障害者グループホームの経営は成り立つか。全国平均の収支差率9.1%から見える現実。
障害者グループホーム(共同生活援助・介護サービス包括型)の全国平均収支差率は9.1%です。障害福祉サービス全体の平均と比べて高水準にあり、「経営が成り立っているかどうか」という問いへの答えは、数字だけを見れば「成り立っている事業所が多い」です。
ただし9.1%はあくまで全国の平均値です。定員が少ない・稼働率が低い・令和8年6月以降に新規指定を受けるという条件が重なると、赤字になる可能性があります。この記事では、全国平均の収支データをもとに、グループホームの収益構造と黒字・赤字を分けるポイントを整理します。
全国平均の収支差率は9.1%。月収入の規模は347万円。
厚生労働省「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果」第17表(共同生活援助・介護サービス包括型、令和4年度決算)によると、全国平均の経営状況は次のとおりです。
- 月収入(サービス活動収益):約347.4万円
- 給与費比率:61.0%
- 収支差率:9.1%
- 1施設あたりの定員:15人
- サービス換算職員数:5.9人
収支差率9.1%とは、月収入347万円のうち約31万円が利益として残る計算です。介護保険の通所介護(デイサービス)の収支差率が同調査で5〜6%台であることと比べると、グループホームは相対的に高水準の事業です。
(出典:厚生労働省「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果」第17表)
収入の構造。報酬の大半は障害福祉サービス費と家賃・食費の実費。
グループホームの収入は、大きく分けて2種類です。
1つ目は障害福祉サービス費(報酬)です。利用者の障害支援区分と世話人の配置比率によって基本報酬が決まります。介護サービス包括型・世話人配置6:1の場合、基本報酬は区分6で600単位・区分5で456単位・区分4で372単位・区分3で297単位(1単位10〜11.6円・地域区分による)です(厚生労働省「障害福祉サービス費等の報酬算定構造」令和6年度改定版より)。
2つ目は家賃・食費等の実費です。利用者から家賃・食費・光熱費・日用品費を収受します。これらは収入と費用を両建てで計上するため、損益への直接的な影響は限定的です。ただし家賃収入は地代家賃費用と相殺されるため、物件の賃料設定が経営に直結します。
加算は25種類あります。特に収入への影響が大きいのは、人員配置体制加算(世話人等の実際の配置が基準を上回る場合)、処遇改善加算(職員の給与に充てることが条件)、夜間支援等体制加算(夜間の支援体制を整えた場合)の3つです。
費用の構造。給与費が収入の約6割を占める。
費用の構造で最も重いのは給与費(職員の人件費)で、収入の61.0%を占めます。世話人・生活支援員の配置をどう組むかが、費用管理の中心になります。
生活支援員は利用者の障害支援区分に応じた計算式で必要人数が決まります(区分3の人数÷9+区分4の人数÷6+区分5の人数÷4+区分6の人数÷2.5)。重度の利用者が多いほど生活支援員の配置が増えるため、区分6の利用者が多い事業所は人件費率が高くなります。
日中サービス支援型を選択した場合、夜間支援従事者を別途配置する必要があります(夜勤・宿直不可)。夜間支援の人件費は収支計算で別枠になるため、介護サービス包括型より費用構造が複雑になります。
令和8年6月以降に新規指定を受ける事業所は、基本報酬が2.8%引き下げになる。
令和6年報酬改定で、令和8年6月1日以降に新規指定を受けた事業所の基本報酬は、所定単位数×972/1000(2.8%引き下げ)になりました(厚生労働省「障害福祉サービス費等の報酬算定構造」令和6年度改定版より)。
この措置は「収支差率が高く事業所が急増したため」として、令和9年度改定まで続く臨時的な措置とされています。令和8年6月以降に開業する場合は、全国平均の収支差率9.1%より収入が少ない状態からのスタートになります。
例として、定員15人・その他の地域で計算した場合、区分5の利用者の基本報酬は令和8年5月以前の指定では456単位×10円=4,560円/日、令和8年6月以降の指定では456単位×972/1000×10円=4,432円/日となり、1人あたり日128円(月約3,840円)の差が生じます。定員15人全員が区分5とすれば、月収入で約57,000円の差になります。
赤字になりやすいパターン。定員が小さく稼働率が低い事業所。
グループホームが赤字になりやすい条件があります。
1つ目は定員が少ない状態で開業するケースです。グループホームは固定費(家賃・管理者人件費・光熱費等)が定員に関係なく発生します。定員4〜6人の小規模で始めると、1人あたりの固定費負担が大きく、損益分岐点を超えるには入居者をほぼ満員に保つ必要があります。全国平均の定員は15人です。
2つ目は稼働率が低い状態が続くケースです。空き室がある期間は報酬が発生しない一方、世話人・生活支援員の人件費は入居者数に関わらず一定以上かかります。新規開業直後は利用者の獲得に時間がかかるため、最初の1〜2年は収支が厳しくなりやすいです。
3つ目は、家賃・光熱費等の実費を収受する仕組みが整っていない場合です。家賃を適切に設定しないと、物件の賃借料が収支を圧迫します。
損益分岐点の考え方。定員15人なら何人入れば黒字になるか。
損益分岐点(最低限必要な入居者数)は、固定費を1人あたりの収入(月次の限界利益)で割って求めます。
固定費の主な内訳は、管理者・サービス管理責任者の固定給与、物件の賃借料、光熱費・通信費・事務費などです。1人あたりの収入は、利用者の障害支援区分・加算の有無・地域区分によって異なります。
全国平均(定員15人・介護サービス包括型・収支差率9.1%)を参考にすると、15人の定員に対して約13〜14人が入居している状態(稼働率88〜93%程度)で収支均衡に近い水準と推測されます。具体的な損益分岐点は、地域・物件・人件費によって変わります。
開業前に収支を試算する。
グループホームの収支は、利用者の障害支援区分の分布・世話人の配置比率・地域区分・加算の取得状況によって変わります。開業前に、想定している条件で収支を試算しておくことが重要です。
障害者グループホーム(介護サービス包括型・日中サービス支援型)の収支を試算できるシミュレーターを公開しています。定員・利用者の障害支援区分・人員・費用を入力すると、月次収支・資金繰り・損益分岐点・全国平均との比較(給与費比率・収支差率)を確認できます。
出典:厚生労働省「令和5年障害福祉サービス等経営実態調査結果」第17表(共同生活援助・介護サービス包括型・令和4年度決算)・厚生労働省「障害福祉サービス費等の報酬算定構造」(令和6年度改定版)・埼玉県「共同生活援助(グループホーム)の基準 概要」(R6.3版)。


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