短期入所では利用者が不慣れな環境に宿泊するため、転倒リスクは環境・動作・利用者特性の3要因が重なる夜間帯に高まります。入所時のリスクアセスメントと環境整備を組み合わせることが転倒予防の基本です。基準第49条(第145条で準用)の事故防止義務をふまえ、短期入所の転倒予防研修で確認すべき内容をまとめました。
転倒リスクは環境・動作・利用者特性の3要因が重なる場面で高まる
転倒の要因は単独ではなく複数が重なることで発生確率が上がります。短期入所の場面で特に重なりやすい組み合わせを整理しておくと、アセスメントの優先順位が立てやすくなります。
| 要因の種類 | 短期入所で特に問題になる要素 |
|---|---|
| 環境要因 | ベッドの高さや硬さが家庭と異なる、居室レイアウト・手すりの位置が不慣れ、夜間の照明が普段と違う |
| 動作要因 | 夜間のトイレ動作(夜間頻尿・眠気による注意力低下)、急いで起き上がる、介助者の補助なしに動く |
| 利用者特性要因 | 筋緊張や痙縮がある、抗てんかん薬・向精神薬による眠気・ふらつき、視力障害・認知機能の低下 |
表は基準の解釈に基づき当方が整理したものです。
短期入所は通所サービスと異なり、利用者が慣れていない居室で夜間を過ごします。家庭では毎晩行っているトイレへの移動も、施設では「どの方向に行けばよいか」から確認が必要になります。就寝前に居室の環境(ナースコールの場所・トイレまでの動線・照明スイッチ)を利用者とともに確認する手順を研修に組み込んでください。
入所時のリスクアセスメントで転倒リスクが高い利用者を特定する
入所当日に転倒リスクを評価しておくことで、夜間帯の対応方針(見守り頻度・センサー設置・介助者配置)を決定できます。アセスメントでは次の項目を確認します。
- 歩行状態:独歩可能か、補装具や歩行器を使用するか、介助が必要か
- 服薬内容:ふらつきや眠気を起こしやすい薬剤(抗てんかん薬・ベンゾジアゼピン系・抗ヒスタミン薬)の有無
- 視力・聴力:眼鏡や補聴器を使用するか、夜間に外しているか
- 認知・判断力:自己判断で動いてしまうか、危険認識が不十分か
- 過去の転倒歴:直近1年以内の転倒回数・場面(家庭からの引継ぎ情報)
- 夜間頻尿の有無:1晩に何回起きるか、家庭では誰かが誘導しているか
これらの情報は家族からの引継ぎシートに記載してもらい、受け入れ職員が全員で共有します。口頭の引継ぎだけでは夜勤職員に伝わらないことがあるため、居室入り口や申し送りノートへの記載で視覚的に確認できる状態にします。
夜間は転倒リスクが高まる4つの場面がある
短期入所の夜間帯は職員数が少なく、全利用者を同時に見守ることが難しい状況です。リスクが高い時間帯と場面を職員全員で共有しておくことが重要です。
- 消灯後〜深夜(20時〜24時):入眠しにくい利用者が起き上がる、就寝前のトイレ誘導が終わった後の単独移動
- 深夜のトイレ(0時〜4時):眠りが浅い状態での急な起き上がり、照明を点けずに移動しようとする
- 早朝(4時〜6時):目覚めてすぐ起き上がる、立ちくらみが起きやすい
- 起床・着替え時(6時〜8時):ベッドから立ち上がる動作、椅子やベッドの端に腰かけたまま靴を履く
センサーマット・離床センサーを設置する利用者は、入所時のアセスメントで決定します。センサーの音が鳴ってから職員が到着するまでの時間を短縮するため、センサーを設置した利用者の居室は職員ステーションに近い場所を優先する、という施設内の取り決めも有効です。
環境整備チェックリストで入所当日に確認する
入所当日に居室の環境整備を確認するチェックリストを用意しておくと、担当職員が変わっても抜けが発生しません。以下を参考に施設の状況に合わせて作成してください。
- ベッドの高さが利用者の足底が床につく高さに調整されているか
- サイドレールの位置と固定を確認(転落防止)
- 居室の手すりが利用者の動線(ベッド〜トイレ)上にあるか
- 床面の段差・凹凸・濡れがないか(入浴後は浴室出口に注意)
- 居室内のコード類(充電器等)が通路にかかっていないか
- ナースコールの位置を利用者に説明し、使えることを確認する
- 照明スイッチの位置を利用者と確認する(足元灯の有無も)
- 眼鏡・補聴器は就寝中の保管場所を決め、起床時すぐ手が届く位置に置く
- 夜間のトイレまでの動線に物が置かれていないか
チェックリストの確認は、受け入れ担当職員と利用者本人(または付き添いの家族)が一緒に行うと、利用者の不安軽減にもつながります。
転倒が発生した場合の対応手順と記録義務は基準第49条に基づく
転倒が発生した場合、基準第49条(第145条で準用)は市町村・家族等への速やかな報告と記録を義務にしています。転倒後の対応手順を研修で確認しておくことで、緊急時に迷わず動けるようにします。
転倒発見時の初動手順:
- ① 利用者の状態確認(意識・呼吸・出血・骨折の疑い)
- ② 頭部・頸部の損傷が疑われる場合は不用意に動かさず、119番通報を検討
- ③ 管理者・夜間責任者への連絡
- ④ 家族への連絡(状態と現在の対応を伝える)
- ⑤ 受診の必要性を判断(受診する場合は同行者と搬送手段を確保)
転倒後は事故報告書を作成します。記録には①発生日時・場所・状況、②発見者と発見時の状態、③初動対応の内容、④家族・管理者への連絡時刻と内容、⑤受診の有無と診断結果、⑥再発防止策の検討結果を記載します。記録は5年間保管します(基準第41条・第145条準用)。
(出典:基準(平成18年厚生労働省令第171号・e-Gov法令検索))(出典:解釈通知(障発第1206001号・最終改正令和7年3月31日))
ロールプレイングで「転倒しかけた場面」を体験して手順を定着させる
転倒予防の研修は、座学だけでは実際の場面で手が動かないことがあります。ロールプレイング(職員が利用者役・介助者役を交互に演じる)を取り入れると、転倒しかけた利用者への声かけ・体勢の支え方・センサーが鳴った後の動きを体で覚えることができます。
ロールプレイングの場面として特に有効なのは次の2つです。
①夜間のトイレ誘導場面:センサーが鳴った、居室に行くと利用者がベッドの端に腰かけていた場面。「安全に立ち上がってもらうための声かけと姿勢の支え方」を練習します。
②起床時のベッドから立ち上がり場面:利用者が急に立ち上がろうとしている場面。「立ちくらみを防ぐための段階的な体勢変換(頭を起こす→端座位→立位)」の手順を体験します。
研修後に「居室チェックリスト確認の実習」を行うことで、知識と環境整備の行動が結びつきます。
転倒予防研修は年1〜2回・新入職員には採用後速やかに実施する
転倒予防研修には法定の義務回数の明示はありませんが、安全管理の一部として年1〜2回の実施が適切です。センサーや環境整備の知識は定期的に見直す必要があります。夜間帯の転倒リスクが高い短期入所では、年1回は夜間帯のシナリオを使ったロールプレイングを含む研修を行うことが効果的です。
新入職員・中途採用職員は、夜間一人体制に入る前に転倒予防研修を受けておく必要があります。採用後速やかに、OJT担当者が居室チェックリストの確認とセンサー操作を含めた研修を実施します。
ヒヤリハット記録の活用については短期入所のヒヤリハット研修もあわせて確認してください。
研修資料・記録様式は法定研修・訓練キット(短期入所版)でまとめて用意できます。
この記事は、障害者総合支援法に基づく基準(平成18年厚生労働省令第171号)、解釈通知(障発第1206001号・最終改正令和7年3月31日)の原文を確認して書いています(確認日:2026年11月1日)。所在地の指定権者(都道府県・市)の案内もあわせて確認してください。作成:fufumumu_design


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