美容院の損益分岐点は、固定費÷限界利益率で出る。公庫の記入例で計算すると月商79万円。

美容院の損益分岐点は、固定費÷限界利益率で出る。公庫の記入例で計算すると月商79万円。 美容院の開業

美容院の損益分岐点は、固定費を限界利益率で割って求めます。公庫の記入例(美容業・2025年4月版)で軌道に乗った後の数字を使うと、固定費67万円÷限界利益率85%≒78.8万円です。記入例の計画月商142万円の56%の水準で、この売上を下回ると営業利益が赤字になります。

78.8万円を客単価6,000円・月26日営業で1日の客数に換算すると、3台のセット面合計で約5.0人です。ただし、これは営業利益がゼロになる水準です。借入の元金返済と個人営業なら生活費を加えると、手元にお金が残るキャッシュの損益分岐点はさらに高くなります。以下では計算の仕組みと具体的な活用方法を整理します。

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損益分岐点は、固定費÷限界利益率で出る

損益分岐点とは、売上と費用がちょうど同じになる(利益がゼロになる)売上高のことです。これを上回れば利益が出て、下回れば損失になります。

計算に必要なのは固定費と限界利益率の2つです。固定費は売上の多い少ないにかかわらず毎月かかる費用(人件費・家賃・支払利息・その他経費)で、限界利益率は「売上から変動費(材料費)を引いた残りの割合」です。

損益分岐点の計算式(公庫の記入例・軌道後の数字)
用語 意味 公庫記入例(軌道後)での値
固定費 毎月かかる費用(人件費+家賃+利息+諸経費) 25万+10万+2万+30万=67万円
変動費率 売上に対する材料費の割合(原価率) 15%
限界利益率 1−変動費率 85%(1−0.15)
損益分岐点 固定費÷限界利益率 67万÷0.85≒78.8万円

損益分岐点78.8万円は、記入例の計画月商142万円の55.6%にあたります。計画月商の44%以上が落ちると赤字になる計算です。

出典:日本政策金融公庫「創業計画書 記入例(美容業)」(2025年4月版)の「事業の見通し(月平均)」軌道後の数字をもとに当方が計算。

美容院のコストを固定費と変動費に分ける

損益分岐点を計算するには、費用を固定費と変動費に分類する必要があります。固定費は売上が増減しても毎月ほぼ変わらない費用で、変動費は売上(客数・材料使用量)に連動して増減する費用です。

美容院の主なコストの分類
費目 区分 考え方
材料費(カラー剤・シャンプー・消耗品等) 変動費 施術数に連動して増える。売上の15〜16%程度
人件費(スタッフ・家族従業者) 固定費 売上に関係なく毎月支払う月給が多い
家賃 固定費 売上に関係なく固定額が発生する
光熱費 固定費寄り 基本料金は固定。シャンプー等の使用量分は変動費寄り
広告費 固定費寄り 定額出稿なら固定。成果報酬型は変動費寄り
支払利息 固定費 月額はほぼ一定
減価償却費 固定費 内装・椅子・機器を月割りで計上。毎月一定額

計算を単純にするため、「材料費だけを変動費、それ以外を固定費」として損益分岐点を出すのが実務的です。美容院の材料費率(原価率)は公庫の経営指標調査(2025年度・美容業n=555)で全国平均15.6%なので、限界利益率は84.4%になります。記入例では原価率15%を使っているため、限界利益率は85%です。

記入例(美容業・軌道後)で損益分岐点を計算する

公庫の記入例(美容業・2025年4月版)の「軌道に乗った後」を使って計算します。3台のセット面・客単価6,000円・1日3回転・月26日営業・アシスタント1人(15万円)・専従者1人(10万円)・家賃10万円・支払利息2万円・その他30万円の設定です。

公庫の記入例(美容業・軌道後)の費用内訳
費目 月額 売上142万円に対する比率
売上高 142万円 100.0%
材料費(変動費) 22万円 15.5%
人件費(アシスタント15万+専従者10万) 25万円 17.6%
家賃 10万円 7.0%
支払利息 2万円 1.4%
その他経費 30万円 21.1%
固定費合計 67万円 47.2%
営業利益(売上-材料費-固定費) 53万円 37.3%

固定費67万円、限界利益率85%(1−0.15)から損益分岐点を計算します。

損益分岐点 = 67万円 ÷ 0.85 ≒ 78.8万円

計画月商142万円に対して損益分岐点は78.8万円なので、余裕は63.2万円(計画の44%分)あります。売上が計画の56%(78.8÷142)を下回ると、この計画では営業赤字になります。

出典:日本政策金融公庫「創業計画書 記入例(美容業)」(2025年4月版)の軌道後の数字。損益分岐点の計算は当方が行いました。

78.8万円の損益分岐点を、1日の客数に換算する

損益分岐点を月商で計算しても、毎日の営業では「何人来れば足りるか」のほうが使いやすい目標です。記入例の客単価6,000円・月26日営業で換算します。

1か月の客数 = 78.8万円 ÷ 6,000円 ≒ 131人/月
1日の客数 = 131人 ÷ 26日 ≒ 5.0人/日(3台合計)

この5.0人/日は3台のセット面での合計です。1台あたりでは約1.7人/日です。記入例の軌道後(3回転・9時間営業)では1台あたり1日3人施術するので、損益分岐点は計画の56%の稼働率に相当します。

損益分岐点の客数換算(客単価6,000円・月26日営業)
条件 月商 1日の客数(3台合計)
損益分岐点 78.8万円 約5.0人
計画(軌道後) 142万円 約9.1人
余裕(計画−分岐点) 63.2万円 約4.1人

計画通りなら1日9.1人が来れば足りますが、損益分岐点は5.0人です。毎日4人以上少なくなると赤字になる計算です。客数が安定しない開業直後や、閑散期に客数が落ちるリスクを計画段階で織り込んでおくことが大切です。

固定費が増えると、損益分岐点はどう変わるか

損益分岐点は固定費と限界利益率だけで決まります。固定費が増えれば損益分岐点は上がり、固定費を下げれば損益分岐点は下がります。

固定費の変化と損益分岐点への影響(限界利益率85%固定)
月の固定費 損益分岐点(万円) 計画月商142万円との余裕
60万円(基準より−7万) 70.6万円 71.4万円の余裕
67万円(基準) 78.8万円 63.2万円の余裕
77万円(+10万) 90.6万円 51.4万円の余裕
87万円(+20万) 102.4万円 39.6万円の余裕
97万円(+30万) 114.1万円 27.9万円の余裕

固定費が月10万円増えると、損益分岐点は約11.8万円(10万÷0.85)上がります。スタッフを1人採用して人件費が15万円増えると、損益分岐点を超えるために月商で約17.6万円(15万÷0.85)多く稼ぐ必要が生じます。家賃・人件費など大きな固定費の変更を検討するときは、損益分岐点がどこまで上がるかを確認することが重要です。

売上が計画の90%・80%に落ちたとき、損益分岐点との差はどうなるか

計画通りの売上が続くとは限りません。開業直後は固定客が育つまでの期間があり、公庫の記入例でも「創業当初は軌道後の65%(93万÷142万)の売上」を前提にしています。売上が下振れたとき、損益分岐点との関係を確認します。

月商142万円の計画で売上が下振れたときの状況(当方の試算)
月商の実績 損益分岐点78.8万円との差 当方の試算による営業利益
142万円(計画通り) +63.2万円 約53万円
127.8万円(計画の90%) +49.0万円 約41.6万円
113.6万円(計画の80%) +34.8万円 約29.6万円
93万円(記入例の創業当初水準) +14.2万円 約12万円
78.8万円(損益分岐点) ±0万円 0円

計画の80%(113.6万円)でも損益分岐点を上回るため、営業利益は約29.6万円の黒字を保てます。ただし、ここから借入の元金返済(月10万円)と個人営業なら生活費を払う必要があります。約29.6万円から元金10万円を引くと19.6万円が残る計算です。生活費として一定額が必要な場合は、その水準を超えているか確認することが求められます。

営業利益は固定費67万円を前提にした当方の試算。記入例の数字(売上142万円→利益53万円)と合わせてご確認ください。

元金返済と生活費を加えたキャッシュの損益分岐点は、120万円になる

営業利益の損益分岐点(78.8万円)は「営業経費を賄える最低売上」ですが、実際に手元のお金がプラスかどうかは、借入の元金返済と個人営業なら生活費を加えて確認する必要があります。

記入例の元金返済は月10万円(公庫7万円+信用金庫3万円)です。生活費の水準は世帯によって異なりますが、記入例には「勤務時の月給25万円」という記載があり、これを目安にすると毎月必要なキャッシュは次のようになります。

キャッシュの損益分岐点の計算(記入例の前提)
項目 金額
固定費(人件費・家賃・利息・その他) 67万円
借入の元金返済(公庫7万+信用金庫3万) 10万円
生活費の目安(記入例の勤務時の月給) 25万円
現金で手当てが必要な合計 102万円
限界利益率 85%
キャッシュの損益分岐点(102万÷0.85) 約120万円

固定費に元金返済(10万)と生活費(25万)を加えた102万円を限界利益率85%で割ると、約120万円です。この水準を下回ると毎月のキャッシュが減っていきます。

計画月商142万円の85%が120万円に相当するため、売上が計画の85%以上あれば手元のキャッシュは維持できる計算です。客数に換算すると1日約7.7人(120万÷6,000円÷26日)が目安になります。

創業当初の損益分岐点は、固定費が少ない分、49.4万円と低い

公庫の記入例では、創業当初はアシスタントを雇わず専従者(妻)1人の体制です。固定費は軌道後より少なく、損益分岐点も低くなります。

創業当初と軌道後の損益分岐点の比較
項目 創業当初 軌道に乗った後
人件費 10万円(専従者1人) 25万円(専従者+アシスタント1人)
家賃 10万円 10万円
支払利息 2万円 2万円
その他経費 20万円 30万円
固定費合計 42万円 67万円
損益分岐点(固定費÷0.85) 49.4万円 78.8万円
記入例の計画月商 93万円(2回転) 142万円(3回転)
計画月商に対する損益分岐点の比率 53% 56%

創業当初の損益分岐点は49.4万円(42万÷0.85)で、計画月商93万円の53%の水準です。客単価6,000円・月26日営業で換算すると、1日約3.2人(49.4万÷6,000円÷26日)来れば損益が均衡します。

軌道後にアシスタントを採用すると固定費が25万円増え、損益分岐点は約29.4万円(25万÷0.85)上がります。アシスタントを雇うことで施術件数が増え、売上が拡大できる前提での判断です。

美容院と飲食店の損益分岐点を比べる

美容院の損益分岐点が低くなる理由のひとつは、材料費率(原価率)の低さです。公庫の経営指標調査(2025年度)では、美容業の原価率は15.6%で、飲食店(一般飲食店35.0%前後)より大きく低くなっています。原価率が低いほど限界利益率が高くなり、固定費の回収に必要な売上が少なくてすみます。

業種別の原価率と損益分岐点の比較(固定費を67万円で統一した場合)
業種 原価率 限界利益率 損益分岐点
美容院(記入例) 15.0% 85.0% 78.8万円
美容業(全国平均) 15.6% 84.4% 79.4万円
飲食店・一般(全国平均) 35.0% 65.0% 103.1万円

固定費が同じ67万円でも、飲食店では損益分岐点が103万円と美容院の1.3倍の売上が必要になります。この差は、限界利益率の違い(85%対65%)から来ています。美容院は材料費率が低い分、売上が少なくても固定費を賄いやすい構造です。

飲食店の原価率は日本政策金融公庫総合研究所「小企業の経営指標調査」(飲食店,宿泊業・2025年度調査)の一般飲食店の数字。損益分岐点は当方が計算。

損益分岐点を計画に組み込む手順

損益分岐点を計画に活用する手順をまとめます。

  • 材料費の割合(原価率)を決める。全国平均は15.6%(公庫「小企業の経営指標調査」2025年度・美容業)。記入例では15%を採用しています。
  • 人件費・家賃・その他経費を積み上げて月の固定費を出す。
  • 損益分岐点 = 固定費 ÷ (1−原価率)を計算する。
  • 計画の月商と比べて、余裕が何%あるかを確認する。
  • 損益分岐点を月の営業日数と客単価で割って、1日何人の目標客数かに換算する。
  • 元金返済と生活費を加えたキャッシュの損益分岐点も計算し、「営業利益が黒字」と「手元のお金がプラス」を区別して確認する。

損益分岐点は一度計算すれば終わりではありません。スタッフの採用・退職で人件費が変わるたびに、損益分岐点が上下します。変化のたびに再計算することで、現在の固定費の構造で最低いくらの売上が必要かを常に把握できます。

また、クレジット・電子マネーの入金が翌月20日になる場合(記入例では30%が翌月20日回収)、損益分岐点を達成していても翌月入金分は当月の手元にありません。月の損益分岐点を超えているかどうかと、実際の資金残高が十分かどうかは、別々に確認する必要があります。

まとめ:公庫の記入例(美容業)での損益分岐点は78.8万円

公庫の記入例(美容業・軌道後)を使って計算した損益分岐点の主要な数字をまとめます。

  • 固定費:人件費25万+家賃10万+利息2万+その他30万=67万円
  • 限界利益率:85%(原価率15%)
  • 損益分岐点:67万÷0.85=78.8万円(計画月商142万円の56%)
  • 1日の客数に換算:約5.0人(3台合計)
  • 元金・生活費を含むキャッシュの損益分岐点:約120万円(計画の85%)

当方のシミュレーターでは、損益分岐点の計算と、売上が計画の90%・80%のケースの感度分析をあわせて確認できます。固定費の変化に合わせて何度でも試算できます。

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出典

作成:fufumumu_design(ふふ)。確認日:2026年10月24日。計算は当方が行いました。公庫の資料は同公庫が作成したもので、この記事とツールは同公庫とは関係がありません。

この記事を書いた人

業種別のツールを、一人で作っています。開業前の収支シミュレーター、法定研修キット、資格の問題集。どれも、厚生労働省の告示や調査の原文を自分で確かめてから数字を組み込んでいます。使う人が「この数字、合ってるか」と不安になるようなツールは作りたくないので。

上場企業で20年間、営業ひとすじ。電話営業・インサイドセールスから、約70名のチームのマネジメントへ。現場で「根拠のない数字」が判断を狂わせる場面を見続けてきたせいか、ツールを作るときも出典を確かめずにはいられません。

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