運転者の適性診断、いつ・誰に・どの診断を受けさせるか。

運転者の適性診断、いつ・誰に・どの診断を受けさせるか。 運送業(ドライバー教育)

貨物自動車運送事業者は、ドライバーに対して運転適性診断を受けさせる義務があります(輸送安全規則第9条の3)。義務の対象は「初任」「高齢者」「事故を起こしたドライバー」の3種類で、それぞれ受けさせる診断の種類と実施のタイミングが異なります。この記事では、3つの義務の内容を種類別に整理し、実施機関と手配の流れを説明します。

適性診断の義務は3種類ある

輸送安全規則第9条の3が定める適性診断の義務は、以下の3つに分かれます。それぞれ「誰に」「どの診断を」「いつ」受けさせるかが違います。

種類 対象のドライバー 診断のタイミング 実施機関
初任診断 新たに採用した運転者(乗務させる前) 乗務を開始する前 国土交通大臣が認定する機関
高齢者診断 65歳以上のドライバー 65歳に達した日以後1年以内に1回
その後は3年以内ごとに1回
国土交通大臣が認定する機関
事故惹起者診断 死傷事故を起こしたドライバー 再度乗務させる前 国土交通大臣が認定する機関

3種類とも「国土交通大臣が認定する機関」で受ける必要があります。代表的な実施機関は、独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)です。都道府県ごとに営業所を持っており、オンライン予約で診断を受けられます。

初任診断:採用のたびに必要

新たにドライバーを採用した場合、乗務を開始する前に初任診断を受けさせる必要があります(輸送安全規則第9条の3第1項第1号)。

初任診断のチェックポイント

  • 乗務前に受診が完了していることが条件(乗務を始めてから受診というのは義務の要件を満たさない)
  • 他社での運転経歴があっても、自社に新たに採用した時点で義務が発生する
  • 受診後、診断結果票を取得して保管する(事後の記録として必要)
  • NASVAは予約が必要で、繁忙期は混み合う。採用決定後すぐに予約を入れる習慣をつけると漏れが防ぎやすい

診断結果に基づいて、運行管理者がドライバーの特性(例:夜間注意が必要、特定状況で反応が遅い など)を把握し、乗務時の注意点を伝えることが求められます。診断を受けさせたことで終わりではなく、結果を指導・監督に活用することが義務の趣旨です。

高齢者診断:65歳以上のドライバーに定期的に

65歳に達したドライバーには、達した日以後1年以内に1回、その後は3年以内ごとに1回の受診義務があります(第9条の3第1項第2号)。

高齢者診断のチェックポイント

  • 65歳に達した日以後1年以内に最初の受診が必要(具体的な起算日については運輸局またはNASVAに確認することをお勧めします)
  • その後は3年以内ごと=「最後に受診した日から3年以内に次の受診を完了する」
  • 年齢管理が重要:ドライバー名簿や乗務員管理台帳で生年月日と最終受診日を管理すると漏れを防げる
  • 70歳・75歳などの節目でさらに義務が追加されるわけではなく、3年ごとの継続が基本

高齢ドライバーの事故防止という観点から、受診後の結果を踏まえた個別の指導が特に重要です。診断結果で注意点が指摘されている場合、その内容を指導記録に残しておくことが、事故発生時の証跡にもなります。

事故惹起者診断:死傷事故を起こしたドライバーに

死傷事故(人の死亡または負傷が発生した事故)を起こしたドライバーは、再度乗務させる前に受診させる必要があります(第9条の3第1項第3号)。

事故惹起者診断のチェックポイント

  • 「乗務を再開させる前」が条件。事故後に一定期間休業する場合でも、再度乗務させる前に受診させる
  • 軽微な接触事故ではなく、人の死傷を伴う事故が対象(物損のみの事故は義務の対象外)
  • 診断結果を踏まえた個別の指導・面談の記録を残しておく
  • 同時に、運行管理者による原因分析・再発防止策の検討と記録も必要(診断とセットで対応することが多い)

事故惹起者診断は、再発防止のための義務です。受診後の結果をどう活用したか(指導の内容・面談の記録)が、巡回指導や監査で確認される場合があります。

NASVAで受ける場合の手順

独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)は、全国の各都道府県に営業所を持ち、3種類の適性診断すべてを実施しています。

手順は大まかに次のとおりです。

  1. NASVAのウェブサイト(nasva.go.jp)から受診を希望する営業所を選び、オンラインまたは電話で予約を入れる
  2. 診断当日、ドライバーが営業所に出向いて診断を受ける(所要時間の目安:2〜3時間)
  3. 診断結果票を受け取り、事業者・ドライバーの双方が内容を確認する
  4. 結果に基づいた指導を行い、その内容を記録する

費用はNASVAの場合、診断の種類によって異なりますので、NASVAのウェブサイトで最新の料金を確認してください。

NASVAと告示認定機関の違い

NASVA以外にも、国土交通省が認定した機関(告示で定める要件を満たす機関)で適性診断を受けることができます。ただし、「告示で定める適性診断」の要件を満たした機関でなければ義務の充足にはなりません。

民間の安全コンサルタント会社が行う「運転者の安全運転診断」は、輸送安全規則の義務を満たすものとそうでないものがあります。受診機関を選ぶ際は、国土交通大臣の認定を受けているかどうかを確認する必要があります。

適性診断の記録の保存

適性診断を受けさせた記録は、定期指導の記録と同様に1年間保存することが求められます(実務的には、乗務員ファイルに診断結果票を綴じておくことが多い)。記録として手元に残しておくべきものは次のとおりです。

  • 診断実施日
  • 診断の種類(初任・高齢者・事故惹起者の別)
  • 受診した運転者の氏名
  • 実施機関名
  • 診断結果票(原本またはコピー)
  • 結果に基づいて実施した指導の記録(指導日・内容・指導者の氏名)

適性診断と定期指導は別の義務

適性診断(輸送安全規則第9条の3)と定期的な指導・監督(第10条)は、条文も義務の根拠も別です。適性診断を実施したことで12テーマの定期指導が免除されるわけではなく、逆に定期指導を年間実施していても適性診断の義務は残ります。

採用時は「初任教育(第10条の2)+初任診断(第9条の3)」の両方を行い、その後は「定期指導(第10条)」と「高齢者診断(65歳以上・第9条の3)」を継続する、という整理が基本です。

運送業 法定研修キット(12テーマ)について

定期指導の12テーマについては、研修資料・確認テスト・受講記録をブラウザで使える研修キットとして公開しています。適性診断とは別の義務ですが、教育と診断を合わせて整備することで、巡回指導での確認に対応しやすくなります。

運送業 法定研修キット(12テーマ)はこちら テーマ1(心構え)は無料でお使いいただけます。

初任運転者教育の内容・定期指導との違いは「運送業の初任運転者教育、定期指導と何が違うか。」を参照してください。

ドライバー教育の全体像は「運送業のドライバー教育、何が義務で年何回か。」をあわせてお読みください。

出典:貨物自動車運送事業輸送安全規則 第9条の3(e-Gov法令検索)、独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)ウェブサイト(nasva.go.jp)

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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