食中毒の予防と発生時の対応についての研修を年2回以上実施することが義務とされています(運営基準第95条の3・第217条の3)。同居の宿泊型施設であるため、一人の感染者から全員に広がるリスクが高く、研修による職員の知識・技術の習得が重要です。
「年2回以上」という頻度は、感染症の種類によって流行の時期が異なるため(ノロウイルスは冬・インフルエンザは冬・新型コロナは通年等)、複数のシーズンで職員が対策を確認できるようにするためです。
感染症研修の義務の根拠
感染症・食中毒の予防と対応の研修の根拠は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の運営に関する基準」(運営基準)の第95条の3(介護サービス包括型)・第217条の3(日中サービス支援型)に定められています。
研修の義務は、感染症対策の体制整備の一部として規定されています。
- 感染症の予防・まん延防止のための研修を年2回以上実施する
- 感染症発生時の具体的な対応方法(初動対応・隔離・消毒・行政への報告)をBCPとして整備する
- 感染症を担当する委員会(または既存委員会への組み込み)を定期的に開催する
グループホームが感染症対策で直面するリスク
グループホームは「生活の場」であり、日中活動サービスに比べて職員と利用者が長時間同じ空間を共有します。個室があるとはいえ、共用スペース(食堂・トイレ・浴室)を複数の利用者が使用するため、飛沫感染・接触感染が起きやすい環境です。
感染リスクが高い場面(GH特有):
- 食事の準備・配膳(世話人が利用者の分を調理・配膳する)
- 入浴支援(職員と利用者が密接に接触する)
- 就寝前・起床後の排せつ支援
- 夜間の体調変化への対応(職員が利用者の居室に入る)
利用者の中に、免疫が低下している(基礎疾患あり・高齢・低栄養)方がいる場合、感染症が重篤化するリスクも高くなります。通常健康な成人が軽症で済む感染症でも、GHの利用者が重症化する可能性を念頭に置いた対応が必要です。
研修で伝えるべき内容
感染症研修の内容として、解釈通知が示している事項(例示)は次のとおりです。
- 感染症・食中毒の予防に関する基礎知識
- 感染症・食中毒の発生時に取るべき対応
- 感染症の発生状況の把握とまん延防止の取組み
- 衛生管理の徹底(手洗い・環境整備等)
「基礎知識」には、グループホームで問題になりやすい感染症(ノロウイルス・インフルエンザ・疥癬・新型コロナウイルス等)の感染経路(飛沫・接触・空気・経口)と潜伏期間を含めます。「同じ空間にいるだけで感染する(空気感染)」か「手に付いたウイルスを口から取り込む(接触感染・経口感染)」かで対策が変わるため、それぞれの違いを職員が理解できるようにします。
グループホームで特に押さえるべき感染症
ノロウイルス:感染経路は経口感染・接触感染。潜伏期間1〜2日。嘔吐・下痢が主な症状。嘔吐物・排せつ物に多量のウイルスが含まれるため、処理に防護具(マスク・手袋・エプロン・ゴーグル)が必要です。アルコール消毒は効果が低く、次亜塩素酸ナトリウム(0.1%濃度・100倍希釈)での消毒が必要です。GHでは食事を職員が調理・配膳する場合があり、職員が感染源になると食中毒に発展するリスクがあります。
インフルエンザ:感染経路は飛沫感染・接触感染。潜伏期間1〜4日。高齢・基礎疾患のある利用者では肺炎に発展するリスクがあります。毎年の予防接種の推奨と、発症した職員の出勤停止(発症後5日・解熱後2日が目安)のルールを事前に定めておくことが重要です。
疥癬(かいせん):感染経路は皮膚の直接接触。潜伏期間1〜2か月(通常疥癬)。介助時の接触で感染するため、利用者に疥癬が疑われる場合は速やかに医療機関を受診させ、確認されるまでの間の介助手順(使い捨て手袋の使用等)を職員全員に周知します。GHの職員は、疥癬の症状(夜間に強いかゆみ・手首や指の間の皮疹)を知っておく必要があります。
新型コロナウイルス(COVID-19):感染経路は主に飛沫感染・接触感染。基礎疾患のある利用者では重症化リスクが高い。感染者・濃厚接触者の扱い・隔離期間は最新の行政通知に従います(定期的に見直しが入るため、研修でも最新情報を確認します)。
食中毒の予防(食事提供のある施設で特に重要)
グループホームでは世話人が利用者の食事を調理・配膳する場合があります。職員が食中毒の原因菌(カンピロバクター・サルモネラ・黄色ブドウ球菌等)に感染・汚染した状態で調理すると、複数の利用者が同時に食中毒を発症するリスクがあります。
食中毒予防の基本(食事提供を行うGH向け):
- 食材の温度管理(冷蔵庫の温度確認・肉や魚の取り扱い後の手洗い)
- 加熱調理の徹底(食品の中心温度75度以上を1分以上)
- 調理器具の使い分け(生肉・生魚と野菜で同じまな板を使わない)
- 嘔吐・下痢症状がある職員は調理に携わらない
食中毒は感染症と並べて義務化されている(「感染症・食中毒の予防と対応の研修」)ため、感染症研修の中で食中毒についても取り扱います。
感染症対策委員会の運営
運営基準では、感染症・食中毒の発生防止のための委員会を定期的に開催することも求められています。感染症・食中毒専用の委員会を新たに設置する必要はなく、虐待防止委員会や身体拘束適正化委員会などの既存の委員会に「感染症対策」の議題として組み込む形でも構いません(解釈通知)。
委員会で取り扱う議題の例:
- 感染症の発生状況の報告(直近○か月の発症者数と対応の振り返り)
- 手洗い・消毒液の補充状況と衛生用品の在庫確認
- 研修の実施状況と未受講職員の確認
- 感染症BCPの見直し(必要な場合)
- 施設内の衛生環境のチェック(換気・清掃状況)
委員会の記録(開催日時・参加者・議題・決定事項)を残し、5年間保管します。
職員が感染した場合の対応
感染症研修では、利用者の感染だけでなく「職員が感染した場合にどう動くか」についても取り扱います。職員が感染症を発症した場合、出勤停止が必要になることがあります。
職種別の出勤停止の目安(GH職員向け):
- インフルエンザ:発症後5日・解熱後2日の両方を満たすまで出勤停止(学校保健安全法準用)
- ノロウイルス(感染性胃腸炎):症状が消えてから最低2日(施設によって3〜4日)。無症状でも手洗いを徹底
- 新型コロナウイルス:最新の行政通知に従う(外出自粛期間が変更されることがあるため、都度確認)
小規模のGHでは、職員の出勤停止が即座に「夜間支援者の不足」につながります。感染症BCPに「職員○名が出勤停止になった場合の代替勤務の手順」を盛り込み、研修でも確認します。
研修の年間スケジュール(2回の時期の決め方)
年2回の感染症研修を、どの時期に行うかの目安を示します。
| 回 | 時期の例 | 主なテーマ |
|---|---|---|
| 第1回 | 9〜10月(ノロウイルス前) | ノロウイルス・インフルエンザの予防と発生時の対応・嘔吐物の処理実技 |
| 第2回 | 4月(新年度職員向け) | 感染症全般の基礎知識・手洗いと防護具着脱の実技・BCPの確認 |
第1回は流行前の「備え」として、第2回は新年度職員への基礎教育として行うと、年2回の義務を自然な形で満たせます。なお、感染症の流行状況によっては「2回では足りない」と判断して研修を追加することも推奨されています(解釈通知)。
運営指導での確認事項
行政による運営指導(実地指導)では、感染症対策について以下の書類が確認されることがあります。
- 感染症研修の実施記録(年2回以上の記録・参加者名・研修内容)
- 感染症・食中毒対応のBCP(作成・更新の記録)
- 感染症対策委員会の議事録
- 感染症発生時の報告記録(保健所への連絡記録・行政報告書)
- 手洗いポスター・消毒液の配置状況(施設内の確認)
書類が整っているだけでなく、「実際に職員が知識を持っているか」を確認するための口頭質問が行われることもあります。研修記録が形式的な出席簿だけにならないよう、確認テストや実技チェックの記録を残すことが重要です。
手洗いと防護具着脱の実技指導
感染症研修は「知識を教える」だけでなく、「実際に手を動かして確認する」実技も含めることが効果的です。特に次の2点は口頭説明だけでは習得が難しく、実技指導が推奨されます。
正しい手洗いの手順:石鹸を使った20秒以上の手洗いを、全員が正確にできるかを確認します。手洗いのポスターを使いながら、指の間・爪の間・手首まで洗えているかを職員同士でチェックし合う形式が有効です。
防護具の着脱:マスク・手袋・エプロン・ゴーグルの正しい着け方と外し方を、手順を間違えると汚染が広がるリスクを含めて実技で確認します。特に「外すとき(脱衣の順番)」が重要です。防護具の外し方を間違えると、汚染された面に手が触れて感染が広がります。
ノロウイルス嘔吐物処理の具体的な手順
ノロウイルスへの感染を防ぐために、嘔吐物の処理手順を研修で実技確認しておくことが特に重要です。処理を誤ると、周囲に飛沫が広がり施設全体に感染が広がります。
処理の手順(研修で確認すべき内容):
- 処理する前にマスク・手袋・エプロン(使い捨て)・ゴーグルを着用する
- 嘔吐物の上にペーパータオルを重ねて覆う(飛散防止)
- 外側から内側に向かってペーパータオルで覆いながら汚染物を取り除く
- 次亜塩素酸ナトリウム(市販の塩素系漂白剤を50〜100倍に薄めた液)を床に浸み込ませ10分置く
- ペーパータオルで拭き取り、廃棄物はビニール袋に二重に入れて密封する
- 処理に使った防護具を外して同様にビニール袋に入れ密封する
- 石鹸・流水で手洗い後にアルコール手指消毒をする
「アルコールを吹きかければOK」という誤った処理方法が広まっています。ノロウイルスはアルコールには抵抗力があるため、アルコール消毒だけでは不十分です。次亜塩素酸ナトリウムでの消毒が必要であることを研修で徹底します。
発生時の対応フロー
感染者が発生した場合の標準的な対応フロー:
- 感染を疑う症状(発熱・嘔吐・下痢・皮膚症状等)を発見した職員が管理者に報告
- 発症した利用者を個室で療養させる(隔離)。食事・排せつの介助は専任職員が担当
- 嘔吐物・排せつ物を防護具を着けて適切に処理(ノロウイルスは次亜塩素酸ナトリウムで消毒)
- 医療機関への受診調整・家族への連絡
- 感染症の種類が確定した場合、または複数名に広がった場合は保健所・行政への報告
- 他の利用者への症状確認と健康観察(体温記録)
保健所への報告義務は、「社会福祉施設等の集団発生」の基準(同一施設で10名以上の発症等)に達した場合に発生しますが、基準に達していなくても保健所に相談することは推奨されます。
研修の記録の書き方
感染症研修の記録には次の内容を含めます。
- 研修の名称(例:令和○年度 第1回 感染症・食中毒予防研修)
- 実施日時・場所
- 参加者(氏名または人数)
- 研修の内容(取り扱った感染症の種類・使用テキスト・実技の内容)
- 確認テストを実施した場合はその記録
- 参加者からの質問・意見と回答
「年2回以上」の義務を果たすために、1回目(例:10月・ノロウイルス前)と2回目(例:4月・新年度職員向け)のように時期を分けて実施し、それぞれの記録を残します。5年間保管が原則です。
法定研修キットの活用
グループホームの感染症研修を体系的に準備するには、法定研修・訓練キット(グループホーム版)を活用できます。
感染症テーマの収録内容:
- 研修資料(主要感染症の感染経路・予防策・発生時の対応フロー)
- 確認テスト(職員がスマートフォンで受講・受講記録を残せる)
- 手洗い・防護具着脱のチェックリスト
- 運営指導対策パック(書類一覧・確認チェックリスト)
有料版(買い切り14,800円)では、感染症以外の11テーマ(虐待防止・身体拘束・BCP・行動障害・意思決定支援・個別支援計画・ハラスメント・個人情報・事故と苦情・金銭管理・非常災害)も利用できます。
感染症発生時に行政へ報告する基準
すべての感染者発生が行政への報告義務を生じさせるわけではありません。報告が義務となるのは、主に「社会福祉施設等における感染症等発生時の報告について」(2004年・厚生労働省局長通知)の基準に該当する場合です。
報告の目安:
- 同一感染症(疑いを含む)が10人以上または全利用者の半数以上に発生した場合
- 死亡者が発生した場合
- 食中毒の疑いがある場合(件数を問わず速やかに報告)
- 感染症法に基づく「届出対象疾患」(腸管出血性大腸菌・結核等)に感染が判明した場合
基準に達していなくても、状況の悪化が予想される場合は早期に保健所へ相談することを研修で伝えます。「何人以上になったら報告」という数字だけを覚えさせるのではなく、「迷ったら相談する」という姿勢を職員に持たせることが重要です。
また、グループホームの開業を検討している方は、グループホームの収支シミュレーターで開業後の収支・加算の見通しを確認できます。感染症対策の整備費用(消毒液・防護具の備蓄・研修ツール等)も開業資金の一部として見込んでおくことが重要です。
グループホームの運営に役立つツール・記事は福祉事業の開業と運営にまとめています。
まとめ
- グループホームの感染症研修は年2回以上が義務(運営基準第95条の3・第217条の3)
- 宿泊型施設であるため共用スペースを介した集団感染のリスクが高く、研修の重要性が高い
- 研修内容は:感染症の基礎知識・発生時の対応・衛生管理の徹底
- GHで特に注意すべき感染症:ノロウイルス・インフルエンザ・疥癬・新型コロナウイルス
- 手洗いと防護具の着脱は実技指導が効果的
- 感染者発生時は隔離・適切な処理・保健所への相談(必要に応じて報告)を行う
- 研修記録は5年間保管・年2回分の記録を整備する
出典:
- 「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の運営に関する基準」(厚生労働省令)第95条の3(介護サービス包括型)・第217条の3(日中サービス支援型)
- 「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の運営に関する基準について」(解釈通知・障発第1206001号の最新版)


コメント