美容院の居抜き物件を選ぶと、内外装費600万円がどれだけ下がるか。公庫の記入例と内訳から考える。

美容院の居抜き物件を選ぶと、内外装費600万円がどれだけ下がるか。公庫の記入例と内訳から考える。 美容院の開業

美容院の開業で居抜き物件を選ぶと、公庫の創業計画書 記入例(美容業・2025年4月版)に記載されている内外装費600万円の一部または全部を削減できる可能性があります。記入例の設備資金870万円のうち最大の項目が内外装費600万円で、次いで什器備品100万円・シャンプー台2台40万円・セット椅子3台30万円・保証金100万円が続きます。居抜き物件では内外装工事の大部分が不要になりますが、前テナントの設備が現行の保健所基準を満たしているか確認が必須で、セット椅子やシャンプー台が古い場合は交換費用が発生します。この記事では、公庫の記入例の数字を軸に、居抜き物件を選ぶ場合のコスト削減の範囲と注意点を整理します。

記入例の設備資金870万円の内訳を分解する

公庫の創業計画書 記入例(美容業・2025年4月版)では、初期費用の設備資金は次の内訳で合計870万円です。

記入例の設備資金内訳(公庫「創業計画書 記入例(美容業)」2025年4月版)
項目 金額 居抜き活用
内外装工事費 600万円 大幅削減の可能性あり
什器備品 100万円 一部流用できる場合あり
シャンプー台(2台) 40万円 状態次第で流用可能
セット椅子(3台) 30万円 状態次第で流用可能
保証金 100万円 変わらず発生
合計 870万円

居抜き物件で最も削減できる可能性があるのは内外装費600万円です。前テナントが美容院だった場合、シャンプー台の給排水設備・電気容量・鏡・カウンター・シャンプーユニットがそのまま残っており、工事をほとんど行わずに開業できるケースがあります。

居抜きでも保証金・礼金・仲介手数料は発生する

居抜き物件を選んでも削減できないコストがあります。保証金(記入例100万円)は物件を賃借する際に必要な担保であり、居抜きでも発生します。さらに礼金・仲介手数料は物件によって異なりますが、一般的に礼金1〜2か月分・仲介手数料1か月分程度です。

記入例の運転資金160万円の中には「家賃等30万円(準備期間分)」が含まれており、これも居抜き・スケルトンに関わらず必要です。

居抜き物件でも削減できない主なコスト
項目 目安
保証金 家賃3〜12か月分(記入例100万円)
礼金 家賃1〜2か月分
仲介手数料 家賃1か月分
開業前の家賃(準備期間) 記入例では30万円(3か月分)

前テナントの設備の状態が居抜きコストを左右する

居抜き物件のコスト削減額は、前テナントが残した設備の状態によって大きく変わります。

理想的なケース(内外装費600万円を大幅削減):前テナントが美容院で、閉店後1〜2年以内の物件。シャンプー台・電気設備・鏡・カウンターが現行の保健所基準を満たしており、清掃・軽微な補修のみで使用できる状態。この場合、内外装費を100〜200万円程度に抑えられる可能性があります。

追加費用が発生するケース:前テナントが美容院だったが設備が古い・故障している場合。シャンプー台(1台20万円)やセット椅子(1台10万円)を交換すると、削減できる額が減ります。電気の容量不足や排水管の老朽化で改修が必要になることもあります。

居抜きの名目だが実際は内装工事が必要なケース:前テナントが飲食店・事務所だった場合は、シャンプー台の給排水・電気容量の増設が必要で、費用が通常のスケルトンとほとんど変わらないことがあります。「居抜き」の文言だけで判断せず、物件の使用用途を確認することが重要です。

保健所への事前相談が居抜きでは特に重要

美容所を開設するには、美容師法第11条に基づき保健所への届出と立入検査が必要です。居抜き物件の場合、前テナントが美容所として許可を受けていたとしても、現行の基準を改めて満たしているかどうかを保健所が確認します。

事前相談の段階で確認すべき主な項目は次の通りです。

  • 採光・照明・換気の基準(美容師法第13条・都道府県条例)を満たしているか
  • 消毒設備が整っているか(消毒液・乾燥消毒器等)
  • 待合室とサービス室が適切に区分されているか
  • シャンプー台の給排水設備が現行基準を満たしているか

保健所によっては、前テナントの許可図面が残っており、変更の有無を確認した上で届出を受け付ける場合があります。内装業者と契約する前に保健所で事前相談を行い、必要な工事範囲を確定させることが、居抜き物件の活用でコストを削減する上で最も重要なステップです。

全国の開業費用の中央値600万円と居抜きの関係

日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査」によると、開業時の費用の平均は975万円・中央値は600万円です。記入例の1,030万円(設備870万円+運転160万円)は平均より高い水準にありますが、これはセット面3台・スタッフ2名体制の相対的に規模の大きい設定によるものです。

中央値600万円に収まる開業では、居抜き物件の活用・セット面数の絞り込み・設備の中古品活用などが組み合わさっていることが多いと考えられます。スタート時の初期費用を抑えることで、自己資金の比率を高め、借入を減らすことができます。記入例では自己330万円(32%)・借入700万円(68%)の構成ですが、初期費用が600万円に抑えられれば、同じ自己資金330万円でも借入を270万円に減らすことが可能です。

セット椅子・シャンプー台の中古品の選択肢

居抜き物件の設備が古い場合でも、新品でなく中古の設備を購入することでコストを抑える選択肢があります。美容機器の中古市場では、閉店した美容院からセット椅子・シャンプー台・スチーマーなどが流通しています。

参考として、記入例の設備費と中古品の相場感を比較します。

設備費の記入例と中古品目安の比較
設備 記入例の設定 中古品の目安
セット椅子(1台) 10万円 3〜8万円
シャンプー台(1台) 20万円 8〜15万円
什器備品(一式) 100万円 40〜70万円(中古混在)

中古品は耐久性・衛生面の確認が必要で、保健所の検査でNGになるリスクがあります。特にシャンプー台は給排水の老朽化が見えにくいため、購入前に動作確認を行うことが重要です。

内外装費600万円を圧縮した場合の資金計画への影響

記入例の調達構成(自己330万円+公庫500万円+信金200万円)を前提に、内外装費が半減(600万円→300万円)した場合の資金計画への影響を試算します。

内外装費圧縮時の初期費用・調達額の変化(試算)
項目 記入例 居抜きで内外装半減
内外装費 600万円 300万円
設備資金計 870万円 570万円
運転資金 160万円 160万円
初期費用合計 1,030万円 730万円
自己資金(同額) 330万円 330万円
借入必要額 700万円 400万円
月の元金返済(7年) 約10万円 約4.8万円

月の元金返済が10万円から4.8万円に下がると、毎月の固定費が5.2万円圧縮されます。損益分岐点の観点では、この分だけ必要月商が下がり、経営の余裕度が高まります。

シミュレーターで居抜きの数字を試す

初期費用・借入額・返済期間を変えて、36か月の資金繰りをシミュレーションできます。居抜きで初期費用を抑えた場合に資金残高がどう変わるかを確認してみてください。
美容院の開業 収支シミュレーター → https://fufumumu-design.com/biyouin-keikaku/

公庫に居抜き前提で融資申し込みをする際の資料

公庫の「生活衛生新企業育成資金」に居抜き物件を前提として申し込む場合も、スケルトンからの開業と同じく創業計画書の提出が求められます。居抜きで内外装費が抑えられる場合は、その根拠(物件の状態・保健所の事前相談結果・見積もり)を資料として準備することで、融資審査での信頼性が高まります。

公庫の手引(「新たに美容業を始めるみなさまへ」・令和6年6月版)では、内装業者から2社以上の見積もりを取ることが推奨されています。居抜き物件でも、必要な修繕・補修・設備交換の見積もりを取ることで、初期費用の根拠が明確になります。融資決定前に内装業者と正式契約を結ぶことは推奨されておらず、仮契約・内定の状態で融資申し込みを進めることが一般的です。

居抜き物件を探す際のチェックポイント

居抜き物件を選ぶ際に確認すべき主なポイントを整理します。

用途の確認:前テナントが美容所として保健所に届出を行った物件かどうかを確認します。飲食店・事務所からの居抜きは、一見安く見えても美容所仕様への改修費用がかかる場合があります。

設備の動作確認:シャンプー台の給排水・セット椅子の昇降機能・照明の照度・換気設備の稼働を実際に確認します。動作確認なしに「使える」と判断すると、入居後に想定外の修理費が発生することがあります。

保証金の返還条件:前テナントの造作(設備・内装)を引き継ぐ「造作譲渡」の場合、造作費用を前テナントまたはオーナーに支払うケースがあります。保証金と造作費用を合計した実質的な入居コストを確認します。

退去時の原状回復範囲:居抜きで入居しても、退去時には前テナントの造作を含む原状回復を求められることがあります。契約書で「原状回復の範囲」を明確にしておかないと、退去時に大きなコストが発生することがあります。居抜きで入居した設備(シャンプー台・カウンター等)の撤去・処分費用が入居者負担になるかどうかも、入居前に確認すべき点です。開業の初期費用を抑えるために居抜きを選んでも、退去コストが大きければトータルでの費用削減効果が薄れます。

居抜き物件の活用は初期費用削減の有力な手段ですが、設備の状態確認・保健所との事前相談・契約条件の精査を経て判断することが重要です。公庫の担当者に相談する際も、居抜き物件を前提とした資金計画を作成することで、借入額の見積もりが現実的になります。内外装費が削減できた分だけ初期借入を減らすと、月の返済額が下がり、立ち上がり期の資金繰りに余裕が生まれます。シミュレーターで居抜き前後の数字を入力し比較することで、資金計画への影響を事前に把握できます。居抜きの活用は単なるコスト削減にとどまらず、自己資金の比率を高め、融資審査での信頼性向上にもつながります。初期費用が抑えられるほど開業後の手元資金に余裕が生まれ、立ち上がり期の客数が計画を下回った場合のリスクを和らげることができます。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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