美容院(生活衛生関係営業)の開業資金は、日本政策金融公庫の「生活衛生新企業育成資金」で借りられます。融資期間の上限は、設備資金が20年以内・運転資金が10年以内で、据置期間はいずれも5年以内です。公庫の記入例(美容業・2025年4月版)では、開業費用合計1,030万円のうち、公庫から500万円(月7万円×72回)・信用金庫から200万円(月3万円×67回)・自己資金330万円で調達しています。
美容院は内装費・設備費が高く、公庫の「新規開業実態調査」(2025年度・全業種)でも開業費用の平均は975万円です。事前に調達の見通しを立てた上で物件探しを進めることが重要です。以下では、記入例の調達構造を出発点に、返済の仕組みと利益の関係、自己資金の比率、融資のために用意するものを整理します。
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- 生活衛生新企業育成資金の融資期間の上限は、設備20年・運転10年
- 記入例の調達は、自己330万円+公庫500万円+信金200万円の組み合わせ
- 月の元金返済10万円と利益の関係を確認する
- 据置期間を設定すると、開業当初の資金繰りに余裕が生まれる
- 生活衛生同業組合の組合員は、別の条件が適用される可能性がある
- 融資のために用意するものは、創業計画書と2社以上の見積もりが中心
- 2社以上の見積もりが必要な理由は、費用の適正確認のため
- 自己資金の比率は、記入例で32%
- 公庫の審査では、収支の見通しと返済能力を確認する
- 借入期間が変わると月の元金返済額が変わる
- 新規開業の借入規模は、調査では平均827万円
- 公庫と信用金庫を組み合わせる理由
- 資金計画に生活費と税金の見込みを加える
- まとめ
生活衛生新企業育成資金の融資期間の上限は、設備20年・運転10年
公庫の手引(美容業版・令和6年6月版)によると、生活衛生新企業育成資金の融資条件は次のとおりです。
| 資金の種類 | 融資期間の上限 | うち据置期間の上限 |
|---|---|---|
| 設備資金 | 20年以内 | 5年以内 |
| 運転資金 | 10年以内 | 5年以内 |
出典:日本政策金融公庫「創業の手引+ 新たに美容業を始めるみなさまへ」(令和6年6月版)。ただし、組合員の場合は条件が異なります。詳細は公庫の窓口でご確認ください。
据置期間とは、元金の返済を猶予できる期間のことです。据置期間中は利息のみを払います。最長5年間の据置を使えば、開業から最大5年間は元金の返済を後回しにすることができます。ただし、据置期間が終わると残りの期間で元金を返済するため、月の返済額が増えます。記入例では据置を使わず、開業当初から月7万円の元金返済を始める設計です。
記入例の調達は、自己330万円+公庫500万円+信金200万円の組み合わせ
公庫の「創業計画書 記入例(美容業)2025年4月版」では、開業費用1,030万円の調達方法が次のように示されています。
| 調達先 | 金額 | 返済の条件 |
|---|---|---|
| 自己資金 | 330万円 | (返済不要) |
| 日本政策金融公庫 | 500万円 | 元金7万円×72回 |
| 信用金庫 | 200万円 | 元金3万円×67回 |
| 合計 | 1,030万円 |
出典:日本政策金融公庫「創業計画書 記入例(美容業)」(2025年4月版)。利率の記載は当記入例には見当たりません。
公庫500万円は元金7万円×72回=504万円、信用金庫200万円は元金3万円×67回=201万円です(いずれも元金のみの計算)。月の元金返済は公庫7万円+信金3万円=合計10万円です。記入例の「事業の見通し(月平均)」に記載の支払利息2万円は、この借入の利息に対応します。
月の元金返済10万円と利益の関係を確認する
公庫の記入例では、月の元金返済(公庫7万円+信金3万円)の合計は10万円です。「事業の見通し(月平均)」の利益からこの元金返済分を引くと、税金・生活費に回せる残りは次のようになります。
| 時期 | 月の利益 | 元金返済(公庫+信金) | 残り(税金・生活費に充てる分) |
|---|---|---|---|
| 創業当初 | 38万円 | 10万円 | 28万円 |
| 軌道に乗った後 | 53万円 | 10万円 | 43万円 |
個人経営の場合、この「残り」から所得税・住民税・個人事業税と事業主の生活費を払います。記入例では事業主の勤務時の月給が25万円と記されています。軌道後の43万円から生活費25万円を取ると18万円が税金等の支払いに回せる計算です。創業当初の28万円から生活費25万円を取ると残りは3万円となり、余裕は小さくなります。
公庫の記入例の「事業の見通し」の利益の欄には、「所得税等の税金や借入金の返済元金はここから支払われます」という注記がついています。様式の「利益」は税引前・元金返済前の数字です。黒字の利益が出ていても、そこから元金と税金と生活費を払う構造であることを念頭に置く必要があります。
据置期間を設定すると、開業当初の資金繰りに余裕が生まれる
据置期間(最長5年)を使うと、その間は元金返済が不要で利息のみの支払いになります。たとえば公庫500万円で2年間の据置を設定した場合、開業から2年間は元金7万円の返済が猶予されます。ただし、据置期間終了後は残りの期間(設備資金最大20年・運転資金最大10年から据置年数を引いた期間)で元金を返済するため、月の返済額は増えます。
記入例では据置を設定していません。元金返済を創業当初から始める代わりに、月商93万円・利益38万円という計画で開業当初から元金返済10万円をカバーできる設計です。据置を使うかどうかは、開業後の売上の立ち上がりのペースと、その期間の生活費・運転資金の状況を踏まえて公庫の担当者と相談して決めることになります。
生活衛生同業組合の組合員は、別の条件が適用される可能性がある
公庫の手引(美容業版)によると、生活衛生新企業育成資金の条件は「組合員の場合は別条件」という記載があります。詳細な条件の違いは公庫の窓口と各都道府県の生活衛生同業組合(美容業であれば美容組合)に確認することが必要です。
生活衛生同業組合に加入することで融資の条件が変わる可能性があるため、開業を検討する段階で地域の組合への加入についても情報収集することが有効です。
融資のために用意するものは、創業計画書と2社以上の見積もりが中心
公庫の創業融資を受けるには、創業計画書の作成が必要です。公庫の手引(美容業版・令和6年6月版)には、設備資金の借入に際して2社以上の見積もりが必要という記載があります。これは、内装工事・設備購入の費用が適正かを確認するためです。
主に用意するものは次のとおりです(詳細は公庫の担当窓口で確認してください)。
- 創業計画書(売上の根拠・費用の内訳・調達方法・返済計画を記載)
- 設備資金の2社以上の見積書
- 物件の賃貸借契約書(予定も含む)
- 美容師の免許証の写し
- その他、公庫が求める確認書類
創業計画書の「9 事業の見通し(月平均)」欄は、売上の算出根拠・費用の内訳・調達と返済の計画を書く様式です。記入例(美容業)の算式(6,000円×3台×2回転×26日=93万円)のように、計算の根拠をできるだけ具体的に記載することが求められます。
2社以上の見積もりが必要な理由は、費用の適正確認のため
公庫の手引(美容業版)では、設備の契約は「融資決定後の本契約」を求めています。また2社以上の見積もりが必要と記されています。見積もりを1社だけで進めると、「費用が適正かどうか」の確認ができないため、複数の業者から見積もりを取ることで費用水準の妥当性を示す必要があります。
内装工事(記入例では600万円)や設備(セット椅子3台30万円・シャンプー台2台40万円)については、施工・納品の前に見積もりを取り、融資決定後に正式契約に進む流れです。見積もりを複数取ることは、費用の比較検討にもなります。
自己資金の比率は、記入例で32%
公庫の記入例では、開業費用1,030万円のうち自己資金は330万円です。330万円÷1,030万円=32.0%が自己資金の比率になります。残り700万円を借入(公庫500万円+信金200万円)で賄う構成です。
| 調達先 | 金額 | 全体に対する比率 |
|---|---|---|
| 自己資金 | 330万円 | 32.0% |
| 日本政策金融公庫 | 500万円 | 48.5% |
| 信用金庫 | 200万円 | 19.4% |
| 合計 | 1,030万円 | 100% |
自己資金の比率が低いと借入依存度が高くなり、月の元金返済額が増えます。記入例の自己資金330万円は、元職場での退職金80万円(記入例に記載あり)と、勤務時代の月給25万円からの貯蓄を想定した水準です。自己資金が少ない場合は、借入を増やすか開業規模を縮小するかを検討することになります。
公庫の審査では、収支の見通しと返済能力を確認する
公庫の創業融資の審査では、創業計画書を通じて売上の根拠・費用の内訳・収支の見通し・返済計画が確認されます。「利益から元金返済・税金・生活費を払って資金が残るか」という観点が重要です。
記入例の設計では次のとおりです。創業当初の利益38万円から元金10万円を引くと28万円残り、ここから生活費・税金を払います。軌道後の利益53万円から元金10万円を引くと43万円残ります。この水準であれば返済と生活費の両立が可能という計画です。自分の計画で同じ計算をした場合に、どちらの時点でも残高がプラスになるかを確認することが、計画書を整合させる出発点になります。
借入期間が変わると月の元金返済額が変わる
公庫の記入例では500万円を72回(月7万円)の返済としています。7万円×72回=504万円は元金の合計に近い数字で、元金均等払いの目安として確認できます。借入期間を変えると月の元金返済額は次のように変わります(借入500万円の場合・元金均等払いの目安・当方の計算)。
| 返済期間 | 月の元金の目安 | 利益53万円(軌道後)から引いた残り |
|---|---|---|
| 5年(60回) | 約8.3万円 | 44.7万円 |
| 6年(72回・記入例) | 約6.9万円(=7万円) | 46.1万円 |
| 10年(120回) | 約4.2万円 | 48.8万円 |
| 15年(180回) | 約2.8万円 | 50.2万円 |
返済期間を長くすると月の元金が減り、毎月の手元に残る資金が増えます。ただし、返済期間が長くなるほど利息の合計は増えます。実際の月の返済額は金利と返済方式によって変わるため、公庫の担当窓口で試算を確認することが必要です。
新規開業の借入規模は、調査では平均827万円
公庫総合研究所の「新規開業実態調査」(2025年度)によると、新規開業者の開業費用は平均975万円・中央値600万円で、調達方法の内訳は借入金平均827万円・自己資金等279万円です。美容業に限定した数字ではありませんが、記入例の借入700万円(公庫500万+信金200万)はこの全業種の平均借入827万円より少ない水準です。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 開業費用(平均) | 975万円 |
| 開業費用(中央値) | 600万円 |
| 調達合計 | 1,219万円 |
| うち借入金 | 827万円 |
| うち自己資金等 | 279万円 |
出典:日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月)。全業種の平均値。
記入例の美容業では開業費用が1,030万円で、全業種の平均975万円より高い水準です。内装費600万円・シャンプー台など設備に費用がかかる業種であることが背景にあります。自己資金330万円は中央値の開業費用600万円の55%に相当し、一定の自己資金を持って開業する前提の設計です。
公庫と信用金庫を組み合わせる理由
記入例では公庫500万円に加えて信用金庫200万円を借りており、2つの金融機関から借入をする設計です。公庫1社だけでなく信用金庫を加えている背景として、次のことが考えられます。
一般的に、公庫の融資には貸出限度額の設定があり、全額を公庫だけで賄えない場合に信用金庫・地銀など地域の金融機関を組み合わせる例があります。また、創業時から地元の信用金庫と取引を始めておくことで、開業後の追加融資や資金繰りの相談がしやすくなる面もあります。記入例の信用金庫200万円(月3万円×67回)は、公庫500万円(月7万円×72回)より短い期間設定です。
どの金融機関からいくら借りるかは、各行の条件・担当者との関係・自己資金の状況によって異なります。公庫の担当窓口に相談する際に、他の金融機関との組み合わせについても確認することが有効です。
資金計画に生活費と税金の見込みを加える
公庫の記入例の「事業の見通し(月平均)」の利益(創業当初38万円・軌道後53万円)は、個人経営の場合、事業主の生活費を含みません。記入例では事業主の勤務時の月給が25万円と記されており、軌道後の利益53万円から元金10万円と生活費25万円を引くと、残りは18万円です。
この18万円から所得税・住民税・個人事業税を払います。創業初年度は前年の所得が低い場合が多く、住民税・個人事業税の負担が低いことがありますが、売上が安定してきた2年目以降から税負担が増えます。資金計画を立てる際は、利益から「元金返済+生活費+税金の見込み」を引いた残りがプラスかを確認することが重要です。当方の収支シミュレーターでは、借入条件と生活費を入力した場合の36か月の資金残高の推移を確認できます。
まとめ
美容院の開業資金は公庫の「生活衛生新企業育成資金」を活用できます。融資期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(据置最長5年)です。公庫の記入例(美容業)では、1,030万円を自己資金330万円(32%)・公庫500万円・信用金庫200万円の組み合わせで調達し、月の元金返済は合計10万円です。
融資を申し込む際には、創業計画書と2社以上の設備見積もりが必要です。「利益から元金返済・税金・生活費を払って資金がどれだけ残るか」を創業当初と軌道後の両方で確認した上で、計画書を作成することが重要です。当方の収支シミュレーターでは、借入額・返済期間・据置期間を変えたときの月の資金繰りを試算できます。試算結果を公庫への相談前の準備資料として活用することもできます。借入条件や返済期間の変更を比較した上で、担当窓口での打ち合わせに臨む準備の参考にしてください。
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▶ 美容院の開業 収支シミュレーター
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- 管理美容師は、美容師が2人以上なら必要。美容師法第12条の3と開設届・検査の流れ。
出典
- 日本政策金融公庫「創業計画書 記入例(美容業)」(2025年4月版):調達方法・返済条件・利益の数字。
- 日本政策金融公庫「創業の手引+ 新たに美容業を始めるみなさまへ」(令和6年6月版):生活衛生新企業育成資金の融資期間・据置期間・2社以上の見積もりの記載。
作成:fufumumu_design(ふふ)。確認日:2026年10月24日。計算は当方が行いました。公庫の資料は同公庫が作成したもので、この記事とツールは同公庫とは関係がありません。


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