家族信託の不動産登記(信託登記):手続き・費用・登録免許税・注意点

家族信託で不動産を信託財産に含める場合は「信託登記(不動産の信託の登記)」が必要だ。信託登記をしないと、不動産を受託者が管理・活用することができない。信託登記の仕組み・手続き・費用・注意点を整理した。

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家族信託の不動産登記とは何か

家族信託で不動産を信託財産に含める場合は「不動産の所有権移転(委託者から受託者へ)」と「信託の登記」の2つを同時に行う必要がある(不動産登記法第98条)。

  • 登記後は「受託者の名義」になる:信託登記後、不動産の登記簿上の所有者(名義人)は受託者になる。ただし登記簿には「信託」の表示がされ、受益者・委託者・信託目的等が「信託目録」に記録される
  • 「信託目録」には信託の内容が記載される:信託目録には「委託者・受託者・受益者の氏名」「信託の目的」「信託財産の管理・処分の方法」「信託終了事由」等が記載される。信託の実質的な内容が登記簿から確認できる
  • 信託登記がないと受託者が不動産を活用できない:登記がない状態では、法律上は不動産がまだ委託者のものとして扱われるため、受託者が不動産の売却・賃貸借契約・担保設定等を行えない。信託契約書を締結したら速やかに信託登記を行うことが重要だ

信託登記の手続きの流れ

家族信託の不動産登記の手続きを整理した。

  1. 司法書士に依頼する(原則):信託登記は「所有権移転登記」と「信託の登記」を同時に行う複雑な手続きのため、実務上は司法書士に依頼することがほとんどだ。自分で行う「本人申請」も法律上は可能だが、信託目録の内容等が複雑なため専門家に依頼することをすすめる
  2. 信託契約書の内容を確認する:信託目録に記載する内容(受益者・信託目的・管理方法等)は信託契約書の内容と一致させる必要がある。信託契約書の作成と登記の依頼を同じ司法書士に頼むと齟齬が生じにくい
  3. 登記申請書と信託目録の作成:司法書士が登記申請書(所有権移転登記と信託の登記)と信託目録(信託の内容を記録した書類)を作成して法務局に申請する
  4. 法務局での審査・登記完了:申請から登記完了まで通常1〜2週間(法務局の混雑状況による)

信託登記の費用(登録免許税)

家族信託の不動産登記に必要な費用を整理した。

  • 所有権移転登記(委託者→受託者)の登録免許税:固定資産税評価額の0.3〜0.4%(信託を原因とする所有権移転は通常の売買2%より安い)。ただし土地は0.3%・建物は0.4%と異なる(登録免許税法第9条・別表第1)
  • 信託の登記の登録免許税:土地1件につき1,000円・建物1件につき1,000円(登録免許税法第9条・別表第1)
  • 司法書士報酬:不動産1件につき3〜10万円程度(司法書士事務所・不動産の価額・複雑さによって異なる)。複数の不動産を一度に信託する場合は合計金額が増える
  • 費用の目安(固定資産税評価額3,000万円の土地・建物の場合):登録免許税(土地)=3,000万円×0.3%=9万円、登録免許税(建物)=3,000万円×0.4%=12万円、信託の登記=土地・建物各1,000円=2,000円、司法書士報酬=5〜10万円程度。合計26〜31万円程度

「不動産取得税」は原則かからない

家族信託の不動産登記に伴って「不動産取得税(都道府県税)」の課税があるかどうかは多くの人が疑問に思う点だ。

  • 委託者→受託者への信託による所有権移転は不動産取得税が非課税:地方税法第73条の7第3号では、信託(遺言信託を除く)による不動産の取得は不動産取得税を非課税としている。家族信託で委託者が不動産を受託者に移転する際は不動産取得税がかからない
  • 信託終了後に帰属権利者・受益者に移転する場合も非課税になる場合がある:信託終了後の帰属権利者への移転も一定の要件を満たせば非課税になる場合がある(地方税法第73条の7第4号)。ただし受益者が変わっている場合等は課税になる可能性があるため、都道府県税事務所に確認することをすすめる
  • 信託財産を売却する場合は通常通り課税される:信託期間中に不動産を売却(信託財産を処分)する場合は、取得者に対して通常通り不動産取得税・登録免許税が課税される

「信託目録」の変更が必要な場合

信託設定後に信託の内容が変わった場合は「信託目録の変更登記」が必要だ(不動産登記法第103条第1項)。

  • 受益者が変わった場合:受益者の変更(受益者の死亡による次順位受益者への移転を含む)が生じた場合は、信託目録の受益者欄を変更する登記が必要
  • 受託者が変わった場合:後継受託者への交代・受託者の辞任等で受託者が変わった場合は、登記簿上の所有者(受託者の名義)を変更する登記が必要
  • 信託の内容(管理・処分の方法等)が変わった場合:信託契約書を変更して信託の目的・管理方法等を修正した場合は、信託目録の内容も変更登記が必要
  • 変更登記の費用:信託目録の変更登記の登録免許税は不動産1件につき1,000円(登録免許税法第9条・別表第1)+司法書士報酬(1〜5万円程度)

信託終了時の「信託登記の抹消」

家族信託が終了した場合は「信託登記の抹消」と「帰属権利者への所有権移転登記」が必要だ。

  • 信託終了後は速やかに登記を行う:信託が終了しても登記の抹消・移転登記をしないと、登記簿上は受託者名義のまま(信託の表示あり)になる。帰属権利者が不動産を売却・賃貸する際に支障が出るため、速やかに対応することが重要だ
  • 抹消登記と所有権移転登記の費用:信託登記の抹消(1,000円)+所有権移転登記(固定資産税評価額の0.4%:受益者死亡による相続の場合)または2%(売買等の場合)+司法書士報酬(3〜10万円程度)
  • 委託者(受益者)の相続人が複数いる場合の注意:信託終了後に不動産が帰属権利者ではなく「委託者の相続人全員」に帰属する設計になっている場合(帰属権利者の指定漏れ等)は、相続人全員の合意(遺産分割)が必要になる場合があるため注意が必要だ

「信託登記」と「担保の登記」の関係

不動産に抵当権等の担保が設定されている場合の信託登記の注意点を整理した。

  • 抵当権が設定されている不動産の信託:抵当権(住宅ローン・アパートローン等)が設定されている不動産を信託する場合は、抵当権者(金融機関)の承諾が必要になることが多い。抵当権の「債務者(ローンを借りた人)」が変わると抵当権の内容が変わるためだ
  • 信託後も抵当権は消えない:信託登記後も不動産に設定されていた抵当権はそのまま残る。受託者が不動産を管理・運用する際は、ローンの返済は引き続き委託者(受益者)の資金から行うことが通常だ
  • 信託財産を担保に新たに融資を受ける場合:信託財産(不動産)を担保に新たに融資を受けることは、信託法第21条第1項第3号により「信託財産に属することが記録または公示された」財産への強制執行はできないとされており、実務上難しいケースが多い。融資が必要な場合は信託前に行うか、信託条件に担保設定を認める条件を入れておく必要がある

「住宅ローンが残っている不動産」の信託

住宅ローン残債がある不動産を信託財産に含める場合の注意点を整理した。

  • 金融機関(ローン債権者)の承諾が必要:住宅ローンが残っている不動産を信託する場合は、融資をしている金融機関の承諾が必要になることが多い(抵当権設定の条件として委託者名義を維持することが求められる場合がある)
  • 金融機関によって対応が異なる:住宅ローンが残っている不動産の信託について、積極的に対応している金融機関とそうでない金融機関がある。事前に金融機関に相談・確認することが必要だ
  • アパートローン(賃貸不動産)の場合:賃貸アパート等に融資している金融機関に相談して承諾を得た上で信託登記を行う形が実務上多い。融資先によっては信託を認めないケースもある

「信託登記」と「相続登記」の違いと注意点

親が亡くなって不動産を相続する「相続登記」と、家族信託の「信託登記」の違いを整理した。

  • 相続登記は「所有者を相続人に変える」・信託登記は「管理者(受託者)に変えて受益権は受益者のまま」:相続登記は不動産の法律上の所有者を被相続人から相続人に変える手続きだ。信託登記は法律上の所有者を受託者にするが、財産の実質的な権利(受益権)は受益者が持つ点が異なる
  • 登録免許税の違い:相続登記の登録免許税は固定資産税評価額の0.4%(2024年4月から相続登記の義務化が施行)。信託による所有権移転は土地0.3%・建物0.4%と相続登記に近い水準だが、算定ベースは同じ固定資産税評価額だ
  • 親が認知症になってからでは信託登記できない:信託契約(委託者の意思による信託設定)は委託者の意思能力が必要だ。親が認知症で意思能力を失った後は信託設定ができず、信託登記もできない。認知症の診断が出る前に手続きを進めることが最重要の前提条件だ
  • 信託登記後は相続登記が不要(原則):信託を設定しておけば、委託者(親)が亡くなっても「信託財産の帰属権利者への移転」は「信託の清算手続き」として処理できる。通常の相続で発生する不動産の「遺産分割協議」「相続登記」が不要になる点が家族信託のメリットの一つだ

この記事のまとめ

  • 家族信託で不動産を信託する場合は「所有権移転登記(委託者→受託者)」と「信託の登記」を同時に行う(不動産登記法第98条)
  • 登録免許税:土地0.3%・建物0.4%(固定資産税評価額)+信託登記1,000円/件+司法書士報酬(3〜10万円程度)
  • 不動産取得税:委託者→受託者への信託による移転は非課税(地方税法第73条の7第3号)
  • 信託目録の変更登記:受益者・受託者の変更や信託内容の変更が生じた場合に必要(不動産登記法第103条第1項)。登録免許税1,000円/件+司法書士報酬
  • 信託終了時:信託登記抹消(1,000円)+帰属権利者への所有権移転登記(0.4〜2%)+司法書士報酬。速やかに対応する
  • 住宅ローン残あり:金融機関の承諾が必要。事前確認が必須
  • 相談先:司法書士(登記手続き)・弁護士(信託契約書の内容確認)・金融機関(住宅ローン承諾確認)

出典:信託法第23条(信託財産の分別管理)、不動産登記法第98条(信託登記の申請)・第103条(信託目録の変更登記)・第104条(信託登記の抹消)、登録免許税法第9条・別表第1(信託による所有権移転・信託登記の税率)、地方税法第73条の7第3号(信託による不動産取得の非課税)

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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