訪問看護の医療保険と介護保険の使い分け。優先順位のルール。

訪問看護で使える保険は、原則として介護保険が優先されます。ただし、利用者の疾患・状態・主治医の指示書の種類によって医療保険が使われることがあり、判断を誤ると返戻や誤請求につながります。この記事では、介護保険と医療保険の優先ルール・切り替わる条件・報酬体系の違いを整理します。

介護保険が優先される、というルールの根拠

介護保険法第20条は「介護保険の給付は、医療保険各法の規定による給付との調整が図られる」と定めています。この調整規定により、要介護・要支援の認定を受けた人が訪問看護を利用する場合は、原則として介護保険が適用されます。

具体的には、以下の条件を両方満たす人が介護保険の訪問看護を利用できます。

  • 65歳以上の第1号被保険者、または40〜64歳で特定疾病(介護保険法施行令第2条に定める16疾病)を持つ第2号被保険者
  • 市区町村から要介護1〜5、または要支援1〜2の認定を受けている

要介護認定を受けていない65歳以上の方でも、認定を申請して結果が出るまでの間は医療保険での訪問看護となります。認定結果が「非該当(自立)」と判定された場合は、その後も医療保険を使います。

医療保険が使われる3つのケース

介護保険の被保険者であっても、次の3つのケースでは医療保険の訪問看護となります。

ケース1:厚生労働大臣が定める疾病等(告示別表第7)の利用者

「厚生労働大臣が定める疾病等」(以下、特掲疾患)に該当する利用者は、要介護認定の有無にかかわらず医療保険の訪問看護が適用されます。根拠は「訪問看護及び指定訪問看護の費用の額の算定方法」(厚生労働大臣が定める基準・告示)の別表第7です。

この特掲疾患には、以下のような疾患が含まれます(代表例)。

  • 末期の悪性腫瘍(末期がん)
  • 多発性硬化症・重症筋無力症・脊髄小脳変性症
  • 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
  • パーキンソン病関連疾患(ホーン・ヤール重症度分類3度以上で生活機能障害度2度または3度)
  • 後天性免疫不全症候群(AIDS)
  • 人工呼吸器を使用している状態

特掲疾患に該当する利用者には、訪問頻度の制限(原則週3回まで)の制約もなく、複数のステーションが同時に入ることも認められています(医療保険の場合)。主治医が「訪問看護指示書」を出した場合、この疾患リストに該当するかどうかを事業所側も必ず確認する必要があります。

ケース2:精神科訪問看護(精神科訪問看護指示書)

精神疾患を持つ利用者に対して、精神科の主治医が「精神科訪問看護指示書」を発行した場合は、医療保険による「精神科訪問看護・指導料」の算定となります。

精神科訪問看護は、通常の訪問看護と報酬体系が異なります(「訪問看護療養費」ではなく「精神科訪問看護・指導料」という診療報酬の区分)。訪問看護ステーションでは精神科訪問看護指示書のある利用者についても対応できますが、報酬の体系・算定ルールが異なるため、開業時に事前確認が必要です。

なお、精神科の診断がある利用者でも、精神科訪問看護指示書ではなく通常の訪問看護指示書が出ている場合は、通常の訪問看護の扱いとなります。どちらの指示書を使うかは主治医の判断によります。

ケース3:特別訪問看護指示書が発行されている急性増悪期

介護保険の訪問看護を利用中の利用者の状態が急激に悪化した場合、主治医が「特別訪問看護指示書」を発行することがあります。

特別訪問看護指示書が発行された期間(指示が出た日から原則14日間)は、医療保険の訪問看護に切り替わります。この間は訪問頻度の制限がなく、毎日でも訪問できます。14日が過ぎると、再び介護保険の訪問看護に戻ります。

特別訪問看護指示書は、原則として月に1回しか発行できません(気管カニューレを使用している状態・真皮を越える褥瘡の状態については月2回まで)。指示書の発行日・有効期間の管理が誤請求防止の上で重要です。

特別訪問看護指示書とは何か、発行できる医師の条件

特別訪問看護指示書は、訪問看護指示書を発行している主治医が出すものです。主治医であれば医師の専門科に制限はなく、かかりつけ医・在宅療養支援診療所の医師・病院の担当医など、通常の訪問看護指示書を出している医師が同様に発行できます。

発行の主な対象となる状態の例(厚生労働省の通知に示されているもの):

  • 在宅患者の気管カニューレ使用・真皮を越える褥瘡(重症褥瘡)がある状態
  • 感染症等による急性増悪、終末期(ターミナル)、退院直後など、一時的に集中的な訪問看護が必要な状態

「急性増悪」「終末期」「退院直後」はある程度広く解釈される面がありますが、指示書の発行は主治医の医学的判断によるものであり、事業所側が利用者に「取ってもらう」よう働きかけるのではなく、主治医が必要と判断した場合に発行されるものです。

介護保険と医療保険の報酬体系の違い

訪問看護の報酬は、介護保険と医療保険で計算の仕組みが異なります。

介護保険の報酬(単位数×地域単価)

介護保険の訪問看護は、1回の訪問時間ごとに「単位数」が定められています(根拠:指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準・厚生労働大臣が定める基準)。単位数に「1単位当たりの金額(地域単価)」を掛けて報酬が決まります。

地域単価は地域区分によって異なり(「その他」10.00円〜「1級地」11.40円)、都市部ほど単価が高くなります。

訪問1回の介護保険の報酬(令和6年4月改定後・訪問看護ステーション・看護師・地域その他の場合):

訪問時間 単位数 1回の報酬目安(地域その他)
20分未満 314単位 約3,140円
30分未満 471単位 約4,710円
30分以上1時間未満 823単位 約8,230円
1時間以上1時間30分未満 1,128単位 約11,280円

出典:指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(令和6年厚生労働省告示第86号)

利用者の自己負担は原則1〜3割で、残りは介護保険から給付されます(介護保険の訪問看護)。

医療保険の報酬(基本療養費+管理療養費・点数制)

医療保険の訪問看護は「訪問看護療養費」という仕組みで、「基本療養費」と「管理療養費」の合計が報酬となります(根拠:訪問看護療養費及び公費負担医療に関する費用の請求に関する省令)。

基本療養費は訪問1回ごとに算定します(週3日目まで・週4日目以降で金額が異なる)。管理療養費は月に1回(月初日の訪問時)に算定するもので、機能強化型訪問看護ステーションかどうか、月初日かその後かで金額が異なります。

令和8年6月1日以降の基本療養費(看護師の場合・週3日目まで):5,550円。週4日目以降:6,550円(根拠:訪問看護療養費の算定方法・令和8年厚生労働省告示第74号)。

医療保険の訪問看護の利用者自己負担は医療費の1〜3割で、高額療養費制度の対象になります。

利用者・事業所それぞれの判断ポイント

利用者側の判断に影響する点

介護保険の訪問看護では、利用者の自己負担は要介護度に応じて決まる支給限度額の中から賄われます。支給限度額内であれば訪問看護以外のサービスも組み合わせられますが、限度額を超えると全額自己負担となります。

一方、医療保険の訪問看護では、訪問看護の利用について支給限度額のような上限はなく(回数の制限はある)、高額療養費制度による自己負担上限が適用されます。重症で頻回の訪問が必要な場合は、医療保険の方が利用者の実質負担が抑えられることもあります。

事業所側の確認ポイント

受け入れ時に必ず確認すべき事項は以下の通りです。

  • 主治医から発行される指示書の種類(「訪問看護指示書」か「精神科訪問看護指示書」か)
  • 利用者が告示別表第7の特掲疾患に該当するかどうか
  • 要介護認定の有無
  • 特別訪問看護指示書が発行されている場合はその有効期間

介護保険か医療保険かを誤って請求した場合、審査支払機関から返戻(請求差し戻し)や過誤の対応が必要になります。新しい利用者を受け入れる際は、担当ケアマネジャーや主治医との連携で情報を確認する体制を整えておくことが重要です。

よくある誤請求のパターン

以下のケースは誤請求になりやすいため、注意が必要です。

特掲疾患の確認漏れ

要介護認定を持つ利用者を「介護保険の訪問看護」として処理していたが、実は末期の悪性腫瘍・ALSなど告示別表第7の疾患に該当しており、医療保険が適用される状態だった、というケースです。利用者の疾患名を確認し、特掲疾患リストと照合することが必要です。

特別訪問看護指示書の有効期間の管理ミス

特別訪問看護指示書の有効期間(原則14日間)が切れた後も、引き続き医療保険での請求を続けてしまうケースです。指示書の有効期間を台帳や記録で管理し、14日を超えた場合は介護保険に戻す処理が必要です。

同一月に介護保険・医療保険を混在させる

原則として、同一利用者の同一月内に介護保険と医療保険を混在して請求することはできません(特掲疾患・特別指示書期間のような切り替えがある月を除く)。月の途中で利用者の状態が変わった場合の取り扱いは事前に確認が必要です。

FAQ

Q:40代で介護保険の特定疾病があれば、介護保険の訪問看護を使えますか?

はい。40〜64歳(第2号被保険者)でも、介護保険法施行令第2条に定める特定疾病(初老期における認知症・脳血管疾患・骨折を伴う骨粗鬆症など16疾患)を持ち、要介護・要支援認定を受けていれば介護保険の訪問看護が使えます。

ただし、40〜64歳の末期の悪性腫瘍・ALSなど告示別表第7の疾患に該当する場合は、医療保険が優先されます。「特定疾病(介護保険法施行令の16疾患)」と「特掲疾患(告示別表第7)」は別の分類であり、混同しないよう注意が必要です。

Q:同じ利用者に複数のステーションが入ることはできますか?

介護保険では、原則として同一の利用者に複数の訪問看護ステーションが同時に入ることはできません(例外規定あり)。一方、医療保険(特掲疾患)では複数のステーションが同時に入ることが認められています。利用者の保険の種類によって運用が変わるため、担当ケアマネジャーや他事業所と調整が必要です。

Q:訪問看護指示書の有効期間はどのくらいですか?

通常の訪問看護指示書の有効期間は最長6か月です(診療報酬・介護報酬ともに共通)。指示書の有効期間が切れた後は主治医に再発行を依頼する必要があります。特別訪問看護指示書の有効期間は14日間(一部の重症状態では月2回・合計最大28日間)です。

Q:医療保険の訪問看護の訪問頻度に制限はありますか?

医療保険の訪問看護は、特掲疾患・特別指示書がある場合を除き、原則として週3日(1日1回)が上限です。週4日以上必要な場合は、特別訪問看護指示書か特掲疾患への該当が必要です。ただし精神科訪問看護は、週3日を超えて算定できる場合もあり(入院中の利用者への退院前訪問指導等)、詳細は厚生労働省の通知を確認してください。

まとめ

訪問看護の保険の優先ルールを整理すると、次の通りです。

  • 要介護・要支援認定がある:原則として介護保険が優先
  • 告示別表第7の特掲疾患に該当:医療保険が適用
  • 精神科訪問看護指示書が発行:医療保険(精神科訪問看護)
  • 特別訪問看護指示書が発行された14日間:医療保険に切り替わる
  • 要介護認定がない・認定前:医療保険が適用

開業後は利用者ごとに保険区分を確認し、主治医・担当ケアマネジャーとの連携で適切な保険を使う体制を整えることが、運営指導での指摘を防ぐ上でも重要です。

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この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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