認知症対応型共同生活介護(認知症GH)を開業するにあたって必要な初期費用は、賃貸物件を改修して1ユニット(定員9人)を設ける場合、内装・設備工事500〜1,500万円、福祉機器150〜300万円、情報システム30〜80万円、開業準備費50〜150万円、3か月分の運転資金300〜500万円を合わせて、合計1,000〜2,500万円程度が目安です。物件の状態・地域の工事費水準・入居者の早期確保の見通しによって、上下に振れます。
初期費用の5つの区分
認知症GHの開業時に発生するコストは、大きく以下の5区分に分けられます。各区分の目安額は、賃貸物件を改修して1ユニット(定員9人)を開設する場合の参考値です。新築や購入の場合は別途建物取得費が加わります。
| 区分 | 主な内容 | 目安額(賃貸改修1ユニット) |
|---|---|---|
| 内装・設備工事費 | 居室の個室化・共有スペース整備・バリアフリー工事・消防設備・浴室改修 | 500〜1,500万円 |
| 福祉機器・備品費 | 介護用ベッド・特殊浴槽・車椅子・歩行補助具・緊急通報装置 | 150〜300万円 |
| 情報システム費 | 介護記録ソフト・タブレット端末・ネットワーク整備 | 30〜80万円 |
| 開業準備費 | 研修費・採用広告費・研修交通費・指定申請の手数料等 | 50〜150万円 |
| 運転資金(3か月分) | 開業後に稼働率が上がるまでの人件費・家賃・光熱費の不足分 | 300〜500万円 |
これらの合計は1,000〜2,500万円程度ですが、物件の状態によって工事費が大きく変わります。スケルトン状態の物件では工事費が高くなり、すでにある程度の設備が整った建物を転用する場合は低く抑えられます。
内装・設備工事費が変動する主な要因
初期費用の中で最も振れ幅が大きいのが内装・設備工事費です。以下の要因が金額に影響します。
- 居室の個室化:認知症GHの設備基準では居室1室あたり7.43㎡以上・原則個室が求められます(平成18年厚生労働省令第34号第95条)。既存の大部屋を個室に仕切る場合は、壁の新設工事が発生します。
- バリアフリー対応:廊下・浴室の手すり設置・段差解消・スロープ設置が必要になることがあります。
- 消防設備:認知症GHは消防法上の「特定防火対象物」に該当するため、スプリンクラーや自動火災報知設備の設置が求められる場合があります。建物の規模・構造・竣工年によって要否が変わるため、事前に消防署への確認が必要です。
- 浴室・厨房の改修:要介護者が使える浴室(介助スペース確保)と厨房(食品衛生法の要件)への改修が必要になることがあります。
- 地域の工事費水準:都市部では職人の人件費が高く、同じ工事でも地方より割高になる傾向があります。
福祉機器・備品の主な内訳
入居者9人分の福祉機器と共有備品として、以下が必要になります。
| 品目 | 数量の目安 | 単価の目安 |
|---|---|---|
| 介護用ベッド(電動3モーター) | 9台 | 8〜15万円/台 |
| 床ずれ防止マットレス | 9枚 | 3〜8万円/枚 |
| 特殊浴槽(機械浴・シャワーキャリー等) | 1〜2台 | 60〜150万円/台 |
| 車椅子 | 3〜5台 | 5〜15万円/台 |
| 緊急通報装置(ナースコール等) | 一式 | 20〜50万円 |
| 食堂テーブル・椅子 | 一式 | 15〜30万円 |
| 洗濯機・乾燥機 | 各1〜2台 | 合計10〜30万円 |
福祉機器はリース・レンタルを活用することで初期費用を抑えることができます。特に特殊浴槽や電動ベッドはリースが利用されることがあります。リースの場合、月額費用が収支計画に加わることを忘れずに収支シミュレーターで確認してください。
情報システム費の内訳
介護記録ソフトは、日々のケア記録・利用者情報管理・介護報酬の請求データ作成に使います。認知症GHでは職員が記録を入力するためのタブレット端末も合わせて導入するのが一般的です。
- 介護記録・請求ソフト:月額2〜5万円程度(クラウド型)または買い切り50〜100万円程度
- タブレット端末(職員用):3〜5台、1台3〜5万円程度
- Wi-Fiルーター・ネットワーク設定:5〜20万円程度
介護報酬の請求には国保連(国民健康保険団体連合会)への電子申請が必要なため、ソフト選定の際は国保連請求に対応しているか確認します。
運転資金の考え方
認知症GHの介護報酬は、サービス提供月の翌々月中旬に入金されます(介護保険法の規定による2か月タイムラグ)。開業直後は稼働率が低い状態から始まるため、入金が少ない期間でも人件費・家賃・光熱費などの固定費を支払える手元資金が必要です。
1ユニット9人・稼働率50%(約4〜5人)で開業した場合、月次の収入は稼働率100%時の半分以下になりますが、人件費・家賃などの固定費はほぼ変わりません。開業から稼働率が安定するまでの3〜6か月分の固定費を賄える資金を用意しておくことが必要です。
収支の詳細な試算は認知症GH収支シミュレーターで確認できます。損益分岐点の稼働率については損益分岐点の記事も参考にしてください。
新築・建物取得の場合の費用
賃貸物件の改修ではなく、新築または建物の取得によって開設する場合は、上記の費用に加えて建物取得費が必要です。
- 新築:1ユニット分の延床面積(居室9室+共有スペース)は概ね300〜400㎡程度。建築工事費は地域・仕様によって1億〜2億円超になることがあります。
- 中古建物の購入・改修:取得費+改修費の合計は物件によって大きく異なります。賃貸改修より長期的な固定費(家賃)が発生しない分、初期投資が大きくなります。
融資・補助金の活用については資金調達の記事を参照してください。
開業前の費用チェックリスト
開業準備を進める際に、以下の費用が発生していないか確認します。
- 法人設立費用(登録免許税・司法書士費用等)
- 物件の敷金・礼金・前家賃
- 建築確認申請費用(用途変更が必要な場合)
- 消防設備工事・消防署への届出費用
- 管理者・計画作成担当者の研修費(認知症介護実践者研修等)
- 採用広告費・求人掲載費
- 開業前の利用者募集にかかる費用(ケアマネへの案内等)
開業手順の記事では、法人設立から指定申請・開設までの流れを解説しています。開業資金の記事も合わせて確認してください。
費用項目別の相場と変動要因
| 費用項目 | 金額の目安(1ユニット9人) | 変動要因 |
|---|---|---|
| 物件取得(賃貸保証金等) | 月額家賃の3〜6か月分 | 地域・物件の種類 |
| 内装・改修工事 | 500〜1,500万円 | 物件の状態・バリアフリー工事の規模 |
| 介護設備・備品 | 300〜600万円 | 介護浴槽の有無・ナースコールの仕様 |
| IT・システム導入 | 30〜80万円 | 介護記録システム・セキュリティ |
| 開業準備費(人件費・研修等) | 100〜300万円 | 採用の早さ・研修内容 |
| 運転資金(3か月分) | 300〜500万円 | 稼働率の立ち上がり期間 |
| 合計(目安) | 1,230〜2,980万円 | — |
物件を新築する場合はさらに建設費(坪単価70〜130万円程度×延べ床面積)が加わります。
運転資金の計算方法
開業後しばらくは稼働率が低く、収入が固定費を下回る「赤字期間」が生じます。運転資金は開業後3〜6か月分の固定費(人件費・家賃・光熱費等)を目安に準備します。1ユニット9人の固定費が月150万円の場合、3か月分=450万円が最低限必要な運転資金の目安です。稼働率が70%(損益分岐点)に達するまでの期間が長いほど必要な運転資金は増えます。
賃貸物件か新築・購入か:選択のポイント
賃貸物件を使う場合は初期費用を抑えられますが、毎月の家賃が固定費として発生します。新築・購入の場合は初期費用が大きくなる一方、長期的には固定費を抑えられる可能性があります。日本政策金融公庫の融資(創業融資)は賃貸・新築いずれにも対応できますが、土地・建物を担保に提供できる場合は有利な条件で融資を受けられます。収益性計画と自己資金のバランスを見た上で選択することが重要です。
補助金・助成金の活用可能性
市区町村・都道府県によっては、認知症GHの新規開業に対して整備費補助(補助率1/2〜2/3程度、上限額あり)を設けていることがあります。補助金の有無・要件・申請スケジュールは各自治体によって異なるため、開業予定地の福祉担当窓口に確認することが重要です。補助金は申請から受給まで時間がかかるため、開業計画の早い段階で情報収集することが必要です。
出典
- 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第95条〜第101条
- 令和7年介護事業経営実態調査(厚生労働省)
※初期費用の目安額は参考値です。実際の費用は物件の状態・地域・工事内容によって異なります。具体的な費用は複数の施工業者から見積もりを取得して確認してください。

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