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居宅介護支援費には「逓減制」と呼ばれる仕組みがあります。同じ介護支援専門員が担当する利用者が増えるにつれて、1件あたりの報酬単価が下がる制度です。
担当件数が45件に達すると単価が約50%になり、60件を超えると約30%になります。事業所の収入計算で見落としやすい部分ですが、開業後の経営に直結するしくみです。この記事では、逓減制のしくみと、担当件数ごとの収入がどう変わるかを具体的な数字で整理します。
逓減制は、担当件数45件と60件で単価が変わる
居宅介護支援費の逓減制は、令和8年6月適用の告示第125号に基づいて定められています。介護支援専門員1人が同一月に担当する利用者数によって、適用される報酬区分が変わります。
| 区分 | 担当件数の範囲 | 要介護1・2(単位) | 要介護3〜5(単位) |
|---|---|---|---|
| 居宅介護支援費(Ⅰ) | 45件未満 | 1,086 | 1,411 |
| 居宅介護支援費(Ⅱ) | 45件以上60件未満 | 544 | 704 |
| 居宅介護支援費(Ⅲ) | 60件以上 | 326 | 422 |
出典:「指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準」(令和8年厚生労働省告示第125号)。
費(Ⅱ)は費(Ⅰ)の約50%、費(Ⅲ)は費(Ⅰ)の約30%の水準になります(要介護1・2:544÷1,086≈50%、326÷1,086≈30%)。
担当件数44件と45件で、月収入はどう変わるか
具体的な数字で確認します。要介護3〜5の利用者が中心で、地域単価を10.00円(その他地域)、特定事業所加算なしと仮定した場合です。
| 担当件数 | 適用区分 | 単位(要介護3〜5) | 月収入の目安 |
|---|---|---|---|
| 44件 | 費(Ⅰ) | 1,411 | 約62万円 |
| 45件 | 費(Ⅱ)に切替 | 704 | 約32万円 |
| 60件 | 費(Ⅱ) | 704 | 約42万円 |
| 61件 | 費(Ⅲ)に切替 | 422 | 約26万円 |
※要介護3〜5の利用者のみと仮定した場合の概算。実際は要介護度の構成比によって変わります。
44件から45件に担当が1件増えた時点で、月収入が62万円から32万円へと約30万円下がる計算になります。件数を増やすほど単価が下がるため、収入の増え方が急に鈍くなる構造です。
逓減制には「ICT活用」による緩和措置がある
逓減制が適用される件数の基準には、特定の条件を満たした場合の緩和措置があります。
介護支援専門員が電磁的記録で業務を行い、テレビ電話等の活用などの条件(ICT活用・事務職員配置等)を満たす場合、費(Ⅱ)が適用される件数の下限が45件から50件に、費(Ⅲ)が適用される件数の下限が60件から70件に引き上げられます。
出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の概要」(居宅介護支援費に関する見直し部分)。
ただし、緩和措置の要件はケアマネジャーの業務記録の電子化・連絡手段等の整備が前提になるため、開業時から対応できるかどうか事前に確認が必要です。
収入の試算で押さえる3つの変数:件数・要介護度・地域単価
逓減制を踏まえた収入の試算には、次の3つの変数が必要です。
① 担当件数(逓減制の区分が変わる境目)
45件未満・45〜60件・60件以上の3段階で単価が変わります。44件と45件では月次の収入に大きな差が出るため、件数の増え方の計画に注意が必要です。
② 利用者の要介護度の構成
要介護1・2は1,086単位、要介護3〜5は1,411単位と単価が異なります(費(Ⅰ)の場合)。同じ件数でも要介護度の重い利用者が多いほど収入は増えます。ただし、開業前の段階では利用者の構成比を正確に予測することは難しいため、「要介護1・2が半分、3〜5が半分」のような仮定で試算するのが現実的です。
③ 地域区分の単価
1単位あたりの単価は地域区分によって10.00円〜11.40円の範囲で変わります(告示第539号)。都市部や特別区では単価が高くなるため、開業予定地の単価を確認しておくことが必要です。
特定事業所加算を取ると収入がどう変わるか
居宅介護支援には特定事業所加算という加算制度があります。一定の要件を満たすことで、基本報酬に加えて1人あたり月額の単位数が加算されます。
| 区分 | 加算単位(月/利用者) |
|---|---|
| 特定事業所加算(A) | 114単位 |
| 特定事業所加算(Ⅲ) | 323単位 |
| 特定事業所加算(Ⅱ) | 421単位 |
| 特定事業所加算(Ⅰ) | 519単位 |
出典:「指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準」(令和8年厚生労働省告示第125号)。
たとえば、担当件数30件(費(Ⅰ)の範囲)で特定事業所加算(A)を取得している場合、加算収入は1か月あたり30件×114単位×10円=34,200円の追加になります。加算(Ⅰ)であれば30件×519単位×10円=155,700円と大きな差が出ます。
ただし、特定事業所加算(Ⅰ)には、主任ケアマネを複数名配置すること、医療・福祉の専門的な研修を修了したケアマネを1名以上配置すること、24時間の連絡体制など複数の要件があります。開業直後から上位の加算を取ることは現実的ではないため、まず(A)の取得を目指し、徐々に上位区分へ移行する計画が現実的です。
令和8年6月から処遇改善加算が新設される
令和8年6月から、居宅介護支援にも処遇改善加算が適用されます(加算率2.1%)。
訪問介護や通所介護では処遇改善加算が既に導入されていましたが、居宅介護支援はこれまで対象外でした。令和8年6月以降は、基本報酬+特定事業所加算の合計に2.1%を乗じた金額が追加で算定できます。
たとえば、月額基本報酬が50万円の場合、処遇改善加算は50万円×2.1%=10,500円の追加になります。ただし、処遇改善加算の取得には要件への対応と計画書の提出が必要です。
損益分岐点となる担当件数の目安
損益分岐点は、毎月の固定費(人件費・家賃・リース料等)を1件あたりの収入で割ることで求められます。
たとえば、以下のような費用構成で開業する場合を考えます。
| 費用項目 | 月額の目安 |
|---|---|
| 人件費(主任ケアマネ1名・給与等) | 35〜40万円 |
| 事務所の家賃 | 5〜10万円 |
| 介護支援ソフト・通信費等 | 2〜3万円 |
| 合計 | 42〜53万円 |
要介護度の構成を「要介護1・2が50%、要介護3〜5が50%」と仮定した場合、費(Ⅰ)の平均単価は(1,086+1,411)÷2≈1,249単位、地域単価10円で1件あたり月収入は12,490円になります。
月の固定費が47万円(中間値)であれば、47万円÷12,490円≈38件が損益分岐点の目安です。つまり38件を超えれば黒字になる計算です。
ただし、介護報酬は提供月の翌々月に入金されるため、開業後2か月は収入がありません。この資金繰りのギャップを埋めるための運転資金の確保が、損益分岐点と同様に重要です。
まとめ:逓減制を踏まえた収入計画のポイント
居宅介護支援費の逓減制について整理します。
- 担当件数45件未満(費(Ⅰ))・45〜60件(費(Ⅱ))・60件以上(費(Ⅲ))の3区分で単価が変わる
- 費(Ⅱ)は費(Ⅰ)の約50%、費(Ⅲ)は費(Ⅰ)の約30%まで下がる
- ICT活用などの緩和措置を満たせば、単価が下がる境目が50件・70件に引き上げられる
- 特定事業所加算は月収入に大きく影響するが、取得要件への対応が必要
- 損益分岐点は固定費÷1件あたり収入で計算する。要介護度の構成と地域単価も変数として確認する
収入の試算を個別の数字で確認したい場合は、下記のシミュレーターをご利用ください。担当件数・要介護度の構成・地域区分・加算の有無を入力すると、月次の収入と損益分岐点が試算できます。
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