GHの個人情報保護研修、秘密保持義務は退職後も続く。

福祉事業の開業と運営

障害者グループホーム(共同生活援助、以下GH)の職員には、在職中だけでなく退職後も利用者・家族の個人情報を漏らしてはならない秘密保持義務があります。根拠は指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚労省令第171号、以下指定基準)第36条(秘密保持等)で、共同生活援助に準用されています。

「退職したら関係ない」という誤解がある職場では、この義務が徹底されず、SNSへの写真投稿・元同僚との会話での無意識な漏洩につながることがあります。GHは利用者が生活する場所であるため、日常の支援の中で得る個人情報の量が多く、かつ記録されない形で知ることも少なくありません。研修でこの義務を定期的に確認することが、実質的な情報漏洩の防止につながります。

この記事では、GHの個人情報保護研修で伝えるべき義務の内容と、現場で起こりやすい具体的なリスクを整理します。

指定基準が求める秘密保持の義務は3つ

指定基準第36条(秘密保持等)は、GH事業者とその職員に対して次の義務を定めています。

義務の内容 条文の要旨
業務上知り得た秘密の保持 職員は、正当な理由がなく、業務上知り得た利用者又はその家族の秘密を漏らしてはならない
退職後の秘密保持 事業者は、職員が職を辞した後においても、業務上知り得た秘密を漏らすことがないよう、雇用時等に取り決めるなど必要な措置を講じなければならない
関係機関への情報提供の手続き 関係機関・団体に利用者や家族の情報を提供する際は、あらかじめ文書により利用者や家族の同意を得なければならない

(出典:指定基準 第36条。共同生活援助ガイドライン第1版(令和8年2月・厚生労働省)p.26に準用条項として記載)

3点のうち「退職後も義務が続く」という点は、多くの職員が意識していない部分です。雇用時に秘密保持誓約書を取り交わす対応が、事業者に求められる「必要な措置」の一例です。

写真とSNSのリスク:GH支援で生じやすい情報漏洩

GHの日常支援では、スマートフォンが常時持ち込まれる環境が多く、意識せずに個人情報が外部に出るリスクがあります。研修ではこの点を具体的に取り上げることが、実効性の高い理解につながります。

写真・動画のSNS掲載:

利用者の日常の様子・食事・外出先を撮影してSNSに投稿する行為は、利用者の許諾がなければ秘密保持義務違反になります。「顔が映っていなければよい」「名前を出さなければよい」という認識は誤りです。背景・服装・生活状況など、特定の個人を識別できる情報すべてが「業務上知り得た秘密」の対象になります。

指定基準では「ホームページや会報等に利用者や家族の写真や氏名を掲載する際には、利用者や家族の許諾を得ることが必要」と明記されています(共同生活援助ガイドライン p.26)。個人的なSNSも同様です。

日常会話での無意識な漏洩:

家族・友人・前職の同僚との会話で、「○○さん、最近こういう状態で」という形の情報共有は、「漏洩」にあたります。当事者が特定できる状況であれば、名前を出さなくても該当する場合があります。「話した相手も守秘してくれる」という前提は、法的な観点からは成立しません。

退職後の情報共有:

同じGHに勤務していた元同僚との会話・転職先の職員に以前の利用者の状況を話す行為も、義務の対象です。「もう同じ職場ではないから」という認識は通用しません。

「正当な理由」がある場合:関係機関との情報共有のルール

指定基準は「正当な理由がなく」秘密を漏らしてはならないと定めています。「正当な理由」がある情報共有とは、利用者や家族の文書による同意を得た上での、支援に必要な範囲での共有です。

GHの支援では、次の場面で関係機関・関係者への情報提供が必要になることがあります。

場面 情報共有の相手 必要な手続き
支援計画の作成・モニタリング 相談支援専門員・サービス担当者会議の出席者 サービス利用計画・個別支援計画の同意書の範囲内
医療機関への情報提供 主治医・病院のソーシャルワーカー等 利用者・家族の文書による同意(健康状態・障害の状況を含む場合)
家族への連絡(日常的なもの) 家族(緊急連絡先に登録されている人) サービス利用契約時の同意の範囲内・重要事項説明書で確認されていること
緊急時の通報(救急・警察等) 消防・救急・警察等の公的機関 生命・安全の保護を目的とする場合は「正当な理由」に該当

「以前の事業所との引き継ぎ」「見学に来た利用者の家族への説明」「行政機関の調査への対応」など、正当な理由がある場合でも、共有する情報は支援に必要な最小限にとどめることが求められます。

雇用時に取り決めるべき秘密保持の措置

指定基準第36条は、事業者が「職員が職を辞した後においても秘密を漏らすことがないよう、雇用時等に取り決めるなど必要な措置を講じなければならない」と定めています。

「必要な措置」の具体的な例としては、次のものがあります。

  • 雇用時の秘密保持誓約書の締結(在職中・退職後を明記)
  • 就業規則への秘密保持義務の明記(違反した場合の対応を含む)
  • 採用時・職員研修での秘密保持義務の説明・記録
  • 退職時の確認:業務上知り得た情報を持ち出していないことの確認

「誓約書を取る」という形式だけでなく、「なぜ退職後も義務が続くのか」を職員が理解した上で署名することが、実効性につながります。研修では、この点を毎年確認する機会を設けることが望ましいです。

「個人情報の取り扱い方針」を職員に示す

GHでは、事業所としての「個人情報の取り扱い方針(プライバシーポリシー)」を利用者・家族に対して重要事項説明書等で示すことと、職員に対して業務上の取り扱いルールを示すことは、別の義務として運用されます。

職員向けに研修で伝えるべき業務上のルールの例をまとめます。

場面 ルール
支援記録の閲覧 担当する利用者に限り閲覧する。業務に無関係な利用者の記録を読まない
支援記録の持ち出し コピー・写真撮影・データの持ち出しは、許可なく行わない
スマートフォンの使用 GH内での写真・動画撮影は、利用者の明示的な同意がある場合にのみ行う。撮影したデータはSNSに投稿しない
外部との会話 家族・友人・前職の同僚への利用者・家族の状況の共有は行わない
支援業務以外での利用者情報の使用 利用者の住所・連絡先等を業務外の目的で使用しない

研修の進め方:事例を使った具体的な確認が有効

個人情報保護の研修は「義務の説明」で終わると、記憶に残りにくいです。「これはどうすればよかったか」という事例形式の確認を組み合わせることで、実際の行動変容につながりやすくなります。

研修で使える事例の例:

事例1:夜間支援中にスマートフォンで利用者の様子を撮影し、「かわいい」と思って個人のInstagramに投稿した。顔はぼかした。→ 許諾なしの投稿は義務違反。顔のぼかしがあっても「利用者の生活の様子」は業務上知り得た秘密にあたる。

事例2:退職後、元同僚から「○○さん、今どうしてる?」と聞かれた。「退職したし、もう関係ないから」と近況を話した。→ 退職後も秘密保持義務は続く。「もう関係ない」という認識は誤り。

事例3:利用者の家族から「担当の○○さんの自宅の電話番号を教えてほしい」と言われた。→ 職員の個人情報を第三者に提供することは別の問題。業務上の連絡先のみ伝えることが原則。

運営指導で確認される記録の形

個人情報保護・秘密保持に関して運営指導で確認されることがある記録は次のとおりです。

  • 雇用時の秘密保持誓約書(在職中・退職後を含む内容であること)
  • 重要事項説明書・サービス利用契約書における個人情報の取り扱いに関する記載
  • 個人情報保護に関する研修の実施記録(日時・テーマ・出席者)
  • 関係機関に情報提供する際の文書による同意記録

「個人情報の取り扱い方針はホームページに掲載しているから十分」という運用では、職員への周知・雇用時の誓約という義務の部分が不足します。研修と誓約書の2つが揃っていることが確認の基本です。

障害者グループホーム向け法定研修・訓練キット

障害者グループホームの法定研修(12テーマ)に対応した研修・訓練キットを公開しています。個人情報保護テーマの確認テスト・職員への周知記録・研修記録様式をブラウザで使えます。

▶ 障害者グループホーム 法定研修・訓練キット


出典:指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚労省令第171号)第36条(秘密保持等)。共同生活援助ガイドライン第1版(令和8年2月・厚生労働省)p.26。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

ご質問はメールで。電話・面談はしていません。

fufumumu_designをフォローする
福祉事業の開業と運営
fufumumu_designをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました