障害福祉サービスの指定申請は、都道府県か市区町村に出す。サービスの種類によって窓口が違う。

障害福祉サービス事業所の指定申請は、サービスの種類によって提出先が都道府県知事か市区町村長に分かれます。同じ事業者が複数のサービスを開設するときも、サービスごとに提出先は変わります。

申請書類の受理から指定通知が届くまで、多くの都道府県・市区町村では2か月から3か月程度の審査期間が必要です。開設目標日から逆算すると、その2〜3か月前には書類一式を整えて提出できる状態にする必要があります。

この記事では、提出先の振り分けの根拠となる法律の条文と、申請から開設までのおおまかな流れを整理します。

出典:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)第36条・第51条の14・児童福祉法第21条の5の15・指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省令第171号)

提出先は法律の条文で決まっている

どの窓口に申請書類を出すかは、法律の条文によって定められています。大きく3つの法的根拠があります。

  • 障害者総合支援法第36条第1項:指定障害福祉サービス事業者の指定は都道府県知事が行う
  • 障害者総合支援法第51条の14第1項:指定特定相談支援事業者(計画相談支援)の指定は市町村長が行う
  • 児童福祉法第21条の5の15第1項:障害児通所支援事業者(放デイ・児発)の指定は市町村が行う

つまり、放課後等デイサービス・児童発達支援・計画相談支援は市区町村への申請、それ以外の障害福祉サービス(訪問系・就労系・生活介護・短期入所・グループホーム等)は都道府県への申請になります。

ただし、政令指定都市・中核市に所在する事業所は申請先が異なります。障害者総合支援法に基づく指定権限は、都道府県から政令指定都市・中核市に移譲されており、大阪市・名古屋市・仙台市等の政令指定都市や、吹田市・高知市等の中核市では、都道府県ではなく当該市が指定申請の受付窓口です(地方自治法に基づく事務処理の特例・各都道府県条例による)。平成31年4月以降、順次移譲が進んでいます。事業所の所在地が政令指定都市または中核市の場合は、都道府県ではなく当該市の担当窓口に確認してください。

サービス別の提出先一覧

代表的なサービスを提出先ごとにまとめます。

提出先 サービスの種類
都道府県知事 居宅介護・重度訪問介護・行動援護・生活介護・自立訓練・就労移行支援・就労継続支援A型・就労継続支援B型・短期入所(ショートステイ)・共同生活援助(グループホーム)・施設入所支援
市区町村長 放課後等デイサービス・児童発達支援・医療型児童発達支援・保育所等訪問支援・計画相談支援(指定特定相談支援)・障害児相談支援

訪問介護(障害者向けの居宅介護)と訪問看護(障害者が利用する場合も保険者は医療保険・介護保険のため、事業所の指定は都道府県)は都道府県への申請です。

なお、都道府県の担当窓口名は都道府県によって異なります(「障害福祉課」「社会福祉課」「指定指導課」等)。実際の受付窓口は、事業所が所在する都道府県のWebサイトまたは電話で確認することをお勧めします。

申請から指定まで、2〜3か月が標準的な期間

申請書類を提出してから指定通知が届くまで、多くの自治体では2か月から3か月程度がかかります。この期間中に自治体の担当者が書類の審査を行い、必要に応じて補正(書類の修正・追加)を求めます。

補正が発生すると審査期間が延びます。書類の完成度が低い状態で提出すると、開設が予定日より遅れる原因になります。

審査の仕組みは自治体によって異なります。月ごとに受付締め切りを設けている自治体もあれば、随時受け付けている自治体もあります。開設目標日が決まっている場合は、早い段階で担当窓口に受付スケジュールを確認することが重要です。

4月1日開設を目標にする場合のスケジュール例

都道府県への申請・審査が2か月かかると想定した例です。

時期 やること
1〜2月 申請書類を提出する(都道府県に受付締め切りがある場合は確認)
1〜3月 審査期間(書類の補正依頼が来た場合は対応する)
3月下旬〜4月上旬 指定通知が届く
4月1日 サービス開始

このスケジュールはあくまで目安です。自治体によって審査期間は異なり、人員基準の確認(サービス管理責任者の資格確認等)に時間がかかる場合もあります。余裕を持って半年前から準備を始めるのが現実的です。

申請前の事前相談で確認することが多い

多くの都道府県・市区町村では、申請書類の提出前に「事前相談」の機会を設けています。事前相談は義務ではありませんが、実質的には申請の必須のステップになっています。

事前相談で確認する主な内容はこうです。

  • 申請書類の様式(独自様式がある自治体では、自治体指定の様式での提出が求められます)
  • 受付スケジュール(月ごとの受付締め切りがあるかどうか)
  • 物件が設備基準を満たしているかどうか(平面図を持参して確認してもらう)
  • 人員配置の計画が人員基準を満たしているかどうか
  • 近隣住民への説明が必要かどうか(グループホームは多くの自治体で説明が求められます)

事前相談の段階で設備基準に問題が判明した場合は、物件の改修または変更が必要になります。物件の賃貸借契約を締結する前に事前相談を行うと、「契約後に使えないと判明した」というリスクを防げます。

申請書類の主な種類

指定申請に必要な書類は自治体によって様式が異なりますが、共通して求められる書類のカテゴリーはほぼ同じです。

書類の種類 内容
指定申請書 事業所の名称・所在地・サービスの種類・定員・代表者の氏名等を記入する様式(自治体指定の場合が多い)
事業所の平面図・設備一覧 事業所の見取り図と、設備基準で求められる設備(訓練室・相談室・洗面所・トイレ等)の一覧
人員配置表 管理者・サービス管理責任者・直接支援員等の氏名・職種・雇用形態・配置時間を記したもの
資格証明書類 サービス管理責任者の資格証・研修修了証・実務経験証明書等
運営規程 事業の目的・運営方針・利用定員・職員配置の基準・サービスの利用料・苦情処理の手順等を定めた規則
法人関係書類 定款または規約・法人登記簿謄本(登記事項証明書)・直近の決算書等
賃貸借契約書等 事業所として使用する建物の権利関係を示す書類(賃貸の場合は賃貸借契約書)

サービスの種類によって追加書類があります。グループホーム(共同生活援助)では住居ごとの書類(各住居の平面図・賃貸借契約書・消防設備の確認書等)が必要です。

人員基準を満たすことが指定の大前提

指定を受けるには、開設時点で人員配置基準を満たしていることが条件です。書類提出時点ですでに採用が確定している(雇用契約が締結されている)か、開設日までに確実に採用できる見通しがある状態が求められます。

特に注意が必要なのはサービス管理責任者(サビ管)です。

サービス管理責任者の要件(指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準・厚生労働省令第171号)は、実務経験(障害者福祉分野の相談支援業務・直接支援業務等で3年以上、または医療・保健・福祉・就労・教育分野の直接支援業務で5年以上)に加えて、都道府県が実施するサービス管理責任者研修の修了が必要です。

サービス管理責任者研修は都道府県が年間計画を公表しています。研修の受講を希望してから修了まで数か月かかることがあります。開設目標日から逆算して、サービス管理責任者になる予定の方の研修修了タイミングを確認しておくことが重要です。研修修了が開設日に間に合わない場合は、開設日を後ろ倒しにせざるを得なくなります。

物件の設備基準は建物を決める前に確認する

事業所として使う建物は、指定基準が求める設備を備えている必要があります。建物を契約してから設備基準を確認すると、改修工事が必要になったり、最悪の場合は物件を変更せざるを得なくなります。

サービス共通で求められる主な設備はこうです。

  • 相談室(利用者の秘密が保持できる個室または同等のもの)
  • 洗面設備・トイレ(利用者が使えるもの)
  • 事務室

就労継続支援A型・B型・就労移行支援のような通所型サービスは、これに加えて作業室・訓練室の広さ(利用者1人あたり3.3平方メートル以上等、サービスによって基準が異なります)が求められます。

また、建物の用途(用途地域・建物の用途変更の要否)や消防法上の設備(スプリンクラーの設置要否等)についても、物件を決める前に確認が必要です。建物の賃貸を考えているオーナーが、障害福祉サービス事業所としての利用に理解があるかどうかも早い段階で確認しておきます。

指定後に必要な手続き

指定通知が届いてサービスを開始した後にも、いくつかの手続きが必要です。

国民健康保険団体連合会(国保連)への登録

障害福祉サービスの報酬は、利用者が1割または0割を直接払い、残りの9割または10割を国保連に請求します。国保連への請求を始めるには、事業所の登録が必要です。

登録には時間がかかります。開設日から逆算して1か月以上前に登録手続きを始めることを勧めます。

加算の届出

基本報酬(サービスの種類と定員・区分から決まる報酬)に加えて、人員配置や支援の質を評価する「加算」があります。加算を算定するには、都道府県(または市区町村)への届出が必要です。

加算の届出は「加算の要件を満たすようになった月」または「翌月」が締め切りになっている場合が多いです。届出が遅れると、その間の加算は遡って請求できません。取得できる加算と届出のタイミングを開設前から確認しておくことが、収入を最大化するための準備になります。

報酬の入金は開設から2か月以上後

国保連への請求は毎月10日締め翌月末払いのサイクルです。開設1か月目(例:4月)のサービス提供分の報酬は、5月10日に請求して5月末〜6月頭に入金されます。

つまり、開設日から最初の報酬が入金されるまで2か月程度の空白期間があります。この期間は事業所の運転資金(家賃・人件費・光熱費等)を手持ちの資金や融資で賄う必要があります。

日本政策金融公庫や信用金庫・信用組合による「創業融資」を活用する事業者も多くいます。融資の審査には時間がかかるため、開設の半年以上前から資金計画と融資の相談を始めることをお勧めします。

指定申請から開設までの全体スケジュール(目安)

余裕を持ったスケジュールとして、開設12か月前から逆算した目安です。自治体の状況・物件の確保・人員の採用状況によって変動します。

時期(開設から逆算) 主な準備内容
12〜10か月前 事業計画の策定・法人設立の準備(定款作成・法務局への登記申請)・物件の選定・融資の相談開始
10〜8か月前 物件の事前相談(都道府県・市区町村の担当窓口)・設備基準の確認・物件の賃貸借契約
8〜6か月前 人員の採用(サービス管理責任者・管理者・支援員)・サビ管研修の受講手続き・設備工事・運営規程の作成
6〜3か月前 申請書類の作成・事前相談・申請書類の提出
3〜1か月前 審査期間(補正があれば対応)・指定通知の受領・国保連への登録手続き
開設1か月前 国保連登録完了・加算の届出・利用者の受け入れ準備
開設日 サービス開始
開設翌月10日 開設月の国保連請求
開設翌々月末 最初の報酬入金

このスケジュールはあくまで目安です。複数のサービスを同時に開設する場合は、申請先が都道府県と市区町村に分かれることもあり、それぞれのスケジュールを別々に管理する必要があります。

収支の見通しを開業前に確認する

指定を受けてサービスを開始する前に、毎月の収支が成り立つかどうかを試算しておくことが重要です。申請書類に「事業収支の見通し」を求める自治体もあります。

各サービスの収入は「基本報酬(単位)×地域区分単価×加算」で計算します。計算の仕組みはサービスによって異なります(例:就労継続支援A型は評価点と定員で決まる、放デイは定員と時間区分で決まる等)。

開業前の収支試算を支援するツールをサービス別に用意しています。定員・稼働率・人員配置・主な加算を入力すると、月次の収支と資金繰りの目安を確認できます。申請書類の「事業収支の見通し」に使える形式で出力する機能もあります。無料で使えます(Pro版は資金繰り表・印刷用の事業計画書等が使えます)。

→ 福祉事業の開業向け収支シミュレーター一覧

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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