短期入所では認知症のある高齢障害者や、強度行動障害のある利用者を宿泊形式で受け入れる場面があります。不慣れな宿泊環境はBPSD(行動・心理症状)や強度行動障害のパニックを誘発するリスクがあります。家族からの引継ぎ情報を活かして環境調整と個別支援を準備することが、短期入所特有の対応の中心になります。
短期入所の宿泊環境は認知症・強度行動障害の利用者にとって高リスクな場面である
認知症や強度行動障害のある利用者にとって、普段と異なる場所・人・ルーティンへの変化は、大きなストレスになります。短期入所は家族のレスパイト(休息)として利用されることが多いため、利用者本人が「なぜここにいるのか」を理解していないままの入所となることもあります。
短期入所特有のリスク場面として次が挙げられます。
| リスク場面 | 起きやすいこと | 対応の方向性 |
|---|---|---|
| 入所直後 | 「家に帰りたい」という強い訴え・泣く・叫ぶ | 否定せず共感的に対応・安心できる物(家のものを持参してもらう) |
| 夕食後〜就寝前 | 日没症候群(夕方以降の混乱の増加)・徘徊 | 日中の活動量確保・就寝前の一定のルーティン・照明の調整 |
| 夜間 | 不眠・夜中の徘徊・叫び声・離床転倒 | 離床センサー設置・見回り間隔の短縮・夜間のルーティン確認 |
| 食事・入浴時 | 介助拒否・興奮・噛みつき | 手順・順番を家庭のやり方に合わせる・無理強いしない |
表は当方が短期入所のリスク場面を整理したものです。
BPSDへの対応は環境調整・安心できる関わり・薬以外の手段を先に試みる
BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia・認知症の行動・心理症状)には、徘徊・暴言・拒否・昼夜逆転・不潔行為などが含まれます。BPSDは認知症の周辺症状であり、環境・関わり方・身体的不快感(空腹・排泄・疼痛)が引き金になることが多いとされています。
短期入所での対応の原則として、薬物(向精神薬の増量)よりも先に環境調整と関わり方の工夫を試みます。具体的な対応として次が挙げられます。
- 徘徊への対応:「一緒に歩く」「目的地を聞いて一緒に向かう」ことで安心感を持たせる。廊下を安全に歩けるよう障害物を除去する
- 拒否(食事・入浴)への対応:無理強いをやめて時間を変える。家庭での入浴手順・好みの順番を聞いて合わせる
- 昼夜逆転への対応:日中の活動(散歩・体操・作業活動)を確保して夜間の眠りにつながるよう日課を設計する
- 暴言・興奮への対応:声のトーンを落とし、ゆっくりと話す。正面からの急な接触を避ける
BPSDが急激に悪化した場合は、身体的疾患(発熱・痛み・感染症・便秘)の可能性があります。バイタルを確認し、必要に応じて医療機関への連絡を行います(基準第46条)。
強度行動障害はABC分析でA(先行事象)への環境調整から始める
強度行動障害は、自傷(頭を打つ・手を噛む)・他害(叩く・噛む)・大声・パニック・食べ物でないものを食べる(異食)など、著しく支援が困難な行動が継続的に現れる状態です。
支援の基本はABC分析です。
- A(Antecedent・先行事象):その行動が起きる直前の状況・環境・引き金になった出来事
- B(Behavior・行動):具体的に何が起きたか(自傷・他害・パニックの内容と程度)
- C(Consequence・結果):その行動の後に何が起きたか(職員の反応・活動の中断・要求の充足など)
短期入所では家庭でのABC分析データを引継ぎ情報として受け取り、施設での環境に応用します。「家ではこの場面でパニックになる」という情報があれば、そのA(先行事象)に当たる状況を施設内で回避または調整します。
強度行動障害のある利用者の場合、スタッフが多く接触することがAにあたる場合もあります。「担当を固定する」「急に声をかけない」「活動の切り替え前に予告する」など、A段階での調整が基本です。
感覚過敏・こだわりへの対応は家族からの引継ぎ情報を最優先にする
自閉スペクトラム症(ASD)や発達障害のある利用者は、音・光・素材・においへの感覚過敏があることがあります。家庭では家族がすでに対応策を把握している場合が多いため、入所時の引継ぎ情報を丁寧に収集することが最も重要です。
入所時に家族から確認すべき項目(感覚・こだわり関連):
- 苦手な音・光・においの種類(蛍光灯のちらつき・掃除機の音・特定の食べ物のにおいなど)
- こだわりのある順番・ルーティン(食事の順番・着替えの手順・就寝前の活動など)
- 好きな活動・落ち着けるもの(特定のおもちゃ・音楽・毛布など)
- 特定の状況でパニックになりやすいタイミング(切り替え時・待つ時間など)
- 落ち着くための対処法(深呼吸・安心グッズ・一人になる空間)
これらの情報を引継ぎシートにまとめ、夜勤職員を含む全員が共有できるようにします。情報が多い場合は「最も重要なこと3点」を引継ぎシートの冒頭に記載します。
夜間の不穏・徘徊への記録は翌日のケアに活用できる情報として残す
夜間に不穏・徘徊・大声などが発生した場合は、次の事項を記録します。
- 発生時刻と継続時間
- 発生直前の状況(何があったか・前の活動・食事量・排泄の状況)
- 職員の対応と利用者の反応(どの対応で落ち着いたか・落ち着かなかったか)
- 睡眠の状況(その後眠れたか・何時ごろ眠ったか)
これらの記録を退所時に家族にフィードバックすることで、家庭での対応にも役立てることができます。また、次回の利用時(リピート利用)に個別支援計画を調整する根拠になります。
ただし、夜間の記録は夜勤体制が少人数の場合に詳細を残すことが難しい場面もあります。最低限「何時ごろ・何があったか・どう対応したか」の3点を記録する習慣を定着させます。
認知症・強度行動障害支援研修は年1回以上・家族からの情報活用を演習に含める
認知症・強度行動障害支援研修の法定義務回数は直接規定されていませんが、専門的支援技術として年1回以上の実施が適切です。基準第48条(第145条で準用)が定める勤務体制の確保と知識・技術の維持の観点からも重要です。
研修では知識の習得(BPSDとは何か・ABC分析とは何か)に加え、「実際の利用者情報をもとに支援計画を作る」演習を含めることで、引継ぎ情報の活用能力を育てることができます。
夜間の急変対応については短期入所の夜間・緊急時対応研修もあわせて確認してください。
研修資料・確認テスト・記録様式は法定研修・訓練キット(短期入所版)でまとめて用意できます。
この記事は、障害者総合支援法に基づく基準(平成18年厚生労働省令第171号)、解釈通知(障発第1206001号・最終改正令和7年3月31日)の原文を確認して書いています(確認日:2026年11月1日)。認知症の行動・心理症状(BPSD)・強度行動障害に関する内容は、厚生労働省および専門団体の公表情報をもとに整理しています。所在地の指定権者(都道府県・市)の案内もあわせて確認してください。作成:fufumumu_design


コメント