就労移行支援の指定申請は、障害者総合支援法第29条に基づき、都道府県(指定都市・中核市)知事に申請します。法人設立後、事業所の確保・人員体制の整備・必要書類の準備の3つを揃えてから申請し、審査・実地確認を経て指定を受けます。事業開始を想定する日の2〜3か月前には申請を済ませておくことが一般的です。
指定申請の根拠は障害者総合支援法第29条
就労移行支援を事業として行うには、都道府県(指定都市・中核市)知事から「指定障害福祉サービス事業者」の指定を受ける必要があります。この指定の根拠は、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(以下「障害者総合支援法」)第29条です。
第29条は、「市町村は、支給決定を受けた障害者等が、指定障害福祉サービス事業者から当該指定に係る障害福祉サービスを受けたときは、…介護給付費を支給する」と定めており、指定を受けることが介護給付費を請求できる前提となっています。指定を受けない事業者が就労移行支援を提供しても、利用者への介護給付費の支給が行われません。
指定の申請先は原則として都道府県知事ですが、指定都市および中核市においてはそれぞれの市長が申請先となります。開業予定の事業所が所在する行政区域を確認してから申請窓口に問い合わせてください。
指定申請の前提:法人格の取得
指定障害福祉サービス事業者になるためには、法人格を有していることが必要です(障害者総合支援法第36条第1号)。法人格のない個人事業主は指定を受けることができません。
法人の形態としては、株式会社・合同会社・一般社団法人・特定非営利活動法人(NPO法人)・社会福祉法人などが選ばれます。就労移行支援の場合、株式会社や合同会社などの営利法人でも指定を受けることが可能です。
法人設立にかかる期間は形態によって異なります。株式会社・合同会社は公証役場での定款認証や登記申請を経て1〜2週間程度、NPO法人は所轄庁への設立認証申請から認証まで概ね4か月程度かかります。社会福祉法人は認可手続きが複雑で、半年〜1年以上かかることも少なくありません。
法人を設立する際は、定款の目的欄に就労移行支援(障害福祉サービス)に関する記載を含めることが必要です。記載が不十分だと申請時に差し戻しになることがあるため、申請前に窓口担当者に確認することを勧めます。
人員基準の確認:申請前に配置できる見込みを作る
就労移行支援の人員基準は、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第171号、以下「基準省令」)第175条・第176条に定められています。
申請書類に人員配置の状況を記載するため、指定申請時点で少なくとも採用の見込みが立っている必要があります。必要な職種と配置要件の概要は以下のとおりです。
| 職種 | 配置要件 |
|---|---|
| 管理者 | 常勤1名(兼務可・管理上支障がない場合) |
| サービス管理責任者(サビ管) | 利用者60人以下は1名以上(常勤) |
| 職業指導員・生活支援員 | 利用者数÷6以上の常勤換算(各1名以上) |
| 就労支援員 | 利用者数÷15以上の常勤換算(1名以上) |
サービス管理責任者は、相談支援・直接支援の実務経験と、指定の研修(サービス管理責任者研修)の修了が要件です。未修了の場合でも「みなし規定」として一定期間は従事できる場合がありますが、研修の受講状況や修了見込みについて申請窓口に確認することが必要です。
設備基準の確認:物件取得前にチェックを
事業所の物件を確保する前に、設備基準(基準省令第178条)を満たせるかどうかを確認してください。申請書類には事業所の図面を添付するため、物件が決まっていることが必要です。
就労移行支援で必要とされる主な設備は、訓練・作業室・相談室・洗面所・便所です。訓練・作業室の広さについては、国省令に数値基準の記載はなく、自治体の付加基準として「利用者1人当たり3.3平方メートル以上」を定めている例があります。申請先の窓口に確認してください。
テナント物件の場合、バリアフリーの対応状況(スロープ・手すりの有無等)も確認が必要なことがあります。また、便所は利用者・職員が利用しやすい位置に設けることが求められます。
必要書類の一覧
指定申請に必要な書類は都道府県・指定都市・中核市ごとに異なりますが、一般的に求められる書類は以下のとおりです。申請前に窓口が公開している申請の手引きを入手して、提出物の最新リストを確認してください。
| 書類名 | 内容・備考 |
|---|---|
| 指定申請書(様式第1号等) | 申請先の様式を使用する |
| 事業計画書 | 利用定員・提供するサービスの概要等 |
| 法人の定款または寄附行為 | 目的欄に就労移行支援等の記載が必要 |
| 法人の登記事項証明書 | 申請日から3か月以内のもの |
| 役員名簿 | 現在の役員全員の氏名・住所・職名 |
| 財産目録(直近の決算書) | 設立直後の場合は設立時の財産目録等 |
| 事業所の平面図・配置図 | 各室の名称・寸法・面積を記載 |
| 建物の登記事項証明書または賃貸借契約書 | 不動産の確保を証明する書類 |
| 建物の用途(検査済証等) | 建築基準法上の用途確認に使う場合がある |
| 管理者の経歴書・資格証明書 | 管理経験・職種による |
| サービス管理責任者の経歴書・研修修了証 | 実務経験要件・研修修了を証明する書類 |
| 職業指導員・生活支援員等の経歴書 | 人員配置の確認に使う |
| 人員配置表(組織図) | 常勤換算の計算根拠を含める場合もある |
| 運営規程 | サービスの目的・運営方針・利用料等を記載 |
| 重要事項説明書(見本) | 利用者に交付する書類の見本 |
| 利用者との契約書(見本) | サービス提供・費用負担等の契約内容 |
| 苦情解決体制に関する書類 | 苦情受付・解決の手順書など |
申請から指定通知までの手順
都道府県・指定都市・中核市ごとに手続きの細部が異なりますが、一般的な流れは以下のとおりです。
1. 事前相談
多くの自治体では、正式な申請の前に担当窓口への事前相談を受け付けています。物件が決まった時点・書類作成の途中段階など、複数回相談することが一般的です。事前相談では、必要書類の確認・設備基準の適合確認・人員体制の確認を行います。
事前相談を省略して書類を揃えても、申請後に差し戻しになるケースが多く、事業開始が遅れる原因になります。申請書類を作り始める前の段階で窓口に連絡することを勧めます。
2. 書類の作成・収集
申請窓口から提供される申請の手引き・様式集をもとに書類を作成します。人員の採用や研修修了証の入手に時間がかかることが多いため、採用活動は物件探しと並行して進めることが必要です。
3. 申請書類の提出
書類が揃ったら申請書類一式を提出します。提出方法は持参・郵送・電子申請など自治体ごとに異なります。受付後、形式審査(書類の不備確認)が行われ、不備があれば補正を求められます。
4. 実地確認(現地確認)
申請書類の審査と並行して、または審査後に、担当者が事業所を訪問して設備や人員体制を実地確認する場合があります。この段階で設備基準を満たしていないことが判明すると、改修・補修が必要になります。
5. 指定通知の受領・事業開始
審査を通過すると、指定通知書(指定書)が交付されます。指定日以降に事業を開始できます。なお、介護給付費の請求を行うためには、指定を受けた後に国民健康保険団体連合会(国保連)への登録手続きが別途必要です。
申請受付の締切日に注意
多くの都道府県では、指定日を月の初日(毎月1日)とし、その前月の一定日を申請の締切日としています。たとえば「毎月15日締切・翌月1日指定」のような運用です。締切日を過ぎると、次の月の指定になるため、事業開始が1か月単位でずれる可能性があります。
申請の締切日・指定日のスケジュールは、申請先の自治体ごとに異なります。事業開始の目標日から逆算して、いつまでに申請書類を揃えるかを計画してください。
差し戻しになりやすいポイント
指定申請の実務では、以下のような理由で書類の補正・差し戻しになることが多いです。申請前に確認しておくことを勧めます。
定款の目的欄の記載不備
法人の定款の目的欄に、就労移行支援(障害福祉サービス)の事業が含まれていない場合、定款の変更(登記手続き)が必要です。定款変更には時間がかかるため、法人設立時または事前相談の段階で確認してください。
人員配置の常勤換算の計算誤り
職業指導員・生活支援員・就労支援員の常勤換算を誤って記載するケースがあります。常勤換算は「週40時間を1.0人として計算する」方法が基本ですが、非常勤スタッフの勤務時間の合計を誤る場合があります。
サービス管理責任者の要件確認書の不備
サービス管理責任者の実務経験要件・研修修了要件の確認書類が不十分な場合があります。前職の経験年数の証明書類(在職証明書等)が必要なことが多く、前職の事業所に発行を依頼する時間を見ておく必要があります。
運営規程の内容の不備
運営規程は、基準省令第185条に定める事項を記載することが必要です。基本的な事項(事業の目的・利用者への支援の内容・利用定員・職員の職種と人数・利用料の額等)の抜け漏れがあると補正を求められます。
指定後の届出義務
指定を受けた後にも、変更が生じた場合は届出が義務付けられています。主な届出事項は以下のとおりです。
- 事業所の名称・所在地の変更
- 管理者・サービス管理責任者の変更
- 利用定員の変更
- 事業の休止・廃止
事業の廃止や休止を行う場合は、1か月前までに届け出ることが基準省令第186条(廃止・休止等の届出)に定められています。廃止・休止の届出なしに事業を停止することは、指定の取消事由になりえます。
FAQ
個人事業主でも就労移行支援を始められますか。
始められません。指定障害福祉サービス事業者の指定を受けるには、法人格が必要です(障害者総合支援法第36条第1号)。株式会社・合同会社・NPO法人など、法人の形態は問いません。
指定を受けるまでに最短でどのくらいかかりますか。
法人設立が完了している状態から数えると、物件確保・人員採用・書類準備・申請・審査を経て最短3〜4か月が目安です。ただし、人員の採用(特にサービス管理責任者の確保)・物件の設備基準適合確認・自治体の受付スケジュールによって変動します。余裕をもって半年程度を見込むことを勧めます。
他の障害福祉サービスと同時に申請できますか。
できます。就労継続支援A型・B型・生活介護など複数のサービスを同一事業所で提供する多機能型の形態を取る場合、一度の申請で複数のサービスを申請することができます。ただし、それぞれのサービスについて人員基準・設備基準を満たすことが必要です。
申請後に書類の不備を指摘されたら、事業開始が遅れますか。
指定日のスケジュールによっては1か月以上遅れる可能性があります。書類の補正を求められた場合、締切日を過ぎてしまうと翌月の指定日になることがあります。事前相談を十分に活用することで差し戻しのリスクを下げることができます。
まとめ
就労移行支援の指定申請の主要なポイントをまとめます。
- 根拠法令:障害者総合支援法第29条に基づき、都道府県(指定都市・中核市)知事に申請する
- 前提条件:法人格の取得、定款の目的欄への記載確認
- 人員基準:管理者・サビ管・職業指導員・生活支援員・就労支援員の5職種が必要(基準省令第175条)
- 設備基準:訓練・作業室・相談室・洗面所・便所が必要(基準省令第178条)。面積は自治体付加基準を確認
- スケジュール:事業開始の2〜3か月前には申請、事前相談は早めに
- 差し戻しになりやすい点:定款の目的欄・常勤換算の計算誤り・サビ管の要件確認書・運営規程の記載不備
就労移行支援の開業コストや収支シミュレーションは、当サイトの「就労移行支援 開業向け収支シミュレーター」でご確認いただけます。

コメント