BCP(業務継続計画)を「作った」で終わっていませんか。
障害福祉サービスの基準は、BCPの策定だけでなく、職員への研修と定期的な訓練を、あわせて義務としています。これは放課後等デイサービス、児童発達支援、障害者グループホーム、就労継続支援B型など、多くのサービス種別に共通するルールです。
こども家庭庁・野村総合研究所の調査(令和6年3月・n=4,142事業所)によると、「今後研修を実施したい内容」で「災害対策」を選んだ事業所は45.2%でした。半数近くの事業所が必要だと分かっていながら、BCPの研修は後回しになっています。理由は「研修を受講する時間的余裕がない(60.0%)」「体系やカリキュラムを整備できていない(39.5%)」が上位を占めています。
この記事では、BCPに関する基準の正確な義務の範囲、研修と訓練の違い、訓練が難しい理由、そして実際の運営指導で何が確認されているかを整理します。
BCPの義務は、3つに分かれている
放課後等デイサービスと児童発達支援の基準(指定通所支援の事業の人員及び設備及び運営に関する基準。放デイは第71条で準用)第38条の2は、次の3つを事業者に求めています。
- 業務継続計画の策定
- 策定した計画に沿った研修および訓練の定期的な実施
- 計画の定期的な見直しと必要な変更
「作ること」だけが義務ではありません。「研修を行うこと」と「訓練を行うこと」も、同じ条文で並べて義務とされています。
障害者グループホーム(共同生活援助)や就労継続支援B型でも、同様にBCPの策定・研修・訓練が基準に定められています。義務の構造はどのサービスでも変わりません。
研修と訓練は、内容が違う
「研修」と「訓練」は、BCPの基準の中で別の言葉として使われています。実務では混同しやすいので、ここで整理しておきます。
研修は、BCPの内容を職員が理解することを目的にします。自然災害や感染症が発生したとき、事業所として何を守り、どの順番で対応するか。それを職員が知っている状態にすること。新しく入った職員への実施も含まれます。
訓練は、実際に動いてみることです。緊急連絡網を試す、避難経路を歩いてみる、代替場所を確認する。机上の計画が現実に機能するかを、シミュレーションや実地で確かめること。計画の穴は、訓練の中でしか見えません。
厚労省「障害福祉サービス事業所等における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」(令和3年3月)は、「業務継続計画に基づいた研修・訓練の実施」を義務化の趣旨として説明しています。計画を棚に置かず、実際に使えるものにするための研修と訓練です。
訓練の実施が一番難しい理由
現場で話を聞くと、BCPを作ること自体は終わっている事業所が増えています。2024年4月の義務化に合わせて、厚労省のひな形を使って完成させた、という事業所が多い印象です。
難しいのは、訓練です。
第一に、「何を訓練すればよいのか」が分かりにくい。避難訓練はイメージできても、BCPの訓練となると、どこから手をつけてよいか分からない担当者が多い状態です。
第二に、通所系のサービスは利用者がいる時間に訓練をしにくい。日中に利用者が来ている状況で、職員だけが訓練に集中する時間を作るのは難しい。だから「近いうちにやる」と先送りになります。
第三に、訓練の記録をどう残すかが定まっていない。研修であれば「職員が出席して資料を読んだ」という形が作りやすいですが、訓練の場合は「何をどこまでやったか」の記録様式が曖昧になりがちです。運営指導で確認が入ったとき、記録が残っていないと訓練を実施した証明ができません。
東京都の運営指導で確認されていること
東京都が公表している「令和6年度 集団指導 実地検査における主な指摘事項」(障害児通所支援・令和5年度実績)を見ると、文書指摘の1位は「虐待防止の体制整備の不備」、3位が「身体拘束適正化の体制不備」です。BCPについての指摘は、現時点では主要な指摘事項には入っていません。
これは「BCPが確認されていない」という意味ではありません。义務化から日が浅いため、まだ指摘の蓄積が出てきていない段階です。虐待防止と身体拘束は義務化の歴史が長く、指摘件数も多い。BCPは今後、運営指導で確認が強化される可能性があります。
対策を先に進める根拠として、この流れを理解しておくことは重要です。虐待防止と身体拘束は、義務化から数年後に指摘の件数が増えました。BCPも同じ経過をたどる可能性は高い。
国の調査が示す「研修ニーズはあるが、後回しになっている」現状
こども家庭庁委託・野村総合研究所「障害児支援における人材育成研修に関する実態調査」(令和6年3月。n=4,142事業所)は、事業所が今後研修を実施したいと思っているテーマの順位を公表しています。
| テーマ | 選択した事業所の割合 |
|---|---|
| 障害特性の理解 | 70.7% |
| 発達支援とは | 69.9% |
| 虐待について | 57.9% |
| 職員の虐待予防 | 55.4% |
| (中略) | |
| 感染症対策 | 49.0% |
| 災害対策(BCP含む) | 45.2% |
| 個人情報保護・守秘義務 | 41.4% |
出典:こども家庭庁委託・野村総合研究所「障害児支援における人材育成研修に関する実態調査」令和6年3月、問124(複数回答)
災害対策は45.2%で、半数近くの事業所が「実施したい」と回答しています。ニーズがないわけではない。しかし実施できていない。同調査によると、人材育成上の課題として「研修を受講する時間的余裕がない(60.0%)」「体系やカリキュラムを整備できていない(39.5%)」が上位に入っています。BCPの研修・訓練が進まない背景は、ここにあります。
BCPには「自然災害」と「感染症」の2種類がある
BCPといったとき、1つの計画書を指しているとは限りません。厚労省の障害福祉分野のガイドラインは、「自然災害」と「感染症」を別々に出しています。
- 「障害福祉サービス事業所等における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」(令和3年3月)
- 「障害福祉サービス施設・事業所における感染症対応のための業務継続ガイドライン」(令和3年3月)
自然災害BCPが対象にするのは、地震・水害・台風などで施設が使えなくなったときにどう業務を続けるかです。感染症BCPが対象にするのは、新型コロナウイルスのような集団感染が起きたときにどう対応するかです。
両者では、対応の中心が違います。自然災害では施設・設備・連絡体制が焦点になります。感染症では職員と利用者の健康管理、感染拡大の防止手順、行政・医療機関への報告が焦点になります。
基準第38条の2が求めている研修・訓練は、この両方についてです。どちらか一方だけを計画・研修して、もう一方を後回しにしているケースがあります。事業所のBCPを見直すとき、「自然災害」と「感染症」の両方が書かれているかを確認してください。
BCPを見直すタイミングと、見直しで確認すべき内容
基準は「定期的な見直し」を義務としています。「定期的」の頻度は基準の条文には定まっていません。一般的には年1回を目安にしている事業所が多いですが、次のような変化があった場合は、その都度見直しが必要です。
- 職員の異動や退職があり、緊急連絡先や対応担当者が変わった
- 事業所の所在地、施設、利用者数が変わった
- 代替場所として設定していた場所が使えなくなった
- 地域の避難計画や連絡体制が変わった
- 前回の訓練で課題が見つかり、計画を修正した
見直しで確認する内容として、特に見落とされやすいのは「連絡先の更新」です。担当者の携帯番号が変わっていても、BCPに書いてある番号が古いままになっているケースがあります。年1回の見直しのタイミングで、全ての連絡先を実際に確認することを、手順に入れておくことを勧めます。
BCPの研修で最初に確認すること
BCPの研修をどこから始めるか迷っている場合は、自分の事業所のBCPに書いてある「初動の対応」を職員全員が知っているかどうかを確かめることから始めるのが実際的です。
具体的には次の3点です。
- 緊急時に最初に誰に連絡するか(第一連絡先と、第一が取れない場合の第二連絡先)
- 管理者が不在のとき、誰が判断するか(代理の権限が誰にあるかが決まっているか)
- 利用者を安全な場所に移す場合、どこに移動するか(代替場所が具体的に決まっているか)
この3点について、職員全員がすぐに答えられる状態になっていれば、BCPは「使える」状態に近づいています。答えられない職員がいれば、そこが研修で埋める穴です。
研修は難しい内容を長時間やる必要はありません。「このBCPの初動の3点を確認する」という目的を定めて、30分を1回やる。そのうえで、「実際に連絡を入れてみる」訓練を別に1回やる。これを年に1回以上実施して記録を残せば、基準が求めている「定期的な実施」の形ができます。
30分でできるBCP机上訓練の手順
「訓練と言われても何をすればいいか分からない」という担当者のために、放デイ・児発でよく使われる机上訓練の手順を一例として示します。
机上訓練とは、実際に体を動かすのではなく、シナリオに沿って「自分ならどう動くか」を言葉で確認する形の訓練です。体育館を使う避難訓練と比べて、利用者が来ている日中でも職員の入れ替わりで実施しやすく、記録も残しやすい利点があります。
手順の例(所要時間の目安:30分)
-
シナリオを読む(5分)
例:「台風が接近し、市から避難指示が出た。現在15時で、利用者7名が在籍している。管理者は外出中で、電話が通じない。」 -
BCPの「初動の対応」を確認する(10分)
その場にいる職員で、「誰が誰に連絡するか」「利用者をどこに移動させるか」「保護者への連絡はどうするか」を、BCPの記載に沿って確認する。 -
「できなかった」を洗い出す(10分)
BCPを見ながら確認した結果、「連絡先が分からなかった」「代替場所が決まっていなかった」「管理者が不在のときの判断権限が書いていなかった」など、計画の穴を言葉に出す。 -
課題と次の対応を記録する(5分)
洗い出した穴を記録用紙に書き、担当者と対応期限を決める。
このような机上訓練を年1回実施して記録を残せば、基準の「定期的な訓練」の最低限の形を作ることができます。訓練の難易度は、「やってみる」という最初の1回を超えることが最大の壁です。
BCP訓練の記録をどう残すか
運営指導で確認が入ったとき、記録が残っていないと実施したことの証明ができません。BCP訓練の記録は、次の内容が入っていれば最低限の形になります。
- 実施日
- 参加した職員の名前(または署名)
- 何を訓練したか(緊急連絡、避難、など)
- 確認できた課題と、次の対応
「課題と次の対応」が入っていると、形だけでなく「実際に考えた」記録として残ります。訓練を通じて見つけた課題は、BCPの次回見直しに反映させる。この流れが、基準が求めている「定期的な見直し」にもつながります。
BCPの訓練と「避難訓練」は別物
現場で混同しやすいのが、BCPの訓練と、消防・非常災害対応の避難訓練です。
放デイ・児発の基準は、BCPの訓練(第38条の2)と非常災害対応の訓練(第40条)を、別の条文で定めています。毎年実施している火災・水害の避難訓練はあくまで非常災害対応の訓練です。それとは別に、BCPの訓練(業務継続の観点からの連絡・体制・代替対応の確認)が必要です。
避難訓練だけを毎年実施して、「訓練はやっている」とBCPの訓練と混同しているケースがあります。BCPの研修・訓練の義務は、避難訓練で代替できません。
グループホームのBCPで特に気をつけること
障害者グループホームは、利用者が24時間生活している場です。放デイや児発と違い、夜間・休日の緊急対応が避けられません。BCPで特に確認が必要なのは、夜間・休日に緊急事態が発生したときの初動です。
夜勤職員が1人しかいない状況で、地震や停電が起きたとき、誰に連絡するか。複数の利用者の安全確認を1人でどう回すか。これが計画に書かれていても、実際に動けるかどうかは訓練次第です。グループホームのBCPは、特に「夜間の初動」シナリオで机上訓練を行うことで、計画の穴を見つけやすくなります。
研修と訓練を一括して管理する方法
放課後等デイサービス・児童発達支援では、BCPのほかに、虐待防止・身体拘束の適正化・感染症・安全計画・非常災害の合計6テーマで研修または訓練が義務とされています。障害者グループホームや就労継続支援B型でも、同様に複数テーマの研修・訓練が義務です。
テーマごとにバラバラに管理していると、「今年どれをやったか」「誰がまだ受講していないか」が分からなくなります。1枚の一覧表で、テーマ別・職員別の研修の状況と、訓練の実施記録を並べて見えるようにしておくと、漏れを防ぎやすくなります。
当サービス「法定研修・訓練キット」は、放デイ・児発(または障害者GH・就労継続支援B型)の義務となっている研修と訓練を1つの画面で管理できるツールです。職員がスマホで研修を受け、管理者が記録を一覧で確認できます。BCP訓練の記録様式、委員会の議題案の自動作成も含みます。
まとめ
- BCPの基準は、策定・研修・訓練の3つをあわせて義務としている(放デイ・児発は基準第38条の2。GH・B型も同様)
- 研修は「内容を理解させること」、訓練は「実際に動いてみること」で、目的が違う
- 国の調査によると、災害対策の研修ニーズは45.2%あるが、「時間がない」「カリキュラムがない」で後回しになっている
- 東京都の運営指導実績では、BCPの指摘はまだ少ない。ただし義務化から日が浅いためで、今後強化される可能性がある
- 訓練の記録には「実施日・参加者・訓練内容・課題と次の対応」を残す
- 複数テーマの研修・訓練を一括して管理すると、漏れが減る
- BCPの訓練と消防・非常災害対応の避難訓練は、別の義務。避難訓練だけでBCPの訓練を代替できない
- グループホームは夜間の初動シナリオで机上訓練をすると、計画の穴が見えやすい
参照した主な資料:指定通所支援の事業の人員及び設備及び運営に関する基準第38条の2(2025-10-01施行版)/厚労省「障害福祉サービス事業所等における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」令和3年3月/こども家庭庁委託・野村総合研究所「障害児支援における人材育成研修に関する実態調査」令和6年3月/東京都「令和6年度集団指導 実地検査における主な指摘事項」


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