▶ 生活介護 法定研修・訓練キット
生活介護の事業所で、「身体拘束の研修をどう進めればよいか分からない」という声をよく聞きます。
身体介護が中心の生活介護では、他の障害福祉サービスと比べて身体拘束と紙一重の場面が起きやすく、研修の内容も具体的なものが求められます。
この記事では、生活介護における身体拘束の適正化委員会・指針・研修の義務を、省令の条文をもとに整理します。
根拠条文は省令第93条で準用される第40条です
生活介護の運営基準は、指定障害福祉サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)の第四章に定められています。
身体拘束については、同省令第93条の準用規定により、第40条が生活介護に適用されます(「第三十五条の二から第四十一条まで」を準用)。
第40条の規定内容(準用)
第40条は、次の3段構えで身体拘束の適正化を定めています。
- 原則禁止:緊急やむを得ない場合を除いて、身体拘束その他利用者の行動を制限する行為を行ってはならない
- 記録義務:緊急やむを得ず実施した場合は、その態様・時間・利用者の心身状況・緊急やむを得なかった理由を記録しなければならない
- 適正化の義務:次の措置を講じなければならない
- 身体拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を定期的に開催すること
- その結果を従業者に周知徹底すること
- 身体拘束等の適正化のための指針を整備すること
- 従業者に対し、身体拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること
「定期的」の具体的な回数については、厚生労働省の解釈通知(平成18年12月6日 障発第1206001号)等で年1回以上とされています。
生活介護では身体拘束と紙一重の場面が起きやすい
生活介護は、障害支援区分3以上(50人以上の事業所は区分4以上)の障害者を対象とした日中活動のサービスです。
入浴・排せつ・食事の介護が中心となるため、他のサービスと比べて次のような場面が起きやすいという特徴があります。
- 転倒防止のためにベルトで固定する
- 自傷防止のためにミトンやつなぎを使う
- 薬を飲ませるために手を押さえる
- 車いすから立ち上がらないようにテーブルをロックする
これらはいずれも、行為者が「利用者のため」と思っていても、省令上は身体拘束に該当する可能性があります。
「緊急やむを得ない場合」として認められるには、3つの要件をすべて満たす必要があります。
緊急やむを得ない場合の3要件
厚生労働省の「身体拘束ゼロへの手引き」では、緊急やむを得ないとして認められる要件を次の3つとしています。
- 切迫性:利用者本人または他の利用者等の生命、身体が危険にさらされている可能性が著しく高いこと
- 非代替性:身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する方法がないこと
- 一時性:身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること
この3要件はすべて同時に満たす必要があります。1つでも欠ければ、緊急やむを得ない場合には当たりません。
研修では、「安全のため」という言葉が3要件を満たすことの代わりにならないことを職員に理解してもらうことが重要です。
適正化委員会の役割と運営
省令が義務付ける「委員会」は、次の目的で定期的に開催するものです。
- 身体拘束に関する事例の振り返りと改善策の検討
- 指針の見直し
- 研修計画の確認
- 記録のモニタリング
委員会は年1回以上の開催が求められています(解釈通知より)。
委員の構成は省令に定めはありませんが、管理者・サービス管理責任者・生活支援員が参加する形が一般的です。
委員会の結果は従業者に周知徹底する必要があります。議事録を作成し、全職員が確認できる方法で共有します。
指針の整備:書くべき内容
「身体拘束等の適正化のための指針」には、少なくとも次の内容を盛り込みます。
- 身体拘束等の禁止に関する基本的な考え方
- 緊急やむを得ず実施する場合の手続き(3要件の確認、記録、家族への説明等)
- 実施した場合の記録の方法
- 委員会の開催と周知の方法
- 研修の実施計画
指針は作成するだけでなく、職員に周知することが義務です。新任職員への説明も忘れずに行います。
研修で伝えるべき内容
身体拘束の研修は、年1回以上の実施が求められています。
研修で伝えるべき内容を整理すると、次のとおりです。
知識(知っておくべきこと)
- 身体拘束に該当する行為の種類(11の禁止行為)
- 身体拘束が利用者に与える影響(身体的・精神的・社会的)
- 緊急やむを得ない場合の3要件
- 記録の書き方
- 事業所の指針の内容
判断力(現場で使える力)
- 日常のケアの中で身体拘束に当たる行為を見分ける
- 「なぜその行為が必要なのか」を3要件に照らして考える
- 代替手段を探す視点を持つ
報告・相談(組織的な対応)
- 困ったときに誰に相談するか
- 緊急やむを得ず実施したときの報告の流れ
- 委員会への報告
身体拘束の11の禁止行為
厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」では、身体拘束に該当する具体的な行為として次の11の行為を挙げています。
- 徘徊しないよう、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る
- 転落しないよう、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る
- 自分で降りられないよう、ベッドを柵(サイドレール)で囲む
- 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないよう、四肢をひも等で縛る
- 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないよう、または皮膚をかきむしらないよう、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける
- 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないよう、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける
- 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する
- 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる
- 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る
- 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる
- 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する
これらは生活介護の現場でも起きうる行為です。研修の中で、「こういう行為が該当する」と一つずつ確認することが大切です。
記録はこう書く
緊急やむを得ず身体拘束を実施した場合は、次の項目を記録します(省令第40条第2項より)。
- 態様:どのような拘束を行ったか
- 時間:いつから、いつまで実施したか
- 利用者の心身の状況:実施前後の状態
- 緊急やむを得なかった理由:3要件のどれに当たるか
記録は運営指導(実地指導)で確認される項目です。「理由」の欄が「安全のため」「転落の危険があったため」といった一言だけだと、3要件を満たしていることの説明が不十分とみなされることがあります。
具体的に何がどう危険だったのか、他の方法は検討したのかを記録に残すことが求められます。
運営指導で確認されるポイント
運営指導では、次のような書類の提出が求められることがあります。
- 身体拘束適正化委員会の議事録(過去1年分以上)
- 身体拘束等の適正化のための指針
- 研修の実施記録(参加者名簿・研修内容)
- 身体拘束を実施した場合の記録
特に委員会の議事録と研修の記録は、毎年の開催を証明するために必要です。
記録の様式は法令上の定めはありませんが、日付・出席者・内容が分かるものが必要です。
まとめ
- 生活介護の身体拘束の義務は、省令第93条の準用規定により第40条が適用される
- 委員会(年1回以上)・指針の整備・研修(年1回以上)の3つが義務
- 緊急やむを得ない場合の3要件(切迫性・非代替性・一時性)は研修の核心
- 実施した場合の記録は態様・時間・心身状況・理由の4項目
- 運営指導で確認される代表的な書類は委員会議事録・指針・研修記録
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