就労継続支援A型の損益分岐となる稼働率を、費用の構造から計算する。

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就労継続支援A型で開業を検討するとき、「どれくらい利用者が来れば黒字になるか」は、経営計画の出発点になる問いです。

答えは事業所ごとに異なります。定員・評価点区分・利用者賃金・職員配置・生産活動収入によって損益分岐点が変わるためです。この記事では、A型特有の費用構造を整理しながら、損益分岐稼働率の計算方法を説明します。

なお、ここで言う「稼働率」は、定員に対する実際の1日あたり平均利用者数の割合を指します(1日の定員が20人で、実際に18人が来た日の稼働率は90%)。

A型の収入は「報酬」と「生産活動収入」の2本立て

就労継続支援A型の収入には、大きく2種類あります。

①介護給付費(サービス報酬):市区町村から支払われる、サービス提供に対する報酬です。定員・評価点区分・稼働率・利用日数に基づいて計算されます。

②生産活動収入:利用者が行う作業(製造・軽作業・農業・クリーニングなど)から得られる収入です。これは自事業所の収益として計上します。

他の障害福祉サービス(訪問介護・グループホームなど)にはない、A型特有の収入が生産活動収入です。この収入が、損益分岐にどう影響するかを後で整理します。

まず、報酬収入の計算式を確認します。

月間報酬収入 = 基本報酬単価(単位/日) × 定員 × 稼働率 × 月間営業日数 × 1単位の価額(円)

定員20人・評価点区分5(80〜105点未満)・サービス費(Ⅰ)・地域区分なし(1単位10円)で、月22日稼働の場合を例にします。基本報酬単価は722単位/日(障害福祉サービス等及び障害児通所支援等の費用の額の算定に関する基準 別表第13)です。

稼働率 月間基本報酬収入(加算なし)
100%(定員20人全員) 約318万円
90%(平均18人) 約286万円
80%(平均16人) 約254万円
70%(平均14人) 約222万円
60%(平均12人) 約191万円

処遇改善加算Ⅰイ(10.8%)を加えると、稼働率90%の場合は約286万円 × 1.108 ≒ 約317万円になります。報酬単価の詳細は、就労継続支援A型の収入の計算方法で整理しています。

A型の費用は「利用者賃金(変動費)」と「職員人件費(固定費)」に分かれる

A型の費用で、他のサービスと大きく異なるのは利用者への賃金支払いです。

A型の利用者は雇用契約を結んでいるため、実際に出勤した日数分の賃金を支払う義務があります(最低賃金以上)。欠勤した日は賃金が発生しませんが、その日の報酬も入りません。

この構造から、A型の費用を2種類に整理できます。

変動費:利用者賃金

稼働率に比例して増減します。利用者が多く来れば賃金も増え、来なければ賃金は減ります。ただし、報酬収入も同様に増減するため、稼働率の変化では収支差率が変わらないように見えますが、実際にはそうではありません(後述)。

固定費:職員人件費・家賃・光熱費・その他

稼働率に関わらず毎月かかる費用です。管理者・職業指導員・生活支援員の給与は、利用者の出欠に関係なく支払う必要があります。

定員20人の事業所の月間費用の目安(最低賃金1,055円・6時間勤務・稼働率90%・全国加重平均で試算):

費用項目 月額目安 性質
利用者賃金(1,055円×6h×18人×22日) 約251万円 変動費(稼働率に比例)
職員人件費(管理者・指導員・支援員) 約100〜130万円 固定費
家賃・光熱費・通信費 約20〜30万円 固定費
その他(備品・消耗品・保険) 約10〜15万円 固定費

稼働率90%・定員20人のとき、月間費用の合計は約380〜430万円になります。これに対して報酬収入(加算込み)が約317万円ですから、報酬だけでは費用を賄えません。

この差額を埋めるのが、生産活動収入の役割です。

生産活動収入が損益分岐を左右する

A型の経営が成立するかどうかは、生産活動収入を含めた収入の合計と費用の合計で決まります。

生産活動収入の水準は事業所ごとに異なります。軽作業・内職系では月10〜50万円程度の事業所が多く、農業・製造系や外部からの受注がある事業所ではそれ以上になることもあります。

試算を続けます。定員20人・稼働率90%・区分5・処遇改善加算Ⅰイの場合:

項目 月額
報酬収入(加算込み) 約317万円
生産活動収入(仮定:月50万円) 約50万円
収入合計 約367万円
利用者賃金(1,055円×6h×18人×22日) 約251万円
固定費合計 約130〜160万円
費用合計 約381〜411万円
収支差 約▲14〜▲44万円

稼働率90%・生産活動収入50万円でもまだ赤字です。黒字化するには、①稼働率を上げる②生産活動収入を増やす③評価点区分を上げる④固定費を抑えるのいずれか、または複数の組み合わせが必要です。

全国平均で収支差率が約2.3%(黒字)という事実(厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」令和6年度決算・334事業所)は、多くの事業所がこれらの条件を満たしていることを示します。詳しくは就労継続支援A型の収支差率の現実で整理しています。

評価点区分と報酬単価の関係

損益分岐稼働率を計算するには、自分の事業所が対象になる評価点区分の報酬単価を把握する必要があります。

就労継続支援A型の基本報酬は、評価点区分(7段階)と定員規模(20人以下・21〜40人・41〜60人・61人以上)、サービス費の種別(Ⅰ・Ⅱ)で決まります(告示523号 別表第13)。以下は定員20人以下・サービス費(Ⅰ)の場合です。

評価点区分 評価点の範囲 報酬単価(単位/日)
区分1 170点以上 791単位
区分2 150点以上170点未満 775単位
区分3 130点以上150点未満 757単位
区分4 105点以上130点未満 740単位
区分5 80点以上105点未満 722単位(開業1年目のみなし)
区分6 50点以上80点未満 705単位
区分7 50点未満 688単位

出典:障害福祉サービス等及び障害児通所支援等の費用の額の算定に関する基準 別表第13(2024年度改定後)

区分1と区分7の差は103単位/日で、定員20人・月22日の場合、月間収入の差は約45万円になります(加算なし・1単位10円)。評価点を上げることが収益改善の重要な手段であることがわかります。

評価点は「賃金水準」「賃金水準の伸び率」「生産活動収益性」などの指標を組み合わせて算定されます(2024年度改定で評価方式が変更)。詳細な評価方法は収入の計算方法の記事で説明しています。

損益分岐稼働率の計算式

損益分岐稼働率を求めるには、固定費と「稼働率1%あたりの収支改善額」の比で計算します。

稼働率1%あたりの収支改善額 = 稼働率1%分の報酬増加 ー 稼働率1%分の利用者賃金増加

報酬収入と利用者賃金はどちらも稼働率に比例しますが、1人日あたりの金額が異なります。その差が固定費を吸収するための「有効な収益増加分」になります。

定員20人・区分5・処遇改善加算Ⅰイの場合:

  • 稼働率1%(平均0.2人)増加時の報酬増加:722単位 × 0.2人 × 22日 × 10円 × 1.108 ≒ 3,519円/月
  • 稼働率1%(平均0.2人)増加時の利用者賃金増加(1,055円×6h×0.2人×22日)≒ 2,789円/月
  • 差引:約730円/月

固定費を130万円とすると、損益分岐稼働率 = 130万円 ÷ 730円 ≒ 1,781%

この計算は意味をなしません。固定費を現在の稼働率からの改善だけでは吸収できないことを示しています。

ここで正しく考え直す必要があります。損益分岐稼働率は「損益が0になる稼働率」であり、次の式で求めます。

月間収入(稼働率X%時)= 月間費用(稼働率X%時)

月間収入(X%)= 報酬単価 × 定員 × X/100 × 22日 × 1単位価額 × 加算倍率 + 生産活動収入

月間費用(X%)= 利用者賃金(1日あたり) × 定員 × X/100 × 22日 + 固定費

両辺を等置して整理すると:

(報酬単価 × 22日 × 1単位価額 × 加算倍率 ー 利用者1日あたり賃金 × 22日) × 定員 × X/100 + 生産活動収入 = 固定費

Xについて解くと:

損益分岐稼働率(X%)= (固定費 ー 生産活動収入) ÷ (1人日あたりの報酬収益 ー 1人日あたりの利用者賃金) ÷ 定員 × 100

1人日あたりの報酬収益 = 報酬単価 × 1単位価額 × 加算倍率

例:722単位 × 10円 × 1.108 ≒ 8,000円/人日

1人日あたりの利用者賃金 = 賃金単価 × 1日の勤務時間

例:1,055円 × 6時間 = 6,330円/人日

差額 = 8,000 ー 6,330 = 1,670円/人日

月22日あたりの差額 = 1,670 × 22 = 36,740円/人月

固定費130万円・生産活動収入0の場合:

損益分岐稼働率 = 1,300,000 ÷ 36,740 ÷ 20人 × 100 ≒ 177%

これも100%を超えています。生産活動収入がない場合、報酬だけで固定費を賄うことは、この規模・賃金水準では不可能ということです。

生産活動収入100万円があれば:

損益分岐稼働率 = (1,300,000 ー 1,000,000) ÷ 36,740 ÷ 20人 × 100 ≒ 41%

稼働率41%以上あれば損益分岐できる計算になります。

稼働率と生産活動収入の組み合わせで見る損益

上の計算から、A型の損益分岐は「稼働率」と「生産活動収入」の組み合わせで決まることがわかります。

定員20人・区分5・処遇改善加算Ⅰイ・固定費130万円で試算した損益分岐稼働率:

生産活動収入(月額) 損益分岐稼働率(概算)
0万円 損益分岐は稼働率100%でも不可能
50万円 約109%(稼働率100%では黒字化不可)
80万円 約82%
100万円 約41%
120万円 損益分岐は生産活動収入だけでほぼカバー

この試算は最低賃金1,055円・6時間勤務・固定費130万円という前提です。賃金水準・勤務時間・固定費・評価点区分が変われば、損益分岐稼働率も変わります。

特に賃金水準は地域によって異なります。東京都(最低賃金1,163円・2024年10月改定)と最低賃金の低い県では、1人日あたりの賃金が最大200円近く違います。これが定員20人・22日の場合、月間で約88,000円の差になります。

稼働率が下がるA型特有の理由

損益分岐稼働率の計算と合わせて、A型で稼働率が上がりにくい理由を理解しておくと、開業前のリスク把握に役立ちます。

①欠勤への対応が難しい(雇用契約の制約)

A型の利用者は雇用契約があるため、体調不良による欠勤や有給休暇取得に対して、事業所側から一方的に制限することができません。精神・知的・発達障害のある方は体調が波打つことが多く、欠勤率が一般就労より高くなる場合があります。

②開業初年度は利用者が揃わない

相談支援専門員を通じた利用者のマッチングには時間がかかります。開業後すぐに定員20人が埋まることはまれで、開業初年度は稼働率50〜70%程度になることもあります。

③退所が報酬に即影響する

就労継続支援A型の目的の一つは「就労に向けた支援」です。利用者が一般就労に移行すると退所となり、報酬が減ります。これは本来目指すべき結果ですが、収入面では稼働率の低下を招きます。

地域の最低賃金が損益分岐に与える影響

A型の利用者賃金は最低賃金以上でなければなりません。そのため、最低賃金が高い都道府県ほど、固定の生産活動収入のもとで損益分岐稼働率が変化します。

2024年10月以降の地域別最低賃金(目安):

地域区分 最低賃金の目安 定員20人・1日6時間勤務・月22日の利用者賃金(100%稼働時)
東京都(最高水準) 時給1,163円 約307万円/月
全国加重平均 時給1,055円 約279万円/月
地方都市(低水準県) 時給950円程度 約251万円/月

出典:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(2024年10月改定)

東京都と低水準県の差は月56万円(年間672万円)になります。同じ定員・評価点・稼働率でも、最低賃金の違いだけで損益が大きく変わります。

なお、報酬単価も地域区分(1〜7級地・その他)によって異なります。東京都は1〜3級地が多く1単位11.12円前後になるため、利用者賃金と同様に収入も高くなります。地域係数の影響を含めた詳細な計算は、収支シミュレーターで確認してください。

開業1年目の稼働率と資金繰り

開業初年度は、稼働率が安定するまでの資金繰りを特に注意する必要があります。

開業1年目には「新規開設の引き下げ」があります。評価点区分は5(80〜105点未満)相当のみなしで適用され、さらに1,000分の965の引き下げがあります(2024年度報酬改定後の告示。地域によって異なる場合があります)。

1年目の報酬単価 = 722単位 × 965/1,000 ≒ 697単位/日(定員20人以下・区分5)

2年目以降は実績に基づく評価点区分が適用されますが、評価点を上げるためには利用者への賃金水準を高め、生産活動収益性を改善する必要があります。

開業時の資金計画には、少なくとも稼働率50〜60%の状態で6〜12か月持ちこたえられるだけの運転資金を確保することが推奨されます。具体的な金額は定員・地域・賃金水準によって異なります。

損益分岐稼働率を数値で確認するには

この記事で示した計算は、定員20人・区分5・処遇改善加算Ⅰイ・最低賃金1,055円という前提です。実際の事業計画では、自分の事業所の定員・想定評価点区分・地域の最低賃金・職員配置に基づいて計算する必要があります。

条件を変えながら試算するには、就労継続支援A型の開業向け収支シミュレーターを使うと便利です。定員・評価点区分・稼働率・職員人件費・利用者賃金・生産活動収入を入力して、3年分の収支と資金繰りを確認できます。

また、全国平均との比較が必要な場合は、A型を含む9サービスの収支差率・人件費率を整理した障害福祉サービスの全国の数字もあわせてご覧ください。

まとめ

  • A型の損益分岐稼働率は、報酬収入と利用者賃金の差(1人日あたりの差額)と固定費、生産活動収入の3要素で決まる
  • 最低賃金が高く固定費が大きい事業所では、報酬収入だけで固定費を賄えないケースがある
  • 生産活動収入が損益分岐に大きく影響する。生産活動収入が月100万円以上あれば、稼働率への依存度が下がる
  • 稼働率が下がりやすいA型の特性(欠勤・開業初年度の充足待ち・就労移行による退所)を考慮した資金計画が必要
  • 自分の事業所の条件を入力して損益分岐を確認するには、収支シミュレーターを活用してください

出典:障害福祉サービス等及び障害児通所支援等の費用の額の算定に関する基準(告示523号 別表第13)、厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果(案)」(令和6年度決算・就労継続支援A型・334事業所)、厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(2024年度)

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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