キッチンカーの収支は、「1日の食数 × 客単価 × 月の出店日数」で収入が決まり、食材費と出店料の合計(FG比率)を売上の60%以内に抑えることが黒字の目安とされています。固定店舗の「FL比率(食材費+人件費)」とは違い、人件費の代わりに出店料が大きなコストになる点が、キッチンカーの収支の特徴です。
この記事では、キッチンカーの開業を考えている方に向けて、収支を考えるうえで最初に押さえるべき数字の全体像を解説します。固定店舗との構造の違いから、損益分岐の計算・開業費用・資金繰りの考え方まで、収支計画に必要な数字を順番に整理します。
固定店舗とキッチンカー、収支の構造が根本的に違う
飲食店の収支管理でよく使われる指標に「FL比率」があります。FはFood(食材費)、LはLabor(人件費)の頭文字で、この合計を売上の60%以内に抑えることが黒字化の目安とされています(業界の経験則であり、公的な基準ではありません)。
キッチンカーの場合、この「L(人件費)」の代わりに「G(Ground Cost=出店料・場所代)」が大きなコストとして乗ってきます。1人で営業するキッチンカーでは人件費がほぼかからない分、出店料が毎回の営業にかかる変動コストになるからです。
そのため、キッチンカーでは「FG比率(食材費率+出店料率)」を使って収支を管理するのが実態に合っています。
| 項目 | 固定店舗(飲食店) | キッチンカー |
|---|---|---|
| 売上の計算単位 | 客単価 × 席数 × 回転数 × 営業日数 | 客単価 × 1日の食数 × 出店日数 |
| 主なコスト指標 | FL比率(食材費+人件費) | FG比率(食材費+出店料) |
| 家賃 | 毎月固定でかかる | なし(駐車場・車庫代は別途) |
| 出店料 | なし | 毎回の出店にかかる(歩合or固定) |
| 人件費 | スタッフが必要 | 1人営業なら実質ゼロ |
| 設備の初期費用 | 内装・厨房設備の工事費が大きい | 車両改造費が主。内装工事なし |
| 天候リスク | 影響は限定的 | 雨天・悪天候で売上がゼロになる日がある |
固定店舗では月々の家賃が確実に出ていく一方、キッチンカーでは出店しない日は出店料がかかりません。その代わり、出店できない日(雨天・イベント中止など)の売上がゼロになるリスクがあります。この点は、固定店舗にはない特有のリスクです。
収入の計算は「食数 × 客単価 × 出店日数」
固定店舗では「席数×回転数×客単価×営業日数」で売上を計算しますが、キッチンカーに席はないため「1日の食数×客単価×月の出店日数」が基本の計算式になります。
たとえば、1日50食・客単価900円・月20日出店の場合、月の売上は次のように計算できます。
- 月の売上=50食 × 900円 × 20日=900,000円
同じ条件でも、1日の食数が40食に減ると月売上は720,000円、出店日数が15日に減ると月売上は675,000円になります。食数と出店日数の両方が計画を下回ると、収支に与える影響は掛け算で大きくなります。開業計画では楽観値だけでなく、「食数が計画の8割・出店日数が計画の8割」という保守的な想定も試算しておくことが重要です。
食数の計算方法については、「キッチンカーの1日の売上、どう計算するか。」で詳しく解説しています。
コストの核はFG比率(食材費+出店料)
キッチンカーの主なコストは次の4つです。
| コストの種類 | 内容 | 規模感(目安) |
|---|---|---|
| 食材費(F) | 仕入れた食材の費用 | 売上の30〜40%程度(業種・商品による) |
| 出店料(G) | 出店場所に払う場所代 | 売上の10〜20%程度、または固定額 |
| 車両関連費 | 燃料・車検・保険・消耗品 | 月2〜5万円程度(車両・走行距離による) |
| その他 | 消耗品・包材・通信費・駐車場代など | 売上の数%〜 |
上の表の「規模感(目安)」はいずれも業界の経験則であり、公的な調査に基づく数字ではありません。食材費率は商品の原価や仕入れルートによって大きく変わります。
FG比率(食材費率+出店料率)を60%以内に収めることが目安とされているのは、残り40%で車両維持費・その他経費・自分の収入(労働対価)・借入返済を賄う必要があるからです。FG比率が70%を超えると、収支を黒字にするのが難しくなります。
FG比率の計算例
FG比率の感覚をつかむために、具体的な例を見てみます。
月の売上が90万円(1日50食・客単価900円・月20日出店)の場合、FG比率60%以内に収めるには、食材費と出店料の合計を54万円以内にする必要があります。
- 食材費率35%(31万5千円)+出店料率15%(13万5千円)=FG比率50%(45万円)→ 残り40万円が車両費・経費・収入・返済に使える
- 食材費率40%(36万円)+出店料率25%(22万5千円)=FG比率65%(58万5千円)→ 残り31万5千円しか残らない
出店料率が高い場所(売上の25%)に出店する場合は、食材費率を35%以内に抑えないと車両維持費や自分の収入を確保する余裕がなくなります。FG比率を構成する2つの数字は別々に動くため、出店場所を選ぶときに出店料率を必ず確認することが重要です。
出店料の種類と計算については、「キッチンカーの出店料、相場と計算の仕方。」で詳しく解説しています。
食材費率(原価率)については、「キッチンカーの原価率、飲食店と何が違うか。」で固定店舗との違いを含めて解説しています。
損益分岐の食数を先に計算しておく
月の固定費(車両維持費・消耗品・通信費など)と変動費率(食材費率+出店料率)が分かれば、「何食売れば赤字にならないか」の損益分岐点を計算できます。
計算式は次のとおりです。
- 損益分岐の月の売上=固定費 ÷(1 − 変動費率)
- 損益分岐の1日の食数=損益分岐の月の売上 ÷ 客単価 ÷ 月の出店日数
たとえば月の固定費が15万円、FG比率60%(変動費率0.6)、客単価900円、月20日出店の場合は次のようになります。
- 損益分岐の月の売上=150,000円 ÷(1 − 0.6)=375,000円
- 損益分岐の1日の食数=375,000円 ÷ 900円 ÷ 20日=約21食
「1日21食売れれば赤字にならない」という目標が具体的に立てられます。
ただし、この計算には「自分の収入(労働対価)」を含めていません。自分への報酬を月15万円確保する前提なら、固定費は15万円+15万円=30万円として計算する必要があります。その場合、損益分岐の1日の食数は約42食になります。開業計画では「何食売れれば赤字にならないか」と「何食売れれば生活できるか」の2つを分けて計算することが現実的な準備につながります。
天候リスクが収支に与える影響
固定店舗の飲食店は雨天でも売上が落ちにくい業態ですが、キッチンカーは屋外出店が前提のため、天候が直接収支に影響します。
月20日出店を前提に計画した場合、月に5日が雨天で出店できなくなると、実質出店日数は15日になります。このとき月の売上は25%減(同じ1日あたりの売上前提)になります。
月売上90万円の計画が67万5千円になるのに対し、仕入れ費は出店日数に連動して減るものの、固定費(車両維持費・駐車場代・通信費・借入返済)は変わりません。天候で出店できない月が続くと、計算上の黒字が消えることがあります。
天候リスクへの対策として、屋根のある施設内への出店・雨天でも集客できる商業施設の固定出店を確保することが有効です。スポット出店に依存しすぎると天候に左右される比率が高くなります。
開業費用と必要な資金の目安
キッチンカーの開業費用は、固定店舗の飲食店に比べて抑えやすいのが特徴です。内装工事が不要な分、初期費用の大部分は車両の購入・改造費になります。
日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査」によると、飲食業・宿泊業の開業費用は平均約975万円・中央値600万円です(キッチンカーに特化した数字ではなく、飲食業全体の数字です)。キッチンカーは固定店舗より初期費用が少ない傾向がありますが、公的な統計でキッチンカーだけを分けた数字は見当たりません。
開業費用の内訳と資金調達については、「キッチンカーの開業資金はいくら必要か。」で詳しく解説しています。
開業後3か月の資金繰りが山場
収支の計算上は黒字でも、売上が入るタイミングと費用が出るタイミングがずれることで、手元の現金が不足することがあります。これが資金繰りの問題です。
キッチンカーでは、開業直後から仕込みの食材費・出店料・車両の燃料費が出ていきます。一方で売上が安定するまでには時間がかかります。固定出店の契約が取れる前の時期は、スポット出店に頼ることになり、収入が安定しません。
開業後の資金繰りについては、「キッチンカー開業後の資金繰り、最初の3か月が山場。」で具体的なお金の流れを解説しています。
固定出店と変動出店のバランスが収支安定の鍵
キッチンカーで収支を安定させるうえで最も重要な要素の一つが、「固定出店の比率をどこまで高められるか」です。
企業や工場の敷地内への定期出店、学校・公共施設への固定出店は、曜日と時間帯が固定されるため集客の見通しが立てやすくなります。月の売上のうち固定出店分が60〜70%を占めるようになると、収支の安定感が大きく変わります。
固定出店を取るための方法としては、企業の総務担当者への直接営業(ランチの福利厚生として提案する)、キッチンカー仲介サービス(「キッチンカー.jp」「モビマル」「ツクツク!!」など、企業とキッチンカーをマッチングするサービス)の活用などがあります。ただし仲介サービスを利用する場合は別途手数料や登録費が発生する場合があるため、契約前に条件を確認することが必要です。
数字を自分のケースで計算したいとき
この記事で紹介した計算(食数・売上・FG比率・損益分岐・資金繰り)を、ご自身の開業計画の数字で試したい場合は、キッチンカー開業 収支シミュレーターが使えます。
客単価・1日の食数・出店日数・食材費率・出店料などを入力すると、月の収支・損益分岐・必要な開業資金の目安が計算できます。天候リスクを想定した保守的な出店日数でも試算できます。無料で使えます。
この記事で解説した6つのテーマ
| テーマ | 記事 |
|---|---|
| 開業資金の内訳 | キッチンカーの開業資金はいくら必要か。 |
| 売上の計算方法 | キッチンカーの1日の売上、どう計算するか。 |
| 出店料の仕組み | キッチンカーの出店料、相場と計算の仕方。 |
| 原価率の考え方 | キッチンカーの原価率、飲食店と何が違うか。 |
| 資金繰りのリスク | キッチンカー開業後の資金繰り、最初の3か月が山場。 |
| 収支の試算(ツール) | キッチンカー開業 収支シミュレーター |
出典:日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査」。飲食業・宿泊業の開業費用の数字はキッチンカーに特化したものではなく、飲食業全体の集計です。FG比率60%の目安は業界の経験則であり、公的な基準ではありません。

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