在宅での看取りを希望する方が増えています。厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(2018年改訂)によると、自宅での療養を望む人の割合は高いものの、実際に自宅で亡くなる方の割合はそれに追いついていないのが現状です。
訪問介護はその差を埋める役割のひとつを担っています。ターミナル期(終末期)の利用者を在宅で支えるために、訪問介護員(ヘルパー)が何を知り、どう動くかを研修で整備しておくことは、事業所として不可欠な取り組みです。この記事では、訪問介護のターミナルケア研修で伝えるべき内容を整理します。
ターミナルケアは義務の5テーマとは別の「追加テーマ」に位置づけられる
指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)が定める義務研修(虐待防止・身体拘束・感染症・BCP・非常災害)の5テーマには、ターミナルケアは含まれていません。
ただし、訪問介護の実務でターミナル期の利用者を担当する場面は避けられません。医療行為を行えないヘルパーが「何ができて、何ができないか」を理解していないと、緊急時に適切な対応ができません。また、利用者や家族の気持ちに寄り添うための研修は、ケアの質に直接影響します。訪問介護向け研修キットにターミナルケアを独立テーマとして組み込んでいる背景はここにあります。
ターミナル期とは何か
「ターミナル期(終末期)」は、病気や老衰によって、近い将来に死が避けられない状態になった時期を指します。医学的に一致した定義があるわけではありませんが、介護現場では「余命が数週間から数か月程度」「治療よりも苦痛の緩和が主目的になった段階」として使われることが多いです。
ターミナル期のケアには、次の2つの方向性があります。
- 医療的なターミナルケア(ホスピスケア・緩和ケア):痛みや不快感をやわらげることを主目的とした医療処置。医師・看護師が中心となって行う
- 生活支援としてのターミナルケア:日常生活の援助・本人が望む過ごし方を支えること。訪問介護はここを担う
訪問介護員が担うのは後者です。医療行為はできません。「自分の仕事の範囲」を正確に理解していることが、ターミナル期のケアの出発点になります。
ヘルパーが「できること」と「できないこと」の境界を整理する
ターミナル期の利用者を担当する際に、ヘルパーが知っておく必要がある「できること・できないこと」を整理します。
| 場面 | ヘルパーができること | ヘルパーがしてはいけないこと |
|---|---|---|
| 身体ケア | 入浴・清拭・口腔ケア・更衣・排泄介助 | 褥瘡処置(医療行為)・点滴の操作・医薬品の注射 |
| 食事 | 食事の準備・食事介助・水分補給の支援 | 経鼻経管・胃ろうへの注入(原則として医療行為) |
| 服薬 | 一包化された薬の手渡し・服薬を促すこと | インスリン注射・医師の指示なしの投薬 |
| 状態観察 | バイタル(体温・脈・血圧)の測定・状態の報告 | 診断・治療判断 |
| 緊急時 | 119番・家族・ケアマネジャー・訪問看護師への連絡 | 独断での処置・連絡なしの退室 |
服薬については、一包化(処方された1回分をまとめて袋に入れた状態)の薬を利用者に手渡して服薬を促すことは、医療行為には該当しないとされています(厚生労働省通知「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」2005年)。ただし、薬の分割や管理業務は担当範囲外です。
死前期に現れる身体の変化を知る
ターミナル期が進むと、身体にさまざまな変化が現れます。これらの変化を知っておくことで、ヘルパーが「異変か、経過の変化か」を判断し、必要な連絡先に適切に報告できるようになります。
| 変化の種類 | 具体的な状態 | ヘルパーの対応 |
|---|---|---|
| 食欲・水分の低下 | 食べられない・飲めない量が増える。自然な経過のひとつ | 無理に食べさせようとしない。状態を記録して訪問看護師・ケアマネジャーへ報告する |
| 睡眠時間の増加 | ほぼ寝ている時間が増える | 無理に起こさない。眠れていることを記録する |
| 手足の冷感・色の変化 | 四肢が冷たくなる・皮膚の色が紫色みを帯びる | 温めようとして無理な体位変換をしない。状態を報告する |
| 呼吸の変化(チェーン・ストークス呼吸) | 呼吸が不規則になる・ゆっくりになる・一時的に止まる | 驚いて独断で動かない。訪問看護師・家族への連絡が必要な状態かを確認する |
| 意識の変化 | 反応が薄くなる・名前を呼んでも答えない | 話しかけ続けることは続ける(聴覚は最後まで残るといわれている)。家族・看護師へ連絡する |
これらの変化は必ずしも即座の119番を意味しません。ターミナル期の利用者には「住み慣れた自宅で最期を迎えたい」「救急車は呼ばないでほしい」という本人・家族の意向がある場合があります。事前にケアプランや個別支援計画で確認しておいた「緊急時の対応方針」に沿った行動が必要です。
「看取り」の場面でヘルパーがとるべき行動を確認しておく
在宅での看取りは、自然な経過による死亡です。事前に看取りの計画があり、かかりつけ医が診療継続中であれば、医師が後から来て死亡を確認・死亡診断書を作成するという流れが一般的です。これは在宅看取りの通常の手続きであり、ヘルパーが警察や検視を心配する必要はありません。手続きの詳細は管理者が医師・ケアマネジャーに確認します。
ヘルパーが訪問先で利用者が亡くなっている(または亡くなりそうな)場面に遭遇した場合は、次の手順をとります。
- 呼吸・脈拍の確認(直接処置はしない)
- 家族・緊急連絡先へ連絡する
- 管理者への報告
- 訪問看護師・かかりつけ医への連絡(ケアプランの緊急時連絡先に従う)
- 119番・110番は、事前の方針に従う(「看取りのケアプランがある場合は119番不要」という方針が書かれている場合がある)
独断で動かない・独断で連絡先を変えないことが重要です。事前の書面(看取りの同意書・ケアプランの緊急時対応欄)の内容をヘルパーが把握していることが、現場での混乱を防ぎます。
家族の気持ちに寄り添う関わり方
ターミナル期は、利用者本人だけでなく、家族も強い精神的負担を抱えている時期です。ヘルパーは医療職でも相談員でもありませんが、頻繁に自宅を訪問する立場として、家族の様子に気づき、管理者やケアマネジャーへつなぐ役割があります。
家族への関わり方の基本
- 「頑張っていますね」「大変でしたね」という言葉で気持ちを受け止める
- 「大丈夫です」「心配しなくていいです」という軽い励ましは控える(気持ちを否定することになる)
- 家族から「どのくらい生きられますか」「なぜこうなったのですか」と聞かれた場合は「私には分かりかねます。担当の看護師・医師に確認してください」と答える
- 家族が泣いている場面では、無理に言葉をかけず、そばにいることで支える
グリーフケア(悲嘆への支援)は訪問介護員の仕事ではない
利用者が亡くなった後の家族の悲嘆(グリーフ)への支援は、訪問介護員の直接の役割ではありません。しかし、在宅ケアの経過で家族と関係が深まっている場合、家族から連絡が来ることがあります。管理者と相談の上、どこまで対応するかのルールを事業所として決めておくことが職員を守ることにもなります。
事前の意思確認書類を把握しておく
ターミナル期の支援を適切に行うには、事前に次の書類の存在・内容をヘルパーが把握しておく必要があります。すべてを読む必要はありませんが、「どこに何が書いてあるか」を知っておくことが重要です。
- 人生の最終段階における医療・ケアの方針決定書(DNAR・ACPシート等):蘇生処置を望むか・入院を望むか等の意向
- 看取りの同意書:看取りのケアを在宅で行うことへの家族の同意
- ケアプランの緊急時対応欄:連絡先・呼ぶ必要がある場面の記載
在宅看取りに備えた研修記録を整える
ターミナルケアの研修は、義務5テーマとは別に訪問介護固有の追加テーマとして位置づけられます。訪問介護向け法定研修・訓練キット(https://fufumumu-design.com/kenshu-kit-houmon/)の有料版(14,800円買い切り)では、ヘルパーの業務範囲・死前期の変化・家族への関わり方を含む研修資料と確認テスト・受講記録を利用できます。
無料版では虐待防止の1テーマを利用できます。ターミナルケアを含む12テーマすべての利用には有料版が必要です。
あわせて読みたい:訪問介護の法定研修、何を何回やればいいか。
あわせて読みたい:訪問介護の服薬介助と医療行為の範囲。
この記事で確認した根拠
- 指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について(老企第25号)
- 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(2018年3月改訂)
- 厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」(2005年7月26日)


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