障害福祉サービスの稼働率と収支差率の関係、6サービス横断比較

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障害福祉サービスの収支差率を改善しようとする際、最初に確認すべき指標のひとつが「稼働率(利用率)」です。稼働率とは、定員に対して実際に利用が発生している比率のことで、この数字が低いと人件費・家賃・光熱費などの固定費が収入に対して過大になります。

本記事では、厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」(令和6年度決算)および福祉医療機構(WAM)の経営分析参考指標(2023年度決算)のデータをもとに、放デイ・児発・GH包括型・GH日中型・生活介護・就労移行支援の6サービスについて、稼働率と収支差率の関係を横断的に整理します。

6サービスの稼働率と収支差率の一覧

サービス 稼働率(WAM参考値) 収支差率・平均(R6) 収支差率・中央値(R6)
放デイ 87.8% 9.1% 2.7%
GH日中型 86.0% 5.1% 5.9%
GH包括型 85.7% 6.9% 5.3%
生活介護 84.2% 6.3% 7.9%
児発 80.8% 7.8% 9.7%
就労移行支援 69.2% 6.0% 4.5%

この表を見ると、稼働率と収支差率の間に単純な比例関係はないことが分かります。放デイは稼働率87.8%・収支差率9.1%と最高水準ですが、GH日中型は稼働率86.0%と高いにも関わらず収支差率は5.1%にとどまっています。稼働率が低い(80.8%)の児発が収支差率(中央値9.7%)で最高水準というケースもあります。

稼働率と収支差率の関係は、サービスの費用構造(人件費率・固定費の大きさ)によって変わります。以下ではサービスごとに詳しく見ていきます。

放デイ:高稼働率87.8%が収支差率9.1%を支えている

放デイは6サービス中で最も稼働率が高く(87.8%)、収支差率(平均9.1%)も最高水準です。この2つの数字は密接に関係しています。

放デイの人件費率は64.4%と比較的低く、稼働率が高いほど固定的な人件費を多くの収益で割り勘にできます。例えば、定員10人の放デイで月次定員充足率が87.8%(8.78人分の収入)と75%(7.5人分の収入)の場合、月間収入の差は約14.5%になります。一方、人件費はほぼ変わらないため、稼働率の差が収支差率に直接影響します。

放デイの収支差率の中央値(2.7%)と平均(9.1%)の差が大きいことにも注目が必要です。稼働率が87.8%以上の事業所では収支差率が高くなる一方、稼働率が85%を下回ると収支差率は急激に低下する傾向があります。

稼働率87.8%を下回る放デイが収支差率を改善するためには、まず登録利用者数の確保が最優先です。空き枠がある状態で運営するより、キャンセル待ちを作り定員を常に充足させることが収支の安定に直結します。

児発:稼働率80.8%でも収支差率(中央値)9.7%を実現できる理由

児発は6サービス中で稼働率が最も低い部類(80.8%)ですが、収支差率の中央値(9.7%)は6サービス最高水準です。なぜ稼働率が低くても収支差率が高いのでしょうか。

理由のひとつは「収入単価の高さ」です。児発の平均年収入は2,213万円で、放デイ(3,103万円)より低いですが、定員規模が小さい事業所でも単価の高い利用者(重度障害・医療的ケア等)が多いケースでは、収支差率が高くなります。また、令和6年改定で児発の加算体系が見直されたことで、加算取得が積極的な事業所の収支が改善した可能性があります。

もうひとつの理由は「人件費率68.0%」という水準です。放デイ(64.4%)よりは高いですが、生活介護・短期入所(69%以上)よりは低い。稼働率が80%台でも人件費率を68%前後に維持できれば、収支差率7〜10%の水準を実現できることを示しています。

ただし、平均値(7.8%)と中央値(9.7%)のギャップが示すように、児発の収支差率には事業所ごとのばらつきが大きい状況です。稼働率が80%を下回り、かつ人件費率が70%を超えている事業所では、収支差率が赤字になるリスクがあります。

GH包括型・GH日中型:稼働率は同水準でも収支差率に差がある

GH包括型(稼働率85.7%・収支差率6.9%)とGH日中型(稼働率86.0%・収支差率5.1%)は、稼働率はほぼ同じですが収支差率に1.8ポイントの差があります。

この差の主な理由は「人件費率」です。GH包括型(61.7%)はGH日中型(66.1%)より4.4ポイント低い。日中型は日中の支援員を別途配置する必要があるため、人件費率が高くなります。稼働率が同水準でも、日中支援員の人件費が収支差率を圧迫している状態です。

GH日中型の年間収入平均(5,803万円)はGH包括型(3,990万円)より高いですが、日中支援員の人件費増加分が収入増加分を上回っているため、収支差率では包括型が上回っています。

GH系の事業所で稼働率を上げるには、入居者の確保が直接の手段です。日中型では入居率86%を90%以上にすることで、同じ日中支援員数でより多くの入居者を支援でき、1人当たりのコストが下がります。入居者1人あたりの収入(年収5,803万円÷定員)を上げる方向では、重度障害者支援加算・夜間支援等体制加算等の取得が有効です。

生活介護:稼働率84.2%と収支差率6.3%の関係

生活介護の稼働率(WAM参考値)は84.2%で、GH系(85〜86%)よりやや低い水準です。収支差率は平均6.3%・中央値7.9%です。

生活介護は年間収入が平均7,939万円と7サービス中最大で、人件費も5,489万円と最大です。稼働率84.2%でも収支差率6%以上を維持できているのは、「規模の経済」が効いているためです。大規模事業所ほど、施設運営の固定費(家賃・管理費等)を多くの利用者で分担できます。

生活介護で稼働率84.2%を下回った場合の影響を試算すると、稼働率が84%→79%(5ポイント低下)した場合、年間収入は約397万円減少します。人件費が変わらなければ、収支差率は6.3%→1.3%(5ポイント低下)になります。稼働率1ポイントの変化が収支差率1ポイントの変化に相当するという関係が、生活介護では特に顕著です。

生活介護の稼働率を維持・改善するためのポイントとして、次のことが挙げられます。

  • 長期欠席者が増えていないか定期的に確認する(月ごとの利用実績の集計)
  • 退所者が発生した際のキャンセル待ち・新規利用者の確保ルートを事前に整備する
  • 定員充足率が80%を下回る月が続く場合は、相談支援事業所との連携強化を優先する

就労移行支援:稼働率69.2%という低水準が収支差率を圧迫

就労移行支援の稼働率(WAM参考値69.2%)は、6サービス中で際立って低い水準です。放デイ・GH系・生活介護が84〜88%台であるのに対し、就労移行支援は70%を下回っています。

稼働率69.2%は、定員20名の事業所であれば平均13.84名しか利用していない計算です(20名×69.2%)。人件費は定員分の職員を配置しており、収入は定員の69.2%分しか入らない状態が慢性化すると、収支は大きく悪化します。

就労移行支援の人件費率(64.2%)は放デイと同水準です。しかし稼働率が放デイ(87.8%)より18ポイント低いため、同じ人件費率でも収支差率は大きく開きます。収支差率の差(放デイ9.1%・就労移行支援6.0%)の多くは稼働率の差で説明できます。

就労移行支援の稼働率が全体的に低い理由には、次の構造的な要因があります。

  • 利用期間の上限(原則2年):就労移行支援は利用開始から2年(最長3年)で終了します。毎年、定員の30〜50%程度の利用者が入れ替わるため、常に新規利用者の確保が必要です
  • 障害者就労の競合機関の存在:ハローワーク・就労移行支援事業所が同一地域に複数存在する場合、利用者の分散が稼働率を下げる要因になります
  • 就職実績の低迷:就職実績が低い事業所は新規利用者の獲得が難しくなり、稼働率がさらに低下するという悪循環に陥りやすい

就労移行支援で稼働率を改善するためには、就職実績の向上→口コミ・相談支援機関からの紹介増加→稼働率回復という流れを作ることが最も効果的です。就職実績を上げるためには、利用者のニーズに合った職域の開拓と、令和6年改定で強化された就労定着支援との連携が重要です。

稼働率と収支差率の関係まとめ

6サービスの横断比較から導き出せるポイントをまとめます。

稼働率が収支差率に与える影響は費用構造で変わる:人件費率が低いサービス(放デイ64.4%・GH包括型61.7%)では、稼働率が上がるほど収支差率の改善幅が大きくなります。一方、人件費率が高いサービス(生活介護69.1%・短期入所69.2%)では、稼働率の変化による収支差率への影響がより直接的で、稼働率低下時のリスクが高くなります。

稼働率の「目安」はサービスによって異なる:WAM参考値(放デイ87.8%・生活介護84.2%・GH系85〜86%)は業界の標準的な水準として参考にできます。就労移行支援(69.2%)は低水準ですが、これはサービスの性質上(利用期間上限・就職実績連動)であり、70%台を確保できれば収支差率6%前後は実現可能です。

稼働率より収支差率を直接見る:稼働率は収支の重要な指標ですが、最終的には収支差率(年間収入に対する収支差額の割合)で自事業所の経営状態を把握します。稼働率が高くても人件費率が高すぎれば収支差率は低く、稼働率が低くても加算収入が多ければ収支差率が高いケースもあります。

自事業所の稼働率と収支差率を全国平均と比較し、どちらの要因が収支を制約しているかを特定することが、経営改善の第一歩です。

稼働率を上げるための共通アプローチ

サービスを問わず、稼働率を上げるために有効なアプローチをまとめます。

  • 相談支援事業所との関係構築:障害福祉サービスの利用者は相談支援専門員を通じてサービスを選ぶケースが多い。自事業所の特色(対応できる障害種別・年齢層・支援内容等)を相談支援事業所に伝え、紹介につなげることが稼働率向上の基本です
  • 退所・退去後の空き枠を最小化する:利用者が退所・退去する際に次の利用者への橋渡しができるよう、キャンセル待ちのリストを事前に作る。空き枠が発生してから動くのでは遅く、常に次の候補者を確保する体制を作ることが重要です
  • 体験利用・見学の機会を設ける:GH・生活介護・就労移行支援では、体験利用や見学を積極的に受け入れることで利用開始までの期間を短縮できます。利用者・家族が「ここで支援を受けたい」と思える環境整備がバックグラウンドで稼働率に影響します
  • 月別の稼働率をモニタリングする:年次の稼働率だけでなく、月別・曜日別の稼働率を追うことで、稼働率が落ちやすい時期(長期休暇・体調不良が多い季節等)を事前に把握し、対策を講じられます

稼働率と収支差率の関係を定期的に確認することで、「どのくらい稼働率を上げれば収支差率が目標値に達するか」を試算できます。経営診断ツールを使って自事業所の数字を入力し、全国平均と比較することが最初のステップです。

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出典:厚生労働省「令和7年障害福祉サービス等経営概況調査結果」(令和6年度決算)、福祉医療機構(WAM)経営分析参考指標2023年度決算。稼働率のWAM参考値は2023年度決算時点のデータを使用しています。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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