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有料老人ホームで最も多い介護事故のひとつが、転倒・転落です。複数の都道府県が公表している介護事故報告の集計では、転倒・転落は事故類型のなかで最も多いとされています。
骨折につながると、入院・リハビリと生活が大きく変わります。高齢者の大腿骨骨折は、その後の廃用症候群や認知症進行のリスクにもなります。
「転倒はしかたない」という認識のままでは、対策が後手に回ります。この記事では、有料老人ホームにおける転倒転落防止研修の内容を整理します。
転倒転落防止研修の法令上の根拠
指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第37条は、特定施設入居者生活介護事業者に対して事故防止のための体制整備を義務付けています。
同条および第39条では、事故の発生時の対応・報告・再発防止策の整備が求められており、転倒転落はこの「事故防止」の中核テーマです。
また、2021年度から介護報酬の安全対策体制加算が設けられ、安全対策担当者を配置しているかどうか・研修を実施しているかどうかが加算の要件になっています。転倒転落防止研修は、加算取得の観点からも重要です。
転倒はなぜ起きるか:内的要因と外的要因
研修では、転倒の要因を「内的要因」と「外的要因」に分けて理解することから始めます。
内的要因(その人の身体的な要因)
- 筋力・バランス能力の低下
- 視力・聴力の低下
- 起立性低血圧(立ち上がったときに血圧が下がる)
- 認知症による判断力・注意力の低下
- 薬の影響(睡眠薬・降圧薬・利尿剤などは転倒リスクを高める)
- 尿意・便意による急いだ動作
外的要因(環境による要因)
- 床の段差・濡れた床・滑りやすいマット
- ベッドの高さが適切でない
- 廊下・トイレへの動線に障害物がある
- 照明が暗い(特に夜間)
- 靴・スリッパが足に合っていない
重要なのは「一つの要因が転倒を引き起こすわけではなく、複数の要因が重なるときにリスクが高まる」ということです。研修では、要因を組み合わせて考えるリスクアセスメントの視点を職員に持たせます。
転倒リスクのアセスメント
個々の入居者の転倒リスクを定期的に評価することが、予防の第一歩です。一般的に使われるアセスメントツールには以下のものがあります。
- 転倒・転落アセスメントスコアシート(各施設が独自に作成している場合が多い)
- Morse Fall Scale(モース転倒危険性スケール)
- J-CHEOPS(転倒スクリーニングツール)
研修では、実際に使っているアセスメントシートを使って、仮想ケースを評価する演習が効果的です。「このAさんのリスクはどこにある?」という形で考えることで、アセスメントが形式的な記入作業にならないようにします。
転倒を防ぐための具体的な対応
リスクが高い入居者に対して、どのような対応を取るかを研修で整理します。
個別対応
- ベッドの高さを適切に調整する
- ベッドセンサー・離床センサーの活用
- トイレ誘導のタイミングを決める(夜間も含む)
- 歩行時の見守り・付き添いのルールを決める
- 滑り止めマットの設置・靴の見直し
環境整備
- 廊下・居室・トイレの照明の確認
- 段差の解消または目立つ表示
- 手すりの位置・状態の確認
- 床のぬれ・コードなどの除去
薬との関係
- 服用している薬(特に睡眠薬・降圧薬)と転倒リスクの関係を理解する
- 変化があれば看護師・医師に情報共有する
身体拘束(センサーマットを超えた動けなくする行為)は代替策の検討なしに行ってはなりません。転倒防止のための行動制限は身体拘束に該当する可能性があり、基準省令が禁止する行為です。
転倒事故が起きたときの対応
転倒は完全にゼロにすることは難しいです。だからこそ、起きたときの対応が重要です。
- 発見者はまず安全を確認し、動かさない(骨折の可能性)
- 看護師・管理者に即時報告
- 医師に受診の必要性を確認
- 家族への報告(速やかに連絡する。施設の運営規程に報告の期限が定められている場合はそれに従う)
- 市区町村への事故報告(死亡・重傷・感染症などは義務)
- インシデント・アクシデントレポートの記録
- カンファレンスで再発防止策を検討し記録
「報告することへの抵抗感をなくす」ことが研修で大切なメッセージです。隠れた転倒が記録されないと、再発防止策が打てません。
研修の進め方
転倒転落防止研修は、年1回以上の定期研修と、新任職員への初期研修の両方を実施することが求められています。
研修を効果的にするポイントは次のとおりです。
- 実際に過去に自施設で起きた事故を事例として使う(匿名化して使用)
- 「なぜそのとき転倒したか」を多職種で一緒に考える
- 確認テストを使って理解度を確認する
- 研修で出てきた改善点を環境点検に反映させる
まとめ
有料老人ホームにおける転倒転落防止研修は、事故を「しかたない」ではなく「防げるものは防ぐ」という前提で設計します。
要因の分析→リスクアセスメント→個別対応策→事故後の対応という流れを職員全員が理解することで、転倒リスクを組織として下げる土台ができます。
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