就労継続支援A型の運営指導(旧:実地指導)では、研修の記録は確認される項目の一つです。
義務の5テーマ(虐待防止・身体拘束の適正化・感染症・BCP・非常災害)について、「実施した」という事実だけでなく、記録として残っているかどうかが問われます。口頭で「やっています」と伝えても、記録がなければ実施を確認できません。
この記事では、運営指導の場で何が確認されるかを、指定障害福祉サービス等の基準省令と国の解釈通知をもとに整理します。
運営指導とは
運営指導は、都道府県・指定都市・中核市が指定障害福祉サービス事業者を対象に実施する行政指導です。2022年度(令和4年度)から、それまで「実地指導」と呼ばれていた行政指導の名称が「運営指導」に変わりました。
運営指導の目的は、基準省令への適合状況(人員・設備・運営)の確認と、介護給付費等の請求の適正性の確認です。研修の記録は「運営」の部分で確認されます。
実施頻度は自治体によって異なりますが、国は年1回程度を目安として示しています。運営指導の前には、事前に提出書類のリストが届くことが多く、研修実施記録・委員会記録・訓練記録が提出を求められる書類に含まれるケースがあります。
義務の5テーマと根拠
就労継続支援A型の指定基準省令(指定障害福祉サービス等の人員、設備及び運営に関する基準)は、次の5テーマについて研修等の実施を義務としています。
| テーマ | 根拠条文 | 義務の内容 |
|---|---|---|
| 虐待防止 | 第40条の2(居宅介護の条・第198条で準用) | 全従業者を対象とした研修を定期的に実施すること。虐待防止委員会を定期的に開催すること |
| 身体拘束の適正化 | 第35条の2(居宅介護の条・第198条で準用) | 適正化のための委員会を定期的に開催すること。従業者に対する研修を定期的に実施すること |
| 感染症 | 第90条(生活介護の条・第198条で準用) | 感染症の予防及びまん延の防止のための研修及び訓練を定期的に実施すること |
| BCP(業務継続計画) | 第33条の2(居宅介護の条・第198条で準用) | 業務継続計画の周知、研修及び訓練を定期的に実施すること |
| 非常災害 | 第70条(第198条で準用) | 非常災害に備えるための定期的な訓練を実施すること |
「定期的に」の具体的な回数は、国の解釈通知(障発第1206001号・平成18年12月6日付け・現行版は改正を含む)で次のように示されています。
| テーマ | 研修の回数 | 委員会・訓練の回数 |
|---|---|---|
| 虐待防止 | 年1回以上 | 委員会:少なくとも年1回 |
| 身体拘束の適正化 | 年1回以上 | 委員会:年1回以上 |
| 感染症 | 年2回以上 | 委員会:おおむね3か月に1回以上 / 訓練:年2回以上 |
| BCP | 年1回以上 | 訓練:年1回以上 |
| 非常災害 | (解釈通知に定めなし) | 訓練:定期的に(解釈通知に回数の定めなし) |
虐待防止・身体拘束・感染症の3テーマについては、新しく職員を採用したときにも速やかに研修を実施することが求められています(解釈通知)。
運営指導で確認される記録の内容
運営指導では、上記の義務が実際に果たされているかを記録で確認します。テーマごとに求められる記録の種類は異なります。
研修実施記録
研修を実施した際に残す記録です。最低限、次の項目が記録されていることが求められます。
- 実施日時・場所
- 参加した従業者の氏名(または参加者名簿)
- 研修で扱った内容(テーマ・資料のタイトルなど)
- 研修を実施した担当者
「全従業者を対象として実施すること」(虐待防止研修など)という義務については、誰が受けて誰がまだ受けていないかが分かる記録がないと、義務の履行を確認しにくくなります。研修の実施記録と参加者名簿は一体で保管することが実務上は安全です。
確認テストの記録
基準省令や解釈通知には「確認テストを実施すること」という規定はありません。ただし、研修の内容を職員が理解しているかどうかの確認手段として、確認テストを実施してその結果を記録している事業所が増えています。
確認テストの結果を記録に残しておくと、「研修を実施した上で、理解の確認まで行っている」という実態を示しやすくなります。
委員会の開催記録
虐待防止委員会と身体拘束適正化委員会については、開催ごとに議事録を作成することが義務とされています(解釈通知)。記録に残すべき主な項目は次のとおりです。
- 開催日時・場所
- 出席者の氏名・役職
- 協議した事項(議題)
- 協議の内容と決定事項
特に感染対策委員会はおおむね3か月に1回以上の開催が義務であるため、年間を通じて記録が継続していることが確認されます。虐待防止委員会は少なくとも年1回の開催が義務です。
訓練の記録
感染症・BCP・非常災害については、訓練を実施した記録が必要です。訓練記録に残すべき主な項目は次のとおりです。
- 実施日時・場所
- 参加した従業者の氏名
- 訓練の想定シナリオ
- 実施した内容
- 気づいた課題
- 改善策・次回への申し送り
特に感染症とBCPの訓練は年2回・年1回それぞれ義務であるため、実施日が記録上で確認できることが重要です。
記録の保存期間
基準省令は、事業者が作成・保存する記録の保存期間を「完結の日から5年間」と定めています(居宅介護の第34条第2項・第198条で準用)。研修実施記録・委員会議事録・訓練記録もこれに該当します。
5年間の保存が必要になるため、紙で保管する場合は年度ごとにまとめてファイリングする、デジタルで保管する場合はバックアップを取る、という管理が継続的に必要になります。
年間計画との整合性も確認される
研修の年間計画を作成している事業所では、計画と実績の整合性も確認されます。年間計画を作成することは法令上の義務ではありませんが、解釈通知は「計画的に実施すること」という趣旨を示しており、多くの事業所が年間計画を作成しています。
年間計画と実績が一致していれば、運営指導の場でも義務の履行を示しやすくなります。計画倒れになっている月・テーマがないかを、運営指導の前に確認しておくことが対策の基本です。
年間計画で確認しておきたい主なポイントは次のとおりです。
- 義務の5テーマが計画に含まれているか
- 各テーマについて、解釈通知の定める回数(年1回以上・年2回以上など)が計画されているか
- 虐待防止委員会が少なくとも年1回以上計画されているか
- 実施した月の記録(実施記録・委員会記録・訓練記録)が残っているか
- 新入職員の研修(虐待防止・身体拘束・感染症)が入職後に実施されているか
運営指導前に整理しておくべき書類の全体像
研修に関して、運営指導前に手元に揃えておくと対応しやすい書類をまとめます。
| 書類の種類 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 研修実施記録(テーマごと) | 実施日・参加者・内容が記載されているか。全従業者が受けているか |
| 虐待防止委員会の議事録 | 少なくとも年1回の開催記録があるか |
| 身体拘束適正化委員会の議事録 | 年1回以上の開催記録があるか |
| 感染症訓練の記録 | 年2回以上の実施記録があるか |
| BCP研修・訓練の記録 | 各年1回以上の実施記録があるか |
| 非常災害訓練の記録 | 定期的な実施記録があるか(解釈通知に回数の定めなし) |
| 年間計画 | 実績と整合しているか |
いずれの書類も、保存期間は完結の日から5年間です(居宅介護の第34条第2項・第198条で準用)。過去5年分の記録が手元にない場合は、整備しておく必要があります。
A型に固有の研修テーマ:雇用契約と労働条件
就労継続支援A型は、利用者と雇用契約を結ぶサービスです。B型・グループホームなど他の障害福祉サービスとは異なり、労働基準法・最低賃金法が適用されます。
「雇用契約と労働条件」を研修テーマとして扱うことは、基準省令上の義務ではありません。ただし、最低賃金の遵守・労働条件の明示・就業規則の整備といった事項は、A型の運営において行政から確認される項目に含まれることがあります。
管理者・サービス管理責任者・職員が労働関係法規を正確に理解している状態を保つための手段として、研修として定期的に扱う事業所があります。このテーマの詳細については、別の記事(就労継続支援A型の「雇用契約と労働条件」、研修で扱わなければならない理由と内容。)で解説しています。
記録がない状態で指摘を受けた場合の対応
運営指導で「研修実施記録がない」という指摘を受けた場合、改善報告書の提出を求められることがあります。改善の方向性は「記録を整備する仕組みを作る」ことであり、さかのぼって記録を作成することは事後偽造になり得るため行いません。
指摘を受けた後は、次の年度以降の研修から記録を整備し始めることになります。ただし、過去の記録がなくとも研修を実施した事実はある場合が多いため、「今後は記録する体制を整える」という改善計画として回答することが一般的です。
記録の整備は事後に遡って行うことが難しいため、実施したタイミングで記録する習慣と、保管の仕組みを先に整えておくことが最も効率的です。
まとめ
就労継続支援A型の運営指導では、研修について次の4種類の記録が確認されます。
- 研修実施記録(日時・参加者・内容)
- 委員会の開催記録(虐待防止・身体拘束の適正化)
- 訓練の記録(感染症・BCP・非常災害)
- 年間計画との整合性
記録の根拠は指定障害福祉サービス等の基準省令と国の解釈通知です。保存期間は完結の日から5年間(居宅介護の第34条第2項・第198条で準用)。義務の回数(年1回以上・年2回以上など)は解釈通知で定められており、研修を計画的に実施して記録を残すことが、運営指導への最も確実な備えになります。
研修の義務の根拠と回数の詳細は、別の記事(就労継続支援A型の研修は、何が義務で、年に何回か。基準と解釈通知で確かめた一覧。)で解説しています。
就労継続支援A型の研修記録を、年間計画・実施記録・確認テスト・委員会記録まで一つのツールで管理できる「法定研修・訓練キット(就労継続支援A型版)」を公開しています。義務の5テーマを含む全12テーマに対応しており、無料版では虐待防止のテーマを全機能で試せます。


コメント