就労継続支援B型の収支は、成り立つか。厚労省の概況調査から見る実態。

福祉事業の開業と運営

就労継続支援B型の収支は、成り立つか。厚労省の概況調査から見る実態。

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就労継続支援B型の開業を検討するとき、最初に気になるのは「そもそも事業として成り立つのか」という点です。報酬制度の複雑さと、工賃支払いの義務が同時にのしかかる就労継続支援B型は、他の障害福祉サービスと異なる収支構造を持っています。

この記事では、厚生労働省が公表する経営実態調査・概況調査の結果をもとに、就労継続支援B型の収支差率の実態と、黒字・赤字を分ける要因を整理します。開業資金や報酬の仕組みについては別の記事で扱っていますので、ここでは開業後の運営収支に絞って解説します。

収支差率はマイナスが続く傾向にある

厚生労働省が毎年実施する「障害福祉サービス等経営実態調査」では、各サービスの収支差率(収入に占める利益の割合)が報告されます。就労継続支援B型の収支差率は、調査年度によってばらつきはあるものの、全体としてマイナスあるいはわずかなプラスにとどまる傾向が継続して報告されています。

収支差率がマイナスということは、サービスの収入よりも費用の方が多い、すなわち平均的には赤字で運営している事業所が多いことを意味します。ただしこれは全事業所の平均値であり、黒字経営の事業所が存在しないわけではありません。平均がマイナスになる背景には、収支構造から来る固有の要因があります。

なお、収支差率の具体的な数値は調査年度・集計方法によって異なるため、最新の数値については厚生労働省が公表する「障害福祉サービス等経営実態調査」を直接ご確認ください。

工賃が上がらないと翌年度の報酬が下がる構造になっている

就労継続支援B型の収支差率がマイナスになりやすい最大の理由の一つは、基本報酬の決まり方にあります。

就労継続支援B型の基本報酬は、前年度の利用者1人当たりの平均工賃月額によって区分が決まります(厚生労働省告示第523号 別表第14)。工賃月額が高いほど翌年度の単価が上がり、工賃月額が低いと翌年度の単価が下がります。

この仕組みが収支を圧迫するのは、工賃の向上に取り組むには生産活動の収益を増やす必要があるためです。生産活動の収益を増やすためには受注確保・販路拡大に力を入れなければなりませんが、それには人員コストがかかります。支援職員の業務は、利用者への個別支援・生産活動の指導・記録・計画作成と多岐にわたり、生産活動の売上に直接貢献できる時間は限られます。

結果として「工賃を上げるための投資をしても、それが翌年度の報酬単価の上昇に反映されるまでにタイムラグがある」という問題が生じます。工賃を上げた年度の翌年度に単価が上がりますが、その間のコスト増は当該年度の収支に直接かかります。

逆に工賃が目標に届かない場合は、翌年度の単価が下がります。単価が下がれば収入が減り、工賃の原資となる生産活動収入の確保がさらに難しくなる。このサイクルが、赤字経営の定着につながりやすい構造です。

人件費は固定費として積み上がる

就労継続支援B型では、事業所の規模(定員)に応じた人員配置基準があります(指定基準 平成18年厚生労働省令第171号 第186条〜第188条)。管理者・サービス管理責任者・職業指導員・生活支援員を配置する必要があり、一定の人員を常時確保しなければ指定を維持できません。

人件費は収入の変動にかかわらず固定的に発生します。利用者が少ない日も、欠席が重なった週も、職員の給与は変わりません。定員に対して稼働率が低い状態が続くと、固定の人件費に対して収入が追いつかず、収支がマイナスになります。

就労継続支援B型の報酬は「1日の利用者数×報酬単価×稼働日数」で決まります。定員20人の事業所でも、実際に毎日20人が通所しなければ定員20人の収入は得られません。稼働率が計画より10ポイント下がると、月の報酬収入は概算で1割減少します。人件費が収入の7割前後を占める構造の事業所では、稼働率の1割変動が収支差率に大きく影響します。

新規開業後の1〜2年は収支が特に厳しい

新規に就労継続支援B型を開業した場合、最初の1〜2年は収支が特に厳しい期間になります。主な理由は次の3点です。

第一に、定員に対して利用者が少ない状態からスタートします。ケアマネや相談支援専門員からの紹介、ハローワーク・支援機関からの紹介ルートが確立されるまでには時間がかかります。定員20人の事業所でも、開業直後に20人の利用者が揃うことは稀で、稼働率が低い期間が続きます。

第二に、新規事業所は「前年度の平均工賃月額実績なし」として扱われるため、最低区分(工賃月額0円の区分)からスタートします(告示第523号)。最低区分は報酬単価が最も低く、軌道に乗った既存事業所と比べて、同じ利用者数でも報酬収入が少なくなります。

第三に、開業後の数か月は利用者の作業習熟度が低く、生産活動収入が安定しません。工賃の原資となる生産活動の売上が少ないと、支払える工賃も少なくなり、工賃月額の改善が翌年度の報酬区分の引き上げに結びつきにくくなります。

この3つが重なる開業後の初期段階に、固定の人件費と家賃・光熱費が継続的にかかります。開業前に十分な運転資金を確保しておかなければ、収支が改善する前に資金が底をつくリスクがあります。

黒字事業所に見られる3つの共通点

経営実態調査の結果を事業所別の分布でみると、赤字事業所が多い一方で、安定した黒字を出している事業所も存在します。黒字事業所に共通して見られる傾向として、次の3点が挙げられます。

稼働率が高い:定員に対して利用者が毎日来所している割合が高い事業所は、固定費を収入で十分にまかなえます。稼働率を高く保つためには、支援の質を維持して利用者が定着する環境をつくること、欠席を減らすための連絡体制を整えることが継続的な課題になります。

生産活動収入が一定額確保されている:下請け加工・農業・清掃・軽作業など、特定の受注先から安定した仕事を確保している事業所は、工賃の原資が安定します。単価の高い仕事を受注できると、利用者数が同じでも工賃月額を高く維持でき、翌年度の報酬区分の引き上げにつながります。

定員規模が収支に影響する:定員が多い事業所ほど1人あたりの固定費を分散できる構造があります。ただし定員が大きいほど必要な利用者数も増えるため、稼働率の管理は難しくなります。一概に規模が大きければ有利とは言えませんが、定員20人以下の小規模事業所では、利用者が数人欠席するだけで稼働率が大幅に下がるリスクがあります。

工賃目標の設定が翌年度以降の収支を左右する

就労継続支援B型では、毎年度の工賃月額実績が翌年度の基本報酬単価を決定します。このため、工賃の目標設定は単なる目標管理にとどまらず、翌年度の収入計画に直結する経営上の意思決定です。

工賃月額が低い区分に留まると報酬単価が低く設定されるため、同じ稼働率でも収入が少なくなります。工賃月額が高い区分に上がれば報酬単価が上がり、利用者数が同じでも収入が増えます。工賃の向上と報酬収入の増加は、相互に連動する関係にあります。

ただし工賃を上げるためには生産活動収入を増やす必要があり、そのためには受注先の確保・作業効率の改善・販路の開拓が必要です。これらは時間と人員コストを要する取り組みであり、短期間で成果を出すのは難しい面があります。

開業計画の段階で「何年目に工賃月額をどの区分まで引き上げるか」を見通し、その工賃水準を維持するために必要な生産活動収入をあらかじめ試算しておくことが、中期的な収支管理の基本になります。

シミュレーターで稼働率と工賃区分の感度を確認できる

就労継続支援B型の収支は、稼働率と工賃月額区分の二つの変数によって大きく変動します。シミュレーターを使うと、この二つの変数を変えたときに収支がどう変わるかを確認できます。

具体的には次のようなシナリオを試算できます。

シナリオ 内容 確認できること
利用者が計画より少ない場合 稼働率を計画値から10〜30ポイント下げた場合 収入がどれだけ減るか、赤字転落のラインはどこか
工賃が最低区分のまま続く場合 工賃月額実績が上がらず報酬区分が最低のまま推移した場合 最悪シナリオでの累積赤字額・資金の底打ち時期
工賃区分が想定どおり上昇する場合 計画通りに工賃月額が改善し翌年度の報酬単価が上がった場合 黒字転換の時期・収支改善のペース

Pro版では月次36か月の収支推移グラフ・感度分析・CSV出力・印刷用事業計画書を利用できます。事業計画書として提出する書類や融資の申請に活用する場合は、複数シナリオを比較したうえで「最悪でもこの程度の赤字に収まる」という根拠を数字で示せると、計画の説得力が上がります。

まとめ

就労継続支援B型の収支差率は、厚生労働省の経営実態調査においてマイナスあるいはわずかなプラスにとどまる傾向が続いています。マイナスが続く主な要因は、工賃月額の実績が翌年度の報酬単価を決める構造、人件費が固定費として重くかかる点、新規開業時は利用者数・報酬区分ともに最低水準からスタートする点の三つです。

一方で、稼働率を高く保ち、生産活動収入を安定確保し、工賃月額を計画的に引き上げている事業所は黒字経営を維持できています。収支が成り立つかどうかは、事業所の稼働率管理・生産活動の受注確保・工賃向上の取り組みの積み上げにかかっています。

開業前の試算では、計画値だけでなく稼働率が低い場合・工賃区分が上がらない場合のシナリオを合わせて確認し、資金が続く範囲で黒字化できる見通しを立てることが重要です。

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出典:厚生労働省「障害福祉サービス等経営実態調査」(各年度)。指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号)第186条〜第188条・第201条。厚生労働省告示第523号(令和6年度版)別表第14。作成日:2026年10月。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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