インボイスに登録した農家・漁師の消費税は、2026年分の2割特例、2027・2028年分の3割特例と進み、2029年分からは特例がなくなります。農産物・水産物の販売(飲食料品の譲渡)は、簡易課税では第2種(みなし仕入率80%)です。税込売上500万円なら、納める消費税は年約9.1万円から約13.6万円に増えますが、2029年分からは簡易課税の第2種に戻るため、2026年分と同じ約9.1万円で計算できます。建設業(第3種・30%)や軽貨物(第5種・50%)と比べて、農業・漁業のみなし仕入率は最も高い部類に入ります。
自分の売上を入れるだけで、年ごとの納める消費税と毎月の取り分けの目安が出るページも用意しています。農家・漁師のインボイス、2027年から消費税はいくら増える?(試算と農協・直売所への値上げ相談シート)
農産物・水産物の販売(飲食料品の譲渡)は、簡易課税では第2種(みなし仕入率80%)です
簡易課税は、売上にかかる消費税に、業種ごとの「みなし仕入率」をかけた額を、仕入れの消費税とみなして差し引く計算方法です。国税庁のタックスアンサー(No.6509)は、みなし仕入率80%の第2種事業を、次のように定めています。
「農業、林業、漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限ります。)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含みます。)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業をいいます。」
農産物や水産物を農協・直売所・スーパー・食品会社などに販売する事業は、「農業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)」として第2種にあたります。第2種なら、納める消費税は「売上にかかる消費税×20%」です。みなし仕入率80%は、第1種(90%)に次ぐ高さで、第3種(建設業・製造業等・70%)や第5種(軽貨物の運送・サービス業等・50%)より差し引ける割合が大きくなります。
なお、農作業の受委託(田植え代行・収穫代行・農薬散布など)は、第3種(みなし仕入率70%)になる場合があります。本業が農産物の販売であっても、受委託の売上が含まれる場合は、税務署や税理士に事業区分の確認をしてください。
2割特例と簡易課税の第2種は、同じ額になります
農家・漁師がインボイスに登録して課税事業者になった場合、消費税の計算は次のように変わります。
| 1年間の売上(税込) | 2026年分(2割特例) | 2027・2028年分(3割特例) | 2029年分から(簡易課税・第2種) |
|---|---|---|---|
| 300万円 | 54,545円 | 81,818円 | 54,545円 |
| 500万円 | 90,909円 | 136,364円 | 90,909円 |
| 700万円 | 127,273円 | 190,909円 | 127,273円 |
| 1,000万円 | 181,818円 | 272,727円 | 181,818円 |
表の1列目と3列目を見てください。2026年分(2割特例)と2029年分から(簡易課税の第2種)は、同じ額です。2割特例は売上にかかる消費税の20%を納める計算で、第2種の簡易課税も売上にかかる消費税の20%(=売上税額×(1-80%))を納める計算になるため、同じ結果になります。
つまり、農家・漁師にとって、インボイスに登録して増える消費税の負担が最も大きいのは、3割特例が適用される2027年分と2028年分の2年間です。2029年分から簡易課税の第2種に移ると、2026年分と同じ水準に戻ります。建設業の第3種(2026年分が20%、2029年分からが30%、と右肩上がり)や軽貨物の第5種(2026年分が20%、2029年分からが50%)と比べると、農業・漁業は2029年以降の負担が小さいのが特徴です。
3割特例は、届出なしで2027年分と2028年分に使えます
3割特例について、国税庁は次のように説明しています。
「インボイス発行事業者の登録を受けたことにより免税事業者から課税事業者となった個人事業者に係る令和9年分・令和10年分の消費税の確定申告において納付税額を売上税額の3割とすることができる特例です。」
同じ資料では、手続きは「事前に届出等の必要なく、申告書の所定欄に適用を受ける旨を記載するだけで適用可能」とされています。主な条件は、次のとおりです。
- 個人事業者で、インボイス発行事業者の登録を受けていること
- 2年前(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下であること。2027年分なら2025年、2028年分なら2026年の売上を見ます
- 前の年の1月〜6月(特定期間)の課税売上高も1,000万円以下であること(給与などの支払額で判定することもできます)
課税売上高は、消費税を除いた金額(税抜)で見ます。税込で1,100万円までなら、税抜では1,000万円以下です。個人の2割特例は、国税庁のインボイスQ&A(問115)にある「令和8年9月30日までの日の属する各課税期間」が対象なので、2026年分が最後です。
2029年分から簡易課税の第2種にするには、届出が必要です
2割特例・3割特例と違い、2029年分からの簡易課税には「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です。ただし、3割特例を使った翌年については特例があります。
「3割特例の適用を受けた翌課税期間であれば、その申告期限までに届出書を提出することで、その課税期間から簡易課税制度の適用を受けることが可能です。」
2028年分で3割特例を使った人は、2029年分の申告期限(2030年3月31日)までに届出書を出せば、2029年分から簡易課税で申告できます。申告の期限と手続きを年ごとに整理すると、次のとおりです。
| 年分 | 計算のしかた | 申告・納付の期限 | この年に関係する届出 |
|---|---|---|---|
| 2026年分 | 2割特例(条件を満たす場合) | 2027年3月31日 | 届出は不要 |
| 2027年分 | 3割特例(条件を満たす場合) | 2028年3月31日 | 届出は不要 |
| 2028年分 | 3割特例(条件を満たす場合) | 2029年3月31日 | 届出は不要 |
| 2029年分 | 簡易課税(第2種)か本則課税 | 2030年3月31日 | 簡易課税にするなら、この期限までに選択届出書 |
| 2030年分 | 2029年分に簡易課税を選んだ人は、簡易課税 | 2031年3月31日 | 本則課税に戻すなら、2030年中に不適用届出書(2031年分から) |
簡易課税を選んだら、少なくとも2年は続けることになります(国税庁タックスアンサーNo.6505)。農機具など高額な設備を購入する年は、実際の仕入れ消費税が80%を超えることがあり、本則課税のほうが少なくなる場合もあります。農機具の購入を2029年か2030年に予定している人は、この2年縛りも合わせて確認してください。
農協を通じた委託販売の場合も、消費税の申告は農家自身が行います
農協が農家の代わりに農産物を販売する「委託販売」の形をとっている場合も、消費税の申告は農家(委託者)が行うのが原則です。農協はあくまで農家の代理人として販売するため、インボイスを発行するのは農家自身です。ただし、農協の販売特例(農協が一括して精算する仕組み)を使っている場合は、インボイスの発行の仕方が通常と異なる場合があります。取引している農協に確認してください。
毎月の取り分けは、3割特例の2年間にまとめておくのが現実的です
2029年分からは2026年分と同じ水準に戻るとはいえ、3割特例の2年間は2026年分より多く納める必要があります。税込売上500万円の場合の目安です。
| 年分 | 1年で納める消費税 | 毎月の取り分け(目安) |
|---|---|---|
| 2026年分(2割特例) | 90,909円 | 約7,600円 |
| 2027・2028年分(3割特例) | 136,364円 | 約11,400円 |
| 2029年分から(簡易課税・第2種) | 90,909円 | 約7,600円 |
3割特例の2年間に毎月約1.1万円を取り分けておけば、2029年分からは約7,600円に戻ります。建設業や軽貨物と違い、2029年分以降の増え方がないため、取り分けの調整が比較的シンプルです。
農協・直売所・取引先に消費税分の価格上乗せを相談することも、選択肢の1つです。国のQ&Aは、免税事業者から課税事業者になった取引先について、新たに納める消費税分を「明示的に協議することなく取引価格を据え置くこと」は問題となるおそれがある、としています(出典:財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」Q5)。
よくある質問
農業サービス業(田植え代行・農薬散布など)は、第2種ではありません
農作業の受委託は、サービス業として第5種(みなし仕入率50%)か、農業に付随する事業として第3種(70%)のどちらになるかで見方が分かれる場合があります。農産物の販売と農業サービスを両方行っている場合は、税務署か税理士に確認してください。
登録していない(免税のまま)なら、消費税は納めません
免税事業者のままなら、あなたが消費税を納めることはありません。そのかわり、農協・直売所・取引先は、あなたへの支払いに含まれる消費税を段階的に差し引けなくなります(2026年10月からは50%、2029年10月からは0%しか控除できない)。その分、単価の見直しを求められることがあります。
2年前の課税売上高が1,000万円を超えた年は、3割特例を使えません
その年は、簡易課税か本則課税で計算します。売上が伸びている人は、2年前の売上(税抜)を確かめておきましょう。
農業共済・農地の固定資産税・農協費などは、消費税のかかる経費に含めません
本則課税で経費の消費税を差し引く場合、農業共済の掛金・農地の固定資産税・農協の組合費・国民健康保険料などは消費税がかかりません。消費税のかかる経費は、農薬・肥料・農機具のリース・修理・燃料・スマホ代などです。迷うものは税務署に確認してください。
まず、自分の売上で一度数字にしてみてください
3割特例の2027・2028年分は、2026年分より増えますが、2029年分から簡易課税の第2種(80%)に移れば、もとの水準に戻ります。建設業や軽貨物と違い、2029年以降に大きく増える構造ではありません。
それでも、3割特例の2年間に増える分をどう準備するか、農協・直売所・取引先に相談するかどうかは、自分の売上の額で判断するのが確実です。売上と経費を入れるだけで、2026年から2031年までの年ごとの納める消費税と、毎月の取り分けの目安が出るページを作りました。
▶ 農家・漁師のインボイス、2027年から消費税はいくら増える?(試算と農協・直売所への値上げ相談シート)
この記事の数字は、国と地方を合わせた消費税10%で計算した概算です(端数処理なし)。個別の税額や、どの方式を選ぶかの判断は、税務署や税理士に確かめてください。出典:国税庁「令和8年度税制改正特集 3割特例(PDF)」、国税庁「インボイスQ&A 問115」、国税庁「タックスアンサーNo.6509」、国税庁「タックスアンサーNo.6505」、財務省ほか「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(いずれも2026年9月28日確認)。


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