福祉事業の損益分岐稼働率とは何か。計算の考え方と安全余裕度の見方。

福祉事業の損益分岐稼働率とは何か。計算の考え方と安全余裕度の見方。 福祉事業の開業と運営

福祉事業所の経営で「今の稼働率のまま続けると黒字か赤字か」「あと何人来れば費用を賄えるか」を把握するための指標が損益分岐点の稼働率です。収支差率や人件費率と合わせてこの指標を確認することで、経営の安全余裕度が分かります。この記事では、損益分岐稼働率の意味と計算の考え方を整理します。

損益分岐点の稼働率とは、「費用をちょうど賄える稼働率」です

損益分岐点とは、収入と費用がちょうど一致するポイントです。稼働率に換算したものを「損益分岐点の稼働率」と呼びます。

損益分岐点の稼働率を超えれば黒字、下回れば赤字になります。

放課後等デイサービスや児童発達支援のような定員制のサービスでは、稼働率が高いほど収入が増え、固定費(人件費・家賃など)を賄いやすくなります。損益分岐点の稼働率は「この稼働率に到達すれば収支がゼロになる」という目標ラインです。

福祉事業の費用は「固定費」と「変動費」に分かれます

損益分岐点を考えるとき、費用を性質で2つに分けます。

種類 特徴 主な費目の例
固定費 利用者数に関わらずほぼ一定にかかる費用 職員の給与(人員基準分)・家賃・リース料・光熱費の基本料金
変動費 利用者数に応じて増減する費用 給食費・消耗品・非常勤のシフト増(利用者が増えた分の追加配置)

福祉事業は変動費が少なく固定費が多い構造です。職員の人員配置は法定基準があるため、利用者が少なくても一定数の職員が必要です。そのため、稼働率が低いと固定費を収入で賄いにくく、赤字になりやすくなります。

損益分岐点の稼働率の計算の考え方

簡略化した式として、次のように考えられます。

損益分岐点の稼働率 ≈ 固定費 ÷ 満稼働時の収入

例:定員10人の放デイで、月の営業日数20日として考えます(算定は概算)。

  • 満稼働時(稼働率100%)の収入の目安:定員10人 × 月20日 × 単価(報酬) = X円
  • 月の固定費(職員3人の給与・家賃など)= Y円
  • 損益分岐点の稼働率 ≈ Y ÷ X × 100%

固定費が月100万円で、満稼働時の収入が150万円なら、損益分岐点の稼働率は約67%になります。現在の稼働率が70%なら「3ポイントの安全余裕度がある」という状態です。

実際の計算では変動費も含めた詳細な費用の把握が必要ですが、固定費の割合が高い福祉事業では、この簡略式でも概算の目安になります。

全国の収支差率の分布から見た損益分岐の実態

厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」(令和6年度決算)の収支差率の分布を見ると、マイナス(赤字)の事業所が各種別で一定数あります。

放課後等デイサービスを例にすると:

  • 収支差率の中央値は2.7%(事業所を収支差率の低い順に並べた中央の値)
  • 中央値が2.7%という意味は、全体の約半数の事業所の収支差率が2.7%以下にある

出典:厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」(令和6年度決算)

分布を見ると、赤字の事業所(収支差率がマイナス)がある一方で、10%以上の収支差率を持つ事業所も存在します。この差を生む主な要因が稼働率の違いです。

現在の稼働率と損益分岐稼働率の差(安全余裕度)を確認します

経営の安定性を見るうえで重要なのは「現在の稼働率が損益分岐点からどれだけ離れているか」(安全余裕度)です。

安全余裕度 = 現在の稼働率 − 損益分岐点の稼働率

この値が大きいほど、稼働率が多少下がっても黒字を維持できます。逆に安全余裕度が小さい(損益分岐点に近い)場合、利用者が数人減るだけで赤字になるリスクがあります。

特に開業直後の事業所は利用者の獲得に時間がかかるため、損益分岐点をいつ超えられるかが経営の安定の鍵になります。

目標の収支差率に必要な稼働率を逆算する方法

「収支差率5%を目指すには稼働率を何%にする必要があるか」という逆算も、経営判断に使えます。

目標の収支差率 = (収入 − 費用)÷ 収入 という関係から、

必要収入 = 費用 ÷(1 − 目標収支差率)

として計算できます。「費用がこれだけかかるなら、収支差率5%を達成するには収入がこれだけ必要」が分かり、そこから「あと何人の利用者(利用日数)が必要か」を逆算できます。

手元資金の確認も合わせて行います

損益分岐点は「毎月の収支の均衡」を見る指標ですが、経営の安定には手元資金(現金)も重要です。

障害福祉サービスは報酬の入金が翌々月(サービス提供月の2か月後)になります。そのため、開業直後や稼働率が低い時期は、報酬が入る前に人件費や家賃を支払う必要があります。

一般的な目安として、毎月の費用の2か月分以上の手元資金があると、報酬の入金遅延に対応できます。手元資金が1か月分を下回っている場合、資金繰りのリスクが高い状態です。

自事業所の損益分岐稼働率を試算できます

このサイトでは、放デイ・児発・グループホーム・生活介護・就労移行・短期入所の決算の数字を入れて、損益分岐点の稼働率・目標の収支差率に必要な稼働率・あと何人来ればよいかを試算できるツールを提供しています(Pro版・買い切り9,800円)。全国の収支差率・稼働率の中央値との比較も合わせて確認できます。

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まとめ:損益分岐稼働率で経営の安全余裕度を把握する

  • 損益分岐点の稼働率とは「費用をちょうど賄える稼働率」で、これを超えると黒字になる
  • 福祉事業は固定費(人件費・家賃)の割合が高いため、稼働率の変化が収支差率に大きく影響する
  • 放課後等デイサービスの収支差率の中央値は2.7%(令和6年度・一次資料:厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査」)で、約半数の事業所は余裕が少ない水準にある
  • 現在の稼働率と損益分岐点の差(安全余裕度)を定期的に確認することで、経営リスクの早期把握ができる
  • 手元資金は翌々月入金の資金サイクルを考慮し、毎月の費用の2か月分以上が目安
この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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