就労継続支援B型の開業を考えたとき、最初に気になるのは「資金がいくら必要か」だと思います。結論から言うと、金額は事業の規模や地域で変わるため一律には言えませんが、「開業までの初期費用」と「開業後しばらく赤字が続く期間の運転資金」の合計で考えると、必要な金額の見当がつけやすくなります。この記事では、公的な統計・制度の数字をもとに、この2つの中身を具体的に見ていきます。
就労継続支援B型の開業に、資金はいくら必要ですか
必要な資金は大きく2つに分けて考えます。①法人設立・物件・設備・採用などの初期費用と、②開業してから収支が安定するまでの運転資金です。就労継続支援B型は、指定を受けて開業しても、利用者が定員に近づくまでは収入が少なく、人件費や家賃だけが先に出ていきます。この「収入が費用に追いつくまでの期間」の赤字を、自己資金と借入でどう埋めるかが、資金計画の中心になります。
②の運転資金は、利用者の増え方の見込みと、人員をいつ・何人採用するかによって大きく変わるため、他の事業所の平均値をそのまま当てはめることが難しい部分です。この記事の末尾で紹介する無料の試算ツールでは、この2つを自分の条件で入力して、必要な資金の目安を計算できます。
就労継続支援B型の収支は、全国でどのくらいですか
厚生労働省の「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」(令和6年度決算)によると、就労継続支援B型の実態は次のとおりです(当方の計算を含む)。
| 項目 | 全国の平均(令和6年度決算) |
|---|---|
| 1年間の収入(1事業所あたり) | 約3,163万円 |
| 月の収入換算(÷12) | 約264万円 |
| 給与費率(給与費÷収入) | 約51.4% |
| 収支差率(収支差÷収入) | 約4.7% |
| 平均の定員 | 約25人 |
| 対象の事業所数 | 605か所 |
出典:厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」の就労継続支援B型の表(令和6年度決算)。
この数字で注意したいのは、これは「既存の事業所」の平均であり、開業したばかりの事業所の実績ではないという点です。開業直後は利用者が少なく、人員基準を満たすための人件費が先行して出るため、この平均値より収支が厳しくなるのが一般的です。全国の事業所数は令和7年1〜3月時点で14,047か所(1年前は13,773か所)です(出典:厚生労働省「障害福祉サービス等の最近の動向について」・国保連データ)。
開業までの流れと、期間の目安はどのくらいですか
就労継続支援B型の開業は、大きく「法人設立」「物件の確保と整備」「指定申請」「指定・開業」という流れで進みます。就労継続支援B型は個人事業主のままでは指定を受けられないため、最初のステップは法人の設立です。指定申請は、指定を受けたい日(開業予定日)から逆算して、自治体ごとに定められた期限(例:指定予定日の前月末まで)までに書類を提出する必要があります。準備期間の目安は3〜5か月程度とされることが多く、この間は収入がないまま、物件の家賃や先に採用した職員の給与が出ていきます。
開業準備でとくに時間がかかりやすいのが、①法人設立の手続き、②物件の確保(用途地域・消防設備・面積基準の確認を含む)、③人員の採用(職業指導員・生活支援員・サービス管理責任者の同時確保)の3点です。開業日から人員基準を満たしておく必要があるため、利用者が集まってから採用を増やすという後追いでは間に合いません。開業の前から人件費が発生する前提で資金計画を立てておく必要があります。
初期費用には、具体的に何が含まれますか
初期費用として一般的に想定される項目には、次のようなものがあります。金額は事業所の規模や地域、既存の設備の有無によって大きく変わるため、この記事では項目だけを挙げ、具体的な金額の目安は後述のシミュレーターで、ご自身の条件で試算することをおすすめします。
- 法人設立・指定申請の費用:登録免許税、司法書士・行政書士への依頼費用(自分で手続きする場合は抑えられます)
- 物件の確保:敷金・礼金、内装・改修費(訓練・作業室、相談室など、利用者が実際に使うスペースを確保するための工事)
- 作業設備・備品:利用者が実際に行う作業(内職・軽作業・農作業など)に必要な道具・設備、事務用什器
- パソコン・ソフトの導入:障害福祉の請求ソフト、個別支援計画の管理システムなど
- 採用・広告費:求人媒体、利用者獲得のための広告、ホームページ開設費用
これらに加えて、指定を受けてから利用者が増えるまでの期間の運転資金(人件費・家賃などの固定費)を、自己資金と借入でどう埋めるかが、資金計画のもう一つの柱になります。
就労継続支援B型の定員と人員基準は、どうなっていますか
就労継続支援B型を開業するには、定員は20人以上が必要です(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の設備及び運営に関する基準・第74条)。ただし、複数のサービスを一つの事業所で行う「多機能型」の場合は、各サービスの定員合計が10人以上であれば認められる場合があります。
人員基準は、次のとおりです。
- 職業指導員・生活支援員の合計数:利用者数を10で割った数以上(端数切り上げ)が必要です。定員20人なら最低2人以上が必要です(指定基準第193条)
- 職業指導員:1人以上(常勤)(指定基準第193条)
- 生活支援員:1人以上(指定基準第193条)
- サービス管理責任者:利用者60人以下は1人以上、60人を超えるごとに1人追加(指定基準第213条)
- 管理者:1人(サービス管理責任者や従業者との兼務可)
- 法人格:個人事業では指定を受けられません
定員20人の開業なら、職業指導員1人・生活支援員1人・サービス管理責任者1人(兼務可)が最低ラインです。ただし「2人で20人の利用者の日中支援を回す」のは現実的には難しいため、開業初期から3〜4人体制で準備するケースも多くあります。開業直後から定員いっぱいの利用者が来ることは少なく、少ない利用者数で多めの人件費を支えるこの期間の資金が、運転資金計画の肝になります。
就労継続支援B型の収入は、どう決まりますか
就労継続支援B型の収入の中心は、国保連合会から支払われる「障害福祉サービス報酬」です。報酬は「単位数×地域区分単価」で計算します。
基本報酬の単位数は、前年度の平均工賃月額の区分によって決まります(厚生労働大臣が定める夜間支援等体制加算等の支給決定に係る基準及び算定方法の一部を改正する告示・第523号 別表第14)。工賃が高い事業所ほど基本報酬が高くなる仕組みです。定員20人以下の場合、14段階の区分は次のとおりです。
| 前年度の平均工賃月額の区分 | 基本報酬の単位数(定員20人以下) |
|---|---|
| 4万8千円以上 | 837単位/日 |
| 4万5千円以上4万8千円未満 | 812単位/日 |
| 3万8千円以上4万5千円未満 | 805単位/日 |
| 3万5千円以上3万8千円未満 | 781単位/日 |
| 3万3千円以上3万5千円未満 | 758単位/日 |
| 3万円以上3万3千円未満 | 738単位/日 |
| 2万8千円以上3万円未満 | 738単位/日 |
| 2万5千円以上2万8千円未満 | 726単位/日 |
| 2万3千円以上2万5千円未満 | 726単位/日 |
| 2万円以上2万3千円未満 | 705単位/日 |
| 1万8千円以上2万円未満 | 703単位/日 |
| 1万5千円以上1万8千円未満 | 682単位/日 |
| 1万円以上1万5千円未満 | 673単位/日 |
| 1万円未満 | 590単位/日 |
出典:告示第523号 別表第14(就労継続支援B型サービス費)。単位数は令和8年4月時点。
地域区分単価は地域によって異なり、最も高い東京23区など1級地では11.18円、上乗せのない地域では10.00円です(告示第539号)。
開業初年度は、最低の工賃区分からスタートします
ここが就労継続支援B型の資金計画を難しくするポイントです。基本報酬の区分は「前年度の平均工賃月額」で決まりますが、開業1年目は「前年度」が存在しないため、最低区分(平均工賃月額1万円未満・590単位/日)からスタートします。
就労移行支援には「新規指定の事業所は最初の1年間、一定の単位数をみなして算定する」という特例がありますが、就労継続支援B型には同様の特例はありません(告示第523号 別表第14に条文なし。厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について(報告)」で確認)。開業初年度は590単位/日をベースとして収入を試算し、工賃を積み上げて翌年度から区分が上がる計画で資金計画を組む必要があります。
なお、利用者に支払う工賃は、月額3,000円以上でなければなりません(指定基準第201条)。工賃は生産活動の収入から支払うことが求められており、作業の収益がそのまま工賃の原資になります。令和5年度の全国平均工賃月額は1事業所あたり16,507円です(出典:厚生労働省「障害福祉サービス等の最近の動向について」)。全国の平均が1万5千円台であることを踏まえると、開業から数年で工賃を3万円を超える水準まで引き上げることは、一般的にはかなりの時間と努力が必要です。
入金までのタイムラグと、運転資金の目安はどのくらいですか
就労継続支援B型の報酬は、サービスを提供した月の翌月に国保連合会へ請求し、そのさらに翌月に入金されます。つまり、サービス提供から入金まで約2か月のタイムラグがあります。開業直後の最初の2か月は報酬が入らないまま費用だけが発生するため、この期間を賄える手元資金が必要です。
運転資金の必要額は、固定費(家賃・人件費・光熱費など)の3〜6か月分を目安に考えるケースが多いです。月の固定費が100万円の事業所なら、300〜600万円の運転資金が必要です。実際には補助金や福祉医療機構(WAM)の融資を組み合わせて資金を準備するケースも多く、開業前から公的融資の相談を進めておくことが一般的です。
以下の記事もあわせて参照してください(収支の計算の仕組みについて詳しく解説しています)。
就労継続支援B型の開業資金を、自分の条件で試算するには
この記事で紹介した数字はあくまで全国の平均や制度上の最低ラインです。実際の必要資金は、定員・地域・物件の条件・採用人数・工賃の見通しによって大きく変わります。
下記の無料ツールを使うと、自分の事業規模や地域区分、採用人数などを入力して、開業資金の目安を試算できます。初期費用・月次収支・資金残高を5年分で表示します。
無料で使える基本試算に加えて、Pro版(買い切り9,800円)では事業計画書の印刷出力・融資相談に使える収支の書類形式のダウンロードも可能です。開業前の資金調達の場面でご活用いただけます。
この記事で引用している単位数・人員基準等は令和8年4月時点のものです。報酬改定によって変わることがあります。また、この記事の内容は情報提供を目的としており、個別の申請・経営の助言ではありません。実際の開業にあたっては、各都道府県・市区町村の担当窓口にご確認ください。
あわせて読みたい:就労継続支援B型と就労移行支援、どう違うか。


コメント