福祉事業所の返済余力、収支がプラスでも資金が減る仕組みとその見方

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福祉事業所の経営を数字で把握するとき、収支差率だけを見ていると見えない問題があります。それは「借入金の元金返済」です。返済余力を確認することで、手元資金が実際にどの方向に動いているかを把握できます。

返済余力とは

返済余力は次の計算式で求めます。

返済余力(年間)= 収支差額 − 借入金の元金返済額

収支差率がプラスでも、借入金の元金返済がそれを上回る場合、返済余力はマイナスになります。この場合、毎年の決算では黒字(収支差率プラス)でも、実際の現金は毎年減っていきます。

例:年収3,000万円・収支差率5%(差額150万円)・年間元金返済額300万円の場合、返済余力=150万円−300万円=▲150万円。決算は黒字でも、手元資金は年間150万円ずつ減ります。

減価償却費との関係

収支差額の計算に含まれる支出には「減価償却費」が含まれています。減価償却費は現金の支出を伴わない費用です(現金は設備投資時に既に出ていっている)。そのため、会計上の収支差率と実際の現金の増減はずれが生じます。

開業時に設備投資をした事業所では、最初の数年間に大きな減価償却費が発生します。同じ頃に借入の元金返済も多いため、「収支差率はプラスなのに手元資金が減っている」という状況が起きやすい時期です。

返済余力がマイナスの場合に確認すること

返済余力がマイナスの場合、次の点を順番に確認することを推奨します。

  1. 現在の手元資金は何ヶ月分か:月間支出の2ヶ月分以上あれば、しばらくは耐えられます。1ヶ月未満なら早急に対応が必要です
  2. 収支差率の改善余地はあるか:稼働率の向上・加算の追加取得で収支差額を増やせるかを確認します
  3. 借入の条件変更(リスケジュール)の余地はあるか:資金繰りが厳しい場合、金融機関に返済条件の一時猶予(リスケジュール)を相談することができます。リスケジュールを行うと追加融資が受けにくくなる場合があるため、メリット・デメリットを顧問税理士と相談したうえで判断してください

返済余力をシミュレーションする

返済余力は数字を入れてシミュレーションすることで、「いつ手元資金が底をつくか」の見通しが立てられます。

例:現在の手元資金500万円・毎年の収支差率3%・年収3,000万円・年間返済額400万円の場合

  • 年間収支差額:3,000万円 × 3% = 90万円
  • 返済余力:90万円 − 400万円 = ▲310万円
  • 手元資金の変化:500万円 → 190万円(1年後) → ▲120万円(2年後、資金ショート)

この場合、約1.6年で手元資金が底をつく計算です。早めに収支の改善か借入条件の変更を検討する必要があります。

逆に、収支差率が7%に改善した場合:

  • 年間収支差額:3,000万円 × 7% = 210万円
  • 返済余力:210万円 − 400万円 = ▲190万円
  • 手元資金の変化:500万円 → 310万円(1年後) → 120万円(2年後) → ▲70万円(3年後)

収支差率が改善しても、返済額が大きければいずれ資金が減ります。返済期間が終わるまで耐えられるか、返済期間終了後に余裕が生まれるかを把握することが重要です。

借入なしの事業所は返済余力を気にする必要はないか

借入がない事業所は返済余力の概念は不要ですが、設備の更新資金の確保を別途考える必要があります。

福祉施設の設備(車両・医療機器・空調設備・リフト等)は10〜20年で更新が必要です。借入なしの黒字事業所でも、毎期の収支差額を「設備更新資金」として積み立てておかないと、将来の設備更新時に一括で多額の支出が発生します。

返済余力の計算に代えて「設備更新積立の余裕があるか」を確認することが、借入なしの事業所での経営診断のポイントです。

「DSCR(債務返済余裕率)」という考え方

返済余力を数値化した指標として、DSCR(Debt Service Coverage Ratio・債務返済余裕率)があります。次の式で計算します。

DSCR = 元利金返済前の収支差額 ÷ 年間の元利金返済額(元金返済 + 利息)

DSCRが1.0以上であれば、収益で元利金を返済できる状態です。1.2以上であれば十分な余裕があるとされます。1.0を下回ると収益だけでは返済ができず、手元資金を取り崩して返済している状態です。

DSCRは融資審査でも使われる指標です。追加融資を受ける際に金融機関から確認されることがあります。事前にDSCRを計算しておくことで、融資交渉をスムーズに進めやすくなります。

元利金返済前の収支差額(いわゆるEBITDA)は、収支差額に減価償却費を加算したものが近似値です(減価償却費は現金支出を伴わない費用であるため)。税理士に試算を依頼するか、経営診断ツールで確認することができます。

開業直後の返済余力は特別に管理する

開業から3〜5年は、初期借入の元金返済が重なる時期です。日本政策金融公庫の融資では、据置期間(元金の返済を猶予する期間)を設定できる場合があります。据置期間を利用することで、開業直後の返済余力がマイナスになる時期を短縮できます。

開業融資の借入条件(返済期間・据置期間・利率)を確認し、年次の返済額を把握したうえで、事業計画の収支見通しと突き合わせることが開業前の重要な準備です。

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返済余力はあくまで経営把握のための指標であり、資金調達・借入条件の変更については顧問の税理士・公認会計士・中小企業診断士にご相談ください。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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