就労継続支援A型の全国平均収支差率は約2.3%で、全国平均では黒字です(厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果(案)」令和6年度決算・334事業所)。ところが、福祉医療機構(WAM)が行う別の調査では、A型の赤字事業所の割合は50%を超えることが報告されています(WAM「2024年度 日中活動系障害福祉サービスの経営状況」)。
全国平均では黒字なのに、半数以上が赤字という矛盾に見える数字には、理由があります。「平均」は収入規模の大きい事業所の影響を受けるため、小規模な事業所が多く赤字でも、大規模な黒字事業所があれば平均は黒字になります。
この記事では、就労継続支援A型の収支差率が法人の種類や規模によってどのように異なるか、開設主体の特徴と経営への影響を整理します。
A型の開設主体は社会福祉法人が最も多い
WAMの調査(2024年度)によると、就労継続支援A型の開設主体の56.1%が社会福祉法人です。残りを営利法人(株式会社・有限会社など)・NPO法人・医療法人・その他が占めます。
放課後等デイサービスや児童発達支援では営利法人が多数を占めますが、A型は歴史的に社会福祉法人が担ってきた経緯があります。ただし、近年は「経営改善」を求める指導が強化されており、経営体力の弱い法人が苦戦するケースも報告されています。
法人の種類による経営環境の違い
就労継続支援A型では、法人の種類によって経営環境が異なります。収支差率の数字は法人種別で公表されていませんが、経営資源の面で差があります。
社会福祉法人
社会福祉法人は、社会福祉法に基づく認可法人です。A型でも運営できますが、もともと高齢者・障害者への社会的サービス提供を目的として設立された法人が多いため、A型だけを単独で運営するケースより、他の障害福祉サービス(生活介護・グループホームなど)と複合的に運営する事業所が多い傾向があります。
社会福祉法人の主な特徴(A型経営への影響):
- 国・都道府県・市区町村の補助金・整備費補助を受けやすい(社会福祉法人優先の補助制度がある)
- 固定資産(土地・建物)を法人所有できる(家賃コストを抑えられる)
- 社会福祉医療事業団(WAM)の福祉貸付を活用できる(金利が民間融資より低い場合が多い)
- 地域の連携先(相談支援事業所・自治体)からの信頼を得やすい
一方で、社会福祉法人は内部留保の使途が制限されており、事業転換や新規投資の意思決定に時間がかかる場合があります。
営利法人(株式会社・有限会社など)
営利法人は、社会福祉法人より機動的な経営判断ができます。新しい生産活動(ICT・農業・食品加工など)への参入や、利用者へのスキルアップ支援に積極的な事業所が多い傾向があります。
ただし、営利法人は社会福祉法人向けの補助制度の対象外になる場合が多く、設備投資や運転資金を民間融資に頼ることになります。金利負担が固定費を押し上げるリスクがあります。
WAMの融資を活用できる場合は、社会福祉法人と同様の低利融資を受けられることもあります(WAMは一定条件を満たす営利法人も対象)。
NPO法人
NPO法人は、理念型の事業者として設立されることが多く、利用者の就労移行を真剣に支援する事業所が集まりやすい特徴があります。一方で、資本調達が難しく、赤字が続いた場合の体力が弱い面があります。
NPO法人が受け取れる寄付金・助成金は、安定した資金源になる可能性がありますが、毎年の申請が必要で継続性が保証されないため、収支計画の柱にはなりにくいです。
収支差率の分布:「平均黒字」の実態
全国平均で収支差率2.3%(黒字)という数字の背景を整理します。
WAMの調査(2024年度・日中活動系障害福祉サービス)では、就労継続支援A型の経常増減差額が赤字(0円未満)の事業所が50%を超えると報告されています(注:WAMの赤字定義は「就労支援事業増減差額を除いた経常増減差額が0円未満」であり、生産活動の損益を除いた口座での判定です)。
「全国平均は黒字」「半数超が赤字」という数字が同時に成り立つのは、以下の理由からです。
- 大規模事業所(定員40〜60人以上)は収入規模が大きく、黒字幅も大きい。厚労省の経営概況調査(標本調査)に含まれると、平均を押し上げる
- 小規模事業所(定員20人以下)は固定費を賄いきれず赤字になりやすい
- 生産活動収入の多い事業所と少ない事業所の差も大きい
黒字事業所と赤字事業所の差
WAMの調査では、黒字事業所と赤字事業所を比較したデータも示されています。赤字事業所は黒字事業所と比べて次の点で劣る傾向があるとされます。
- 利用率(稼働率)が低い:赤字事業所は定員に対して実際の利用者数が少ない
- 利用者単価が低い:評価点区分が低く、基本報酬単価が抑えられている
- 評価点スコアが低い:利用者への賃金水準と生産活動収益性が評価点に直結するため、収益性の低さが報酬にも反映される悪循環がある
評価点区分が低い場合、報酬単価も低くなります(定員20人以下の場合、区分5は722単位/日・区分7は688単位/日で差は34単位)。定員20人・月22日・加算なしで月間収入の差は約15万円になります。
この差は累積します。評価点を上げるためには利用者への賃金水準を高める必要があり、賃金を高めるためには生産活動収入を増やす必要があります。生産活動収入が少ない事業所は、評価点も低く、報酬も低く、さらに赤字になりやすい構造に入り込みやすいです。
定員規模による収支差率の傾向
「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査」には、定員規模別の収支差率データが掲載されていますが、A型の規模別の公表状況は調査時点では確認できていません。参考として、他の障害福祉サービスでは定員規模が大きいほど固定費が薄まり、収支差率が改善するケースが多く見られます。
A型でも、定員が大きい(40人・60人規模)ほど固定費効率が上がりやすいことが一般的です。ただし、定員を大きくするには相応の施設・設備・職員配置が必要で、開業時のハードルも上がります。
法人の種類による融資・補助金の違い
収支差率に直接影響する訳ではありませんが、初期費用の調達条件が事業所の持続性に影響します。
| 資金調達 | 社会福祉法人 | 営利法人・NPO法人 |
|---|---|---|
| WAM福祉医療貸付 | 利用可(有利な条件が多い) | 要件を満たせば利用可 |
| 日本政策金融公庫(創業融資) | 通常対象外 | 活用可能 |
| 国・都道府県の整備費補助 | 優先される補助制度が多い | 対象外の場合が多い |
| 民間銀行融資 | 実績・担保に依存 | 実績・担保に依存 |
整備費補助(設備・改修工事に対する補助金)を社会福祉法人が受けられる場合、初期費用が大幅に抑えられます。その分、開業後の資金繰りに余裕が生まれ、黒字化までの時間を確保しやすくなります。
最低賃金の引き上げが収支に与える影響
就労継続支援A型は、利用者と雇用契約を結び、最低賃金以上の賃金を支払う義務があります。毎年10月に改定される最低賃金の引き上げは、A型の人件費に直接影響します。
2024年10月の最低賃金改定では、全国加重平均が1,055円(前年比51円増・5.1%増)になりました。定員20人で稼働率90%(18人)、1人あたり月120時間勤務とすると、前年比の賃金増加額は月あたり約11万円(51円×18人×120時間)になります。
利用者賃金が増えると評価点も上がるため、翌年の報酬単価が改善される可能性があります。ただし、最低賃金の引き上げ幅が大きい年は、評価点の改善で回収できる額より賃金コストの増加が先行し、その年の収支が一時的に悪化します。
地域によって最低賃金は大きく異なります(東京都1,163円〜最低水準約951円・2024年10月時点)。高最低賃金地域(東京・神奈川・大阪)のA型は、他地域より賃金コストが高く、収益化に必要な生産活動収入の水準も高くなります。
A型の廃業・行政指導の動向
近年、就労継続支援A型の廃業件数が増えています。厚生労働省は2017年に「就労継続支援A型事業所の適切な運営のための緊急対策」を打ち出し、生産活動の収益から利用者賃金を支払えているかどうかを指定更新・運営指導の重点確認事項としています。
生産活動収入が安定せず、介護給付費(報酬)から利用者賃金を支払い続けているだけの事業所は、報酬の不正受給に近い構造とみなされる可能性があります。利用者に雇用機会を提供するという目的が形骸化しているためです。
運営指導(旧:実地指導)で指摘を受ける代表的な項目は次のとおりです。
- 生産活動の実態がない・形式的な作業にとどまっている
- 利用者の賃金を介護給付費(報酬)から補填している
- 事業計画書に生産活動収入の計画が記載されていない
- 職業指導員・生活支援員の員数基準を満たしていない
廃業・指定取消を避けるためには、開業時から「生産活動収入で賃金を支払える」という事業構造を設計することが前提になります。
法人格の選択:開業前に決めておくこと
A型を開業する際には、法人格の選択が後の経営に影響します。法人格ごとの設立コストと特徴をまとめます。
| 法人格 | 設立費用(目安) | 特徴 |
|---|---|---|
| 株式会社 | 約20〜25万円 | 定款認証・登録免許税が必要。機動的な経営判断が可能 |
| 合同会社(LLC) | 約6〜7万円 | 定款認証不要・設立コストが低い。知名度はやや低い |
| NPO法人 | 数万円(実費のみ) | 設立に自治体の認証が必要(2〜4ヶ月)。社員10名以上が必要 |
| 社会福祉法人 | 数百万円〜(資産要件あり) | 設立に財産拠出・都道府県の認可が必要(6〜12ヶ月以上) |
障害福祉サービスの新規参入として最も多いのは株式会社・合同会社です。社会福祉法人は既存法人が新たにA型事業を追加するパターンが多く、新規で社会福祉法人を設立してA型のみを運営するケースは少数です。
法人設立の費用・手続きについては、各都道府県・市区町村の障害福祉担当窓口や商工会議所での確認をおすすめします。設立支援を行う行政書士事務所も多数あります。
評価点と収支の相互作用:開業3年目の壁
就労継続支援A型では、評価点区分の算定に前年度の実績が用いられます。このため、開業1年目(実績なし)は暫定の評価点区分からスタートし、2年目・3年目に実績が反映されていきます。
開業後3年目のタイミングで評価点が正式に確定し、低い場合は基本報酬が下がります。この「3年目の壁」に備えるためには、開業当初から利用者賃金と生産活動収入の両方を計画通りに積み上げることが重要です。
収支シミュレーターでは、評価点区分・稼働率・生産活動収入を変動させながら3年分の収支を確認できます。評価点が1区分下がった場合の収支への影響も試算できるため、開業計画の検討に活用できます。
収支差率を改善するための共通の論点
法人の種類に関わらず、A型の収支差率を改善するための共通の方向性は次のとおりです。
①稼働率の安定化:定員に対して実際の利用者数を安定させる。利用者が集まるには相談支援専門員との連携と、利用者が続けたいと思える作業環境が必要です。
②生産活動収入の確保:報酬収入だけでは固定費を賄えない可能性があるため(損益分岐稼働率の計算参照)、継続して発注してもらえる生産活動の確保が重要です。
③評価点区分の改善:利用者への賃金水準を計画的に上げることで、評価点が上がり、翌年の報酬単価が改善されます。収支差率が高い事業所は、評価点区分が上位(区分1〜3)に集中する傾向があります(報酬の計算方法参照)。
④固定費の管理:職員配置の効率化・家賃・光熱費の見直しで固定費を抑えます。ただし、A型は職業指導員・生活支援員の員数基準があるため、人員削減には限界があります。
収支差率と法人税・消費税の関係
収支差率の計算には、法人税等の税負担は含まれていません。つまり、収支差率2.3%は税引き前の利益率です。
法人形態によって税負担が異なります。社会福祉法人は公益法人等として法人税が軽減・免除されるケースがあります(社会福祉事業に関する収入は原則非課税)。一方、営利法人(株式会社・合同会社)は法人税の実効税率が約23〜30%かかります(中小法人の軽減税率適用の場合は年800万円以下の所得に15%・その超過分に23.2%)。
収支差率2.3%・年収4,325万円(令和7年経営概況調査の全国平均)をベースにすると、税引き前の利益は約99万円です。社会福祉法人なら税負担は軽微ですが、営利法人なら実質的な手取り利益はさらに少なくなります。
消費税については、A型の障害福祉サービス報酬は非課税(社会福祉事業)のため、報酬収入には消費税がかかりません。ただし、物品購入・設備投資に支払う消費税は原則として仕入税額控除の対象外になる場合があります(課税売上割合が低い事業所)。
税務の取り扱いは法人形態・事業構成によって個別に異なるため、開業前に税理士への確認が推奨されます。
収支を数値で確認するには
自分の事業所の条件を入れて収支を試算するには、就労継続支援A型の開業向け収支シミュレーターを使うと便利です。定員・評価点区分・地域区分・稼働率・職員配置・利用者賃金・生産活動収入を変えながら、3年分の収支と資金繰りを確認できます。
全国の数字との比較は障害福祉サービスの全国の数字でも確認できます(A型は独立集計のため表への掲載はありませんが、関連9サービスの収支差率・給与費率を掲載しています)。
まとめ
- 就労継続支援A型の全国平均収支差率は約2.3%(黒字)だが、WAMの調査では赤字事業所が50%を超えると報告されている
- 社会福祉法人は補助金・WAM融資の面で優位な場合があるが、意思決定の速度・資本調達の柔軟性では営利法人の方が対応しやすいケースもある
- 法人の種類より「稼働率・生産活動収入・評価点区分」が収支差率に直接影響する
- 赤字事業所は黒字事業所と比べて稼働率・利用者単価・評価点スコアが低い傾向がある
- 最低賃金の引き上げが毎年の固定費に直接影響する構造を開業前に理解しておくことが重要
- 生産活動収入で利用者賃金を賄えない状態が続くと、運営指導で指摘を受けるリスクがある
出典:厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果(案)」(令和6年度決算・就労継続支援A型・334事業所)、福祉医療機構(WAM)「2024年度 日中活動系障害福祉サービスの経営状況」


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